パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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白蛇降臨

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 猛る叫びと共に、空気が変わる

 

 「……ぐっ!」

 圧力に、微かに横に立つ少女は顔を歪め

 「みえたよ、おにーさん」

 迸る雷鳴が大地を、ルナを止める扇の盾を砕き、何処まで行っても敵意を見せない残酷な転生者(いもうと)が一歩踏み出す

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 それに対して刀を手離し、意識を集中

 黄金の雷が溢れだし、感じたのと同じ圧力をもって大地を砕く

 そうして俺は、同じく黄金の雷を纏う親父と対峙する

 大丈夫だ。なんたって此方には勇者が二人も居る。すぐに、またルナの姿は隠れる

 

 「ああ、痛いなぁ……」

 「ならば、のたうち回れ」

 そう呟くも、攻撃は無し。分かっている。向こうにはまだ、勇者の靴がある

 故に、下手に踏み込むことは出来ない。ただ、勝手に金雷になってくれたので自滅を待つのみ

 

 「ふん、何でこの姿を保てるんだって顔してるなぁ、さぁん?」

 だが、金の光は消えず

 嘲るように、男は言う

 「女神様が教えてくれた、てめぇの異能力、超S級、復讐の雷霆(アヴェンジブースト)

 それが復讐の雷ならよぉ!二度も息子に殺されたおとーさんの復讐が、果たせないわけねぇよなぁ!」

 雷速の右ストレート。勇者武器を使わないそれを甘んじて受け入れ、吹き飛ばされる

 「二度も息子に殺されたこの痛みが俺を強くする……黄金の雷へ、貴様のその先へ……」

 隆起した地面に埋め込まれ、軽く息を吐きながら、カッコつけて片目を隠しなどして余裕綽々にポーズを取る男の姿を見る

 ああ、やはり…… 

 

 何一つ、分かってなど居ない

 

 復讐の雷霆(アヴェンジブースト)。超S級異能力。御門讃が発現し、そして御門讃であるとルナに認められたセオ・カイザーフィールドが扱う復讐のブースト

 そんな言葉が出てくる時点で、何処まで行っても、こいつはニセモノなのだ

 

 俺を殺した相手が許せない?違うだろう。何故そんな言葉が出る。俺が何より許せないのは……この力の根源は……

 弱い自分への怒りだろう!

 そう、大切な者を奪われて、その復讐に轟く光ではない。奪われた自分を、護れなかった自分を、許せない怒号の雷轟。それがこの異能力の真実だ。復讐の雷霆というあの世界での表面上を見て付けられた名前をそのまま信じている辺り、女神メディアも、ルナもこれが何であるかは知らないようだ

 

 ならば彼は……彼の金雷は、どれだけぱっと見俺と違いがなくとも、全部単なるハリボテだ

 復讐心に燃えればダメージがない?ふざけているのか。復讐心を抱くほどに、憎む相手が居るならば、その憎しみを持たねばならないような大切なものをむざむざ奪われた己はもっと憎い。許せない。そうじゃないのか

 馬鹿馬鹿しい。ダメージが消えている時点で、あんな形だけのパチモノに……『雷霆』の勇者武器が

 俺が、負けるか!

 

 埋め込まれた大地を砕き、空へ

 「てめぇ!」

 鎌を振るう男の眼前で消え、その背後へ

 「残像だ」

 「こっちも、なぁっ!」

 それくらいは対応してくるだろう。仮にもパチモノ勇者の金雷の更なるパチモノだ

 だが

 「『神撃の剣』」

 「がはっ!」

 プラズマを纏い転移したその動きは、俺の背後に先置きされた勇者の剣を飲み込んで構成された事で止まる。いしのなかにいる状態ではないが、肉体を再構成するタイプの転移技の弊害、その地点に攻撃を置かれていると体内で食らうという欠点を露呈させられ、その技を使い慣れていない転生者は苦悶に喘ぐ

