戻ると茶番劇の真っ最中であった
お前等はもう自由なんだ近づくなする尚文、捨てないでとすがり付くラフタリア、なんと言おうか悩んでそうなリファナ
茶番だなー本当に。無視だ無視。終わったらさっと部屋入ろう
というか尚文ぃっ!お前には何かを守る事に全てを懸けた力があるだろうが。全部を突き放すってなら俺に寄越せ。俺には手に入れられなかった力を持っておいてほざくな
……って、言っても仕方ないな
「なおふみ様、私はどうしたらあなたに耳を貸して貰えるの?」
「その手を離せ!」
落ち着かせようと尚文の手をリファナが握るが、それを尚文は振り払う
「俺はやってない!俺は悪魔じゃない!」
「どうか聞いて下さいなおふみ様!」
「そういって、どうせお前も騙す気なんだろう!」
「違います!」
「ナオフミ様!」
「煩い!」
……っておい尚文ぃっ!お前の盾今も憤怒の盾Ⅱじゃねぇかなにやってんだおぉぉぉい!
と、介入したい気持ちはぐっと堪えて、リファナが諦めず頑張る限り拳を握りこんで見守る
「私は何があってもなおふみ様を信じています!」
「黙れ!お前達だって俺に罪を被せるんだ!」
「そんなことありません!」
「ウワサみたいにナオフミ様が関係を強要したとか、そんなこと信じません!」
おお良いぞラフタリアもっとやれラフタリア
「世界中の全てがなおふみ様を責め立てようとも、私は違うと……何度だって、なおふみ様はそんな人じゃないと言います」
……尚文の表情は……
ダメだ、変わらない
「なおふみ様。どうしたら、貴方に信じてもらえますか?
奴隷の言葉しか信じられませんか?なら、ちょうど良い場所ですから奴隷にだってなります」
……リファナを奴隷に?
いや待て俺ステイ俺原作的に正しい流れだろ俺落ち着け俺
「どうか、私とラフタリアちゃんを信じてください」
そう言って、リファナは上半身を起こした尚文の頭をその胸で抱き締めようとして
「そう言って、まだ俺を戦わせるのか」
禍々しい盾を身に付けた腕に荒々しく押し退けられて、よろけた
おいこら尚文ぃっ!
「こんな盾を押し付けて!勇者の責務なんてものを強要して!
死ぬかもしれない波なんてものに無理矢理参加させて!悪魔だと蔑んで!
尚も信じろと!だから戦えと!お前達も俺に言うのか!」
尚文の顔が歪む
「……じゃあ、寄越せよその盾」
「何?」
きっと、尚文が扉の先、つまりは俺の方を睨む
……あ、ヤバイ。声に出てた
「マルスくん、なんて事言うの」
「リファナ、駄目だこの勇者は」
「そんなこと無い!」
リファナと意見が対立するのは好ましい事じゃない。だが、引いてはいけないと思う
リファナの為に、世界の為に、そして俺の為に
尚文の為じゃないのかって?そんな訳があるか、勇者として召喚されて女神による侵略に対するこの世界の防衛に巻き込まれた尚文にとって一番良い事は平穏無事に元の世界に帰ることだ。勇者個人の為だけを思うならば戦えというのかふざけんなという尚文の主張は全面的に正しい。今すぐにでも元の世界に帰して戦いに参加しなくて良くするべきだ
だからこそ、その正しさを叩き潰す。尚文の中の優しさにつけこんで、どうにかして戦わせる方向に持っていく。その憎まれ役をリファナにやらせたくはない
「お前……元から盾が目的で」
更に盾が変化する。禍々しさが増す
そして軽く俺への威嚇か震える。何かクソナイフも共振している
……ラースシールドⅢ。ってオイ!盾ぇっ!グロウアップしすぎだろうが盾ぇっ!煽ってんだろ盾ぇっ!お前もクソナイフの同類か盾ぇっ!
……あれか、俺の転生者能力による強奪対策か?ならばカースはラース以外にしてくれ。今さら言うがゼファーに言った事は大嘘だ。あくまでもあれは杖を奪わないことを選んだ名分である。というか、ラース耐性だけは高いと言っておいて、奪ったらラースの炎で炭になる訳がないだろラースだけは耐えるわ。ぶっちゃけその気になればラース抑え込んでラースロッドⅥのまま杖奪えたぞ。世界的に大問題だからやらないけど
因みに俺が耐性があるのはラースだけなので他のカース耐性はない。だから俺の干渉防ぎたいならばせめてラストとかにしてくれ
「盾が目的なんだろ!」
カースの炎が飛んでくる。それを甘んじて受ける
避けたら燃えるからな、迷惑だ。にしても熱いなやっぱり炎か
「持っていけよ!」
「取れるならば、とっくにそうしてるよ」
いや、転生者の力を使えば取れるんだが、それはそれとして
「おら!持ってけよ!そして俺を元の世界に返せよ!」
尚文に盾で腹を殴られる
って痛……くはないな
「欲しかったんだろ!こんなもので良ければくれてやるよ!最初からお前が持ってろ!俺に押し付けるな!」
ガン!ガン!ガン!と合計四発
悲しいことに痛くも痒くもない
「……出来ないんだよ」
その腕を、盾を掴んで止める
熱っ!カースバーニング効きすぎだおい
全力抵抗の構えか、盾がブルブルと震えている。絶対に尚文から離れたくないで御座るとでも言いたげだ。いやお前が元凶だからな盾
「四聖の勇者になれるものは異世界からの来訪者だけ。理論上どう足掻いても俺達は四聖勇者になれない」
その点は魂の形とかがどうとか。この世界の住人の魂と結び付いても世界を守る結界を発生させられないとか、この世界の神である四聖武器に対して絶対的な上下関係が発生してしまってロクに干渉出来ないとかあった気がする
……その点転生者である俺は元々の異能なんて持ち越してる事からも分かる通り魂は異世界人寄りなので奪えるっちゃ奪えるのだが。というか、この世界の人間ではなく異世界人を転生させて送り込んでる理由が恐らくそれだ、魂がこの世界の人間ではないから四聖に干渉できる
「だから、お前がやるしかないんだ、
お前が何と言おうと、望もうが望むまいが、四聖の盾を扱えるのは!この世界を守れるのはお前だけなんだよ!」
「そんなもの、俺に押し付けるな!
