パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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ぼったくり

でだ、これをまずはどうするかだよ

 と、ふよふよと未だに浮いている何時の間にやら投げナイフに姿を変えている半透明の武器を眺める。歩き出せば付いてくるし、触ることも当然出来る。俺がパクった勇者の武器なんだから当たり前か

 当然ながらこんなものをぶら下げて村に戻った日には投擲具の勇者をぶっ殺して武器を奪った事が一目瞭然。サディナに通報されてリファナは二度と口きいてくれないだろう。詰みである

 そもそも勇者殺しは大罪な訳で、誰にだろうがバレたら終わりだ

 

 ということで、とりあえずは証拠隠滅だ証拠隠滅。勇者の死骸なんて残してた日には見付けてくださいと言ってるようなもの。いや、そもそも勇者が生きてるか死んでるか確認出来るものとかあったような気がするからそれでバレるか?

 いや、確か盾の勇者原作に出てくる伝説の武器を俺と同じようにパクってた転生者も、勇者が生きてると誤認させることには成功していたしたぶん其処は心配ない。正規の持ち主でなくパクった状態でも持ち主が生きてれば良いのだろう

 

 とりあえず確か伝説の武器ってほぼ何でも吸えたよな、と浮いたままのナイフを操って近付け……

 全力で拒否されたぞオイ。触れるか触れないかの所で弾かれたように元の場所に戻るとか反抗的に過ぎる。正規の持ち主ではないからって自由すぎだろコイツ

 

 ということで完全犯罪は諦め、さっくりと穴でも掘って埋葬する事にする。又の名を埋めて隠すだけ

 『力の根源たる未来の英ゆ……』

 詠唱を始め、ふと引っ掛かる

 『力の根源たる鼠が命ずる。雷鳴の結びを今一度ほどき、彼の物を浮かばせよ』

 「ツヴァイト・レビテート」

 周囲の地面が浮かび上がり、土塊が浮かぶその下にぽっかりと穴が空く

 俺の魔法はプラズマ利用のものが多く、その一種である電磁浮遊魔法だ。物理法則的には完全に可笑しい気がしてならないが、魔法はイメージ出来れば割と使える。魔法法則は物理法則を無視するのはまあ当然か

 其所にせめてもの礼儀として、まあちょっとハーレムだ何だぶつぶつほざいていたのでキレつつ止めたら襲い掛かってきたので売り言葉に買い言葉しつつ武器奪って殺しておいて本来礼儀もなにもないのだが、ゆっくりとその遺体を横たえ電磁浮遊を解いて土塊で埋める。少しだけ盛り上がってはいるが、それもすぐに馴染んで大地の違和感も消えるだろう

 

 でもまあ今は違和感あるし少し慣らしておくか、と自前の剣を腰から引き抜き……

 バチンという軽い音と共に吐き気が走る

 同時、視界の端に映るのはひとつのメッセージ

 『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』

 

 ……うるせぇぞ調子乗るなよ投擲具

 盾の勇者本編によると、勇者は視界の端にその武器のアイコンが浮かび上がるらしい。俺の視界にも一応確かにナイフっぽいもののアイコンはあるのだが半透明……というか常時点滅していてとてもうっとおしい。視界の隅にある癖に目立って仕方ない。やはりというかパクっただけ故に武器から抵抗されているようだ

 じゃあ手放せという話にしたくはなるが、考えてみれば俺と同じく勇者武器を手にする力を持った転生者は他にも居るだろう。原作にも出てきたし。選ばれた本来の勇者がもう既にこの世には居ない以上、俺が今更所有を放棄したところで他の転生者に取られるのは想像に難くない。というか、本編では俺ではない転生者に投擲具の七星勇者は殺されて武器を奪われていたのだし

 ならばあれも七星勇者ではなく、彼若しくは彼女を殺して武器を奪った同類……というのは些か虫が良すぎる考えだし、そもそもそれを知る唯一の存在はもう土の下だ。最悪の事態を考えるべきだろう

 

 閑話休題

 吐き気に耐えつつ適当に剣を振ってみる

 振れる

 つまりはかなり緩い縛りという事だろう。多少の吐き気に耐えさえすれば、伝説武器の規則事項をガン無視して他の武器を振り回せる。確か本編の主人公である盾の勇者の尚文は剣を振る事すら出来ずに弾かれていたはずだからそれに比べると大分縛りが薄い。今手元にあるのは剣だけだが、その気になればフォーブレイで銃調達してきて撃ったりも可能だろう