 口から溢れる血を浴びつつ、その首へと手刀を振るう

 「て、めぇ……」

 逃げるように奴は更に靴で転移。数十mも離れたので追撃は断念、その場に止まる

 俺一人であれば追撃は可能だ。だが、今は錬と共に戦うべきで、剣の射程は届かない

 「余裕ぶりやがって!」

 「はあっ!」

 一息付いて、今度は錬を狙うのであろう、姿がブレた鎌の男は、一瞬後には黒髪の少女の横に立っていて

 ああ、対策ご苦労。ちゃんと背後は危険と分かったんだな

 じゃあ死ね

 雷撃の分身と共に3方向から同時に蹴りこんだ俺の脛が、奴の頭を捉えた

 「はっ!効かねぇなぁ!」

 「残念ながら、効くんだよ!」

 ダメージは無いからと、蹴られた男は笑い

 気にせず、雷撃による加速で遥か遠くへと蹴り飛ばす

 ダメージなんて要らない、ただ吹き飛ばしは効くから意味はある

 「ふんっ!」

 飛ばされる最中、奴の姿が掻き消えて

 「だからあめぇんだよぉぉぉっ!」

 再び、錬の横へ姿を現す

 だがな!仮にも勇者を、舐めてるのはそっちだろうが!

 「力の根源たる剣の勇者が命ずる

 ツヴァイト・シャイニング!」

 「んなっ!」

 突然放たれた光に眼が眩んだのか、鎌を振り上げて男が停止する

 「『蒼竜剣』!」

 振り上げられる蒼い竜のアギトのような剣が男を襲い

 「っ!」

 転移によりなんとかそれを逃げきった男の顎を

 「ボルテック・ナックル!」

 適当なこと言った俺の拳が打ち砕いた

 「ふぎっ!」

 

 ああ、行ける

 十分だ

 ルナが居らず、錬が居る。今ならこの敵は絶望的な相手ではない。十分に対抗できる

 二つの勇者武器、そしてパチモノ金雷。その全てを持っていても……正しき勇者に勝てるものではない!

 

 ふらつくセオ・カイザーフィールド。その無駄に綺麗だがイケメンとはとても呼べない軽薄な顔には傷ひとつ無い。ダメージはやはり0。全てはマントが肩代わりしている

 だが、衝撃は受けているのだろう。脳震盪でも起こしたか?

 そのくらいのダメージ、本来ずっと受けているから慣れているだろうに、パチモノがぁっ!

 

 「て、め、え……ら」

 「終わらせよう、親父

 いや、セオ・カイザーフィールド!」

 「だから、舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!」

 迸る魔力

 「っ!」

 錬が横で剣を構えるなか、奴は爆発的な魔力を繰り、叫ぶ

 

 「教えてやるよさぁん!最後の切り札って奴は、最後まで取っとくものなんだよぉ!」

 「はっ!笑わせる

 今更何があるってんだ?」

 俺のを気にせず、奴は呪文を紡ぐ

 

 これは……あれか!

 脳裏に響く答え。転生者であれば誰でも使える技だ

 ランダム召喚。何が来るか文字通りランダム。そこらの犬や猫、バルーンのような雑魚から化け物のようなドラゴンまで、本気で何が出るか分からない。悪魔が因子を埋め込んでいるものをランダムで呼ぶ魔法でち。強者のみを呼べるように強者のみに因子を埋めてたらあまりにも消費がデカ過ぎて、雑魚に大量に因子を埋めて負担を抑えた本末転倒でちよとゼファーが言っていた、あまりにも分の悪い賭け

 

 「は!そんなものに賭けるとか、とうとう投げ……」

 同時、気がつく

 いや、違う。これは賭けじゃない

 奴の異能力は運命の一矢(フォーチュンダーツ)。その力は……ソシャゲのガチャで特定の非PUキャラを単発で引くくらいの事は出来る。運命命中の名は伊達じゃない

 その異能力があれば、そこらの動物から巨大な力を持つ怪物までランダムな召喚ガチャでも、特定の化け物を確実に狙えるはずだ

 

 だが

 「運命の一矢……

 だが、ついさっき使っただろうが!」

 「ふははっ

 女神様から与えられた力が俺を強くした

 教えてやるよ讃。今の俺のあの力は、リキャスト1ヶ月

 だけどよぉ、一発打ちきりじゃ、ねぇんだよ」

 呪文は完成し、奴は最後の言葉を紡ぐ

 

 「UR確定って奴だ

 来いよぉ!死せる守護獣、白虎ォ!」

 「ルグォォォォォッ!」

 大地を裂く咆哮と共に、大地を割って巨体が出現する

 10mを越えるだろう虎。だが、白虎という割には、その毛は黒ずみ、異臭を放つ。肉体の一部が崩れ、骨すらも見える

 白虎というよりも、白虎ゾンビだろう

 だが、それでも。厄介な敵であることには変わりがない

 タイムリミットも近く、今から撃破は……っ!無理か!

