そうして、樹から依頼を受けて、城下町にポータルで戻ってから東を目指す
尚文の奴は行商をしているが、成果はあまり無いらしい
「リファナー、売れたか?」
「ううん、あんまり」
「ナオフミ様の作る薬は素晴らしいのに……」
「やっぱり駄目か」
今日もあまり売れなかったのか、耳が垂れ目になった二人が戻ってくる。尚文の薬の腕は盾の補正によって中々のものである。のだが…売れない
理由は良くわからないが…
ってそうか、目立つものが無いんだ。原作尚文はフィロリアルのクイーン形態であるフィーロに馬車を引かせ、神鳥の馬車として辺りに名前を轟かせていた。その結果として、神鳥の馬車に乗る彼ならばという意識が働いたのだろう
それでは今はどうだ?馬車はない。人を怯えさせるといけないからワイバーンは街の外。売り子はラフタリアだけではなくリファナも増えた。目立つものが消えすぎだろう。これではちょっと…いやかなり可愛いリファナが売り子してる以外は明らか怪しい薬売りだ。奴隷だって実用化されているのだから売り子が可愛いことは自慢にならないしな。割と良く居るのだ、外見可愛い奴隷を買って売り子させる奴等は。ついでに愛玩用として夜は弄ぶまでやってる奴等も
だからこそ、売り子の可愛さは買ってもらう理由にはならない。残念なことに。折角リファナが売ってくれるのに見る目無いなこいつらとは思うがだからといってどうなる話でもない
日に日に尚文の奴は不機嫌になり、フォウルは一人で何時かアトラをと訓練するようになり、ラフタリアはナオフミ様のお役にたてないとしょぼくれ、俺とでち公はどうすんだこれするのである。ブランは気にせず飯をかっ食らうが
そんなこんなで、言われた疫病の地の近くまで来たその日
……砂時計の砂が尽きた。つまりは、波までの時間が尽きた
……おい、早いぞ波。原作だとドラゴンゾンビ終えてからだろ何でもう来るんだあと数日待てよ
と、言いたくはなるが……考えてみれば自業自得だなこれ。フィロリアルが居ないから全体的に移動が遅いのだ。だから間に合わなかったのだろう。ポータルで進められた距離よりフィロリアルの有無による差はかなり大きかったのだろう
どっかでフィロリアル調達したくなるなこの速度。と言ってもドラゴンとフィロリアルって基本的に仲悪すぎるから同時って面倒だしな。リファナ。大当たり引いたのは良いが面倒増えたぞリファナ、どうしようリファナ
なんて言っても始まらず
00:00
あまりにもあっさりと、俺にとっては第三の災厄は始まったのだった
「此処は……」
うん、分からないな。とりあえず空にワインレッドの亀裂が入っているから波が起こっている事は確かだ。考えるのは止めよう。近くに村がある事は見えるのだ。守るしかない
……原作尚文はそう言えば兵士を連れて飛んでたな。今回はそんな準備してないけど……ってどうなんだろうそれは。そんな話一個も出なかったし城下町でどうこうって余裕も無かったから無理なのは無理だが、主に被害面で。俺がクソナイフ使って良いならまず護りきれるけどそんな訳にもいかないし
さて、残りの勇者どもは……居た
此方を一瞥し、村へ向かおうとする尚文を確認するや剣を持った割と小柄なフードが波の中心へと一人駆け出す。あれは錬だろう。まあほっとけ、どうせ誰かが波の核を倒さなければ終わらないんだ、分業である
「あ、おい!」
なんて尚文は叫んでいるが全員で村を守ってても詰むぞ尚文
「……リーシアさん、貴女は」
「分かりましたイツキ様!」
なんてやり取りの後、リーシアだけが此方に走ってくる。樹は残りのメンバーを連れてそのまま波の方へ
「お前ら!俺達だけで村を守れって言うのかよ!」
「ふぇぇっ!だから私も」
「お前一人で何が出来るんだ!」
って酷いなおい。折角手伝いに来てくれたリーシアに向かって。いやどれだけ助かるかと言われると微妙な事だけどあの樹が少しは回りの事を考えて一人送ってくれただけで凄いことだぞ
なんて、二勇者が行くのは見送り
「尚文ぃぃぃぃっ!」
「はいはい、ファスト・スタンクラウド」
「ぐぁぁぁっ!」
何か殺意満天で襲ってくる槍を構えた不審者は魔法で麻痺させて地面に転がす
……殺気だってんなこの槍の勇者。まさか波より盾を優先するなんて
まあ良いや、転がしとけ
「マルスくん、勇者様にそんな事して良いの?」
「まあ弓の勇者が居るんだし勝てるだろ波には」
波には、な
「なーんか悪い事考えてるでちね」
「いーや、別に?」
突っ込む悪魔にそう返す
実際そうだ。勝てるだろう
波には、だが
問題は……今回の波は特別だということ。具体的に言えば、この世界と融合しかけている別の世界から、その世界を救うためにこの世界を潰そうという勇者がやって来る。扇の勇者グラス。奴を殺さず、誰も殺されず、更には尚文等は村が気になるようなのでグラス出現地点である波のボスの場所にも暫くは行かずに波を終える、それが勝利条件だ。めんどくせぇ!元々は尚文が撃退した……んだが、その際の尚文はドラゴンゾンビ関係を終えて装備をアップデートした後だったからな、今回はそうではないのでまた話が違う
転生者的には勝手に潰しあって数名死ねば良いのにと言うべきなのだろうが、リファナに危害が及びかねないので却下だ
「扇の勇者……どう追い返すべきか……」
ゼファーの奴と二人外回りとして尚文等と離れ、呟く
「殺せば良いでち」
「それじゃ駄目だろ」
「そもそも疑問でち。この世界の聖武器は剣盾弓槍、眷属器は投擲具、小手、斧、爪、鞭、杖、槌、そして馬車のはずでちが、何で扇なんて出てくるでち?」
「ああ、それかゼファー。そもそも波ってのは世界を融合させる力だ。亀裂の向こうにあるのはもう1つの融合しかけてる世界。ならば向こうの世界には向こうの世界の勇者の武器がある、そうだろ?
