パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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決闘寸前

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 よし、逃げるか

 

 「じゃあ、波は終わったようだから」

 退散退散

 「ダメだよマルスくん」

 なんてやったら左腕をリファナに捕まった。振りほどけるがリファナが止めるんだ逃げるわけにもいかないだろう

 「何で俺が盾の勇者なんぞと一緒にメルロマルクのパーティなんて場所に行かなきゃいけないんだ」

 「一緒に波で頑張ったから」

 ぐうの音も出ない。正論である

 「嫌だ、俺は」

 「それに、色々教えて欲しい事もあるし」

 「仕方ないな」

 尚文のチョロいなこいつと軽蔑するような視線が痛い。まあ、リファナに言われると心を鬼にして無いと断れない意思薄弱ネズミなのは否定しないし

 だから割と嫌々っぽい尚文や誇らしげなリファナ等に付き添い、一緒に付いていく

 残りの三勇者は今回の波は楽勝だったなーとかそんな話を集団の先頭でしていた。普段というか本編通りというか

 

 「なんだ?」

 突然リユート村の人々らしき人間が数人尚文の前に飛び出す

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

 「なるようになっただろ」

 「いいえ」

 おいこらリファナ、その返答に頷かないでくれ。ああラフタリアはもっと頷け。尚文を上げろ、お前が尚文の剣になるんだよ

 別の奴が尚文の返答を拒む。

 「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

 「そう思うなら勝手に思っていろ」

 「「「はい!」」」

 ……いやー、その横で尚文が止めてる魔物を斬ってたネズミには何も無しか?

 無しか。あれか、ラフタリアやリファナは尚文の仲間ーいや奴隷なんだが端から見れば仲間で良いだろうーだし、俺もその枠扱いなのか?尚文一行ならば代表に礼を言えば礼儀的には問題ない

 

 「慰めるでち。落ち込むことはないでちよ」

 「要らんお世話だ、ゼファー」

 「これは盾の勇者と同じでちね。後ベールでち」

 「……マルスくん、その人は?」

 「ああ気になってたのかリファナ。こいつはゼファー」

 「ベールでち」

 「ベールって言ってるよマルスくん」

 「ゼファーで良いんだよ、ベールでも間違いではないけれども。まあ、あの杖の勇者をオルトクレイ王と呼ぶかメルロマルク王と呼ぶかとかそんな違い」

 怪訝そうにつり上がる尚文眉

 おーいラフタリア、尚文に七星の話とかしてないのか?

 

 「杖の勇者だと」

 「勇者は四聖だけじゃないだろ?」

 「何!?」

 露骨に目を見開く尚文。これは……言ってないな

 「世界には四聖の勇者の他に七星の勇者ってのが居る。四聖ほど特別じゃなく、この世界の人間でもなれる勇者がな」

 「うん

 前の波の時、村を助けてくれたのは、その中の投擲具の勇者さま」

 とラフタリアが続ける 

 

 「何で黙っていた」

 うわ、尚文の目がヤバい

 「四聖の武器を持ってるなら最初から知ってるのかなーと」

 あせるなリファナ、尚文が怖いのは分かるが

 「そもそも、俺達にとって四聖の勇者の存在も七星勇者の存在も知ってて当たり前だからさ。知らないって言われなきゃリファナだって言わないだろ」

 とフォロー。いやまあ、考えてみればこの世界で七星勇者を知らないってどんな箱入りだという話だしな。特にメルロマルクには最近杖持ってる姿を見ないとはいえ本物の七星が居るわけだしどんな子供でも寝物語なり何なりで知ってる

 

 「まあ良いかリファナ

 こいつはベール・ゼファー。変な名前だけど俺の仲間……かな」

 「彼はボクのマスターでち」

 「奴隷みたいなものか」

 氷点下の尚文の視線。それよりは生暖かいが冷たいリファナの視線に比べればそれが太陽光にも思える

 「いやいやいやいや、奴隷じゃない、向こうが趣味で勝手にメイドっぽい事やってるだけだからなリファナ!」

 「ふーん、そうなんだマルスくん」

 げふっ、止めてくれその人間のいやネズミの屑を見るような目を。そこまでキツくはないけど

 

 「っと、それは良いんだよそれは」

 「あっ、誤魔化した」

 「それよりリファナ、久し振りだな。俺が一人じゃ無理だって近くに居るらしい投擲具の勇者を呼びに逃げて以来か」

 「逃げたのか」

 「当時の俺一人じゃ波に勝てないのは当たり前だろ?」

 だから睨むな尚文

 ……敵視はされてないが、信頼関係は……キツそうだなこれ

 

 「あ、うん」

 で、何でちょっと言い澱むんだリファナ?

 「呼んでくれたの、マルスくんだったんだ」

 って、ラフタリアは素直だな

 「あの後勇者が居れば大丈夫だってそのままクラスアップ目指して旅立ったんだけど、戻ったら酷い事になってたな、村」

 「うん」

 「……皆、死んだんだな」

 「だから、なおふみ様と、波と戦うって」

 「そっか、強くなったんだな、リファナ」

 いやまあ、俺がそうなるようにってやったんだけど

 

 分かってる。だが一言良いか?

 おのれ尚文ぃっ!

