「リファ……ナ」
散った華はふたつ
リファナも気が付いたのだろう、あのスキルこと燕返しが幻で誤魔化しても防げないことを。……だから、身を挺して、刃がラフタリアを捉える寸前にラフタリアを押した
何故その事に……リファナも幻影魔法で必死にラフタリアを追っていたことに気が付かなかったのだろう。それだけ視野が狭まっていたか。それが、この結果か!
「超!重!ざ」
「邪魔だぁぁぁぁっ!」
視界の縁が、プラズマに彩られる。普段の青白いものではなく、吹き上がる色は金。抑えきれぬ想いが発現した、本来の姿に更に一歩近い制御不能の雷挺
「ドライファ・プラズマブレェェェェド!」
吹き上がる雷撃を剣のように束ね、振り下ろされる剣と鍔迫り合い。物理法則ガン無視だが、磁場だか何だかの影響だろう
「んなっ、これは……この力は!」
ん?こいつも樹と同じ出身か?ならば、異能力もあるのか?
知ったことか!
「その力……」
「くれてやる、よ!」
爆裂。元々雷撃を束ねてるだけの剣の結合を解き、雷爆弾として炸裂させる。自分も巻き込まれるが、流石に自分の異能力で怪我するほどネズミさんの異能力は欠陥品じゃない。いや、欠陥品ならあの
「ぎぎぎぎっ!」
麻痺したのか、リョウと呼ばれた転生者の足が止まる。プラズマが金でなければ多分出力が足りなかったろう。結果オーライとは、言いたくないが
その隙に雑だが尻尾で錬の体を服に先端を引っ掻けて掬い上げ、背負う。……やけに軽いなこいつ。50kgあるのか?いや流石にあるだろうが60は間違いなく無い。そこまで痩せてるようには見えなかったが……ってどうでも良い
そのまま追撃が不可能な合間に奴の横を駆け抜け……つつ、脇腹に恨みを込めて後ろ回し蹴り。倒れた亜人の少女に止めを刺そうと追撃をしかけようとする刀持った危険な青髪……レーゼがすんでの所で偽・フレイの剣に阻まれ振り払おうとしている最中へ飛び込む
「な、なんだこの電気ネズミ!?」
「知る前に、殺す!」
戻ってくるクソナイフをキャッチ、雷撃を軽く纏わせて振り、危険だと思わせて飛び退かせる
そのまま追撃……といった方が殺しやすいが、必要なのはリファナの無事だ。その場に留まり、倒れ伏した少女を見る
……生きて、いる
だが、そこで息は吐けない。咄嗟にリファナが突き飛ばした事で、二人とも致命的な刃の軌道からギリギリ逸れていたのだろう。空間を超越した剣閃は確かに届き、背中にばっさりと斬り傷があるものの致命傷ではない。いや、とはいえ下手すれば背骨に傷くらい残ってるから無事とはとても言えないが
放っておけば間違いなく死ぬ。では、このリファナを守りきれてないクソネズミに出来ることは何か
魔法?俺の魔法は万能のように見えて回復に穴がある。撃てるのはあくまでも体力を使って自然治癒を活性化させるもの、今のリファナに使ったら衰弱死まっしぐらだ
異能力?リファナが死んだ後ならばそこの転生者まとめて消し去る事くらいは出来るだろうがリファナの死が前提の時点でそんなものは血液と唾液を混ぜると弱めの麻酔となる絵面が汚くて使い道のほぼ無い異能力の方がマシなゴミ以下
勇者パワー?クソナイフにそんな都合の良いスキルはない
「マスター、マスター!
お困りのマスターの救世主としてボクが来たでち」
『ギャウ!』
「い、イツキ様ぁぁぁぁっ!」
と、そこに飛来する影
ワインレッドの空にぽつんとした白点となる飛竜のブランと、そこに乗る二人の少女。でち公とリーシア
「ドラゴン!?」
「モンスターハンターの時間だぁぁっ!」
そして、転生者どもの視線も逸れる
……いや、扇だけ逸れてない!この隙に刀を殺してってのは無謀か、ならば!
足元のリファナを抱え上げ、クソナイフは浮かせて。フロートダガー!今更言ってられないのでクソナイフが出せるなかで一番柔らかくて大きな投擲具……小型の投網を呼び出して背中の錬を網漁。空いた背にラフタリアを尻尾で掬い上げ……
「はぁっ!」
全速力。プラズマによる加速も兼ねて一息に尚文の元へ
「ネズミ!何がどうなってる!?」
フォウルに背負われたまま叫ぶ尚文。アトラが見たらお兄様ずるいですするだろう中々に情けない姿。いや、転生者相手なら生きてるだけで上出来か!
