パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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鼠の考え逃げるに似たり

「サイクロンストリーム!」

 上空で姿を隠しながら作っておいた嵐を解放すると同時、更に叫ぶ

 「ドライファ・サンダーストーム!」

 

 毎度お馴染み大嘘である。サイクロンストリームは投擲具スキル、それは勇者以外が撃てるはずもないものだ。威力は必要ない為今回は勇者武器の強化によるⅡだとか付いていないがそれは無関係、そもそも撃てる時点で可笑しい

 なのでそそくさと魔法っぽい事を叫んで実はこれ魔法ですよーとやるのだ

 誤魔化せるかなんて知らない。ただ、リファナが助けてと言って、俺にはクソナイフというそれに応えられる力があって。クソナイフ無しでは無理ならば使う。後の事は後で考えれば良い

 チェンジダガー(毒)を組み込んだ麻痺針の嵐が閃光と共に周囲に突き刺さる。リファナの敵は俺の敵、設置型の嵐は威力を極限まで下げた仕込み麻痺針によるオートエアストスローをひたすらにリファナの敵(メルロマルク兵士)を狙い降り注ぐ

 

 って危ねっ!何か俺に向けて降ってきたぞ止めろクソナイフ

 当たれば俺も普通に麻痺するだろうが何狙って……って本気で止めろクソナイフ当たるまで狙うんじゃねぇよ俺をリファナの敵認定は……

 うん、仕方ないわ。でも今は俺を狙うなリファナに迷惑だろ

 

 「何だ、この魔法は」

 「範囲麻痺魔法?そんな馬鹿な」

 無事なのはそもそも原作ではいずれやらかす馬鹿ではあるものの現状敵ではない為攻撃対象外である剣の勇者と弓の勇者一行、そして……

 「何じゃこれは、本当に魔法か?」

 さっくりと風の防壁らしきもので降り注ぐ針雨を散らした王。更にはそれに守られた元康と女神の尖兵共くらい

 

 ……ちっ、雑魚は排除出来たってぐらいか

 「警告するでち。……まだまだでち、逃げるにしても逃走経路にも兵士は居るでち」

 「そうなのかゼファー」

 「自慢でち。ボクの機能を舐めてはいけないでちよ

 そしてベールでち」

 

 ……さて、どうするか

 なんて、決まっている。何も迷う事なんて無い

 まだ兵士は沢山居て、わざわざ出てこずに待ち構えている。ならば、待ち構えてはいられない事態を起こせば良い

 その一つの手段としては転生者全開で盾なり槍なりを奪ってみせる事。だがそれではいけない。剣、弓、盾、槍の四聖と杖の五人の勇者が此処に居るのだ。簒奪者になった瞬間に杖は一時的に王の手元に敵を倒すために戻るだろうし、残り四人から袋叩きはまず間違いなく、俺はまあ死ぬだろう。流石にラースロッドⅥに勝てる気はしない

 

 ……だが、俺は今日丁度良いものを覚えたじゃないか。それを今使わずに何時使う

 「ファスト・エレキシンガー!」

 唱えるのはネタ魔法

 自分の言葉を電子的なギター音に変えるというもの。この魔法の効果中、俺の言葉は全て謎のエレキギター曲に変換される

 ならば何がネタか?言葉を、心をプラズマ音にする魔法、歪んだ心が前提な転生者が使っても不協和音しか奏でられないのだこれ。自分で使ってて耳障りが酷くてすぐに耐えきれなくなる

 

 だが、これで杖の勇者という魔法のスペシャリスト相手にも多少は誤魔化しが聞く。今から使う魔法を誤解させられる

 「『我、転生者が天に請い、地に祈り、理を切除し、世界を繋ぎとめよう。龍脈の力よ。猛る激情の雷と勇者の力と共に形を成せ

 力の根源たる投擲具の偽勇者が命ずる。我が願う彼の者の姿を雷の光の中に現せ!』」

 ほぼ既製品の出来上がった魔法の型にふわふわした魔力パズルを押し込むイメージ。猛り狂う雷鳴でもってパズルをピースを削って完成させるような強引そのものの遣り方。まだ早いし型があるのでマシだが普通にやるには難易度が高すぎて実用化はまだまだ遠い

 だが、石碑で見たこの一つだけは一瞬で完成する。完成形は知っている!オーバーカスタム!

 「『アル・リベレイション・ホログラフィックプラズマⅡ!』」

 

 唱えた瞬間、魔力と活力がごっそりと持っていかれた

 「げふっ!」

 ついでに其所にパチモノとはいえリベレイションの魔法詠唱なんてものの不協和音が重なり、思わず軽く腹の中のものを吐く。電子音化も掻き消えた

 

 「何をしたのじゃ」

 「っらぁっ!ドライファ・ライジングイグニション!」

 フロートダガー!バーストシュート!

