弾かれた剣、流れ星を纏い迫り来る刀身
それに対し、俺は……
「残念だった、な!」
焦らず騒がず、ただそう告げる
がくん、と振り下ろそうという刀の軌道がズレた
「ぐぎっ!」
その男の足を横から貫き軌道をズラしたのは、さっき弾き飛ばされたはずの剣。それこそが、偽・フレイの剣なんて長剣が投擲具として使える最大の理由だ
固有能力、叡知の撃滅剣。即ち、この剣元々投げれば勝手に一人で戦ってくれるソードビットなのである。オート戦闘の正確さは本人の思考レベルによるので、混乱していたりアホが投げると味方すらオートで斬るが賢ければこうして手を離したので勝手に敵を撃滅しだす。手に持って普通の剣として使ってる俺が可笑しいだけで、本来は投げて戦わせるもの。投げるのが使い方なのだから投擲具でない筈もない
「残念無念また来世、ネズミさんの剣は自動迎撃機能付きなんだ」
手元に呼び戻しながら、飄々と煽るように言っておく
因みに何時も使わない理由は簡単だ。これはクソナイフなので大丈夫だが他の武器を持つと制限で吐き気がする。そしてフロートダガーなどでクソナイフ常時二本出しはSPを喰うので出来ず、かといって事あるごとにフロートダガーで虚空から取り出しては怪しすぎ。何より、普通の剣のように持っておくことでこうして奇襲に使える。実は勝手に飛び回るから手から弾き飛ばした方が危険とか普通思わないだろ
「……コピーを」
「残念ながら登録制なんで、貸すのは平和な時な」
「分かった」
便利そうな武器だなコピー出来ないかとする錬は断る。いや、本来貸しても良いしそっちの方が錬も強くなれるだろうが、残念ながらこれオリジナルじゃなくてクソナイフによるコピー品だ。オリジナルの偽・フレイの剣ならいくらでも貸すが勇者武器貸してもコピー出来ないどころか複数の勇者武器云々の警告文出るからな、バレる
そもそも偽と付いているのにオリジナルがあるのか?本物のフレイの剣を模してこの世界の昔の人が心血注いで作った真に迫る(性能は低いがしっかり自動迎撃機能が再現できた)贋作がそれだ、もうオリジナルと呼んで良いだろう
なんて場当たり対処
刀持ちをぶっ殺すにはスキル無しでは火力が足りず、かといって扇側をどうこうするには勇者二人がかりでも苦しい。仲間が全員死んでるのも面倒だな。原作ではグラスの慈悲か生きてたから良かったんだが、この肉塊散乱現場には慈悲も何もない。自分も皆のように死ぬかもしれない。その恐怖が足をすくませ、肉を斬らせて魂を滅するなんて行動は取りにくくなるのだ。だからか、微妙に錬も樹も距離が遠い。扇なんて先端が広がっている武器相手にするならば根元まで接近した方が良いだろうに、長めの両手剣に変えて相手が踏み込まなければ届かない距離をとって戦っている
死にたくないのだ、錬達だって。多分今までは勇者のステータスでろくに苦戦もしなかったし、ゲーム感覚であった。だからこそ、楽に戦えていた。自分を顧みず、本来危険だが最適解を取れていた。命惜しさを感じずに済んでいたから。寧ろ、仲間をひたすら守るべき盾の勇者以外の三勇者がそういったゲーム感覚野郎であったのは、ゲーム感覚で戦える人の方が強いから……だったのかもしれない。何時かこの世界がゲームではないと気がつく前に、ゲーム感覚で最適な戦闘スタイルを確立する。それを願って、真面目な者ではなくゲーム感覚な少年を聖武器の精霊は呼んだ
だが、眼前で仲間が挽き肉にされ、その感覚は吹き飛んだ。だからこそ、攻めきれない。今までであればそこで一歩踏み込んで一撃出来たろう隙に、自分も隙を晒してでも止めの一撃という手が取れない
