「見よ!皆の者!勝利者の姿を
悪魔に魂を売った黒き炎にも負けず悪魔を追い詰めた勇者の姿を」
おいこらあのカースの炎は勇者なら世界を呪うほどにぶちギレれば誰でも撃てるぞ、カース禁止してない時点で反則でも何でもない
……と、言いたいんだが言ってもな。尚文には負けて貰わなきゃいけない訳で。そもそも何でそんなに伝説武器に詳しいんだと言われれば納得のいく解説が勇者の武器持ってるからしか出せないから通らない
「誰にも文句など付けさせぬ、槍の勇者よ、そなたの勝利じゃ!」
「いや横槍入ったぞ」
大義名分こそあれ、あの腐れビッチ女神の尖兵が尚文へと魔法を撃ったのは確かな事である
「黙れドブネズミ、そもそも見逃しておったが何故薄汚い亜人が此処に居る」
……仮にも亜人奴隷を解放しろと決闘をさせた王の言葉としてはあまりにもアレだ。もうちょっとオブラートにだな
「一応波に参加した冒険者なもので」
「見ておったならば分かるだろう、盾の悪魔の防御を止めるための義挙であったと」
……誰も、異を唱えないな。まあ尚文がカース暴走しかけてたのは間違いないしここは不利か。そもそもこの抗議自体リファナ相手に見限られない為に形だけだし、尚文が負ける分には文句はない
ということでさらっと引き下がり
尚文に向けて魔法を撃った赤髪のクソビッチ女神の尖兵は実はマルティというこの国の王女でーとかそんな茶番を眺めながら、ふと手を伸ばす
あくまでも何処まで行っても俺は転生者。それを捨てることは出来ないし、だからこそ転生者として与えられた勇者武器を奪う力だって欠片も失われてはいない
向ける先は当然ながら盾……な訳はなく。リファナが盾の勇者のお嫁さんを目指すならばと盾をパクりたい気持ちはぐっと堪えて、杖を狙う
杖の持ち主は眼前の王、正確には王配オルトクレイ。尚文等が暫く勇者と知らなかった事から分かるように、他の勇者のように常に勇者武器を携えている訳ではないのだ。俺?小さくして仕込んでるだけで常に持ってはいる。その理由は簡単、杖が見限ってこそいないもののその手を離れているから
奪えると思った訳ではない。どんな扱いなのか見てみるかと気軽に干渉したという話。外部から別の勇者の武器に干渉するには奪う力を軽くぶつけるのが一番手っ取り早いのだ
ってやべっ!
伸ばした力を即座に引っ込める
……おおーい!杖ーっ!やらかしてんじゃねぇよおい!何とかしろお前の勇者だろ!
なんて現実逃避しかけた
一応杖の現状は確認した。見限る気が無いことも理解した。そして、何故離れているのかもよーく分かった
ラースロッドⅥ。それが今の杖の姿である。ラースと付くことからも分かる通り、尚文が黒い炎を撒き散らした憤怒の盾Ⅱや俺があの日解放だけ出来た憤怒の投槍の圧倒的な上位武器。カースシリーズは激情によって
そりゃまあ、正気であるはずもない。彼の憤怒の根源にあるのが亜人種への怒りだとしたら、寧ろよくもまあ亜人の国を滅ぼしに行かないなというレベルである。いや、杖があったら滅ぼすから一時的に手元離れてるのかこれ
「奪わないでち?」
「カースの呪い強すぎて無理だこれ。俺はまだネズミのステーキ焼き加減炭には成りたくない」
「炭焼きでは無いでちか」
「炭になるまで焼くのは炭焼きじゃない」
なんて、決闘中も飯を頬張っていた悪魔と会話し
「って、決闘中何飯食ってたんだゼファー」
「マスターが食べてろと言ったから食べてたでち
あと、ベールでち」
「さあ、モトヤス殿、盾の勇者が使役していた奴隷達が待っていますぞ」
そんな茶番を外巻きにしている間に茶番は終わる。尚文はバーストランスでぶっ倒れたままだ。ダメージの大きさで立てないのだろう。クソナイフがうだうだ言わないから死にかけてはいなさそうだが
「リファナちゃん!ラフタリアちゃん!」
城の魔法使いによって奴隷紋を解かれた二人に元康が駆け寄る。って飛び付くなよそんな速度だけど
それに対して、リファナは……怯えるように、一歩後ずさった
「や、止めて!」
「……え?」
思わぬ言葉に足が絡まり……あ、元康が転けた。ざまあない
「助けてなんて、頼んでない!」
「リファナちゃん!?」
倒れたまま唖然とする元康
「リファナちゃん達はアイツに酷使されていたんだろう?」
