「ふーんふんふーんふーん
ふふふふふーん」
適当にへたっくそな鼻唄を歌いながら道を行く。割と調子っ外れなのは自覚があるが、やりたくて適当にやってるだけだし良いや
「らっらっらー、でち」
そんな鼻唄に合わせ、でち公が謎の合いの手を入れる
……なあゼファー、入れてみるのは良いがそこは拉麺6杯の箇所だからそんな合いの手を入れられても困るんだ。何か脳内で歌がズレる
そんな俺達が何をしてるかと言うと……リユート村の魔物商のところに来ていた。うん、何やってんだこいつら(自分の事だが)
因みに、尚文が何処に居るのかは知らない。パーティ組んでないからなもう。あれだ、気が付くと…ってか良く良く思い出してみるとアヴェンジブースト一瞬奪われて取り戻すってやった時に何でか視界やアイコンにブレが生じて、それでパーティ情報とか消えたんだよな。ゼファーともパーティ解消されてソロ化してたので気が付いた。向こうからすればああ、あのネズミ死んだなと思われてるんじゃなかろうか。パーティからふっと消えた訳だし
なのであの辺りの村で情報を集めて貰い(薄汚い腹に穴の空いたネズミよりは胸以外は幼いでち公の方が余程快く話をしてくれるので任せた)、リファナ等は無事で、ある程度容態が落ち着いたらポータルで飛んでったということは聞いた。じゃあ何処に飛んだんだろうと東へ向かう道中のあの地点にクソナイフポータルで俺も向かったのだが、そこじゃ無いらしい。俺が抜けたから東の山へ行く道理が消えたか。何で利益の無い樹の依頼なんぞ俺がって事なんだろう。しゃあなしである
樹とリーシアについては不明、多分メルロマルク国外にもうポータルで飛んでるからだろう。錬も知らん。元康は……波が終わった頃に起き出してふぉぉぉぉっ!して波の中心だった場所に突撃し、あの魚の死骸を一人で槍に全部修めて帰ってったとゼファーが言ってた。バレたらマスター死んでたでちよ感謝するでちだそうなので、頭を撫でたら満足した。それで良いのか悪魔
そして元康め、波にもその後の襲撃戦にも不参加の癖して波のドロップだけは美味しいところを総取りとはちゃっかりしてやがるな俺にもヒレ一枚くらい寄越せクソナイフに吸わせるから
なんて事はもう終わったことで
「おお、やってるやってる」
リファナに言われた通り尚文は守った。だからもう良いだろネズミさんは死んだって事で暫く気ままな転生者やるわ、という気分で魔物商から適当に生き物買いに来たのである
具体的に言えばフィロリアル。誰か勇者がフィロリアル育ててないとと思うのだが、尚文の奴リファナがうっかり大当たり引き当てることに成功したからドラゴン連れてるしな、もう尚文には頼れない。じゃあ俺が代わりに育てるわ、足にもなるしという奴だ
「すみませーん!盾の勇者様に守られた魔物商のお宅があると聞いたんですがー」
「あ、はーい」
呼んだら出てきた。普通の人だな
「その盾の勇者様にあやかってその場所の魔物が欲しいんですけど、一匹売ってくれませんかー」
耳ぴくぴくさせつつ尻尾はわざとらしくぶんぶんと。盾はメルロマルクではクソ扱いされてるがシルトヴェルトでは神。それを知っているはずだから亜人が言えば違和感無いはずとわざと亜人であることを強調
「お金は?」
「ふっふっふっ、無いでち」
「いやあるだろゼファー」
「ボクの手元には無いでち」
「そこは言わんで良い、俺が払う」
と、金貨を見せる。実際には金貨は単位がデカくて使いにくいんだけどな、逆に言えばそれなりに裕福でないと持ってすらいない。普通こんなの貧乏人には無用の長物だ
「ん、じゃあ……何が良い?」
「フィロリアル!」
「フィロリアルかぁ、離れたところにあるフィロリアル牧場の方が良いのが」
「盾の勇者様が守った場所の、フィロリアル」
「あ、はい」
…あ、出てきた
卵だな
「卵でちね」
でち公と顔を見合わせる
「……フィロリアルの?」