どんな状況でも、もしも反撃されたら?若しもこのネズミさんが刀を止めきれず横から攻撃されたら?という自分が肉塊にされる恐怖がチラつき、踏み込む足が止まる
俺は選ばれた者だと思ってたからそんな事無かったんだけどな。だって、選ばれた全部の武器を手にする勇者が途中で死ぬとかナイナイって転生者特有の……でもないな、ゲーム感覚のまま戦えていたし、真実に気が付いた時には正に今更って感じだった。今更自分が何だろうと、俺はリファナの生きる世界を守る。瑠奈の生きる世界は守れなかったが、今度こそ。リファナの大切な
けれども、勇者二人はそうではない。そもそも、俺なーんで死んだかも記憶に無いしな。自分が死んだことを死んだ状況含めて記憶しているが故に死を怖がるだろう勇者とはそこが違う。アヴェンジブーストを万一もう一度発現されたら死ぬからって、モルモットな割に自由あったしな、実験で死んだって気もしない。自殺しようにも、自分の力じゃ自殺は無理だしな。発現時に発見された俺はぶっ倒れるまでずっと蒸発した元々屋敷があった場所であの腐れ親父の血を
そんな状況を変えるのは……
「シールドプリズン!」
やはりというか、戦場外からの来訪者。
「とりゃぁっ!」
ぶっ壊れ亜人のフォウル。スペック可笑しいからなあいつ。横殴りに殴りつけられ、軽く刀持ちが吹っ飛んでいく
「尚文!」
「尚文さん!」
「盾かよ!要らねぇ!」
口々に叫ぶ勇者(&転生者)。ってか盾要らないって酷いな。正直欲しいぞ俺。直接攻撃が出来ない(カースありでも出来ないとは言ってない)という制限と引き換えにそれ以外全てが最強レベルで両立しているとかいう壊れだぞあれ。ハイリスクハイリターンな攻撃技以外に攻撃手段が無い代わりに、他の追随を許さない最強の防御性能と準バッファーと比べても頭一つ抜けた最強のバッファー性能と最強のヒーラーに並ぶ回復性能を持つ職業とかネトゲにあったら即時ナーフものだろ。ソロ想定なら兎も角、仲間が居る想定ならば文句なしに四聖最強だぞ盾。それを要らないとかこいつら目先の火力しか見てないなさては
「これで3……いえ、4vs2、大勢は決しましたね」
「ああ、何者なのか吐いて貰うぞ」
尚文という盾が到着した事でちょっと心に余裕でも出来たのか、錬と樹が調子の良いことを言い出す
「ったく…」
「甘いんですよ!」
だが、それに動揺することなく、二人は武器を構え……
「戴きいっ!」
突如、バチバチとしたスパークと共に、錬の剣がその手から離れる
そうして
「こうか、流星剣!」
「なっ!エアストシールド!セカンドシールド!」
尚文背後から流れ星のようなオーラを纏った剣が襲い掛かる!
咄嗟に出した盾で致命傷は避けたのだろうが…
「ぐぁぁぁっ!」
「なおふみ様!」
「尚文っ!てめぇ!」
背後では防ぎきれない。いや、そもそも初級スキルでは流星剣を多分正面からでも止められなかったろう。背を庇うように展開された盾はあっさりと砕け、星のオーラに尚文が吹き飛ばされる
「くっくっくっ。4vs2?違いますねぇ」
そうして、尚文の背後から姿を現すのは黒髪の……やっぱり軽薄そうな笑みの男
「てめっリョウ!剣は俺の狙ってた……」
「早い者勝ちですよレーゼ」
「ふざけんな俺のだ寄越せ!」
……何やってんだこいつら
リョウとか呼ばれたのも転生者だろう。三人目、しかも勇者武器奪ってない者が居たとは……
「剣の勇者様、大丈夫か?」
「んんっ
そこの薄汚いネズミに心配されるような……」
「お前じゃねぇ!」
「け、剣が……消え……」
「錬っ!」
「未だ!旋風刃!」
刀の奴が空気読まずスキルを放つ。遠距離か!
