「それで、何処に行くんだ?」
とりあえず王都は出るべきだろうと街を出て
尚文の奴がそんな事を言い出した。今更だなおい
まあ今更で上等か。尚文はこの世界の事を良く知らない。もっと語れよラフーと言いたいがそれは酷過ぎる
「……で、何処に行きたい?
リファナ、意見は?」
「シルトヴェルトでち」
「ゼファーには聞いてないし却下だ」
「マルスくん、シルトヴェルトが良いと思うけど」
そんなことを言うリファナに、じゃあシルトヴェルトにと言いかけるも何とか堪える
「シルトヴェルトは駄目だ」
「何で?」
「何でも何も……」
ちらり、と尚文を見る
不機嫌そうに腕を組んでいるな
「盾の勇者様がまず向かうとしたらシルトヴェルトだ。そんな事は皆が思っている
ならば、まず最初に封鎖されるのはシルトヴェルトへの国境だろ?尚文が一番通りそうで一番行かれたくはない場所だ」
「シルトヴェルト?何だそれは」
「盾の勇者が神の如くに崇められている国だよ
この国の盾以外の三聖勇者への扱いに近いというかもっと狂信的」
「そんな場所が」
「後はシルドフリーデンも駄目だな。あそこは封鎖こそ緩いが今きな臭さが酷い」
「そうなの?」
「当初クラスアップはシルドフリーデン予定だった俺が駄目だこれはと逃げる程度と言えば分かるか?」
と、首を傾げるリファナに告げる
因にこれは原作知識によるものだ。実際に見たことはない
「何でも代表であるアオタツ種が新興宗教にド嵌まりして従来の盾教徒と内乱しかけてるとか何とか」
「し、新興宗教……」
「ナオフミ様信仰、無くなっちゃうの?」
「どこでも宗教対立はあるものなのか……」
なんて尚文の奴遠い目をしていやがる。あとラフタリア、ナオフミ様信仰じゃなくて盾信仰な。意味合いは変わらないけど字面の微妙さには多大な差がある
だが尚文、お前もその宗教の神として勝手に神輿にされてるぞ。主にタクト狂いになったアオタツを止めようとする穏健派のだけど。今のシルドフリーデンに行った暁には間違いなくアオタツ種の専横と妄言を止めるために神が降臨なされたのだ!と担がれるな
尚、放っておいた場合シルドフリーデンでは新興宗教が勝つ。タクト様タクト様やってるバカタツがそのまま実権を自分に集めることに成功するのだ。何で盾信仰捨ててそんなアホに走れるのかは疑問だが
俺が願うことなら全てが現実になるだろう 選ばれしものだーからー
暴走を始めてる 世界をもとに戻すにはもう 俺しかないー
してる昔の俺や今のタクトみたいな転生者ならともあれ、複数の勇者武器を所持するのは理論上本来あるわけがないしあってはいけないと分からないものなのかバカタツ種は。この世界の神とは勇者武器であり、勇者と勇者武器は一対一対応の魂の結びである以上複数の勇者武器は絶対に持つことが出来ないのだ。転生者が複数持てるのは魂の結びが無い強引に取っ捕まえて使役してるだけの状況だからでしかない。そして勇者と勇者武器の魂の結びが世界を守る鍵である前提からするとそれは世界のバランスこわれるという奴だ
それくらい分かれよ、分からないから恋は盲目やってんのか。タクトの何処にそんな魅力があるんだ、やっぱり股間の鞭に調教されたか?
