申し訳ありません
仕方がないので刀を構える
……刀での長期戦は想定してなかったんだが……っておい!刀!逃げるなボケ!
なんて、今だけで良いと言質はとってあるからじゃこれでとばかりに俺の支配下から出てこうとする刀をもう一度軛に繋ぎ直す。全く油断も隙もねぇな勇者武器
今だけってのはこの波が終わるまでだクソ刀。……止めろ震えるな暴れるなクソナイフのノリのままクソ呼ばわりしたことはすまなかったから逃げるな勇者武器持ち二人に勇者武器無しで戦えってのか
向こうがカースなら此方も……え?無理?憤怒の刀ⅢとかラースブレイドⅡとかくらい使え……ない?ラースのカースには問答無用でとある理由からロックかかってる?どうなってんだおい
「……まあ、良い
てめぇら全員、あの金髪の所へ
ばちばちとスパーク走らせる刀を右腕を伸ばして突き付け、宣言する
このスパークは逃げようってものじゃないな、俺の纏うプラズマが移ってるだけだ。これでスペックが上がってるから有り難い、目の前の転生者をぶち殺しやすくなる
「あの、金髪のところ……?」
炎を物理的に立ち上らせながら、クソナイフを握り締めた青髪はほざく
「
瞬間、更に投槍の姿は一段階変わり……ラースジャベリンⅢ!?
『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神をも縛り吊るす受難也。憤怒すらも裁かれ、屍を晒し風に揺れるがいい!』
……処刑具スキル!?ヤバい!
「月の、仇ぃぃぃぃっ!カルヴァリークロス!」
瞬間、俺の背後に燃え盛る十字架が出現した……延びる茨が避けようとした俺の腕を絡めとって磔た
……熱っつ!この炎カースバーニングじゃねぇかこのままずっと焼かれてたんじゃネズミの丸焼きまっしぐらだ。そんな戦場の兵士か貧しい乞食の御馳走になるなんて御免だっての!
「あ、ぐっ……」
からん、と茨に締め上げられて柄から指が引き剥がされ、刀が手から落ちる。おい、刀!戻ってこ……ないわな、所詮は俺がパクっただけの武器だし
と、落ちた刀は光となって飛び去って行く。ワインレッドの裂け目のその先へ。恐らくは本来の持ち主の所……或いは台座に帰ったのだろう。刀の勇者本人が生きてれば前者、そうでなければ後者……いや、ここまで危機的状態だとそんな事すらなく弱かろうが何だろうがまだ見込みのある候補に宿るか?
いや、そんなことより今はこの転生者ズマイナス1を殺す手だ。怒れ。アヴェンジブーストを発現しろ。精神を怒りのままに自由に解放してやれ
そんなことは分かっている。怒りでカッとなり自分の意志を越えとんでもない力でメチャクチャな戦いを始めてしまえばきっと勝てる。だが……それだけの怒りを理性で出せる筈もない。 母さんが轢かれた時や瑠奈が死んだときですら出せなかった力だぞ?使えるなら使ってる。このままじゃリファナが死ぬ。出せるものなら……応えろよ、俺の異能力なんだろ、アヴェンジブースト!
だが、そんな言葉で使えたら苦労なんて無く
「貴様だけは許さんぞ、ドブネズミ……
た、魂までばらばらにしやがって……もう女神の奇跡でも生き返れない!お前が、大人しく武器を献上して滅ぼされるのが筋のNPC勇者ごときがぁぁぁぁぁぁっ!」
怒りをぶつけるように、ジャベリンを突き付けて呟く
あと、俺は転生者だお前と同じく。お前の基準でもNPCじゃない
「そんなてめぇの事情、知るかよ……
俺に言わせりゃ、てめぇなんぞに、リファナを傷付ける権利なんぞ無い!同じこ……ぐっ」
茨が喉を締め付け、言葉が途切れる
「死ねぇぇぇぇっ!ジャッジメントレイ!」
そうして、怒りに任せて俺目掛けて彼はクソナイフを投擲し……
見付けた、1つだけある手!
