パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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見たくもない槍

「……天木(あまき)(れん)……」

 「……そう、だ

 ずっと黙っていた。剣が戻ってこなければ、僕は勇者ではなく居られる、そう思ったから」

 呟く声に、静かに少女は頷く

 

 「あの地で、自分が倒したドラゴンを見返そうとして……お前に再会してからも、ずっと」

 ああ、そういえば

 最初に見たのは城の中庭で、尚文と元康の決闘(という名の尚文公開処刑)の時、次に会ったのはレーゼ等の三人の転生者との戦闘時だから再会になるのか。知り合っていなかった気がするんだが

 

 というか、レーゼ等は何処だ?この世界に突っ込んでくるのには運命の一矢(フォーチュンダーツ)が必要で、自身が手にしていた勇者武器を喪った彼は付いてこれなかったとかそんな感じの話か?ルナが来たのも、恐らくは纏っている服の糸を手繰ったとかそういう裁縫具のスキルだろうし

 「だが」

 「迷わない。あの世界を護るために、勇者という責任を一人負うことが怖かった。そんな自分とは……お別れをした!」

 飛来する剣が思わず絆から足を下ろしたクソ親父の鎌と競り合い、もう一本がぼーっと立っているルナへと向かう

 けれども、流石に本気で何も見ていないという訳ではないのだろう。少女は一歩歩いて剣を避け

 「動けるだろう、ネズミ!」

 「応!」

 俺を縛る金縛りは、ルナによるもの!あいつがダメだよおにーさんと言うから、それに仕方ないと従ってしまうもの

 ルナの意識が俺に無ければ、何も問題はない!

 「駆け抜けろ、雷電!」

 とはいえ、結局ルナに攻撃する訳にはいかない。俺はその時、やはりその手を無意識に止めてしまうだろう

 

 だが!

 その腰に留まる刀に手を伸ばす

 消えた雷霆を呼び覚ますのにそう時間は掛からないが、ルナを前にして金雷の維持は難しい。少しの溜めがあって変身する以上、遅すぎる

 だからこそ……お前の手を借りるぞ、刀

 「『霹靂……一閃!」

 文字通り青天の霹靂。刀最大最速、俺の雷も混ざりあう、神速の居合

 轟く雷の音すら置き去りにする、光の速度で踏み込んで……斬る!

 「十五連』!」

 ルナの意識が此方へ向くまでに打てる回数を試算し、少し少なめに放つ

 「ぬがぁぁぁぁっ!」

 吹き上がる黄金の雷

 金の雷を纏い、盾とする男

 雷撃の如き……というか実際半分雷撃の刀は、一振に重なる3度の斬撃でそれを貫き

 靴の力で別の場所に逃げたものを、振り抜いた刹那の先には既に構え直している居合二閃で追う

 

 ……っ!すばしっこい!当てられたのは15連のうち4回か!

 十分!あくまでもやるべきは、絆等の安全の確保!

 「ダメだよ、おにーさ」

 「今!『スターダスト・ファン』!」

 声をかけ、俺を止めようとするルナ

 その視界を、グラスの放ったスキルの巨大な扇が遮る

 「無駄だよ、お兄様のおなほ?のおねーさん

 ルナ、たとえおにーさんが見えなくても」

 「『音響・獣避け』!」

 響く音色

 大きな獣を避け、或いは追い立てる狩猟具の音色が、その声を掻き消す

 

 分かってるじゃないか、こっちの勇者等!

 ルナの視界と声と。その二つが無ければ、俺はルナを無視できる。居ないと思い込める

 ならば俺は……止まらない!

 「っ!だがよぉ!てめぇがその刀を手にしたってことは!

 御門讃のものってこと……」

 「ルナが知っていれば、な!」

 「っ!てめぇら!」

 そうだ。だからグラス達はその知覚を塞いだ

 だってあの親父が言っただろう?まだ隠してやがったか、と。本当に俺そのもの力がコピー出来るならば、そんなもの自分が一番よく分かるだろう

 だからこそ、彼等は俺そのものの力のコピーなどしていない。俺に使われてからしか、その力が無い。それは即ち、奴の存在は確かにルナによって御門讃になっているかもしれないが……。あくまでも、ルナ・カイザーフィールドによって見た御門讃に過ぎない。ルナ本人がその存在を見て知らなければ、奪えはしない!

 

 「『霹靂」

 「バカの一つ覚えが!」

 腰の刀に手を添える

 基本横凪ぎ。奴はそれを止めるべく、鎌を構えて

 「閃伝』!」

 俺の足から地面を伝う雷光に、ぐらりとその身を揺らがせる

 バカの一つ覚え?バカ言うな!スキル名すら言い切ってないだろうが!