「説明の暇が、あると思うか?」
降り立つ白竜
四の五の言ってられないので、目線でフォウルにとっとと乗れと急かしつつ、クソナイフから二つの薬を取り出してその虎男に押し付ける
「……これは?」
「ネズミさん秘蔵のイグドラシル薬剤だ、リファナ達が助かるとすればこれしかない」
「じゃあ今すぐ」
「俺じゃ足りねぇんだよ!助けられるとしたら、盾の力で薬の効能が上げられるお前しかいないんだよ尚文!」
そう。俺がやって助かるならその場で飲ませていた。
「盾の勇者、岩谷尚文
今すぐに逃げろ、そしてリファナ達を助けろ
……ついでに、剣の勇者を頼む」
投網も竜の背に投げる。尻尾でキャッチしたな、器用だ
「ネズミさん!」
「リーシア、樹と共にどっかに逃げろ!」
「ネズミさんは」
クソナイフ(偽・フレイの剣)を手元に呼び戻し、まだ投網は消さず、一歩転生者側へ
「……行け
誰かが奴等を止めなきゃいけない」
「幾らネズミさんでも」
「とっとと行け!波のボスは倒れている。後はこいつらが消えるまで……つまりは終わり始めている波が終わりきるまでこいつらを止めとくだけだ!」
『ギャウ!』
「てめ、ネズミ!」
「行きましょう、イツキ様」
錬達怪我人三人と虎一匹と勇者一人を乗せて、竜が飛び立つ。ふらふらしてんな、重すぎてそこまで遠くまではいけないか。といっても、大丈夫だ近くの村まで持てば良い。後はゆっくり地上で良い
そして、たまに此方を振り返りながら弓の勇者一行(二人)もこの場を離れる
「逃がすと思うか?」
「おいおい、このネズミさんが逃がすと思ってるのかよ」
「まあ良いでしょうねぇ
レーゼ、遊んでやりましょう」
追おうとする男を止めたのは、麻痺は終わったろう黒髪
「話が分かるな」
「盾と弓には逃げられましたが……それは後で追えば良いもの
その力と剣と。二つ取れれば上出来、ネズミ狩りを終えて更に取れれば120%の大勝利ですねぇ」
「生憎と、ネズミさんの力は……」
行くぞ、クソナイフ
こっからは、一切の遠慮は無しだ。最優先はリョウなる黒髪。何があろうと奴は此処で仕留める。剣を錬に取り戻す。それが出来れば、まだ世界に未来はある!後レーゼは死ね!
「フロートダガー!バーストジャベリン!」
「んなっ、にっ!?」
とりあえずどっか行きそうな刀(レーゼ)に向けて挨拶代わりに短槍をぶつけて爆発させて足止め
……扇に防がれてるがまあ良い。止める為だけだ
……グラス生きてるんだろうか。生きてるならば扇を優先、そうでなければ扇はまあ良いやだが。刀と扇の優先度が面倒だな。リョウはここで殺す。リファナを傷付けたレーゼも此処で殺したいが、心の中の理性がいや扇優先じゃないか?と叫んでいる
「これは……投擲具!」
「そう、その通り!
だから大人しく屍を晒せ!スパイラルドリルⅡ!」
剣先から回転する剣をぶん投げる。目標は扇。一転突破のスキルだ。固い相手にはドリルで風穴ぶち開ける。当たり前だな!
……何かプラズマ纏って強化されてる。強化されてる分には関係ねぇな!
「その力……まさか
仕掛けるとしましょうかねぇ、レーゼ」
「指図すんな、リョウ!」
クソナイフぶん投げた俺へと、男転生者二人が迫る
……投げたから、か?甘いってことを見せてやろうか
「セカンドダガー!チェンジダガー(攻)!」
正面から来る剣の一撃を、二本目のクソナイフで受け止め
「貰ったぁぁぁっ!」
その隙に背後に回り込んだ……と思ったのだろう、大上段から振り下ろされる刀を……
「秘技、尻尾白羽」
肩口を軽く裂かれつつ、根元に尻尾を絡めて強引に止める
止まりきらずとも、触れれば良い
「……軛を受けよ、眷属器!
今だけで良い、俺に従い奪われろ、刀!」
「……へ?」
伝説の武器を奪う力を発動。直接触れていて、しかも相手は俺と同じパクラー。それはもう奪うのなんて簡単である
即座に支配権を略奪。そのまま尻尾で刀を絡め取り……
斬!
