パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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ネズミと剣の勇者編
誤魔化し


ふと、眼を覚ます

 

 全身が……ってか主に心臓がバチバチして痛む。腹は……うん、すかっすかだな。逆に何も感じない

 「起きたでちか?」

 「……ゼファー」

 寝転がったまま、顔だけ傾けて確認。此処は……洞窟か何処かか?

 「全く、終わったと思ったら突然倒れるでちから……ボク大変だったでちよ」

 「お前が運んだのか」

 「そうでち。ボクに感謝するでち」

 「ああ、有り難う」

 ……突然倒れた、か

 ……多分腹の穴のせい……じゃあなくて転生者プロテクトのせいだろうな。転生者vs転生者で勇者武器持ちを2人ぶっ殺す。いや、一人逃げたな、上半身だけで何が出来るかは知らないが、再生してパーフェクトになって戻ってくるとか全身機械化して戻ってくるとかより純粋な悪になって戻ってくるとか、脱皮して化け物になって戻ってくるとかどうせそんなんだろう。機械惑星と合体したら笑うが。そのまま死んでくれたらちょうど良いんだが

 ……なーんてやってたらそりゃ転生者プロテクト食らうわなという話である。大義名分はでっち上げられるのだが、それを告げる前に食らうのは仕方ない。死ななかったのは大義名分あるのかもという手心か何かか

 

 「で、此処は……」

 「近くの洞穴でちよ。流石に波のあった場所の根元にごろ寝は不味いでち」

 「……だよな」

 ……にしても、柔らかいな、頭の下だけ

 「ボクの膝枕は気に入ったでちか?製作者拘りの質感でち」

 「いや、そこらは全然感じないな」

 「酷い話でちね」

 「いや、そもそも腹の辺りとか感覚無いし、ろくにそこら感じないってだけだ」

 「……折角の好意が無駄だったでち」

 なんてやりつつ、特に話は進まない

 

 「……そういえばマスター」

 俺の頭をってか耳を弄りながら、でち公が聞く

 耳掃除のつもりだろうか、くすぐったい

 「まあマスターの事だから理由はあると思うでちが、何であそこで戦ったんでちか?転生者としては戦ったけど流石に1vs3はきつかったって名聞も立つでちから、二人くらいはあのまま追いかけさせても何も言われなかったと思うでちよ。生き残った勇者が居ても一人は止めたで多分疑われない上に三人とも来てたらお前も死んでたぞで恩もある程度売れるでち

 わざわざ倒すなんて、敵みたいでち」

 「ああ、あれか?あれは倒さなきゃいけない相手だった

 転生者として、な」

 多分眼をぱちくりさせている……のだろう。その顔は膝枕から見上げても無駄に盛られた胸に阻まれて見えない。本当に作者おっぱい星人だな、デカイ

 「そうでちか?」

 「あいつら、無自覚に負けに行ってたからな

 誰かが止めなきゃいけない。正規勇者に負けるってのが一番後腐れ無いんだが……」

 どう言い訳すべきか。頭をフル回転

 ぶっちゃけ、リファナを傷つけられてもう良いや死ねと半ば自棄っぱちで殺しただけである。後先あんまり考えてない行動であった

 なので、適当な理由をとっととでっち上げなきゃいけないのだ。このでちでち悪魔は悪魔だ。どうせ裏でシステムエクスペリエンスに情報送ってるんだろうからな、それっぽい事を言わなきゃいけない

 

 「負けに行く?向こうにも勇者武器があるのは前に聞いたでちが……それを持って此方に来たとして、それが何で負けになるでちか?」

 「向こうの勇者武器を持ってるからだよ」

 「勝ちかけなんじゃないでちか?」

 「いや、勝利だと思った瞬間に負ける」

 「訳が分からないでち」

 首をかしげる悪魔

 

 そろそろ行けるな、と上半身を起こす

 「ゼファー」

 「今でも言うでち。ベールでち」

 「波ってのは、女神が降臨する為の土壌を作るための世界融合の力だ」

 「前に聞いた気がするでちね」

 「じゃあ、俺は恐らく今回……ってさっき終わった波」

 「マスターは1日寝てたでち」

 「前日終わった波で恐らく向こうの勇者が出てくると言ったな

 ……何でだと思う?正規勇者は、世界を守るために行動している。なのに、転生者のように、波に乗じてやって来るなんて何かしら、勇者側の勝利を達成出来なきゃ可笑しいだろ?」