 ふう

 

 「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴に杖の勇者の馬鹿が高らかに宣言した。

 

 ちなみに死傷者は前回どれ程という公式発表なのか知らないが、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったらしい。前回とそう変わらないくらいか

 見回すと尚文ははしっこで飯を取っている。ラフタリアの奴がちょっと追加で持ってきてやっているな、微笑ましい

 「で、リファナ?お前は大切な尚文サマと居なくても良いのか?」

 「ラフタリアちゃんを、邪魔したくないし」

 「そうか」

 「御馳走ですね、ナオフミ様!」

 「食いたければ食って良いぞ」

 「はい!リファナちゃんも食べよう?」

 「って、ラフタリアが呼んでるだろ?

 俺は俺で、適当に摘まむよ」

 「美味しいでち」

 「ゼファー、お前は……

 好きに食ってろ、二度と食えるか分からないものだ」

 「何時か再現するでち」

 「食材費が馬鹿にならないぞそれ」

 

 なんてやっていると、そろそろメインイベントが始まるようだ

 遠くから見ときたかったんだがなこれ。巻き込まれたくはない

 

 「おい!尚文!」

 つかつかとやって来たのは槍の勇者北村元康。当時は女の尻ばっかり追いかけていた奴だったか

 怒りの形相で奴は手袋を片方脱ぎ、律儀に投げつける

 「……何だよ」

 「決闘だ!」

 「はあ?何言ってるんだお前」

 周囲がざわめく

 

 「聞いたぞ、お前と一緒に居るリファナちゃんやラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 その通りである

 因みに、一応対外的にはあの二人はシルトヴェルトが人間不信の尚文の為に奴隷という形で送り込んだ使徒扱いである。俺がそうした

 上には割と広まってて驚いたものだ。あの奴隷商やるな

 

 因みに、言われた本人達は二人で仲良く御馳走を食べている。二人で食べるとより美味しいねと実に平和そうだ、ここがメルロマルクでなければ

 

 「それがどうした」

 「『それがどうした』、だって?お前、本気で言っているのか!」

 「あいつ等は俺の奴隷だ。だからなんだ?」

 本人等は盾の勇者の役に立てるって割と喜んでるだろうよ。俺が手酷く裏切ったしな

 「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

 いや、異世界出身である転生者は良く奴隷買ってるぞ。少女限定で。さっくりと自分に惚れてくれるからだろうか、あの奴隷少女人気。後はハーレムメンバーもどうやってるのか知らないがタクトハーレムなんかは命懸けで尽くすほどの忠誠心を持ってる奴が多かったような。これも恋の奴隷、あんまり……いや変わるか

 

 「許されない?お前の中ではそうなんだろうよ」

 というかこの時の元康、お前転生者と思考同じだろ。奴隷解放してやれば惚れるっていう

 「き……さま!勝負だ尚文!俺が勝ったらリファナちゃんとラフタリアちゃんを解放しろ!」

 

 「強引でちね」

 横から眺めて、ゼファー

 「そりゃ強引だろ。そういうものだ。奴隷を解放させるまでが王のシナリオだろうからな」

 ギロリと兵から睨まれた。おお特に何ともない

 

 「勝負なんてして何になるんだ?俺が勝ったら?利益はあるのか?」

 「その時は今までみたいにリファナちゃんラフタリアちゃんを酷使するがいい!」

 血の涙流しそうな顔してんなこの元康。いや、尚文別に酷使してなかったぞこの一週間眺めたけど。うっかり発作かなり良くしてしまったしな、ラフタリアが大人しく良い子で尚文の出番が無かった

 

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

 人込みがモーゼのように割れて漸く杖の勇者が現れる。いや杖の勇者お前な、シルトヴェルト側が送り込んだって話になってるんだぞ引き剥がしたらシルトヴェルトから猛抗議来るとか思わないのか

 「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

 「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」

 だが、その頃にはリファナとラフタリアは兵士に囲まれている

 

 ……何リファナ怖がらせてんだ殺すぞ兵士ども

 って危ない危ない、うっかりアヴェンジブースト出かけた。いくら奴等が狸の親父の仇と同職とはいえ

 

 「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 「落ち着けラフタリア!」

 「ちっ、シールドプリズン!」

 俺が動くと共に尚文も動き、先んじてリファナとラフタリアを盾で囲む

 そうだな、父親の仇と同じ外見の集団に囲まれたら怖いよなラフタリア

 

 「突然叫び出す辺り、盾によって精神操作されている可能性がある」

 いや無いぞ

 「奴隷は黙らせて貰おう」

 「ふざけるな!」

 「この国ではワシの言うことは絶対

 逆らうというならばこのまま盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

 「ちっ、決闘には参加させられるんだよな?」

 「何故決闘の商品を片側陣営で参加させなければならない?」

 「なっ!」

 「で、奴隷じゃなくて尚文と共闘していた俺は?参加して良いか?」

 「良い訳無かろう!決闘は1vs1だ!」

 ちっ、やっぱりダメか。いやまあ、絆的には一回此処で奴隷紋解除があった方が良いだろうしリファナの為にも参加して尚文勝たせる気なんて無かったんだが

 おいこら詐欺ネズミの称号光らせるなクソナイフ


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