 「まっさか実はこの剣投擲具扱いだったから……って無いか」

 自己解決。本編ではウェポンコピーなる持った武器を伝説武器がコピーする性質が語られており、コピーしたから必要ないよねとばかりに対応した武器でも弾かれることは弾かれていたはずだ

 

 「ついでに基礎性能も確認しておくか」

 手元にナイフを呼び寄せる

 って呼んだときは素直に来るのか、遺体を見つかりようがない場所に隠せって時は抵抗したくせに

 とりあえず、スペックを見ると武器名はスモールダガー(伝説武器)。間違いなく七星武器の一つだ。伝説武器と付くのは勇者の武器の特徴である

 とりあえず色々と吸わせてみるか……と思うものの殆ど何もない。割と味が良いからと干し肉にして持ち帰った猪の魔物の肉やら魔物の皮程度しか持ち物がない。村に帰るに当たって稼ぎはほぼ全部金に変えたから仕方ないけれども、こうなるならば取っとくべきだったか

 なんて思いつつとりあえず金を入れる。全額叩き込んだ日には何のために村を出たのか分からなくなる為とりあえずは銀貨一枚だけ

 

 ってもっと寄越せとばかりにナイフが震えている。贅沢な奴だ

 ……と言ってもまあ仕方ない面はある。勇者の武器には特殊な成長方法があり、投擲具の成長方法は金を使うことで武器を限界を越えて拡張できるようになるというオーバーカスタム能力である

 仕方ないので持ち帰りの財産の1/3を入れてみる

 

 ダマスカスナイフが解放されました

 なんて視界テロップ

 今は別に良いが戦闘中辺りだと勝手に視界を埋めるからテロだぞ調子乗るな投擲具

 とりあえず変化させてみる

 

 ……とりあえずスモールダガーよりは強いな、間違いない。って初期段階以下の武器とか困るんだが

 えーと何々……宝探しに命を懸ける者達から神の如く崇められる事もある伝説のナイフ。持つ者は限界を越えて勘を研ぎ澄ますという。だそうだ

 トレジャーハントが付いてるな。使用するスキルだが。ドロップとか……あったな原作にも。使うことでドロップの品質を良くする辺りの効果か。伝説とかダマスカスとか名乗っておいて雑魚相手の稼ぎ用かよお前。金入れて解放するに相応しい能力だけどさ

 

 まあ良い。金は有って困るものではない。こいつは強化するに足りるだろう。伝説武器に能力画面を出させる

 ダマスカスナイフ 0/150 SR

 能力解放済み……装備ボーナス、スキル「トレジャーハント」 稀にオートトレジャーハント

 専用効果 トレジャーハント効果上限up

 熟練度0

 

 ……熟練度が0なのはまあ良いだろう使ったこともなし当たり前か

 とりあえず強化していく事にする

 強化すると言っても何をするか。投擲具の強化はオーバーカスタムと言ったように、そもそも他にも武器によって色々な強化方法がある。最初に見えているのがそれぞれ違うというだけで、実は勇者武器の強化方法は全ての勇者武器共通である。というか、他の武器の強化方法が使えなければ、強化方法を金を払って限界を越えて適用出来るようにするオーバーカスタムとか無意味過ぎるだろうそんなもの

 ということで、とりあえず記憶の中から引っ張りだした槍の強化方法の一つ、ステータスエンチャント。素材を使い武器にランダムなステータスボーナスを……

 

 『その強化方法はロックされています』

 ……おいそこのクソナイフ、調子乗ってんじゃねぇよホントクソナイフだなお前

 仕方ないのでロックされてる方法は無視して他の強化方法を……

 

 「全部ロックされてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 手にしたナイフをぶん投げる

 さくっと近くの岩に根元まで刺さって止まった。流石は勇者武器か

 だが強化方法がロックされていてはそれ以上は強くなれない。何か出来ないかと弄くり回し……

 初期武器ならば出来たりしないかと触れたところで遂に変化が起きる

 『オーバーカスタム!この強化方法を解放しますか?』

 表記された金額は入れたほぼ全額

 

 ……

 …

 

 「こんの、ぼったくりクソナイフがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


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