 

 「レン!」

 「分かった!」

 「『スターダスト・ブレイドΔ』!」

 「『流星剣Ⅴ』!」

 痺れたところに、レンと協力して剣撃を叩き込む

 ってかレン、しっかり話聞いてたんだな……とスキルの後ろに付くⅤの数字に思いを馳せ

 「ぐがぁっ!」

 「ついでだ!『霹靂一閃 十二連』!」

 更に乱撃

 

 「『首狩り』!『死神の鎌』!『聖戦士の靴』!」

 だが、痺れを痛みで乗り越えた……訳ではなさげな奴のスキルによって、逃げきられる

 やっぱり12じゃダメだな、もうちょい溜めて30連くらい行っとくべきだったか

 

 「ってぇじゃねぇか」

 その首を跳ねたはずなのに、奴には傷ひとつ無く

 だが、その背中のマントには細かな傷が増える

 「なぁ、そこのメスガキぃっ!」

 「高校生だ!」

 マントへの傷もあまり深くはなく。靴で空間を飛び越え、その手の鎌をレンへと大きく振り下ろす

 「『断絶の鎌』」

 「『満月剣』!」

 回転する剣、俺が一回使った気がする防御スキルでもって、鎌を止め

 「あめぇんだよ!」

 「自供してるぞ、ネズミ!」

 「分かってるって、の!」

 刀を大上段に構え、青白い髪を振り

 

 「オーバーフレア・パニッシャー!」

 巨獣刀へと変化。そのバカデカい刀に炎を灯し、振り下ろす。ギリッギリでレンに当たらぬくらいに

 避けるか、反撃か

 どちらにしても、レンへの攻撃を中断せざるを得ない。そして……

 「ちっ!ドライファ・ブリッツクリーク!」

 奴が選んだのは、振り下ろした瞬間の俺への反撃

 鎌を振るう隙は晒さず、転移してきた速度そのままの膝蹴り

 

 ……待ってたぜ、バカ親父!

 「っ!らぁっ!」

 「『バスターボルト・フィンガァァッ!』」

 何故、わざわざ巨大刀にしたと思っている

 パニッシャーを撃ったその瞬間に、既に俺は刀の所有権を手離している。それでも自重と俺の最初にかけた力だけで、10mを越える刀は大地へ向けて振り下ろされるからだ

 そしてその後ろに隠れて……見えなかったようだな、この一撃は!

 金雷への一瞬の変化と共に、纏う雷の全てを右手に集約。奴が転移して飛び膝を放った瞬間、その顔めがけて、駆け出しながら手を伸ばす

 「ぐぎぃっ!」

 その頭蓋を軋ませめり込むその指に、青白い髪の転生者は声になら無い声をあげ……

 だが、逃がさない。てめぇが今切れるのは、雷霆の力だけ。ならば、同じ雷霆で押さえ込んでいる今、動けやしない

 「『ボルテック・エンド』」

 頭部内部、脳味噌へと雷霆を送り、体内で炸裂させる

 脳そのものが沸騰し、爆発的な温度に晒されて気体と化す

 頭蓋を、そして肉体の全てを風船として、内部のかつて脳であった気体は膨れ上がり……

 異様な凸凹風船になったその体が破裂する

 

 「……悪い、レン」

 飛び散る血肉。べちゃっと剣の勇者である少女の右目の辺りに肉片が辺り、赤く醜い汚れを作ったのを見て、自分に飛んでくるものは雷撃のオーラで消し飛ばしながら俺は呟いて

 

 「終わってないぞ、ネズミ!」

 「ふざけてんのかこのクソ親父!」

 破裂したその地点に、確かに奴は傷ひとつ無く立っていた

 何で傷ひとつ無いと分かるかって?

 裸だからだ。上半身の服が無くなっていて、シックスパック……と言うには残念ながら筋肉が欠片も浮き出ていない白い腹を晒し、ズボンはズタズタ。ってか、ヤベェな

 ギンギンに勃った見たくもない赤黒い使い込んだろうブツがチラリとボロ布になったズボンの隙間から見え隠れしている訳だが、猥褻物陳列は女の子の前で止めろこいつ

 うわ、妙に出っ張ってるし真珠か何か埋め込んでやがる。見せ付けるな、とっとと仕舞え、それか死んで仕舞え

 「……ったくよぉ、可哀想な人間が一人死んだぞお前」

 その恥ずかしい肉体を恥ずかしげもなく晒し、生きていた転生者は嘲笑(わら)

 「あーあ、可哀想になぁ、ネズミに爆散させられて。痛かったろうなぁ……」

 「……ちっ、一人じゃなかったか」

 何処まで耐えるのだろう。そう思ったが……あの高そうな奴の上着も、服に編まれてしまった誰かだったようだ

 その名も知らぬ誰かが死ぬ代わりに、奴は無傷

 

 「重ね着出来るとか、クソゲーかよ」

 「同じ服は重ねられないがな」

 ボロボロのズボンもそうなのだろうか

 いや、違うだろう。奴の性格的に、かつて人間であった服を、自分の股間とかに触れる下半身に身につけなど出来るだろうか

 いや、元々女性だったなら有り得るか?

 「心配いりませんよネズミ!」

 「グラス!?」

 「あとはマントだけです!女性を服に変えて羽織る場合、それは女性用の服かマントやコートといった共用のものにしか変えられません」

 「……良いこと聞いた」

 成程。奴が女向けのズボン履いてるようには見えないし、チラチラ見える下着も男性用。女性用のフリルつきを履いている等の見る地獄にはなっていない 

 

 「ならば、あと2回殺すだけか!」

 「舐めるんじゃ、ねぇぇっ!」


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