パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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村とイタチ

とりあえずぼったくりクソナイフは完全にぼったくりなので強化面は放置して

 恐らくは元の持ち主が育てていたのだろう、元々初期武器以外でも解放されている武器が存在したのでそれを漁り、小型の円盤……要は手裏剣みたいな形状へと投擲具を変化させて腰のポシェットに突っ込む

 不安定ではあるし呼べば飛び出してくるが一応の所伝説武器を隠すことには成功した。これが投擲具ではなく斧とかだったらロクに隠せるような形状の武器が無くて困っただろうが良く考えれば俺がパクってしまったのは投げて一時的にとはいえ手を離れることも多い投擲具。盾の勇者本編で主人公尚文は盾を外せずにどうやって自分の隠そうかと苦心していたが俺は隠そうと思えば幾らでも隠せたのだ。ポシェットに突っ込んでてもそのうち抑え込まないと勝手に飛び出してくるのが困りものだがまあ両親の居ない俺は家に一人だしそう長く誤魔化さなければいけない相手も悲しいことに居ない

 

 そうして、少し歩けば村が見えてくる。メルロマルクにしては珍しく亜人が集まった俺の故郷が

 金稼ぐと言って飛び出しておいてどの面下げて戻ってるんだと言う話だがレベルにして丁度40のこの面である。ハツカ種の名前に違わぬ灰色の髪にちょっぴり丸っこい耳。それだけならばまだ他の亜人にも見えるが揺れる毛が禿げたような細長い剥き出しの骨と皮ばかりの尻尾が俺の正体を思いきりばらしている。顔立ちは……ノーコメント。個人的には悪くないと思っているのだが出稼ぎで冒険者やってる頃にパーティ組んだ相手は胡散臭いとか泥棒してそうとか散々な言いようだった

 

 村に入ると子供達が小さなボールで遊んでいた。どうやらバルーンの破片を集めて作った鞠のような割と跳ねるもの。一年前くらいまでは俺も持ってた。あれは……そういえば俺は特別なんだよぉぉぉぉっ!と八つ当たり的に大きな木に向けて全力で蹴ったら割れてしまったのだったか

 

 遊んでいるのは長く茶色い髪の狸のような耳の幼い亜人と、白っぽい金のような何とも言えない短髪の幼い亜人

 ラフタリアとリファナだ。あの二人がボール遊びだなんてかなり珍しい。キール……犬亜人なんかの活発な子供達が蹴ってサッカーみたいな遊びをしているのは割と良く見掛けたし混じったことも割とあるんだが。ストライカーさせろと言ってもお前すばしっこさだけだからと繋ぎの位置にばかり配置されて、拗ねてあんまりやらなくなったっけ。俺は世界を救う英雄なんだから何時か見返してやるとか思ってた気がする。そもそも魔法自体、覚えようとした切欠はその蹴り合いでもってボールを魔法で操れないかと思ったのが始まりだ。結局村を出る日までは詠唱を短く一瞬で終わらせるには当時は実力が足りず、想定していた物理的に幻影魔法で姿が消えるシュートは未完成に終わったのだが、冷静になれば完全な不正である

 

 ……ん?ラフタリア?

 ふと記憶に引っ掛かる。トゲと言うにはあまりにもでかすぎるものが

 そうだ、ラフタリア。ぼったくりクソナイフがぼったくりクソナイフ過ぎてすっかり忘れていた

 槌の勇者ラフタリア。盾の奴隷ラフタリア

 何でも良いが、盾の勇者の成り上がりにおけるメインキャラだ。というかメインヒロインだ。何で忘れてたのかと言われれば……

 何でだろうな、お姉さんとラフタリアが暫く結び付かなかった

 

 ヤバイ。思い出したものを思い返せば思い返すほどラフタリアは盾の勇者メインキャラだ。この世界が盾の勇者の成り上がりの世界だとして、完全にメインストリーム近くに俺は居る事になる。意図せずとも四聖と遭遇しかねない

 

 なんて頭を脳内で抱えてるうちに、二人は此方に気が付いたようだ。ラフタリアが転がしたボールをリファナが取り損ね、此方にコロコロと転がってくる

 良し、キャッチ。キール相手ならば全力で蹴り返してたところだが、リファナ相手にそれをやったら軽蔑ものだ

 

 ……完全に警戒されている

 そんなに分からないだろうか、半年ほど前に村を出た亜人の事を

 思案していると、白い方の幼い子が少しだけ足を進める

 「……リファナ」

 「リファナちゃん!」

 「全く、酷いじゃないか、ラフタリア」

 言いつつボールを軽く投げる

 

 「ファスト・レビテート」

 宙に止まるボール

 「ファスト・ミスディレクション」

 そうして視界からボールが掻き消える。当時は即座には出来なかった消えるシュート

 

 とても軽く、姿を消したボールはリファナの少しだけ上がった掌に当たって姿を現す

 「……マルス、くん?」

 ピン、と尻尾が伸びるのを感じる

 「何だ、覚えてるじゃないかリファナ」

 「マルス……?」

 ラフタリアは納得がいってないようだ。一人でボール蹴ってる時、リファナと二人で近くで話してたりするのを良く見掛けたりしたし割と外見は覚えられてる筈なんだが。リファナに見える場所を特訓で選んでいたので間違いない。あの消えるシュートもわざとリファナ前で特訓していた。少しでも気を引こうとした……というのは間違いではない。半年前だとは?そ、そんなんじゃねーしと言ってただろうが。そ、そんなんじゃねーしと明らかに動揺してどもってるのが重要な点だ