なんて俺はリファナ相手に嫌いじゃない幼馴染の枠から外れられてないのにと何かハーレム作れてる他の転生者への怨み言や下世話な想像は振り払って
「フォーブレイは?あの国、杖の勇者……さまみたいな感じじゃなくてしっかりとした勇者さまが居るんだよね?鞭の勇者さま
その人に協力をお願いしたら?」
なんて、良いこと思い付いたとばかりのリファナ。嬉しそうに耳立ててるが残念ながらそれは駄目だ
鞭の勇者タクト・アルサホルン・フォブレイ。タクトの名前から分かる通り、俺がさっきから言ってるタクトという転生者である。完全に転生者にパクられて使われてんじゃねぇかしっかりしろ鞭。しかもタクトが明確に勇者として認定されているということはこれ普通に台座にある状態から引き抜かれてんぞ抵抗しろ鞭
……抗議は止めろクソナイフ脇腹はお前のストレス発散のために刺して良い場所じゃない、第一マントで隠してなければ見えるだろ止めろクソナイフ
「駄目だ」
だがタクトの本拠地だからって却下するにはタクトの対外的な評判は良すぎるしどうしたものか……と思っていると尚文側から助け船
「勇者が近くに居ると反発が起きるらしい
ゼルトブルとやらに居るからと錬が言っていたのはそれの警戒だと思う」
あ、そういう勘違いがあるのか尚文には
勇者同士の反発は聖武器同士、つまりは元々別々の世界の守り手であった武器同士でしか起きない。だが、尚文の奴は俺やリファナが言うまで七星の存在すら知らなかった箱入り勇者である。情報面で冷遇されてただけとも言う。そんな尚文は、七星と七星や七星と四聖では特にそんなことは無いということを知らないのだ。そもそも七星って四聖の眷族だしな、それで反発起きたらたまったものじゃない。それに、此処に投擲具があるからそれで反発起きてしまうならば隠し持ってることがバレる
「ならばタクトに協力をっていうのも無しだな」
よし、割と自然に却下出来たぞ
……いや、じゃあどうするんだよ何処行くんだよ
……あ、メルロマルク内か原作的には
「そもそも、何処に行こうが波が起これば強制で召喚されるんじゃないか?」
「ん?勇者ならポータルで戻れるんじゃないのか?」
「ポータル?何だそれは
隠すな」
おぉーい!ラフタリアー!ポータルスキルについて実演しただろそれを告げるのはどうした
なんて、想定済である。まあ、龍刻の砂時計に用事なんて無いなら言わないか
「勇者ってのはポータルスキルで転移出来るんだろ?爪の勇者から聞いたぞ」
と、まあ半年の間にシルトヴェルトにも行ってみたならば会っていても可笑しくないしとその名前を挙げてみる。名前は……うん、原作に確か出てこないから良く覚えてないがこの世界で生きてきた記憶を手繰るにヴォールフ=ヴァラオールだったか。20代くらいの狼亜人のはずだ。まあ、基本的に盾の勇者に出てくる際にはタクトに殺されているのだが
「会ったことがあるのか」
「遺跡調査の仕事で少しだけな
何でも龍刻の砂時計の砂を勇者の武器に入れることでポータルって転移スキルが使えるようになるらしいぞ。明日の朝に遠く行かなきゃいけないから明日は居ないぞと言われて今から走ろうが間に合わないだろって返したら教えてくれた」
無理なく物語を作って語ってみる
「龍刻の砂時計か…」
そんなことを呟く尚文の腕の中で盾が憤怒の盾へと変化。ってこの尚文大丈夫か何かとカースしてるんだが
恐らく他の勇者どもはしっかりと貰ってるんだろうなとキレたんだろう。気持ちは分かるがラースがあまりにも出てきやすすぎる
「因みに調査の果てにこの遺跡シルトヴェルトに併合された小国の跡だって事が分かってな
機能停止した龍刻の砂時計見つけたんだ
なので実はあるぞ、砂時計の砂」
なんて言って、小袋に入れた赤い砂を振る
砂より真っ赤な嘘である。実際には尚文の奴決闘の後ポータルで逃げなかったということはポータル無いんじゃないか?ってか取得しに行ってる様子無かったから間違いなく持ってないなと思って、滅びた国跡であるシステムエクスペリエンスのところの砕かれた砂時計からパクってきたものだ
「やるよ、盾の勇者サマ」
「いちいち言い方がイラつく」
言いつつ、尚文の奴は盾に砂を吸わせ……
スッと盾が変化する。上手く行ったようだ
「……成程、これか」
にまり、と尚文が笑う。少し邪悪だが、初めてか?尚文の奴の笑顔を見たの
まあ、ワクワクするか、転移スキルだものな
「……こう使うのか
『ポータルシールド』!」
少しして仕様を理解したのか、尚文はスキルを唱え
リファナ達と共にその姿が掻き消えた
ポータルの転移に巻き込まれなかったな、俺
……置いていかれたんだが。これはもう自由って事で良いのか?尚文直々の解雇なら仕方ないな、自由にやろう
二時間後。解放感に浮かれつつ買い物をしていたところ、尚文のポータルで戻ってきたらしいリファナに捕まった。尚文とのパーティ解消忘れてたから居場所普通に分かるか。ミスった