 虚空に呼び出したシンプルな投擲具をスキルで放つ。バーストシュートという燃えるナイフを投げるスキルで可能な限り派手に、魔法っぽく誤魔化すのも忘れない

 やり過ぎると即バレそうだな、これくらいにすべきだろう

 

 「ツヴァイト・シールド」

 「くっ、防がれたか」

 軽く魔法の盾に防がれる。腐っても相手は杖の勇者、魔法においては向こうに一日の長……ってかもっと差あるな絶対

 だが、投げたのはシンプルなナイフ、即ち初期武器

 別に此処で彼を殺す気は今はないのだ。あくまでも仕込みが発動するまで、仕込みから意識を逸らさせる事さえ出来れば……

 

 「シ、シルトヴェルトだぁぁっ!」

 ……来た。遠くからの怒号ににやりと笑う

 そう、シルトヴェルト。本当に来た訳ではない。彼らは原作によれば誰も信じなかった頃の尚文に近寄るなと言われてそのまま干渉を止めている

 ホログラフィックプラズマは幻影魔法。そのリベレイションクラスでもって、俺の思い描いた幻影を城の外に投影したのだ。それは……

 変身を遂げて空を舞う大亀と大鳥。ゲンム種とシュサク種の姿。ほぼ獣の姿と化したシルトヴェルト代表の種族の幻

 アオタツ?ハクコ?揃えたかったが寧ろその四種族が揃っていると嘘っぱち感が酷くなるので無し。あくまでもゲンムとシュサクに留める。どうせやるならばド派手にいきたいんだがそれよりもリファナの為に尚文を救う、手段の爽快感の為に目的を見失う鳥頭ネズミにはなりたくない

 『称号解放ナイフ使い鳥頭』

 うるせぇクソナイフ

 

 あくまでも彼らは幻、プラズマが描き出した見せ掛けだけの存在

 だが、盾の勇者を貶める為の場の外に突如として現れた盾の勇者を崇める国の代表の姿。無視など出来るはずがない!

 全員の意識が、尚文から逸れる

 

 今だ!

 「はぁっ!」

 全速力、駆け抜けて倒れた尚文を抱え上げる!

 「逃がすか!」

 「ぐぅっ、らぁっ!」

 くっ、肩口に槍が刺さったか

 知るかそんなもの!

 「ゼファー!リファナ達を誘導してくれ!」

 尻尾で背後から槍を突き出す元康の腹を殴って距離を取らせ、そのまま尚文を背負って駆け出す

 

 「やつらを殺せぇっ!」

 瞬間、立ちはだかる十数人の影

 ……影だ。大抵の国家には居る暗部、王族に直属の闇の部隊

 ……だが

 「出てきやがったら的に決まってるだろ」

 まだサイクロンストリームは残っている。影が姿を見せたということは、狙える対象になったということ

 「降り注げ、サンダーストーム!」

 叫ぶ直前から既に攻撃は始まっており、渦巻く竜巻から雷鳴のように閃光と化した針が降り出していた

 

 ……ちっ、やれたのは数人か、そろそろ込めた魔力的にサイクロンストリームの維持も限界で……

 中央突破、それしかない!

 そう覚悟を決めて前を見て……

 「ラフタリアちゃん!」

 そんなリファナの声に振り向いた

 

 ……小さな少女が倒れている。その足からは夥しい……ほどではないが血溜まりにはなる程度の流血。恐らくは影に逃がすかと足を投げナイフで刺されたのだろう。思わず駆け寄るリファナを、残った影の持つナイフの切っ先はまだ狙っていて

 

 …………

 ……

 …

 なにやってんだネズゥ!

 リファナを守る!ラフタリアも守る、そしてリファナの為に尚文を助け出す!全部やるのがお前の役目だろうが!

 真っ先に切り開く事だけ考えて、他が見えなくなってるんじゃねぇ!リファナを狙われてたらどうなってるか分かってんのか!杖の勇者に魔法を撃たれてたら、リファナが死んでても可笑しく無かったんだぞ!

 『憤怒の投槍への変化は英雄武器によりロックされています』

 

 「こんの、馬鹿野郎ぉぉぉぉっ!」

 視界の端が赤く染まり、プラズマが縁取る

 「ツヴァイト・ファイアボール!」

 「うるせぇ!」

 熱は気にせず、王の打ち出した魔法を食らいながら突っ切ってラフタリアに駆け寄る

 ……逃げ道は作れなかったか

 まあ良いや。シルトヴェルトの幻で外は大混乱。その間に押し通るだけだ

 

 ……なんて、俺の前に立つ二つの背中

 「……行け」

 「流石にこれは可笑しすぎます。まるで、最初から彼等を殺す気だったような

 第一、彼も貴方達が一緒に召喚しておいて扱いが違いすぎます」

 「……剣の勇者様、弓の勇者様……」

 二つの背中は残り二勇者のもの。流石に尚文苛めが酷いとして、王の眼前に立ってくれたのだろうか

 「見ただろう、あの黒い炎を!」

 って、元康はそれでも王側か、仕方ない!

 「それも含めて、作為的なものを感じるんです!」

 「尚文を追い込む気じゃないのか、と」

 「アイツは、マインを襲って!リファナちゃん達を酷使したんだぞ!」

 「そもそも、本当に襲われたのか怪しい」

 ……向こうは勇者達に任せておけば大丈夫だなこれ

 素直に助かる

 

 尚文の体を尻尾で巻いて固定。ラフタリアのぐったりした体を抱き上げる

 「マルスくん……大丈夫だよね、ラフタリアちゃん」

 「息はある、大丈夫だリファナ」

 ……というか、俺の心配は無いのかリファナ、いや大丈夫だけどさ

 「リファナ、お前は行けるのか?大丈夫か?」

 「うん、大丈夫」

 「……逃げるぞ、リファナ!」

 「ボクは無視でち!?」

 「勝手に付いてくるだろゼファーお前は!」

 

 「行かせるか!」

 「舐めるな!」

 蒼雷一撃。プラズマを纏った俺は生体スタンガンのようなもので

 リファナから付かず離れずの距離を保てば格下相手ならばどうとでもなる!影の一部と王や槍の勇者さえ二勇者が受けてくれたならば抜けられる!

 そのまま、大混乱の城を突っ切った


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