パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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弓の勇者と見る御門讃

「ええ、行きましょうかネズミさん」

 彼に合わせるように、僕はそう呼ぶ

 にっ、と悪戯っぽく。そのネズミは頭の上の丸耳を揺らして笑った

 

 その眼は……完全に白目無く血色に染まり、耳に生えた短い毛とそれに合わせた頭髪は元々の白髪より青みを帯びて横まで逆立ち輝いている。超S級異能、アヴェンジブースト。近現代に誰一人所持者が居ない事から与太話とされ、幾つかの歴史資料にその名が残りながらも近年まで実在のものとして扱われなかったかつて血眼の雷神と呼ばれた異能。その力を……僕が欲しくても手に入れられない、人智を越えた異能を生まれながらにして所持していた者、御門讃。それが、今僕の目の前に居る

 「行くぞ、ジャスティスハイドマン様」

 「……ところでネズミさん、何か策は?」

 「あると思うか?パーティを組んでれば大体の居場所は分かるんだ、大体の当たりをつけて……切り離す!」

 「雑ですね」

 「ははっ!雑だろ?

 それしか無いんだよ!」

 そんな事しなくても良いでしょうに、彼はバカバカしくそれを語る

 

 けれども、僕は知っています。彼の本来の力を。映像に残された、アヴェンジブーストの真の発現を。あの力さえあれば、と眼前の化け物を見る

 あの力ならば、跡形も無く消し飛ばせる事でしょう。S級異能……或いはこの今の状況の勇者の弓ですら厳しい話ではありますが、超S級とされる彼等ならばきっと

 何故ならば彼は……悔しいことに僕よりも強い。僕が何とかあのバイオプラント1体を追い詰め回りを見回した時、彼は当たり前のように空から状況を見ていたのですから。たった一人で、レベルなんて見せてもらった限りでは僕よりも低い段階で、防御しか出来ない尚文さんでは無くこの僕という攻撃特化の勇者を遥かに越える速度で飄々と当たり前の事のように僕と同じ敵を葬る。そんなこと、普通のネズミに出来るはずもない

 彼が、御門讃本人でもない限り

 

 恐らく彼も僕らと同じようにこの世界に呼ばれたのでしょう。どうしてかは知りませんが、僕らのように死んだらしいその時のまま転移という訳ではなくこの世界の住人として転生したようですが

 ですが、感謝すべきでしょう。彼が…僕よりも強い異能を持った憎らしい存在がこの世界に居てくれた事で、僕はこの世界は本当にディメンションウェーブほぼそのままな世界なのか?について疑問を持てたのですから。僕だけが本当に選ばれた存在で、他の3勇者は他の世界から来たという設定のNPC。この世界はディメンションウェーブをリアルにしたもの

 そんな思考は、あの日尚文さんを庇い、僕でも耐えられない気がする炎を突っ切ったアヴェンジブーストの雷を迸らせる彼の姿を見たときに揺らいだ。だってこの世界が僕の為のディメンションウェーブならば、所詮は異能力を持たない尚文さん等ではなく僕より強い異能力を持った彼なんて出てきてはいけないはずですから

 

 「……何立ち止まってるんだ、ジャスティスハイドマン様?

 とっとと行くんじゃないのか?」

 そう、彼が言ってくる

 「すみません。少しだけ精神集中を」

 そして、向かう。思い返す時間は越えて、倒すべき敵の元へ

 

 「『我、ネズミさんが天に請い、地に祈り、理を切除し、世界を解き放とう。龍脈の力よ。猛る激情の雷と世界を護る力と共に形を成せ』」

 「おや、魔法ですかネズミさん

 それでは…

 メテオシューター!」

 「『力の根源たる世界で10番目くらいには有名な電気ネズミが命ずる!

 解き放て!雷撃よ!全ての結合を撃ち砕け!』」

 先を走りながら魔法を唱える彼を援護するように、空から炎の玉を撃ち下ろすスキルを空に向けて放ち

 「『プラズマブレェェェェドッ!肆式!』」

 炎弾に足を止めた怪物の右前足を、何事かを唱えた後にネズミさんの手に生じた20mはあろうかという巨大なビームサーベルが切り離した

 ……いや、なんなんですかねアレ。剣の勇者より剣の勇者のスキルっぽいんですがあれも魔法……というか異能ですか?

 「ジャスティスハイドマン様!弓の勇者様のように燃える一撃を!」

 更に青白く輝くビームサーベルを振り回してその首を叩き落としたネズミさんが叫ぶ

 「ええ、流星弓!」

 そうして、落とした首の先にある本物のコアらしき目を流れ星のような矢が貫き、植物の怪物はその動きを永遠に止めた

 

 ……あっさりでしたね。いや、あっさりし過ぎですね

 けれどもそれ以上の事を語る必要が無いほどに、彼は全てをさくっと片付けてしまった

 ……思い出しますね。噴き上がる黄金の光と共に消えていく豪邸の姿を。館一つを光の彼方に消し去った、アヴェンジブースト発動時の映像を。まあ、あんな力を持つ彼ならばこれくらいはやるのでしょう。万が一僕が居なくとも、彼一人で片を付けられた。僕では……きっと無理だったのに

 

 憎らしい。羨ましい。その力が

 けれども

 「流石だ、ジャスティスハイドマン様」

 彼はそんなこと気にせず、僕を褒める。僕を認める

 弓の勇者であるという事が、超S級からすれば取るにたりないE級異能力しか持てなかった僕を、特別視するに足りる存在にしてくれている

 「ネズミさんこそ、何ですかあれは」

 「ん?ネズミさんの企業秘密だ

 勇者っぽいものを目指そうとして昔の人が編み出した必殺技かな」

 「勇者を越えてそうなものでしたが」

 「いんや。伝承の勇者はもっともっと強い。お互いを信じあって、理解しあって、あんなものがパチモノになるくらい強くなったらしいぜ?ってまあ、遺跡の石碑にあっただけなんだけどさ」

 勇者様はもっともっと強くなれるぞ、と彼は悪気の無い笑みを浮かべる

 

 「ところでネズミさん。リーシアさん達は?」

 「だから前足と首を斬った。あの辺りに居るっぽかったからそろそろ出てくるんじゃないか?」




どうせ御門讃だとバレてるからと自重を忘れたネズ公の図
そういうところが墓穴だぞネズ公誤魔化すならしっかりやれネズ公

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