「こちらです、ハイ
親戚から送られてきたばかりで」
そうして連れてこられた檻の中に居たのは……
うん、亜人だな。当たり前か
「何だよ!何しに来た!」
なーんかキールっぽい感じの叫びだなーうん
何だろう、凄く嫌な予感がする
眼前に居るのは今のリファナより少しだけ年下っぽい亜人の少年。それだけだ
いや、普通はそれが当たり前だ。何人もの奴隷を同じ檻に入れていたら結託したり逆に互いに傷付けあったりとロクな事になるはずもない。だからこそ、よほどでなければ奴隷を複数同じ檻に入れたりしない。リファナとラフタリア?助けなんぞ来るはずもないのに二人でささえあってよーという感じに下品た見世物か何かだったんじゃないのか?よしあいつら殺そう。いやもう半分死んでたな、声帯潰したし
だが、ネズミの勘……じゃないが何かがこの檻の中から欠けていると思った。居るはずのものが、居なければならない誰かが其所に居ない
居るのは、奴隷だってのに敵意を剥き出しにした元気な男の子だけ。その特徴的な白と黒の髪が目を惹いて……
って待て待て待て待てぇぇぇぇっ!
フォウルじゃねぇか!どう見てもフォウルじゃねぇかぁぁぁっ!どうなってんだ奴隷商ぉぉっ!
瞳は青く、猫を思わせる黒い縦筋。猫にしては分厚い耳。白黒のしなやかなネズミと違って立派な尻尾。そして、カースに侵食されてる時の尚文のような、全てを憎む見据える顔立ち
……うん、フォウルだ。ほぼ間違いなく外見フォウルだ
……で?アトラは?
フォウルとアトラ。盾の勇者原作におけるメインキャラだ
ラフタリアと並ぶメインヒロインにして後の盾の精霊のような何かであるアトラと、その兄にして小手の勇者フォウル
詳しいことは良いか。とりあえず、フォウルはシスコンだ。それはもう、瑠奈存命時の俺を思い出すくらいにはシスコンだ
奴隷になってからも、遺伝性の病で目も見えなければ歩けもしない、皮膚も爛れて死ぬのは時間の問題というどうしようもない妹をずっと守っていたほどだ
ここまで言えば分かるだろう。考えなくてもだ
フォウルが此処に居るならば、アトラが近くに、つまりは同じ檻に居なければならないのだ。だというのに、此処に居るのは兄だけ。死にかけの妹何処行った
「……奴隷商
これが、不良在庫か?」
「そうです、ハイ」
「不良どころか、健康体のハクコ種とかいうバケモノみたいな高級品じゃないのか?」
探るように、言葉を交わしてみる
「買う気はありますかな、ハイ」
「買わないと言う気は無いぞ」
凄く嫌な予感がする
……アトラ、死んでないよなこれ……死んでたら大事だぞ。いやまあ、ラフタリアの最大のライバルが消えるのは良いことなのか?だが、転生前は俺にも可愛い妹が居たし、フォウルの事を思えば生きていて欲しい
「アトラは無事なんだろうな!」
あ、こいつフォウルだ。確定
万が一別のハクコだったらという淡いネズ公の希望は潰えた
「話を聞こう」
フォウルの檻から離れ、そう告げる
「どうもアトラという妹が居るらしいが、それ関係か?」
「そうなのです、ハイ
あのハクコには死ぬのを待つばかりという妹がおりましてです
それでも妹だから大事に大事にしていて、買われるときは一緒だとしていた訳です」
「で?妹がアレ過ぎて返品されたりしてたのか?」
「お恥ずかしい話で、ハイ
幾ら健康なハクコとはいえ、死にかけの妹同伴必須となるとどうにも……だったのですが」
「ですが?」
「数日前、鞭の勇者様が親戚の店にいらっしゃってですね、ハイ」
嫌だなーもう
タクトの時点で想像が付いた。聞きたくねぇなーホント
これは間違いなく不良在庫だなフォウル。間違いない。もう誰も買わないわ
「妹だけ買ってったと?」
「男なんて要らないと、私どもが幾ら勧めても聞きませんでしたです、ハイ
薬は画期的なものも持ってきてはいましたが、どうなったことやら」
……
そう、そういうことである
死にかけの妹を守ってた兄から、妹奪って女好きのハーレム勇者に売り飛ばしたというオチ。いや、奴隷商を責めるのは酷だ。勇者に言われて金まで積まれて断れというのは流石に此方にだけ虫が良すぎる
死にかけの妹の為という枷で、何とかハクコ種なんて最強の亜人の一角、それはもうハツカ種の対極ってレベルのバケモノを制御出来てた訳だ。そこから、妹を奪ったらどうだろう。その妹は好色な勇者に買われて行方知れず
答は簡単だ。言うことなんぞ聞くわけがない。ロクに動けないくらいに奴隷紋でガチガチに縛り付けでもしなければ、こいつは主人を殴り殺してでもアトラの元へ向かうだろう。それこそ勇者だろうがぶっ飛ばすために。誰も買いたくないわこんなもの。死亡フラグそのものだ
それを金貨40枚で売り付ける辺り、ふてぇ奴である
……まあ、言ってしまった以上買うんだけどさ
というかタクトぉぉぉっ!手が広いわタクトぉぉぉっ!お前はフォーブレイでハーレムしてろタクトぉぉぉっ!アトラ買ってるとか何なんだよこのハーレム転生者ぁぁぁぁぁっ!ふざけんなタクトぉっ!
ふう、止めよう、不毛すぎる
「そういえば幻の魔法等が使えるならば」
「二度とその事を言うな
妹のフリを誰かにさせろと?絶対に気付くぞ」
俺なら、偽瑠奈に気が付かないなんて多分無い。なら、フォウルが偽アトラに気が付かないとか有り得ない。自殺行為そのものだ
「……教えてやる
誤魔化して使い潰そうという事が間違ってると、な」
なんてカッコつけても、予定は未定である
フォウルの説得(アトラ無し)。出来るものなのか、俺に……
やるしかないんだけどさ。後の小手の勇者、どっかで俺が居なくなったとして、リファナとついでにラフタリア尚文夫婦(予定)を守ってくれる者としては申し分ない。何たって俺よりバカみたいに強い亜人かつ俺と違って正規勇者になる逸材だからな
様々にかき集めたものを使って金を払いきり、奴隷紋を刻む。フォウルが俺の奴隷かー
実感沸かない。どうせあいつが小手の勇者になるまでのものだが
使う気は無い。使ったら負けだ。これからやるのは、妹を奪われた兄の説得であって、奴隷調教ではないのだから
そうして、再び俺は檻の前に立った。二人にしてくれと言っておいて
この世界のタクトは精力的です
まあ、ネズ公が投擲具の勇者のフリして大々的にメルロマルクで動きすぎたから投擲具パクりに行くついでにハーレム広げるか、程度の話でしょうけどねタクトからすれば