「弓のゆ……ジャスティスハイドマン様!」
そうして、村が見えてくる
植物の中に沈んでるな。こんなにヤバかったっけバイオプラント?
……軽くこっそりクソナイフで吸ってるんだが、解放されるものがないな。どこか可笑しい。原作にくらべて侵攻力が高すぎる気がする。原作だと当時のラフタリアやフィーロで何とか出来たって程度の相手ではあったはずなのだが。所詮は魔物組み込んであるとはいえ植物だしな。だが、今はかなりヤバイ性能している。俺は気にしてないが……
「っ、リファナ!」
ふらり、とリファナの体が揺れ、地面に倒れかける
「大丈夫か、リファナ?」
「けほっ!リファナちゃん……けほけほっ!」
心配そうにするラフタリアも咳き込んでいて
「段々酷い臭いがしてきてる」
フォウルの奴も顔をしかめている
……そうか?俺は別に気にならないんだが
って何だよ尚文汚いものでも見るような目で
「何だよ盾の勇者サマ?」
「病気を運ぶネズミはその点強いのか、と思っただけだ」
「酷い言い草だな」
……病気か。ああ、そういう。俺、アヴェンジブーストのせいか何時も静電気バチバチしてるからそこらは強いんだよな。多少の毒性の霧くらいならば吸い込むときに勝手に分解されてる
だから気が付かなかったが、よーく目を凝らすとうっすらと靄がかかっている。それが毒性のもので、それを吸ってリファナが倒れたと。気が付くべきだろ俺、大丈夫か俺
ってか大丈夫かリファナ?
大丈夫そうだ。さっと背負ったが割と呼吸は安定してる
あ、尚文の奴がラフタリアに薬渡してる。効くかは未知数だが良い気遣いだ。樹は……覆面がガードしてるのか平気そうだな。尚文?状態異常耐性低い盾とか使えないだろ、だからどうせこの中で最大耐性持ってるだろうし気にするだけ無意味だ
そうして、村に辿り着く。まあもう見えてたからな
とりあえずリファナは寝かせてや……リファナさん?
「空気が、ちょっとだけ美味しい」
「じゃあ背中に居ろリファナ」
何か変なもの見る目で見るなよ尚文
「俺の魔法はプラズマだからな。多分毒性を打ち消したりしてるんだろう。って、意図して使えるわけじゃ無いんだが」
だからそういうことだぞ尚文
「使えないな」
「使えたら既に全体を保護するために魔法使ってる」
「……それで?」
リファナを背負ったまま作戦会議……と言う名前の諸々を聞く会の開催である
因みにそんな中でもしっかりと樹は時折スキルで遠くを射っている。やっぱり遠距離攻撃は便利だ
「元々、この村は飢餓に苦しんでいたようなのです。元康さん……槍の勇者の手によって、封印されていた奇跡の種なるものがもたらされ、一度は救われた、そうですが……」
「弓の勇者様!彼等って」
「ナディア、話の腰を折らないで下さい」
……ナディア?ああ、にゃあの奴か
樹に近寄ってくる猫耳に、そう思う
そういや樹の奴が村出身亜人買ったと聞いたな。ナディアだったのか
4つ上の猫亜人だ。別に親しくはない。とりあえず顔と名前は一致するって程度だ
……余談だが、女性なのだがラフタリアに向ける目がちょっと危なかった。村で祭りがあった時とか、狸の親父に着飾らされたラフタリアに興奮してラフタリアちゃーんしてたのは覚えてる。俺はそんなことよりこの浴衣っぽい東方衣装はリファナ分も用意して着せてやってくれよ狸の親父してたんだが。結局その年は浴衣リファナは見れなかったのでがっくりである
「ラフタリアちゃんにリファナちゃん、ですよね弓の勇者様?」
「ジャスティスハイドマンですよ、ナディア
……ええ。知り合いでしたか
こほん、話の腰を折らないように、向こうで再会を喜んでいてください」
「やっぱり生きてたんだ、ラフタリアちゃーん!」
ネズ公は無視である。まあ良いや。所詮親しくもない隣人だ。元々村でも仲良い方なのはリファナラフタリアキールくらい、後はその三人からの横の繋がりで遊ぶかなって感じだったしな
「……こほん
そうして、彼等は槍の勇者の奇跡の種によって飢餓から救われました」
「イツ……ジャスティスハイドマン様!持ってきました!」
リーシアが炊き出しの芋汁の鍋を持ってやって来る
「奇跡の種は植えると成長が早くどこでも育ち、そうして実をつける上に根には芋と正に奇跡のような植物になりました
ああ、尚文さん達。リーシアさんの持ってきたこれがその根の芋のスープです。割と味は美味しいですよ」
「いや、遠慮する」
「ですが、封印されるにはそれなりの理由があったのでしょう」
「成長しすぎたと?いや、可笑しいだろ」
「前の波の直前から、こんな事になったそうです」
前の波の……直前?
