パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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扇と刀と

「イツキ様!」

 正直な話居ても居なくてもあんまり変わらなかったリーシアが叫ぶ。だって仮にもドラゴンなブランとチートなフォウルとパチモノ勇者な俺が居るんだ、次元ノ雑魚どもなんて本当に雑魚だろ

 

 『リーシアさん、ネズミさん達を……くっ!』

 その言葉だけを残し、飛んでくる台詞は途切れる

 「イ、イツキ様……」

 くるっと緑髪の少女は此方へと向き直り

 「お願いします!イツキ様達に何かが起こったみたいなんです!」

 「俺達が行ったら誰が避難先の人々を守るんだよ!」

 残酷だが正論を振りかざす尚文。原作では兵士が居たからそいつらに任せてだったが、今回は居ないしな。城下町からだと1日半ほどかかるっぽいこの場所(地理はリファナが避難誘導の時に聞いてた)に軍が来るにはまだ時間が……って可笑しいだろ

 原作尚文は間に合う訳がないと言ってたが、王都にしか軍が居ない訳もない。此処から一番近い駐屯地からならば馬かフィロリアルに乗って大体3時間ほど……まあ割と酷使ではあるのだが、今回の波はルロロナ村周辺という正直波で死んでくれれば良いとされる地域ではなく普通に人間の住む地だ。騎士団やら兵士やらだってあの辺り出身の者達も沢山居るだろう、特に近くの街の兵士なんてこの辺りから採られた奴がほとんどのはずだ。つまり、奴等は急ぐ。急がざるを得ないのだ、故郷の為に。まあ、逆に言えばルロロナ村なんて亜人の村は守る価値がメルロマルク兵からすれば絶無なのでほっとけされたのだろうが

 

 来た

 遠くに土煙を確認。方向も合っているし、軍だろう。流石に亀裂の中心とは逆方向である向こうから影の軍団が来るとは思えない

 「誰が?兵士だろ?

 メルロマルクの兵なんだ、メルロマルクを守らせろ

 

 ってことで、ネズミさんはいち早く行ってくるわ」

 言うや否や駆け出す

 地味に避難場所に転がしたままの元康が起きてこなかったからな、グラス相手に二人では荷が重い。リーシアが居ないのは兎も角として、元康一行が居ないのは戦力ダウンだ

 

 そうして、見たのは……

 「終わりだぁぁっ!絶刀凛之型・燕返し!」

 「っらぁぁぁぁっ!」

 クソナイフ全力投擲。自動でモーションに補正がかかる投擲具の力を全開にして、振り下ろされる片刃の刃に激突させる

 「ね、ネズミさん!」

 「ああ、電気ネズミさんだ」

 「で、電気ネズミ…?」

 「何者だ貴様!」

 「それはこっちの……ってなんだこれは」

 思わず呟く

 辺りには樹達が倒したのだろう半透明の魚の死骸が転がっている。ソウルイーターの死骸、それは良い。問題は……その周囲に転がる、かつては人間であったのだろう肉の塊達。血の海の中に彼ら彼女らは沈み、二度と口を開く事はないだろう

 ……その中に、燻製らしき鎧の姿を見つけて暗く嗤う。ざまあないと

 

 だが、笑っている場合ではない

 「尚文の…」

 片刃の剣に斬られかかっていた小柄なフードが呟く

 「剣の勇者様?」

 錬じゃないか、どうした

 何て思いつつ、尻尾を揺らしながら弾いた刃を持つ相手を睨み付けてみる

 ……片刃のってか、刀だなあれ。この辺りでは流通がない武器だ。ってか、此処に居るのは扇持った和服美人であるはずなんだがこいつは誰だ?刀を持っている癖に洋風な服を着た軽薄そうな男。髪は短く淡い青。顔立ちは整っていると言えるだろうが、その笑みが下衆そうで完全に台無し。手にした刀は……

 って待て待て待て、和刀[伝説武器]?勇者武器じゃねぇかあれ!?扇の勇者じゃなく刀の勇者が襲来して来たってのか!?