「はい」
「じゃあ良いか。成体より楽しそうだ」
ついでに、一応確認も出来るな。フィロリアルってのは元々勇者が作った人工の魔物だ。普通の魔物じゃない。そのためか、勇者が育てた場合のみの特例進化形態があるのだ。それになるか否かでクソナイフを持ってる俺が勇者認定ある程度されてるのかどうかがわかる訳だ。碑文に関しては、この先は正規勇者のみで半端だったしな…なるかならないかの二択なフィロリアルはその点多分半端にはならないはずだ
ということで、色をつけて銀貨300枚を支払い、フィロリアルの卵を買う。果たしてどんなフィロリアルが生まれてくるのやら
ということで、晩飯を…
「駄目でち」
「何故だゼファー」
適当に買うかと思ったら拒否られた
「買うとか勿体無いにも程があるでちよ」
「安くてそこそこ美味い、勿体無いとか言うのは祭りの時くらいだろ、あれは祭りの空気で高いが」
因みに、ルロロナ村での祭りは…所詮外からの参加者とか居ない内輪だけのものなので無料だ。まあ出し物は有料だったり無料分に限界あったりするんだがある程度の量はな。大人は金を出しあって祭りをやる側だけど。そこらは……狸の親父のお陰だろうな、そうでなければ親無き鼠な俺とかろくに楽しめなかったろうし
「勿体無いにも程があるでち
マスターは全く分かってないでちね」
ふふん、と無駄に豊かな胸を張る悪魔
「何がだよ」
ぽん、と悪魔の奴は胸を叩く。あ、揺れた。どうでも良いな
「ボクを見て何にも思わないでち?」
「ゼファーだな。実は入れ換わって俺を殺しに来たとかそういう冗談は要らないぞ」
「ち、が、う、で、ち!」
……いい加減怒りの表情くらい覚えないだろうか。元々要らないからと表情3パターンしか無いにしても、真顔でキレるなでち公
「怒りの表情練習するぞゼファー」
「それは後でち
マスター、ボクの服装は何でちか?」
「何時ものメイド服。そろそろ洗え」
「……これは3着目でち」
「変えてたのかよ」
「そうでち。悪魔宅配サービス舐めるなという話でちよ」
考えてみれば、その気になればこっそりほとんどの場所から伝説の武器を盗み出してプラド城に保管できていたのが悪魔だ。洗って宅配くらい出来るのだろう。壮大なシステムの無駄遣いである。疑問は……持ったら
「ボクはメイドでち。しかも、理想のお嫁さんとして作られたスーパーヨメイド悪魔ゴッドでち」
「悪魔に神は……居るか」
「そんなボクが居るのに外食とかボクの無駄遣いにも程があるでち許されないでち」
……何いってんだこの悪魔
「今まで言わなかっただろゼファー」
「マスターと二人になることがほぼ無かったでちからね」
……そういやそうだな、と頷く。ずっと尚文一行に混じっていたからな
「じゃあ見せてみろゼファー、お前の性能とやらを」
「ふっふっふっ、任せるでちよ
涙の用意は良いでちか」
そんなこんなで、悪魔が作ってきた料理(串焼きだった。材料は買いたいでちしたら譲ってくれたものらしい。美少女外見は得だ)はというと……
「美味いな」
「当然最高に決まってるでちよ」
「尚文の次に」
あ、固まった
「け、けなされたでち……」
「いや、二番目って事だぞ」
尚文は反則だからな。チートだチート。嫁を目指して作られたのは嘘じゃないようだ
「だとしても全く誉められた気がしないでちよ
……ボクはこれまでこんなに勇者が憎いと思ったことは無いでち……
尚文殺すべしでち……何ででちか……愛情なんて無さそうな料理に負けるのは納得いかないでちよ……」
「そりゃ、あいつの盾料理に補正かけるスキル多いからな。旨さそのものを固形化した調味料を上から瓶ごとぶっかけてるようなものだ」
「マスター、ボクに勇者武器を奪う力を教えてでち……」
「ゼファー、お前には無理だ」
ってか、そんなにショックかよ。本当にAIかお前。そういう奴の方が楽しくて良いんだけどな