「がっ!」
僅かに軌道は逸れ、槍は腹にぶっ刺さる。そのまま勢いをつけて十字架を砕き、俺を大きく吹き飛ばし……
風を巻き上げて止まる
ばちばちとスパークする腕
「なっ、それは……」
レーゼが目を見開く
「炎舞・鳳凰双撃!」
その瞬間、俺は手にした一対の
……そう、鉄扇。つまりは勇者武器の扇である。そういえばあいつ消し飛ばした後、刀は勝手に元の世界に戻ってったが扇は戻ってく姿を見てなかったな、という事で磔になりながらも探し、そして元の持ち主の元に戻らずにこの地に潜伏する扇を見付けたという訳だ
……手を貸してくれるのか、扇?……そうか、自分達の世界を助けてくれようとしてて本来の勇者の元へ自分を返してくれる勇者への恩返し、か、義理堅いな。分かった、この波が終わるまで、頼むぞ!俺は勇者じゃないけどな!
「それは……月の……」
「ころころと武器を変えるものですねぇ……」
「あるものは使う、ネズミさんってのは……手癖が悪いものでな!」
……腹がすかすかする。穴空いてるな
まあ良いや。スパークで感覚麻痺してきたからかあんまり痛くない。ってか痛覚神経やられてんな絶対。血はもうちょっと止まって欲しいが
「返せ!月の武器はドブネズミが穢い手で触れて良いものじゃねぇ!月だけのもんで、形見だ!」
カースバーニングを纏い、
「違う!これは世界を護る力だ!
俺も、てめえらも!本来触れて良い力じゃねぇんだよ!」
ということで俺もスパークばちばちで対抗。いい加減本気出せアヴェンジブースト。ってリファナが殺されでもしないと無理か、なら一生目覚めないで良いぞ
「今度こそ殺す!『その愚かなる」
「二度も撃たせるかよ!」
盾のように扇を、レーゼと重ねるように出す
「ぐぇっぷ」
良し、重なったせいで本来は自分を護るはずの盾に激突して言葉に詰まる。こういう点では便利だな防御系のスキル。クソナイフは攻撃一辺倒だからそこらの小回りが効かないってか俺から遠い場所に出せない。その点盾系列は遠くにも出せる。出したものに火力はないけどな!
「なら!エアストスロー!セカンドスロー!ドリットスロー!トルネードスロー!」
基本コンボか!でもな、元々使ってた相手に同じ勇者武器で挑むなら、対応くらい知り尽くされてると思え!
「芭蕉風!」
多分俺の一撃を防ごうとして月だか誰だかが使おうとしていたであろうスキルで迎撃。風で押し戻すスキルだ。飛んでくる魔法や矢やクソナイフには効果的で、人間大以上だと無理がある
「ぐっ」
「月輪砲華!」
扇を二枚重ねて真円にし、そこからビーム
撃てんのかよこんな火力スキル。狙うはそろそろとこちらを離れようとするリョウ
「くっ、それとなく消えさせてくれませんかねぇ……レーゼさんと遊ばせてあげているのですから、必要」
「あるに決まってるだろ逃がすかボケェ!」
「ならば、片付けましょうねぇ!流星剣!」
「スターダスト・ファン!」
二つの流星が激突し、スパーク
「そこだ、死ねぇぇぇっ!ブレイズ・ドリルゥゥッ!」
其所にカースバーニング纏わせて回転するクソナイフで突っ込んでくる
それを扇で受ける。ガリガリと削れていくが、受け止める。手に当たりそうでカースバーニングでちりちりするが気にせず……ってか鉄扇だから熱されてるしそっちのが辛い
……ああ、有り難う扇。もう良いぞ扇。助かった扇。とっととお前の勇者の元へ戻れ、生きてるんだろう?
……もう、十分だ
「う、うおぉぉぉぉぉぉっ!」
そのまま、青髪は回転するナイフを押し込もうとして……
「馬鹿がぁぁっ!」
間近で長時間回転するクソナイフ。ならば、転生者パワーで干渉して取り戻せる、元々俺が使ってたものだからな!スパークと共に、消えていたアイコンが復活。同時に一時的に横にあった扇のアイコンが消え
二度目の斬
「ぎぃやぁぁぁぁぁぉぉぁぁっ!」
変な悲鳴と共に、今度は片目を喪って叫ぶレーゼ。流星剣のスキルも終了し、扇はクソナイフの戻った俺の手を離れて飛び去って行く
「……返せ」
「返してもらったぞ」
「返せよ!月を……月の仇をとる力を!」
もう一度奪いに来るか、だが、引き合い勝負なら……
だが、そうではなく
「……おまえはもう謝っても許さないぞ」
ふっと、視界の端のスパークが消える。髪が青白いスパークを喪い、ネズ白髪に戻ってふわりと落ちる。そして……
黄金の髪に変化し、スパークを纏い、白眼まで真っ赤に染まった元青髪が、此方を睨み付けた
……アヴェンジブースト、覚醒段階!?雷挺の勇者とかネタにされた昔の俺のアレと同じ姿!まさか、こいつも俺と同じ異能力持ちか!?元々あれは潜在的に持ってる人はどれだけ居るか分からないってか案外居そうだが覚醒するにはほぼ総てを喪って怒りに呑まれなければいけないが故に殆どの人間は恐らく持ってることにすら気が付かないままに一生を終えるのだろう異能力、確かに転生者の中にも樹の世界で元々異能力ほぼ無しとして蔑まれていた奴とか居て実は持ってたとか有り得なくもないってかありそうなシチュエーションだが、此処でか!?
