「ぶはぁっ!」
と、大きな息を吐いて、尚文の奴が枯れた植物の間から顔を出す
「おお、生きてた」
「勝手に殺すな」
「んまあ、知ってたんだけどな」
ステータスはある程度までパーティメンバーならば見ることが出来る。死んでたら分かるわ当然という話。リファナ等も無事だとそれでわかる。って、逆に言えばパーティ組んでない奴の事は分からない……訳だが。今回は問題ない。ブランならば枯れたバイオプラントを炙って貪り食っている。特に大きく膨らんだ茎とかを選別して。グルメだなあのワイバーン、生後1月経ってないってのに
「で、どう倒した」
フォウルの奴も顔を出して聞いてくる
……あれか、リファナラフタリアは小さいから背が届かないのか
「どうもこうも、向こうの人と共闘した。そんなに強くなかったぞ」
真面目にいってんのかこいつ、という尚文の表情
いや、お前らだって普通に除草剤撒いて倒してたじゃないか。所詮はそんな程度の奴等の親玉だぞ
なんて言いつつ、偽・フレイの剣で尚文の顔を出した辺りを慎重にかっ捌く。尚文の近くにリファナは居るはずだからな、うっかり剣でもろともに斬ってしまったとか洒落じゃすまない
と、捌いている間に抱き合ったまま眼を閉じる二人の姿が見えて……こないな。ラフタリア側が尚文にしがみつき、そのラフタリアにくっつくようにリファナが居る感じ。少しだけ離れたフォウルが何となく所在無さげ
「……苦労してんな、フォウル」
「お前が言うな」
二人とも眼を閉じているが……と、少し触れてみる。酸欠かなこれは。シールドプリズンの中で助けが来るまで縮こまっていたんだ、酸素が足りなくなっても可笑しくはない。つまり外に出せばそれで良いな。大事無くて良かった良かった
なんてやって、リファナ等は尚文に預ける
それからバイオプラントを盾に吸わせたりしている一行をちょっと遠くからおーもっと頑張れラフタリアと気ぶりネズミしていたら、不意に声を掛けられた
「御門讃」
「ネズミさんだ、弓の勇者様こと川澄樹」
既に被り物はその頭に無い。仲間と合流しきった以上誤魔化せないとかそんなんだろうか。なのでそのふわふわウェーブの同世界出身ながらそちらは正式に選ばれた勇者へと、気にせず返す
「本当に、僕等と来る気はありませんか?
尚文さん等のパーティでは、多少浮いているでしょう?遠くから聞いていましたが」
「んまあ、そもそも入る気すら無かったからなー」
「ならば、僕等と来ても」
「いや」
と、首を振る
「それでもさ。俺はあっちに居るよ」
「何故です?あのイタチの娘の為ですか?」
「知ってんじゃないか。その通り
弓の勇者様にはこのネズミさんが居なくても大丈夫、なんたって世界を救う勇者様なんだから
でも、リファナはそうじゃない。だから、ネズミさんが居るのさ」
カッコつけて尻尾を振り、歩み去る
「待ってください!」
……捕まった。正確には眼前にリーシアが出てきて動けなかった
「ふぇぇ、イツキ様の話を聞いて……
あ、今はジャステ」
「普通に川澄樹じゃないか?マスクも無いし」
「あ、そうですね、イツキ様の話を聞いてあげてください」
おのれ、さらっと対応させて足を止めるとは姑息な手を
「貴方の目的は分かりました
それは、あの娘が妹に似ているからですか?」
……おい、リーシアの前で言うなよそれを
「んや?
そもそも止めてくれないか、瑠奈はリファナじゃないし、リファナは瑠奈じゃない。リファナはリファナだし瑠奈は瑠奈。俺の大切な幼馴染を他人と一緒にして愚弄しないでくれって話だな、弓の勇者様。多分その御門讃って人もそう言うよ
貴方だって、そこの少女が元の世界では上手く行かなかった後輩の代用品とか言われたら嫌だろ?」
「……そうですね」
……こんな話の中で、一つ気が付く
弓の勇者は、俺が誰なのか気がついている。俺は確かに御門讃だ
だが、その上でこの態度は……ん?さてはこいつそもそも転生者なんて基本的に世界の敵だってこと知らないな?
それならばそれで良い。利用するだけだ……ってダメだわこの考えじゃ。他の転生者のカモになる。でもこれでこの態度も納得だ
俺は御門讃である。つまりは転生者、勇者の……そして世界の敵。それが分かっていればこんな態度なんて有り得ない。だが、知らなきゃこんなものだろう。自分達だってこの世界に来てるんだ、他にも何らかの理由で転生なり転移なりしてきている人間が居ても可笑しくはない。特に七星勇者の中にも転移者って居るしな
……その辺りどうなってんだよクソナイフ。転移者を勇者にするってことはステータス魔法の無い世界から呼ぶって事でレベル1スタートな訳だが、理論上こっちの世界の魂が受け止められない四聖は兎も角眷属器が召喚に頼るってよほど使える候補居なかった場合なのか?
