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何も起きねぇじゃねぇかよ欠陥スキルかクソナイフ!
と思いきや、視界にかなり長いポップアップ。どうやらスキル使用法らしい
無駄に長いがまあ良い、やってみるか
「フロートダガー」
まずは虚空に短剣を呼び出す。それをコアに添える
「エアストスロー、セカンドスロー」
そして手にした投げナイフを虚空に浮かべた短剣周囲に向けてぶん投げる。当てないのがコツらしい
「ドリットスロー、トルネードスロー!」
それでは止まらず更に投げ、追加スキルでもって投げたナイフ等に渦を巻かせる。本来はここまで、嵐のように回転する3つの投げナイフでズタズタに叩き斬るスキルなのだが……それでは強敵一匹相手のスキルでしかないので更に続く
「エターナルスロー!オーバースロー!」
止まらず渦巻きに向けて手に呼び出したナイフを更に投げる
「イグニション!
サイクロンストリーム!」
そして漸く起動。因みにイグニション!は単なる掛け声なのでスキルではない。いや大技って何かカッコつけたくなるだろアレだ
そうして渦は巨大なものに膨れ上がる
これで大丈夫だ。と思った瞬間に立ち眩み
どうやらスキルを使いすぎたらしい。スキルに関してはSPなる勇者特有……でも無かった気がするが勇者以外は気の修業が要るリソースを使うっぽいが、それが底をついている。まあ撃てたので良しとしよう
「はっ、雑魚が
勇者に勝てると思ってんのかよ波がぁっ!」
いかん、悪い癖が出たリファナに聞かれたら……いや勇者に化けてるし大丈夫か
まるでトンボ取りのように空飛ぶ蜂等が地面に落ちていく。近付いた魔物は1匹残らず宙に浮かぶ渦巻きから迸る閃光(物理)、要は放たれる投げナイフに撃たれて墜落
サイクロンストリーム。エターナルスロー絡めている事から割と分かりやすいが要はこれ、設置型のオートエアストスローである。渦巻くサイクロンが、近付いた敵に向けて暫くの間勝手にエアストスローを撃ってくれるという便利技。同時捕捉は20体近くもあり、連発もしてくれると中々に有り難い複数攻撃でもある。設置時のパワー使いきったら消えるので連射してるって事はすぐ消えるって話にもなるのでそこは困るが
これでほっといても大丈夫だ。リファナに近づく悪い虫(物理)はこれで処理出来る。ボス格の魔物だと分からないがそれは今から倒しに行くんだし気にすることはきっとない。万一なんだろうとリファナが外に出てきても大丈夫だ敵にしか反応しないようになっている。ああキールは出てくるなよ、大丈夫だとは思うが実はキールを狙わない保証は無い。リファナについては間違いないんだが
何て考えている間も惜しく、亀裂の根元に走る。更に幻影魔法を重ねて姿を魔物から隠し村を襲っていない魔物はガン無視。勇者ならば問題行動だが関係ない。このままだとリファナが死ぬ、それさえ止められれば良い。他など知ったことかどうせリファナをってか亜人を苛めるメルロマルクの奴等だ波鎮めた後で生きてたら助けるで良いだろう
果たして、亀裂の根元に居た明らかにボスっぽいのは鎧のような甲殻の狼であった。視界の端に投擲具が表記した名前は……次元之鎧獣
辺りにはその幼体というか不完全体というか部下というかが15匹ほど。狼の群れ長ってイメージだろうか
……とりあえず、硬そうだ。構えられても困るので先手必勝
「フラッシュピアース!」
なのでピック状の武器……次元蜂針を投げる。フラッシュの名に恥じない威力はともあれ
……生きてるな、当たり前か威力は低いスキルだ
だが、刺さった時点で終わりなんだよ害獣が、リファナの安全のためにとっとと死んで波を終わらせろ
「チェンジダガー!」