「ちっ!」
尚文、お前がメイン盾だろとっとと盾出せ……と言いたいが、尚文の奴前のめりに倒れたままだ。背後からスキルの一撃食らったのはデカイらしい。死んではいないだろうが……
なので、仕方なく割り込む。呆然とした錬に避けろと言うのも酷だ。彼等は転生者の存在も、向こうの世界の実在も、勇者武器を奪う生態も知らないのだから。最初の一回は不意を撃たれて何も出来ないのも仕方ない。だから、この知ってるネズミさんが出張らなきゃいけないのだ
「ぐぇっ!」
強引に割り込んだせいでロクに防御体勢やら防御魔法やらは使えず。吹き荒れる細かい刃の風に左の腕はズタズタにされる。骨見えてら、リファナが見たら何て言うだろう。怖い、だろうか?汚いともしも言われたら沈むぞ俺
「どういう……」
「どういうもこう言うもねぇ!あいつらは世界の敵だ!勇者の武器を奪って強くなろうとする、『この世界がゲームだと俺達だけが知っている』って、な!」
「では、僕の弓も……」
「抵抗しなきゃそのうち奪われるぞ!」
「くっ、ファイブシューター!」
「効くものですかねぇ、そんなへなちょこが
満月剣」
焦った樹が五本の矢を撃つも、くるくると回転して盾っぽくした剣に弾かれる
位置関係としては、尚文達は刀扇と剣に挟まれている。樹は少し離れていて、離脱しようと思えば出来るだろうか。錬は……挟まれてはないな、微妙に軸がズレている。だが、呆然とした状態でどうしろというのか。そして俺は……錬の前に立つ
リファナと離れているのが不安だが仕方ない。フォウル、何とかしろである。錬を……剣の勇者を喪うわけにはいかない。なんたって、俺がシステム経験値に語った事なんて真っ赤な嘘だからな!四聖の再召喚とか基本無い、全員死ねば終わりだ
……静かにクソナイフを構える
さて、どうすべきか……
なんて、悩んでる時間は無かった
「取り戻されると面倒ですね
閃光剣!」
目眩ましから、剣を奪った黒髪の転生者が俺ってかその背後の錬に迫り。同時
「よくも、よくもナオフミ様を!」
怒りの形相でラフタリアが走り出す。
やめろラフタリア、無謀だ
……だが、ラフタリアは止まらない。良く見ると、幻影を絡ませている。今見えてるラフタリアは幻で、本物はその横。だから何とかなると思っているのだろうか
そんなラフタリアに近付くのは刀を持った青髪。その刀にスキルの光が淡く灯る。あれは……ダメだ、ラフタリア、戻れ
……ヤバイ、な
なんて、一人ごちる。尚文を見ればフォウルに助け起こされて何とか意識はある、くらいか。今はスキルは撃てないだろう。樹は扇相手にスキルを撃っている。それは良い、扇を止めなきゃいけないのは確かだ
そして俺は……錬の前。そこから退けば、ラフタリアを助けに行けるだろう。だが、それをするということは錬を見棄てること。間違いなく剣を奪った男に錬は斬られて死ぬだろう。勇者武器の無い異世界から呼ばれた勇者に抵抗の術なんて元々異能でもなければあるはずもない
……そして、離れなければラフタリアは死ぬ。刀のスキルには、幻ごと空間を斬れるスキルだってある。というか、俺がクソナイフ全力投擲で防いだ絶刀凛之型・燕返しがそもそもそれだ。あれを撃たれれば、ラフタリアは幻ごと両断されて死ぬ。それは幻で姿を隠してるから大丈夫しているラフタリアには回避不能の未来
では、どうするか
錬を死なせてラフタリアを守るか、錬を守ってラフタリアが狸肉に成り下がるのを見守るか。錬を失えばこの世界は詰むかもしれない。少なくとも、四聖の一人が欠けて苦しい立場に立つことは間違いない。ラフタリアを殺されれば、リファナは悲しむだろう。心を閉ざすかもしれない
……ならば、選ぶべきはどちらか
スキルを全力で撃てば、或いは両方を守れるかもしれない。だが、偽・フレイの剣無しで俺だって剣のスキルを防げない。両腕が無事ならまだと思ったが、片腕で防御スキルやっても押し切られるだけだ。クソナイフを投げてラフタリアを救ってから俺が錬を守るには、俺が肉の盾になって死ぬか、別のクソナイフが必須。つまりは、スキルぶっぱなさなければいけない
全てがバレるだろう。大体バレてるけど
迷うな!
両方を守る覚悟を決め……
っ!
全力投擲。だが、遅すぎる。ピアーススキルは速いがピック限定、偽・フレイの剣のままでは届かない。ならばフラッシュピアースからのチェンジダガーも……ダメだ、行きすぎる!迷わなければ……その一瞬の差で間に合ったろうに!
そして……
「絶刀凛之型・燕返し!」
「超!重!けぇぇぇんっ!」
「ラフタリアちゃん!危ない!」
ぱっと、血の華が散った
ん?四聖って奪えるっけとなる人もいるかと思いますが、ネズ公やタクトのように特例であれば奪えます。これはリョウと呼ばれた転生者がタクトのように特別な転生者だっただけですね