 

 「このハゲ尻尾、思い出さない?」

 立った尻尾をわざとぐるぐる。端から見ればバカっぽいので尻尾を動かすのは意図的にはあまりやりたくはないのだが

 

 「……あっ」

 漸くかよラフタリア

 「マルスくん、背丈が」

 「亜人種の特徴かな。急激にレベルが上がると、レベルに合わせようと強引に大きくなる事があるってアレ」

 そういえば出てく前は背丈リファナとそう変わらなかったなー、と近づいてみれば俺の六割しか背丈無いだろう少女等を見て思い出す

 

 ……改めて言おうか

 俺の名前はマルス。メルロマルクに産まれたハツカ種の亜人にして投擲具の七星勇者殺し。今年11歳になったのだが、半年ほど冒険者をやってレベルを上げた結果、レベルに合わせて20歳ほどの体格に成長した。これならばリファナにも頼られそうで俺自身は割とこの成長を気に入っている。実は前世も実質中学で死んだから大人ってものには憧れがあるしな

 

 『称号解放 見た目は大人、中身は子供』

 称号って何だオイ

 ……ヘルプが開いた。何でも勇者武器から与えられるもので特に意味は無いらしい

 ぼったくりクソナイフめ持ち主選ぶくらいには意思ある訳だし絶対楽しんでるだろてめぇ

 

 他の称号は……とリファナ等と話して怪しいものじゃないと分かって貰いつつ横目で確認してみる

 勘違い片想い野郎 余計なお世話だクソナイフ

 畜生鼠 黙れクソナイフ

 勇者殺し ぐうの音も出ない正論である

 盾の神への反逆者 ……これは分からない。何だろう

 イタキチ転生鼠 誰がイタチキチだ

 『称号解放 痛くてキチガイの略』

 ……称号ポップアップで会話すんなクソナイフ

 

 と、思いつつ、盾の神と言えば、と村でシンボルとも言える旗へと目を向ける

 「あの旗は今日もはためいてるな

 帰ってきたって気がする

 

 まあ、また割とすぐに出てくんだけどさ」

 そもそも俺が帰ってきた理由は簡単だ。この世界においてレベル上限は基本は40である。龍刻の砂時計という巨大な赤い砂時計のある場所でクラスアップの儀式を行うと100まで上限が解放される。実は100以上へのクラスアップ条件って知らないんだよな。あることは知ってるし在処も分かってるんだが盾の勇者本編だと基本は竜帝が知ってたからそれを使わせてもらったという感じで具体的に何をすれば良いのかって書かれてなかったのだ覚えてる限りは

 そして、此処はメルロマルクだ。メルロマルクにも龍刻の砂時計は当然ながら存在する。だが、メルロマルクは亜人が生きるには苦しい国だ。亜人である俺がクラスアップなんて認めてもらえる筈がないだろ常識的に考えて

 

 だからである。一度メルロマルクを離れ傭兵の国ゼルトブルや亜人の国シルトヴェルト辺りまで足を伸ばしてクラスアップしてくるしかない。長い旅になるのは当然だ。久し振りにリファナの顔を見て、心機一転……でも無かったがゼルトブル目指すかと思っていたという訳だ

 

 ……ん?何だよ二人して怪訝そうな顔して

 「マルスくんが……勇者さまを悪く言わない……」

 何だ急に。そんな驚く事かよ尚文に恨みなんて無いぞ俺

 

 と、純粋に女神を信じていた頃の俺の言葉を思い出す

 ……ああー、盾のマークが付いた亜人が生きてて良い場所の証のあの旗を見て何時かあの旗のマーク俺のマークに変えてやるとか言ってたなー俺。ぶっちゃけ盾だって俺のものにそのうちなると思ってたし当時。カッコつけの一種なんだが、冷静になると酷いイキリだ。引いて冷たい態度にならなかった大天使リファナに感謝である

 

 『称号解放 イタチを敵にする男』

 うっせぇぞクソナイフ。女神が最後には倒すべき敵であり、天使とは本来神の使徒だからと言ってもリファナを転生者側認定とかしてないからな。それを言ったらフィーロやらフィロリアルを天使呼ばわりしていた槍の勇者も同類だろうが

 ……同類かもしれない

 

 『力の根源たる鼠が命ずる。天地を結ぶ雷鳴を繙き、雷火をもって輝かせよ』

 「ファスト・ラットライト」

 ……所謂ネズミ花火である。火を付けるとくるくると回るアレ

 

 実用性は欠片もない魅せ魔法。これそのものは特に意味はなく、重要なのは詠唱である

 「あっ、未来の英雄じゃない」

 そう、一度言いかけたが、今は何となく使えなくなった詠唱。力の根源たる未来の英雄が命ずる。この部分はぶっちゃけ自分の事を指していると明確に思えれば何でも良いのだ実は。事実である必要は欠片もない。例えば俺は盾の勇者ではないが、自分が侵略者である女神の駒であると気が付く前の俺ならば盾の勇者にもそのうちなると思い込んでいたから盾の勇者が命ずると大嘘ほざいても問題なく魔法を使えた

 「リファナ。俺だって外で思い知ったよ。俺だけが特別な存在じゃない。俺は世界を救うたった一人の英雄じゃないんだって」

 つまり、未来の英雄と言わなくなったというのは、そうじゃないと自分で思ったんだという意思表示。だから引くなよリファナというヤツだ

 

 『称号解放 諦めの悪さだけのこそ泥鼠』

 ……へし折るぞこのぼったくりクソナイフが


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