剣との鍔迫り合いは勝手に戦える偽・フレイの剣に任せて両の腕を柄から離し、尻尾から刀の柄を受け取って逆袈裟掛けに振り上げる!
「ぐ、ぎぃやぁぁぁぁぁっ!」
ちっ、外したか!右腕一本しか持ってけてない!
「お、俺の、腕がぁぁぁっ!」
「五月蝿い!」
そんな彼を庇うように扇が出現したので追撃は諦め、跳躍
「……投擲具の時点で気が付くべきでした
何故、裏切っているのです、転生者!」
「はっ、ネズミさんは、最初から一度たりとも大切な人からの期待以外を裏切ったことはねぇよ!」
扇の転生者へ向けて空を走る。プラズマ纏ってれば簡単な話
「そもそもな!転生者としての話に則っても、てめぇ等別世界の転生者が、俺と味方同士な訳があるかよぉぉぉぉっ!」
奪った刀の力を軽く確認。別次元だからか強化は完全に別ツリー。強化共有は不可能。だが、クソナイフとは別枠といってもステータス補正はどっちも俺にかかるものなので共有、スキルカスタムが出来るかとかその差だな、大体分かった!
オーバーカスタム!武器合成!
……弾かれた。やっぱり駄目か、異世界の勇者の武器を武器合成で取り込むの
『称号解放、世界の敵ネズミ』
……いや、これはまさか出来るわけないと思いつつついやってしまった出来心だすまなかったクソナイフ
その間に、扇の眼前へ
「無明・七天虹閃!」
そして、刀のスキルを使用
七天虹閃。三段突き……のようなスキル。駆け抜け様に、一撃で七回同時に突く。同時に突かれて相手は崩壊する。つまりは防御貫通である。変幻無双流、多層崩撃だったかこれのパチモンみたいな技あったな。いや、スキル無しでこれ再現するって何だそれ
「芭蕉……きゃっ!」
防ごうと、扇の少女もしたのだろう。だが無駄だ、多段で削りきる気のクソナイフのドリルと違ってこれは防御無視。構えた扇を通り抜け、少女の体も突き抜けて、七色の光がその背から吹き出す。ついでに折れたっぽい肋骨の破片や血も少々
綺麗な羽根……とは言えないな
「轟!竜!翔!」
だがそこで止まってはいけない。走り抜けた後振り向き様に風を纏って斬り上げ
扇を持った少女の手が、天へと登る上昇気流に取られ
「ストライクダガー!」
頭の上に上がったその手首を、俺の頭上から飛んで行くナイフが跳ねた
「セカンドダガー!フラッシュピアース!」
更にはピックで喉を潰す
「っ!ゆ……」
腕を抑えて踞るレーゼが何か言っているが気にせず、リョウはまだ偽・フレイの剣と格闘しているので無視。いや、スキルで吹き飛ばしたか。だが、もう遅い!
「スターダスト・ブレイド!」
流星のオーラの刃を振り下ろす。扇と喉を、つまりは武器と魔法を奪われた転生者に、それを防ぐ手だてはもう無く
「ご……め、レー……」
喉を潰されろくに言葉すら残せず、少女の姿は流れ星の先に消えた
刀の刃先から落ちる数敵の赤い露だけが、そこにかつて人が居たことを示していて
「霊刀・鬼滅」
だが、それも亡霊として蘇られても困るからと魂を両断する為に振られた刃からふるい落とされて消える
「ゆ……」
「……次は、お前だ」
「
轟、と風が吹いた
ばちばちとした感覚と共に、ずっと点いていたクソナイフのアイコンが点滅し……
「許さん!よくも……よくも……
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
俺は、怒ったぞぉぉぉぉぉっ!クソネズミぃぃっ!」
ぱちっと、その光が消える
いや、うっすらと残ってはいるのだが……
そうして、踞っていた青髪がゆらりと幽鬼のように立ち上がる。それは、まるで揺らめく炎を纏っているかのようで……その腕には、炎を模した穂先の禍々しい短槍が握られていたのだった
憤怒の投槍Ⅱ……っておい!どうなってんだクソナイフ!というか何で奪われてんだよあいつはもう1つ奪って……あ、俺が更に奪ってったせいか
だからってさっくり捕まってんじゃねぇぇぇっ!このクソナイフがぁぁぁぁぁっ!
防御無視で防御を解かせ、崩し技でもう一度の防御を封じ、追撃で防御手段と抵抗手段を奪い、最後に高火力で無抵抗にした相手を消し飛ばして止めに復活手段を断つ
ひでぇ殺意のネズ公である