 「それもそうでち」

 「つまり、何らかの形で世界を救える

 それが、あの転生者どもがうっかり達成しかけた勇者の勝利条件

 いや、奴等がやりかけたのはこちらの世界の勇者の勝利条件なんだけどな

 

 二つの世界の融合が波の果てだ。ならば、片側の世界を滅ぼせば、融合先が無くなって波は終結する」

 「つまり?」

 「奴等は自分達が強くなれるしとうっかり勇者を追い詰めすぎてんだよ。あのまま他の勇者武器まで奪っていったら、融合の際に女神が降臨する土壌を作るどころか向こうが一方的に滅ぶだけで終わる。そして波は終わり、女神は来れず、再び波を発生させられるまでに長い時間を要する。勇者の勝ちだ」

 と、でっちあげる。いや、これ割と真実混じってるとは思うがな。確かグラスは自分達の世界を救うためにこの世界を犠牲にしようと波に乗じて攻めてきた。向こうは既に四聖が3人居なくなってるはずだからな、此方の四聖を消して何とかと思ったのだろう。逆に言おう、あっちの世界もう四聖が一人、眷属も幾つか奪われているとほぼ詰んでいる世界だ。更には何かグラスも生きてたっぽいが原作と違って扇を奪われていたりと更に侵攻は進んでいる

 つまり、だ。向こうの世界ほぼ終わってるというのが容易に推測できる

 

 「……じゃあ、波を支援して融合させれば良いんじゃないでちか?」

 「融合の際に向こうが勇者武器無さすぎて詰んでると此方が上書きして終わりかねない」

 因みにこれは嘘。ってか有り得るかもしれないが確信はないので現状は単なるホラである

 「なら、此方を弱体化させれば良いでち。きっと、弓とか倒してくれたでちよ」

 「……その上で多分どちらも詰みかけてるから普通に融合出来る、になるよりも向こうがやりすぎてうっかり滅ぼしちゃったてへっの方が多分早いと思った

 そもそもあいつ、考え無しに剣奪ってったからな」

 「剣だと駄目なんでち?」

 「そりゃダメだ。基本的に、俺が投擲具を眷属器と呼んでるように、あいつらは眷属だ。四聖の下だ

 ……そして、四聖の武器がこの世界の神のようなもの。向こうの世界には波による世界融合が完遂しなけりゃ持ち込める道理がないんだ

 つまり、あいつらは波が起きているから来れているだけなのに、向こうに持ち帰れないものをわざわざ選んで持ってったって事だ。波が終わったら抑えきれずに勝手に離れてくぞ。そんなもの持っても何の意味もない」

 ……因みにこれも嘘。転生者の力が本当に強ければ多分持ち帰れるし、そもそも強引に力を使えば俺は四聖の勇者だと大法螺吹いてこの世界に止まる手だってある。だから実際は意味はある

 

 「そんな馬鹿どもに賭けるよりは、向こうの勇者が何とかかんとか抵抗を続けていてくれる事に懸けた、それだけだよ」

 「……てっきりキレてうっかりだと思ってたでちが、考えあったんでちね……」

 表情が三種しか無いので真顔で、その悪魔はほざいた

 ……正解である。リファナを傷付けたから死ねでしかなかったのだが、誤魔化しは効いたようだ

 

 「ところでゼファー、飯は?」

 「食べたところでそのお腹の穴から出てくだけでちよ」

 「そりゃそうか」

 「ボクが作るものをそんな粗末にされると困るでち」

 「ってか作れるのかゼファーお前」

 そういえば、何かパーティで言ってたな

 「マスターはボクを何だと思ってるでちか……

 ボクは理想のお嫁さんとして作られたパーフェクト悪魔のベール=ゼファーでちよ?当然家事については万能でち」

 「ぽんこつでち公悪魔じゃ無かったのか」

 「いい加減怒るでち」


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