あ
あのせいかよ!ってあの時点でそんな地雷知るかよ!ってか元々元康の馬鹿がしっかりしてれば防げてるはずだろ!原作でもやらかしてたけどさ!
と頭を抱える
あ、この異常増殖、俺のせいだわこれ。元々暴走はするものだったが、ここまで酷くはならない。では、なんでこんなに増殖が早くなったのか
決まってる。システムエクスペリエンスの野郎が土壌から経験値を吸い上げてるせいで全世界的に痩せ細っている、それが本来のこの世界だ。バイオプラントはそんな世界の土壌で尚爆発的に増殖出来るだけのものとして作られている
だが、俺が勇者を早く倒して意味があるくらいに育てるべきだと言った為、彼は吸い上げを抑えてしまった。つまり……あの時以降バイオプラントは本来の想定よりかなり豊かな土壌で育ってしまうのだ。原作に比べて健康に育ってしまったのだろう。そしてこんな広がったと。この尚文だけではどうすんだな過剰暴走は100%ネズ公の責任だ。いっそ経験値過剰接種で枯れれば良かったのに
「それを聞き、僕は来た訳です
本来は元康さんが責任をもって片をつけるべきでしょうが」
覆面の下の表情は見えず、樹が言う
……で、この弓の勇者川澄樹って一体誰なんだ?俺の知ってる川澄樹と違うんだが。俺の読んだ盾の勇者の成り上がりにおける弓の勇者川澄樹はもっと独善的で自分の正義を疑わず対立すると世界が可笑しいとか言い出しそうな奴だった。少なくともこんなちょっぴりセンスがアレで仮面のヒーローやりたがってるけど割と真っ当に正義の味方っぽい奴じゃない。アレか、あくまでもあれは物語だから作者竪藍阿寅による脚色入りか。……作者樹嫌いだったんだろうか
そこは知らない。ぶっちゃけ実は俺の生きてた世界に川澄樹って命中能力者居たかもしれないけど、有名人じゃないからな。命中って便利だけど持ってるだけで話題になるほどの化け物じゃないし
「お前一人で片がつくんじゃないのか?」
「いえ。そうだったら良かったのですが……
尚文さん。貴殿方のドラゴンで空から見回して下さい。5つ、巨大な木のような個体が見えると思います」
「リファナ、落ちるなよ
ファスト・スカイウォーク」
ふむふむ、確かに見えるな。巨大な木というか、横にデカイ。背は高くないが、幅広い。他の植物に紛れてはいるが言われてみればって感じだ
「……で?」
戻ってきて問う
「あの5体が、大元です。それらを叩けば恐らくは事態は解決します」
「じゃあやれよ」
「やりました。ですが……
他の木が残っていると復活するのです」
「復活、だと」
「ええ。近くの個体を倒して遠くの個体を弓の力で射抜く……出来なくはないのですが、どうしてもスキルを使わなければ届かない以上クールタイムの問題でそれで倒せるのは1体が限界です。仲間に任せたとして、複数個体をというのは不安が残ります。全員で1体ならば流石に問題ないのですが
つまり、僕達だけでは倒せて3体、危険を犯し冒険して4体。最後の5体目を倒す前に、残された一体から復活してしまう」
うわぁ、何かコア増えた上に厄介な性質得てやがる
原作尚文は普通に再生力越える除草剤で倒しきってたんだが、今はそれじゃ無理だな。何でこうなった
俺のせいである
「ですから、あとせめて一人、出来れば二人、あの魔物を倒せる実力を持った誰かが必要でした
そこのネズミさん、貴方ならば、一人で倒せますよね?」
「やってはみる。この植物の親玉って程度の強さなら多分行けるな、やってみなければ分からないけどな」
「後は尚文さん達で何とかなるでしょう」
「リファナはこうしてけほけほしてるんだが?行かせる気か?」
「尚文さんが居るから大丈夫です。それに、羨ましいことにドラゴンも居るのでしょう?」