刺さったピックの形状をスキルで変化。大振りで全体が鉄製のクナイへ。元々クナイではいけなかったのかというと、ピアースと付くスキルはピックとか針とかそういった片手持ちの刺す武器でしか使えないし、クナイで撃てるものはスキルでの投擲速度が遅いはずだ。そこら辺はクソナイフが教えてくれる
『力の根源たる投擲具の勇者ユータが命ずる』
大嘘である。まあ化けているし誰かが見ていてもきっと今日はまだ投擲具の勇者は生きていたと思ってくれるだろう寧ろ誰か見ててくれ
『天地満ちる雷鳴を束ね、聖光となりて我が敵を穿て』
「ツヴァイト・プラズマバースト!」
そして魔法。上空にプラズマを集めて槍状に変え、撃ち下ろす
本来は割と拡散する魔法なのだが、今回は奴の目という絶好の場所に総鉄製のクナイという即席ながら中々の避雷針がある。そう、これが即席の単体最大火力、由緒正しき勇者戦法である
単体の雷撃魔法ならばボルテクス等もあるのだが、総火力は俺が使えるなかではこれが最強
避雷針に突き刺さった雷鳴に、狼は悲鳴とも咆哮ともつかない叫びをあげ
そして、地面に倒れ伏す。同時、亀裂も閉じた
……一撃。どんなものかと思ったが案外弱いなこいつ。まあ、そもそもこの波は被害こそかなり大きかったものの勇者無しで鎮める事に成功し、勇者の必要性を痛感したというものだったはずだからパチモノとはいえ勇者が居ればあっさりと何とかなるのも当然っちゃ当然か
尚も何か襲ってくる烏合の衆と化した狼どもは適当に解体し、波のボスである害獣ごとナイフに吸わせておく。素材などが勿体ない気がするがまあ良いだろうスピード重視といこう
サイクロンストリームが消える前に割とあっさりボスを倒せたのでまあ無事に決まってるだろうなと思いつつ、来るときは数分で駆け抜けた道を残党を掃除しながらゆっくりと戻る。多少のSP回復もあり、わざわざエアストスローを使って投擲具の勇者が生きてるぞと大嘘を演じながら
……遠くに村が見えてくる。村はほとんどダメージ無いしサイクロンストリーム置いていったからか既に近隣の魔物は全滅している。魔物の死骸から垂れた体液や死骸そのものによってかなり道や屋根等は汚くなってはいるが、逆に言えば汚いだけで無事である。洗えば落ちるだろう。被害らしい被害と言えば、目立ってた旗が折れて地面に落ちていることくらい
……あれやったのは魔物じゃなくてサイクロンストリームだな、折れ目というか完全にばっさりと斬られている。ナイフの刃より細い棒状のものに向けてエアストスローを使えば同じ切り口が再現出来そうだ。いやあの旗別に敵じゃないからな無意識にだろうとはいえ何で折ってるんだ
なんて思って、更に一歩踏み出そうとしたその時
「ぐっ!」
突然の痛みに胸を抑えて膝をつく
何だよ、いきなり何だってんだこんな毒みたいな……
毒なんて貰ってないはずだろう何でこんな魂から消えるような……
魂から、消える?まさかやり過ぎたか
思い至るとすれば、転生者故のアレだ。一人で波を片付けるとか転生者としては大のやらかし、寧ろ勇者から武器を奪って波を手助けしてこその転生者だ。リファナの為にちょっとやり過ぎた結果、こいつ裏切り者じゃね?と裁きが発動したとかそういう事だろうか
リファナが死ぬよりは何倍かマシだが、この痛み洒落になんないぞこれ……万一これで死んだら笑い種にすら出来やしない
「……待て、よ
信頼させて入り込むには、どうせ弱い波は便利、だろうが……」
精一杯の言い訳をぼやきながら、地面を舐める
脳内で何を思ってようが発動しないから油断していた、流石に言葉に出したり態度が怪しすぎたら食らうか……良いからとっとと言い訳受理してくれ……間違ってないだろう言い訳としてら……
駄目だ、瞼が重くて仕方ない……