してたらまず俺がその場で尚文を殺してる。幾ら盾だろうがその性能は本来の1/12、半端とはいえレベル差もある上12/12な投擲具でならば苦しむ間すら与えず慈悲深い形で殺せる。いや、本当にやってたら苦しむ間だけはたっぷり与えてから殺すが
「そんな事ありません!なおふみ様は私達に戦いを強要した事なんてありませんでした!」
因みに尚文の奴が奴隷紋の呪いを使った回数は貫禄のゼロである。まあ、俺が戦わなきゃいけないと散々脅したものな、使う必要も無かったという話だ
「そんな訳ないだろ!君達を戦わせて!」
因みにこの俺もほぼ同年代である。元康には無視されてるけどな
「なおふみ様は自分では魔物を倒せないんです!」
「それに、私達を守ってくれました!」
おっ、ラフタリアも参戦した。良いぞもっと尚文をフォローするんだぞラフタリア
「君達がする必要なんて無い!アイツにボロボロになるまで使われるぞ!」
「ナオフミ様は疲れたら休ませてくれます!」
「それに、一度だって怪我を追う事になったりしてません!」
「い、いや……話を聞くにはアイツはそんな奴じゃ……」
「騙されてるんです!ナオフミ様は優しい人です!」
リファナラフタリアに反抗され、元康の表情が鈍る。尚文の方は……ダメだこりゃ憎悪で何も聞いてない。起きたらまたカースバーニングばら蒔くぞこれ。やっぱり発現中は思考がその感情に汚染されるカースって危険だわ
「モトヤス様、これが盾の呪いですわ
どれだけ訴えたいと思っても、忌まわしきあの盾が擁護の言葉に変えさせるのです」
……出やがったなクソビッチ。今すぐ死ね本編のリファナの仇の一部だ
……と言いたいが流石に今ここでやらかすとヤバイので脇腹にクソナイフをぶっ刺してその痛みに集中して堪える
「そうか!やっぱりそうなんだな!」
……ぱっと表情を明るくする元康
見事に女神側に騙されてんぞオイ。転生者対策に異世界から直接勇者を選んでるってのにその勇者が騙されてちゃ世話無いじゃないか
というかラフタリア、困ってないでもっと反論してくれ。原作のお前は小汚ない病を煩った奴隷に手を差しのべたりするかとか
……ん?
小汚ない、病を煩った?
病は?俺が麻薬で治したな。小汚ない?亜人蔑視の緩い街でリファナに服は買ったな、ラフタリアにも分けてなと10着ほど。奴隷商に押し付ける際にもこっそり置いてきたから尚文が買った際にオプションとして渡されてるはずだ
……俺のせいか、反論少ないの。まあ良いやもっと頑張れラフタリア、未来の婿の為だラフタリア
「その通りじゃ。あの黒い炎こそが悪魔に魂を売った証。奴はもう勇者などではない、盾の悪魔じゃ
あの二人は悪魔に魂を歪められてしまったのじゃろう」
悪魔だとさ。悪魔ってのは横で眺めてるでち公の事を言うんだ。尚文じゃあない。というか杖の勇者、お前あの炎撃てるだろラースⅥなんて持っててどの口が言ってるんだ
「そんな事……」
流石に見てられない。これ以上リファナを困らせてはいけない
「……リファナ」
数歩前へ。元康とリファナの間に割り込むように前に出る
「なんだお前!」
「マルスくん」
「槍の勇者様。君達がやる必要はないという事は、俺なんかが戦えと?」
「そうだ!そんな事を聞きに来たのか!」
「……なんだお前、に返答すると。俺はリファナの幼馴染だ
そんな俺は戦えって言うならば、それは差別じゃないのか?」
「関係ないだろ!」
「……ああ、関係ない。男でも、女でも。勇者様が元々居た世界では女は護られるものだったかもしれない
けれども、この世界ではステータスがものを言う。男だろうが女だろうが、子供だろうが
異世界の関係ない常識で、
ぎりっと、元康が槍を握り込む。余計な事をという感じだろうか。けれども攻撃する道理なんて無いので耐えた
「……マルスくん」
「何だ、リファナ?今の俺はお前達が自由になって凄く気分が良い。何だって聞いてやるぞ」
いや、何時でも大半の事なら聞くけど
「なおふみ様を……」
チェンジダガー(幻)、フロートダガー、エアストスロー、セカンドスロー
「皆の者、盾の悪魔を……」
ドリットスロー、トルネードスロー
何か馬鹿みたいな宣言をしようとしている中、こっそりと空中でスキルを撃つ。クソナイフ隠しなどどうでも良い。リファナの願いは決まっている。尚文に"様"がまだ付いているのだから
「処刑せよ!」
エターナルスロー、オーバースロー
「お願い、助けて!」
チェンジダガー(毒)
「サイクロンストリーム!」