戻ったクソナイフを構える
「だぁぁぁっ!」
腕からの雷撃!ってかさっき撃ったビーム並みの極太雷撃砲じゃねぇか!
……って、思ったが何で俺のアヴェンジブースト側は解除されてるんだ?
「お前……何者だ」
とりあえず来るのは分かってたのでビームはスカイウォークして空に逃げておいて、聞いてみる。いやぁ、地面抉れてんな
「てめぇなんぞに勿体無い怒りの力を本当に持つべき者。月の仇を取る……怒りの戦士だ!」
は?本当に持つべき者?異能力も実は転生者が奪えるものに入ってたのかよ。まあ、樹の異能力って実は地味に強いけど地味な絶対音感と命中だし、尚文のも普段は使い物にならない対酔だしな。転生者がわざわざ奪いにいかないのも分かる。ぱっと見優秀な異能力持ちが原作に居たら実は異能力も奪えると御披露目してたのか?ありそうだ、読んだことのある異世界転生ものの作品にも他人のスキルを奪って強くなる主人公とか居たしな。レベルドレインも居たし、多分そういう転生者も居るのだろう。こいつは違うっぽいがな
……ふざけるな、奪っただけか
「俺の、怒りは……俺の想いだ!総てだ!
奪えるようなものじゃねぇ!」
ばちっとスパークと共にアイコンのような雷撃が視界に一瞬浮かび、髪が青白くプラズマで逆立つ
……勇者武器は結び付き弱くても、前世からの付き合いだから異能力はそうそう手出しされないって感じか。軽く取り戻せた
「……滅びろ」
「そ、そん、な……
ユ……エ……」
金髪の解けたレーゼをクソナイフで横凪ぎ。右目を喪った青髪の上半身が、力無く大地に転がる
「……レーゼ、馬鹿な人ですねぇ
ですが、四聖は手にした。最低限の目的は達しましたねぇ。転送剣」
ポータルスキルで、残った黒髪が去ろうとする
「逃がすかよ!ずっと待ってたんだろ、ゼファー!」
そう、あのでち公ずっと見てるだけであるが、此処に居たのだ。白竜と共に去っていったのは尚文とフォウルと、後はリファナラフタリア錬の動けない三人。ブランと乱入してきたあいつ自身は、そのまま去らずに隠れている!
「任せるでちよ!デビルサンクチュアリでち!」
「なっ!」
転送を妨害され、あまり手出しされないよう一歩引きぎみであった彼に、初めて大きめの隙が出来る
「そこだぁぁぁっ!」
瞬間、伸ばすのはクソナイフ……ではなく、転生者パワー
剣のアイコンが俺の視界に浮かび
「神撃の剣!もう一発神撃の剣!」
クソナイフを偽・フレイの剣にしてあるせいか俺の手に渡った剣の姿も同じに変化、これ幸いとスキルをぶっぱなす
一対の……という訳ではない二本の同じ剣に切り裂かれ、黒髪の転生者は散った
「……終わったな」
「覚、えたぞ……クソネズミ……」
呟く声。って
だが、奴が何か今出来るわけでもない。ワインレッドの空と共に、上半身だけになった少年の姿は亀裂の向こうに消えていった
後には、スキルぶっぱなしてやりあった結果抉れた大地と、かつて勇者の仲間だった肉塊、そしてソウルイーターらしき波のボスの死骸、後は夕暮れの明るいオレンジの空だけが残った
って危ない危ない、忘れ物だ
「神撃の剣」
と、黒髪の魂を斬って処理しておく
まあ腹に穴が空いたりもしたが、何とか転生者3人との戦いは終わったのだった
そして、良かった良かったとばかりに光になって飛び去って行く二つの剣
ああ、剣は錬のところに戻ってやれ。だがクソナイフ。逃がさん、お前だけは