 なんて混乱は一瞬で振り払い

 「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」

 昼間だというのにワインレッドに染まる空は赤く光を湛え、見上げた血の様に赤い月が敵対者の言葉にあたかも呼応したかの様に輝く

 「『力の根源以下省略!』

 ファスト・スカイウォーク!」

 尻尾で案外柔らかな剣の勇者の腹を一巻き、そのまま空へと飛び上がる

 その足の下を、円を描いた赤い閃光が突き抜けた

 

 「外しましたか」

 その声と共にすっと男の横に立つのは一人の女性

 グラス……じゃないな間違いなく。和装って感じじゃない。確かこの時のグラスの服装は黒に銀刺繍の和服だったはずだ。だが見えたのはギリシャ式のゆったりしたヒラヒラの服。髪はボブカットくらいで明るい金。顔立ちはやっぱり整っているが嬉しくはないな

 そんな女が、両の腕に巨大な……俺の腕くらいはある鉄扇を持っている

 

 「邪魔が入りましたね」

 「ああ、折角剣が手に入ると思ったのによ」

 向こう側の会話

「いえ、私たちは今の武器を手離さなきゃ手に入らない難儀な形でしょう」

 「剣の方が刀よりカッコいいからそこは良いんだけど、ズルいよな複数持てる奴等」

 ……転生者じゃねぇか。何やってんだ向こうの勇者達。刀に扇を奪われてるとか終わってんな向こう。まあ、此方もタクトに大半奪われるとかロクな事になってないんだが

 

 「大丈夫か、剣の勇者様?」

 「あ、ああ……」

 ちょっと引きぎみな錬

 「片刃の刃物を見ると、刺されたときの事を思い出して……」

 脇腹を抑える黒髪の少年。そういえば錬は刺された時に剣に選ばれたのだったか。このまま死ぬから後腐れないしな、と

 「了解、刀は受け持つ」

 「大丈夫なんですかネズミさん」

 と、左の腕に軽く怪我したっぽいふわふわヘアー。弓は片手では引けないのでクロスボウ形式のものへと変えて牽制の為か射っている。別の姿に変える度に矢が装填された状態になるのでそれを射っている感じだ。片手射ちによるブレは異能の命中で勝手に補正されるのか片手射ちでも精度が下がらないのは良いことだ。まあ、鉄扇で弾かれてるけど逆に言えば弾かなければいけないくらいには対処しなければ危険ということだ。逸れてるなら無視で良いしな

 

 「大丈夫だネズミさんを信じろ」

 「信じて……良いのか?」

 疑問げに首を倒す錬

 「育てた皆は……」

 目線を伏せる。まあ、苦しいながらも他の世界を犠牲に自分の世界を救おうとする正規勇者のグラスと違って、今来てるらしい転生者ズは容赦ってものが無いからな。相手を……他の世界を守る勇者達を殺す事なんて何とも思ってないから遠慮なくミンチにしたのだろう。素ステータスの高い勇者である樹と錬だけが何とか耐えたと。良かったなリーシア。村を守れされてなければお前も肉塊の仲間入りしてたぞ

 「大丈夫です。御か……ネズミさんを信じましょう」

 「ミネズミさんじゃないぞ。それじゃあ出っ歯だ」

 言いつつ、クソナイフを構える

 

 スキルを撃ちたい……が、それではいけない。あくまでも俺はネズミさん。クソナイフはこの偽・フレイの剣から変えず、スキルも無しで勇者武器持ちでないふりを続けなければならない。向こうに勇者武器奪った転生者が居て、俺も同類とかバレたら大事(おおごと)

 

 だが、用意はするしかない。行くぞクソナイフ…

 溜め込んだ素材をガンガンに使って強化。最近この武器一本であったため思いきり良く使いきる

 