……あ、ポップアップ出た。よっぽどこの娘欲しいになった場合有り得る、と。単なる好みかよおい。ってかそういやこの世界出身なら来るかどうかとかあるんだろうが召喚する勇者にも候補幾人も居るらしいが何でそうなるんだ、ってかそこからどう選ぶんだ、ガチャか?
『称号解放、非ガチャ産ネズミ』
はいはい、おれはガチャの排出対象に居ませんよっと。じゃあ何だ、配布か?
……フレンド枠限定ネズ公?プレイアブル未実装じゃねぇか。まあ俺の本質は転生者であり世界の敵なので当たり前か
「おい、ネズミ!置いていくぞ」
なんて樹と話している間に、尚文等のやることが終わる。尚文が時おり満足げに盾に眼を落としている辺り、そこそこ良い盾でも解放されたのだろうか
「ああ、尚文さん。このネズミさんに話していたのですが……」
ん?樹?何?尚文に直々に引き抜きかける気か?
「一つ頼まれてはくれませんか」
あ、違った
「イツキ様も気になってる事なんですが、手が回らなくて……。お薬沢山持ってる盾の勇者……様ならきっと、と思うんです」
「ええ。リーシアさんの言うように、薬が必要な案件で」
「断る」
「ナオフミ様が断るならお断りです」
おお、ばっさり行くなラフタリアと尚文
「何でですか!折角僕が言っているのに」
「そこのネズミに除草剤が売れて儲かると聞いたから此処に来て、騙された」
あ、そういや全く売れなかったな。自分達で使っただけで。助かった村人たちは……
あ、ダメだ。ジャスティスハイドマン様!弓の勇者様!バンザーイ!してる。盾の勇者御一行とか全く気にもとめてないから報酬……無さそうだなこれ。だからといって要求すれば悪評が広がるし
「その節は済まなかった、需要はあったはずなんだが」
「おい!売り込みかたが下手だったとでも言いたいのか!」
……尚文?そうは言ってないから憤怒の盾に変えるのは止めような尚文?
「ふ、ふぇぇぇっ!イツキ様ぁっ!これも同じ勇者なんですかぁっ!」
あ、リーシアが怯えてる。まあ、カースシリーズ振り回す勇者は怖いわな
「ええ。元康さんよりはマシです」
「ふぇぇぇぇ……イツキ様以外の勇者様って……」
原作通りならどいつもこいつもロクでもないぞ。そして今此処に居る原作外のネズミさんはとってもロクでもない
「イツキ様、今は頼む事ですから……」
「そうですね。声を荒げては正義ではありませんね
尚文さんにも良い事はあります」
「何だ」
「良いから行こうぜ尚文。何か弓の勇者と仲のいいあのネズミはほっといて」
「いや駄目だよフォウルさん。マルスくんって強いし勇者様だ……ってくらいに強いし」
リファナ。買ってくれるのは嬉しいが俺は勇者じゃない
「ドラゴンシリーズの武具が入手出来ると思います」
あ、止まった。そりゃドラゴンだものな。戦わなきゃいけないなら欲しくなる。ブランの奴から抜け落ちる鱗なんかで解放できるものだけでもドラゴン素材の力は良く分かるものな
「ドラゴンと戦えっていうなら帰るぞ」
「いえ。違います
暫く前に錬さん……剣の勇者がドラゴンを討伐したそうです」
「それとナオフミ様に関係が?」
「錬さんはそのドラゴンの死骸をそのまま置いていったそうなんですよ。その後ドラゴンの素材取りで近くの村は少しの間賑わっていたそうなのですが……
最近その辺りに疫病だ何だが発生しているようなのです。ひょっとして、ドラゴンの死骸が腐って疫病の原因になっているのではと」
……原作であったなこの辺りの話。樹が知ってるのは予想外だがまあこの樹ならその辺りは耳聡いか
「じゃあ錬にやらせろ」
「連絡が取れたならばそうしていますよ。僕も忙しいので直ぐには向かえません。なので、尚文さんに頼むのが良いかと思い」
「……仕方ない、行くぞ」
少しだけ盾に眼を落として迷い、尚文はそう告げた
「んじゃな、弓の勇者様
ああ、最後に一つだけネズミさんからのアドバイスだ
勇者様達以外にも別世界から来る人は居るのですかって話だけど、世界が異なる空から人を呼ぶのは世界を守る楔としてだけだよ」
ネズ公「異世界から呼ばれるのは本来勇者だけだぞ」
弓「つまりネズミさんは勇者……」
ネズ公「違うそうじゃない」