 

 「ふっ!はぁっはっはっ!苦い顔になっちまったなぁ、さぁん?」

 嘲る声を無視し視界の端のタイムリミットを見る

 残り……約、50秒。やはりというか、四聖勇者たる錬……天木錬が戻ってきた瞬間から、別世界の神たる四聖が此方に居るバグを修正すべく、とてつもない速度でリミットが進んでいる

 ならば、やることは一つ!

 

 「風山!グラス!」

 「何ですか」

 「……生き残れるな」

 「……当然、と言いたいけど……」

 「いえ、絆と生き残ってみせます」

 力強く応える勇者に、良し!と頷いて

 

 「ならば、後は、任せた」

 言葉を紡ぐや、力を一手に集中

 「はっ!溜め技かよぉ!そんな、ものが!」

 転移してきた奴の一撃は甘んじて食らう

 腕に鎌が突き刺さり、血を吹き出す……事はなく、代わりに雷撃が傷口から迸る

 それを無視し、ただ、力を合わせ……

 「『神撃の剣Ⅱ』!」

 「どるぅぅぅぅぁああああっ!!」

 剣の勇者の攻撃は、毛を針にして飛ばす死狼に阻まれ、ついでに俺は無数の針でハリネズミになるが、それを構わないとして、力を集め

 

 「はっ!御大層な技で、白虎を倒そうってのか?それとも、一度に二回殺せるとでも、思ってんのかよ、バカ息子ぉっ!」

 「……『ワールドブレイカー』」

 全てを無視し、俺は言葉を紡ぐ

 ワールドブレイカー。世界を割る一撃

 

 風山絆を捕えていた花園は完全に崩れ落ち、その存在を失う

 結果、現出するのは焼けた洞窟。俺達が無理矢理飛ばされる前に居た、白き蛇の社

 00:15

 残り15秒。この世界から俺達が消えるその刹那に、当初の目的の一つ、風山絆の救出は果たし

 

 「どるるぅぅっ」

 「きりゅりゅぅぅっ!」

 ゾンビと化した白虎。彼の言葉を信じるのであれば、悪魔によってゾンビにされて転生者の戦力とされた、かつての守護の獣。異なる神の作り出した自分と同じような存在を眼にし、洞窟の主たる白蛇ケツアルカトルが襲来する

 「白虎!?」

 「どうやら奴さん、別の守護獣で手一杯らしいぜ」

 決して、アレは俺の仲間ではない。何時か、倒してやるべきものだ

 幾度か刃を合わせて分かった嘆き。あいつは神から世界を護ろうとして、力及ばず死して尚、その難き神に神獣にされて戦わされている

 だからこそ、殺さなければならない。自分を殺せそうな俺に、あくまでも俺を排除する為の攻撃という体で絆のところに送り込んだり、神の意図に反しない中で偶然を装って手助けはしてくれたが、それすらも恐らくはギリギリの事なのだろう

 だから俺が、あいつの恩に報いて何時か殺す。神にもう支配されぬように、滅ぼす

 だが、今は……別の神によって造られた元守護獣の化け物とか、勇者とかよりも優先排除だよなぁ!?

 

 「だが、いっそ此処で、此方の勇者を殺せば、全てが終わっ!?」

 靴でもって俺の意図を汲み下がろうとする絆達を追おうとし、奴は地面に倒れ伏した

 

 その足は素足、靴は何処にもなく

 「てめぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 輝く靴は、ずっと空気に徹していたタクトの足にあって

 00:00

 タイムリミット

 世界が歪みきり、向こうから来た三人の者達は、世界から弾き出される……

 

 「絶対に許さねぇぞ!貴様等ぁっ!世界を越えて、殺してやる!」


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