 偽・フレイの剣(覚醒)+2 140/120(オーバーゲージ) SR+

 装備ボーナス、スキル「神撃の剣Ⅱ」 知力30+ 危機感知(小)

 専用効果 叡知の撃滅剣 破壊不能

 熟練度 120

 ヤマタノオロチスピリット 悪魔へのダメージが8%上昇

 ステータスエンチャント 速度20+

 アイテムエンチャント 知力2%アップ

 竜鱗 ○○

 までは来た。まあ、そこらの転生者には負けようがないだろう。そこらの転生者で無ければ……そのときはその時だ

 

 「話は、終わったかよ!」

 構えた刀は大上段。めぇぇぇん!という声が聞こえてきそうな感じに踏み込んできた相手を……

 「ていっ」

 ひょいと足払い

 あ、転けた。なにやってんだこいつ

 「貴様ぁっ!足なんぞ使って卑怯だとは」

 「黙れ!」

 「こいつ……剣道で鍛えた技が」

 「いや、実戦では刀一本以外何も使わないとか有り得ないからな?」

 一発で分かる。こいつ、生前剣道やってたから強いという奴だ。実際にはそんなことあんまり無い(剣道経験そのものが無駄とは言わないが、型に嵌まっていてはそう強くないだろう。実戦では足狙って傷をつけられれば機動力を潰せてとても有利になるが、剣道では足を真剣なら斬り落とすような力で撃っても一本にはならないので無意味だしな。足の骨折れば相手は棄権するかもしれないが自分も失格になりかねないし)のだが……

 「うるせぇぞドブネズミ!」

 空気を裂いて倒れかけた姿勢から振り回される刀を、その範囲外から……

 って危ねっ、真空波飛んできたわ。めんどくせぇ

 「勇者でもない癖に!俺達に何の得もないのにでしゃばるんじゃねぇ!」

 立ち上がり際の真空波を手にした剣で切り落とし

 「絶刀破之型・八岐龍閃撃!」

 「『ファスト・ライトニングオーラⅡ』」

 瞬間スキルでも使ったのか8つのエネルギーの槍衾と共に突いてくる刀の切っ先を残像を残しつつ雷の速度で斜め上にジャンプしてかわす。そのまま相手の全身全霊の突ききった無防備な背の側に着地し、袈裟懸けにとりあえず斬りつける。スキルぶっぱなせばたぶん此処で此処で終わ……

 ガキン!と固い音と共に刃は肩口に生えてきた扇に止められた。……フロートファン、いや和風に重浮扇とかだろうか。もう一人によるフォローか!

 

 「くっ、流星剣が通じないとは」

 「流星弓が完全に入ったと思ったのですが…」

 なんて、扇持ち転生者を止めきれてない二勇者がぼやくのが聞こえた

 「流行ってんの、流星スキル?」

 「消費、範囲、威力、速度のバランスが良くて使いやすいんですよネズミさん」

 「じゃあ最大火力をぶつけ」

 「絶刀破之型・雷刃抜刀/迸ぃっ!死ねぇぇぇぇっ!」

 一旦わざわざ鞘に刀を仕舞ってからの抜刀系スキルだろうか、短刀型に変化した刀を雷を纏ってぶん投げてくる転生者は半無視して。とりあえず話す際に用意しておいた俺の幻が貫かれて消えるのを横目に

 実は相手の背後にずっと居た俺が心臓を貫……けない!

 「流星扇!」

 また扇か!突如扇形に広がる盾に突きが剃らされ、手から剣が跳ね飛ぶ

 「今だぁぁっ!

 流!星!刃ぃぃんっ!」

 てめえらもかよ!流行ってんなおい!




流星槍ですぞぉぉぉぉっ!
因みにネズ公は流星投を覚えてませんし尚文は流星盾がないので流星スキル祭には不参加です

また、向こうの世界の流星○に当たるスキルはスターダスト系だった気がしますが、どうせこれ転生者が勝手に言ってるだけなので…

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