パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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特別じゃ無い特別なもの

タクトとの邂逅から数十分後

 タクト一行……というかビーコン撃ち込んだタクトのメイドのエリーがゆっくりと移動を始めていた。向かう先はフォーブレイ側。上手く引っ掛かってくれたようだ

 

 まあ、タクトにダメージを通せないから確実にタクトが勝てると分かっていて、更には投擲具と斧を持っているらしいという美味しい獲物をわざと演じたのだ。来てくれなきゃ困る。そうでなければ何のためにこんなことしたのかとなるだろう。普通にプラズマバースト辺りの高火力魔法ぶちこんで多少のダメージ通してやりたかった気持ちを抑えて演技したってのに

 無理矢理にでも疑似リベレイションの枠にプラズマバースト辺りを当て嵌めれば多分殺せないまでもダメージは通ったろうしな。それで怪我させて帰らせるという不確実な手もあったのだがそれを選ばなかったのは少しでも成功率を上げたかったからだ

 

 なんて、魔力切れたのでごろりと村外れに寝転がり星空を眺めていたら、誰かが近付いてくる音がした

 ……誰かってか、尚文だなこれ。リファナの足音は聞き分けられるしラフタリアはリファナっぽいけどリファナじゃないで分かる。ってのは置いといて、そもそもパーティ組んだままだったからバレバレか

 

 「何をやってるんだ、MP切らせて」

 ……そういやMPとかある程度把握できたなパーティメンバーだと。魔力切れは流石にバレるか

 「魔法の練習だよ、使って練習してないと鈍るだろ?文句あるのか盾の勇者サマ?」

 「……別に」

 近くまで来た尚文は、そこで止まる

 そのまま踏みに来たりは流石に無いか

 

 「そんなに沢山の魔法を覚えるなんて、金掛かったんじゃないのか?」

 「金?」

 「魔法とはオーブで覚えるんだろう?」

 「……ああ、そういうこと」

 そういえば使えば魔法が覚えられるオーブなんて便利なようで便利じゃないものあったなそういえば。言ってしまえばひとつの型を強引にインプットする形だから入門以外で使っても正直使いにくいだけのシロモノだが、この頃の尚文は魔法はオーブで覚えるなんてそんな認識だった

 「俺の魔法は俺の独学だよ

 ってか、オーブで魔法を覚えるなんて今時流行らない」

 「今時だと?流行でもあるのか」

 「いや、単純にあれは初心者用に魔法を使う感覚を体に染み込ませるのが本来の主目的。画一的過ぎて使えたものじゃない

 本来の魔法ってものは、もっとパズルみたいなものだ」

 「……パズル?」

 「こういった効果を起こしたい、から始まってならば力を言葉にしてこう並べれば上手くこの場で発動できる、それが本来の魔法だ

 って異世界から来た勇者サマには実際にやってみないと分からないか」

 「イチイチ言い方が苛つくなお前」

 「許せ盾の勇者

 岩谷尚文個人に恨みはないが、癖だ」

 「最低な癖だな」

 「そう……かもな」

 「それを自覚してるなら治せ」

 「治るものか、微妙なところだな」

 「いや治せよ」

 半眼の尚文

 いや、ずっとおのれ盾の勇者してきたのはそう簡単には治らないというか

 

 「……ひとつ聞いて良いか?」

 「何だよ、盾の勇者サマ?」

 「お前、リファナの事好きだろ?」

 「当たり前だ。隠してもいないそんなことを聞きに来たのか?」

 あっけらかんと言う

 別にそれをどうこう言う気はないしな。多分リファナ当人も知ってるぞ

 だからこそ、少し迷った上に惚れた弱味で助けてくれるだろうからとあの時なおふみ様を助けてと言ったのだ。絶対に助けてくれると思ったから

 

 「いや、違う」

 頭を振る尚文に、そりゃそうかと思い

 「何でリファナを好きになった?」

 その言葉に。一瞬だけ口をつぐむ

 

 いや、別に誤魔化そうと思ったわけではない。単純に、これで良いのか?と思っただけだ

 「……特に理由はないよ」

 「おい!」

 「何だよ尚文サマ?物語のような劇的ななにかが無ければ人を好きになっちゃいけないのか?」

 「い、いや

 そうは流石に言わないが……」

 「冗談だ

 理由はないってのは本当だけど、何となく切欠のようなものはある。本当に、何でも無い事だったけどな」

 なんて、言ってみて

 「で、何でそれを聞く?」

 そう返す

 

 「……」

 無言で草原に寝転がる尚文。どうした空でも見たくなったか?満天の星空はまあこの世界ではありふれてるが街明かりの多い現代日本ではどんな世界でもそうは見えない貴重なものか

 「おまえが、リファナを裏切らない保証が欲しい」

 「何だそれ」

 「俺の奴隷になるというならば、別にそれでも良いぞ?」

 「逃げんぞ盾の勇者サマ」

 「良いから、二つに一つ選べ」

 「こんな俺を信じるのかよ?」

 「お前は味方だと言うリファナを信じるだけだ」

 「そうかよ」

 

 まあ、良いか。隠すことでもない

 ……で?お前は何で木陰で聞き耳立ててんだゼファー?気になるでちじゃない悪魔ならもっと悪魔らしくしろ実質AIだろお前

 

 「俺には両親が居ない

 正確には、海難事故で死んだ

 葬儀の日、口々に村の皆は御悔やみを言ったよ。当たり前の話だ。それを悪いと言う気はないし、実際悪い事じゃない

 正しいことだよ、それが」

 「関係あるのかそれ」

 ヤバい、尚文がイラだっていらっしゃる

 「……何で無いと?

 

 でもな。子供心に思うんだよ。死んだ両親より、両親を喪って独りぼっちの俺を誰か心配してくれよ、と

 バカなガキの思いだ。心配してない訳がない。単純に、御悔やみをまずは言うのが慣例ってだけの話

 だが、当時の俺にはそんなこと分からなかった

 

 そんな時、親に連れられて来たリファナが、純粋に俺を心配してくれた。『一人で大丈夫?』って。『寂しいなら、うちでごはん食べる?』ってな。リファナに言われて、キールやラフタリアもな

 リファナが特別だった訳じゃない。ただ、皆思ってた心配を最初に口にしてくれただけだ。そんなこと、後々よーくつきつけられた。狸の親父……ラフタリアの父親が心配してくれてなきゃ、そもそも両親の家に一人で住み続けるなんて無理だったしな

 そんなこと、分かってるさ。リファナは特別じゃない。でも、理屈じゃないんだよ

 ……切欠なんて、そんな程度の小さな事だ

 

 それで一つ下のンテ・ジムナの少女を眼で追いだして……気が付いたら好きだった。何一つドラマが無くて、面白味の無い話さ」

 静かに、尚文は眼を閉じる

 

 「信じられないな」

 「だろ?だから言いたくなかったんだよ」

 「どうとも判断しようが無い

 とりあえず、俺を裏切るな」

 なんて会話を交わし。もう良いやMP大分ましな域まで回復したし、と立ち上がった




尚文の信頼度が上がった!
ドラマチックな何かがあったと嘘ついた場合元々低かった尚文からの信頼は地に落ちたことでしょう

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