勝手に、死ぬかもしれない場所に放り込まないでくれ!
帰してくれよ!俺には元の人生だってあるんだ」
その怒りに染まった瞳の奥に揺れる怯えを見た気がして
そりゃそうか。原作の尚文は召喚されてから暫くは盾の勇者としてロクに死の危険を味わったことが無かった。味わった時には既に戦う覚悟を決めていた
だが、この尚文は違う。決闘の際に槍に貫かれ、意識を手放した。俺があのまま尚文を拾って逃げずに放置していたら、或いはそのまま首を落とされて晒されていたかもしれない。死んでいても可笑しくなかった。戦う覚悟を決める前に死にかけた事が、この現状を産んだ
仕方の無い事かもしれない
俺はそんなことはない。あの世界にリファナは居らず、瑠奈は二度と戻ってこず、仇はこの手で原子に打ち砕いた。リファナの居ない
「どれだけ逃げても、状況は変わらない
世界が滅んだ暁には、盾がお前だけは元の世界に帰してくれるかもな。帰せるだけの力が、逃がせるだけの余裕が、この世界に残っていれば、な」
「マルスくん、なおふみ様に酷いこと言わないで
なおふみ様は、戦いたくないって」
「リファナ。それをどれだけ言おうが、盾の勇者は戦わなければいけない」
ゆっくりと首を振る
「やれるものならば、誰かがやってる。盾の勇者はお前だ。お前にしか出来ない
お前が何を言おうが、逃げようが、放棄したいと泣き叫ぼうが!盾の勇者の役目は岩谷尚文にしか果たせない
だから、リファナが何と言おうと、お前が逃げようと、俺は何度でも追いかけて言う
お前しか世界を守れない。だから勇者として戦え、
静かに俺よりも歳上の勇者を見下ろして、精一杯上からそう言葉を発する
ってずっとカースバーニングでチリチリ焼かれていい加減ヤバイんだけど。そろそろ耐性の上から火が通りそうだ
「……」
此方も静かに、尚文が睨み付ける
ラースⅣには……流石にグロウアップしないか。したら笑うんだが。盾としても大好きな勇者に戦って貰わなきゃ困るからか
「マルスくん……」
「ナオフミ様……」
そして、きっとラフタリアが此方を睨んだ
尚文の真似かラフタリア、どうしたラフタリア
「……なら、私がナオフミ様の剣として、ナオフミ様を守ります」
……よし、良く言ったラフタリア。その調子だラフタリア
仮想敵が俺なのは……まあ良いか
「私も、なおふみ様の剣として、貴方を守ります」
いやリファナ、お前は良い。正直な話仕方ないがあんまり聞きたくない
「ご免なさいなおふみ様」
そして、くるっと尚文に向き直ったリファナが頭を下げる
「勇者様だから、なおふみ様もマルスくんみたいに世界を守る事に意欲的なんだって思い込んでた
でも、なおふみ様も私と同じように戦うのが怖かったんだ。それなのに、盾の勇者様だからって、勝手に期待して、ご免なさい」
「あ、ああ」
お、尚文が揺れた
「けど、マルスくんの言う事もきっと正しい。なおふみ様が、盾の勇者様が戦ってくれないと、きっと世界は守れない。私の村みたいに、きっと滅茶苦茶にされちゃう
だから……」
そうして、リファナはもう一度、深く頭を下げる
それに合わせて、ラフタリアも頭を下げた
「お願いします、なおふみ様
盾の勇者様として、世界を守ってください。本当は戦いたくないなおふみ様を、私と、マルスくんと、ラフタリアちゃんが剣としてきっと守りますから。だから、お願いします」
「お願いします、ナオフミ様!」
………………
…………
……
ん?何か変な言葉が混じってたような
あ、俺の名前が何か入ってたのか
「なおふみ様を戦わせるって言うならば、当然付いてきてくれるよね?
マルスくん」
リファナが頭を上げ、俺へと顔を向けてにこりと笑う
……ぐうの音すらも出ない。完敗である
参ったな、じゃあそろそろとそそくさと去ろうと思ってたんだが