向こうにも聖武器4種に眷属器8種があるはずだぞ、俺も刀と扇と楽器くらいしか種類知らないけど」
向こうの世界についてはロクに書いてなかったからな
「じゃあ、マスターの居た世界にも12の武器があるでちか?」
「いや、多分無いぞ。異能力があるとはいっても、それだけの世界だからな俺の世界
もしかしたら波だ何だがほぼ起こらないからずっと海底かどっかで眠りに付いてて俺達が知らないだけで勇者武器があったのかもしれないが。ってもあの世界は亜人種とかも居ないわけで、4世界融合って程に元々別々の世界が1つになったようなカオスじゃあない。あったとして原初の世界郡のように聖武器1に……いや、もしもあったとしたら多分聖武器2の眷属器4で6つだろうな」
不思議な直感。聖武器2に眷属器4という事に間違いはないだろうという謎の確信のままにそう言ってみる。何でそんな確信が出来るのか?知らん俺が知りたいわそんなこと
『称号解放、あてずっぽう予言ネズミ』
……黙れクソナイフあてずっぽうだがそういうなよ
なんてやっている間に殺到してくる化け物ども
流石にもう蜂とかは少ないな。だってあいつら最初の波から居る雑魚だしそんなものが主体とかだと進歩が無さすぎる
主なのは黒いコンドルみたいな鳥に、黒い狼、後はゴブリンにコボルトにオークにリザードマンの人間っぽい二足歩行獣人詰め合わせセット。だがどいつもこいつも構造が不安定でぐにゃぐにゃしている。スライム……というより適当に映した影だな。視界端に映る名前も次元ノダークコンドル、次元ノブラックウルフ、次元ノゴブリンアサルトシャドウ、次元ノコボルトスカウトシャドウ、次元ノオークアーチャーシャドウ、次元ノリザードナイトシャドウとある
まあ、シャドウとあるがクソナイフなら気にせず叩き斬れるし、斬るとまるで幻であったかのように消えてくんだが
と、尚文の奴等が避難誘導に苦労してるな
「どうした尚文」
「マルスくん、病気の人が居るから離れられないって」
「そんなもん見捨て……たら駄目だな
病気なら薬で何とかしろ尚文」
「出来たらやってるぞネズミ!」
「それもそうだ」
さくっと波から来る化け物どもを片付ける。雑魚だな、うん。ぶっちゃけクソナイフ縛りでも勝てる、クソナイフを変化させた偽・フレイの剣なんてものを持っている今なら言わずもがな
「マルスくん!リザードマンの中には変なのが……って、心配ないね」
「変なの?」
真っ向からやって来た妙にデカイリザードマンをさくっと構えた盾ごとバラしながら聞いてみる。何かこいつ盾持ってんな、まあ鱗より固い程度でぶち抜ける豆腐な事には変わり無いからどうでも良いが。次元ノリザードパラディンシャドウとある。まあ、どっちにしろ雑魚には変わりがない
「う、うん、倒せるなら良いんだけど」
なんてリファナとやってる横で、フォウルの奴は豪快に敵をぶっ飛ばしていた
「見ててくれアトラ、兄ちゃんはやるぞ!」
「見てないけどな」
「居ないでち」
「五月蝿い!というか、アトラを買っていったのが勇者なら波に参加するんじゃないのか!」
「あいつはフォーブレイの勇者だからフォーブレイの波にしか出てこないぞ」
というか、メルロマルクの波に来られたら詰む
「くっ、アトラぁぁぁぁぁっ!」
竜巻のようにゴブリンの群れの中に飛び込んだフォウルが空中に次々と跳ねあげては回り蹴りで首だけを地面に叩き落とす
煩いが、まあ支障はないだろう。ってか資質向上すら無しでこの強さとかやっぱりハクコってチートだなチート、
「全員マスターに言われたくはないと思うでち」
なんてやっている内に避難誘導はラフタリアとリファナが終え、結局避難しなかった老婆とその息子の家を拠点に各個撃破、というには波の範囲が大きいので人一人ならば乗せられるブランに乗ってフォウルが他の村へ遊撃。一人でスカイウォークするネズミさんこと俺も遊撃にたまに回され……
「遅い!」
約3時間。尚文の奴が叫ぶ
確かに遅いな。樹が居るんだし、元康を転がしてるとは言えもう勝てても当然の時間だろうに
……ということは、そろそろか
「い、イツキ様の事ですしそろそろ……」
リーシアも不安げだ
「はぁ、はぁ……マルスくん、まだ終わらないのかな?」
「ナオフミ様、他の勇者は頼りになりませんね」
リファナラフタリアの顔には疲労が色濃く出ている。俺はまあ所詮は雑魚だしとクソナイフのスキル一切使ってないので余裕、ゼファーも俺の後ろで頑張れでちしてるだけなので疲れなんて3時間立ってた事の消耗だけ、次元ノな奴等を豪華なとは言えない昼食にしてやがるのでブランもまだ行け、フォウルはスタミナの塊なのか軽く疲労の色が見えるだけ。とはいえ、幼い体の二人にはもうきついのだろう
『……リーシアさん、リーシアさん、聞こえますか
今、弓のスキルで貴女の居そうな方向に声を飛ばしています……』
なんて、そんな事やってる中に、突如としてそんな樹の声が響いた
いや、やるなら脳内に直接……しろよ樹