パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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双子のフィロリアル

「痩せたでちね」

 「そう思うなら朝飯は?」

 「酷いこと言ったマスターはご飯抜きでち。ボクも抜くから一緒に反省するでちよ」

 「じゃ、俺は朝御飯としてストレージに入ってたウサピルの肉でも焼いて食うから。ゼファーも要るか?」

 「わ、ワイルドマスターネズミにはボクの抗議が効かないでち……」

 『称号解放、†ワイルド☆マスター☆ボケネズミ†』

 ……飾るなそこのクソナイフ

 

 腹の穴は、割と治った。ネズミさんの魔法を舐めるなという話。リファナに使えば体力削って死ぬ魔法だが、この俺は生命力には自信があるネズミだ。ネズミはイタチと違って生き汚いからな。亜人には無関係だが

 なので、魔法で治癒力を活性化して寝たらまあ痕はまだまだ残ってるけどとりあえず空気は通らなくなった。数日でシックスパックに戻……いや別にそんなに割れてなかったな腹筋。鍛えてはいてもネズミはムキムキではないのだ。機動要塞マッチョタイガーなフォウルと違って基本は非力なスピードタイプなんだよハツカ種ってのは。まあ、フォウルの奴も細いマッチョだが

 

 なんてのはおいておいて、旅を続ける

 とりあえず、勇者ユータのフリをするために幻影を張っておいて…

 日が昇りきる頃、一人の旅人と出会った。フードを目深に被っていて、逆方向からふらふらと近付いてくる

 ……水不足だな。恐らく。背の荷物がろくに無さそう。まあ、俺も端から見れば似たようなものなのだが、俺にはクソナイフがある。ドロップストレージは不可逆だが、逆に言えばストレージから取り出すだけならタダで出来る。ストレージ内には尚文達のレベリングの際に溜め込んだブツが沢山まだ眠ってるぞ。一部は強化に使ったし一部は売ったが流石に大量に売ると変だからな。リファナ達の前ではそんなに大量にもの持ってってないってのに

 此方を見掛けると、突然走り出した。お、おいどうした?

 

 そして駆け寄ってきて……

 はらり、とフードが取れる。いや、取ったな

 「水を…」

 ……身なりの良い女性だ。年のころは……10代後半ってほど。この辺りで一人旅するには何とも変というかミスマッチ。ゼファーが一人で歩いてたら違和感あるように、彼女も……他に誰か横に居るべき人材に見える

 「はいよ、水」

 と、放り投げる

 顔立ちは……中々だな。とはいえリファナ以下、なのは当たり前なので基準を変えよう。瑠奈以下。当然過ぎるな瑠奈以上とか居ない、リファナが同等ってくらいだ。ゼファー以下。うん、しっくり来る。ラフタリア以下、そうだな、そっちの方が良い

 「あ、有難う。私はリネル、えっと」

 少女が言い悩む

 「あ、俺は……」

 投擲具の勇者ユータと名乗るべきか一瞬言い淀み

 「ユータ・レールヴァッツ」

 「ファスト・プラズマフィスト」

 冷たく告げられた言葉に、思わず魔法をぶっぱなした

 

 「マスター!?」

 「ユータ・レールヴァッツ

 それが、投擲具の勇者の本名か」

 「……?」

 ゼファーが首を傾げてる

 「ゼファー、こいつは……勇者ユータの女、つまりは投擲具の元の持ち主の仲間だ」

 「ユータを何処へやったの!貴方はユータじゃない、どうして!」

 あ、プラズマフィスト解除しやがった。ファスト級とはいえ軽いスタンガンなんだけどなあれ。怒りの力は……いや愛かなこれは。愛は偉大だ

 「冷たい冷たい、二度と会えない地面の下だよ」

 これ見よがしに、くるくるとクソナイフを回してみる。何時もの偽・フレイの剣ではなく、弱めの姿を選んで次々ころころと変え続ける

 「ユータを、殺したの?」

 きっ、と少女が此方を睨む。あんまり怖くないな、勇者の敵討ちだってのに

 

 「返して!それはユータの力!」

 「……うぉい!」

 いや、突っ込むまい。ラフタリアだって、タクト辺りに盗んだ盾でイキりだす逝く結末(さき)も解らぬままされたらそれはナオフミ様の力ですって言うだろうし

 

 「いや、それ以前に……」

 「ユータを殺し、その力を奪い……許さない!」

 「あっそう」

 クソナイフ。勇者の敵討ちに燃えるあいつの所に行きたいか?なら行って良いぞ

 と、拘束を軽く緩める

 ……行く気配がないな。何となく知ってたけど

 

 「マスターマスター。そもそもマスターが各勇者の噂語ってくれたでちが、投擲具の勇者って召喚された者のはずでちよね?」

 「だな」

 「ならば、姓がレールヴァッツな筈が無いでちよ」

 「だよなー」

 ああ。薄々気が付いてはいたんだ。ただ、それを認めるとそもそも俺の行動の最初からズレてる事になるから、そんな筈無いさ終わったことだしと眼を逸らしてただけで

 ユータ・レールヴァッツ。勇者にあやかって日本風な名前が付けられるこの世界では有りがちな、日本ではハーフ辺りでたまーにという珍しい名前の付き方。そして勇者武器ではなく、個人の力とする仲間の思想。つまりは……そもそも俺が殺した投擲具の勇者ユータ、本名ユータ・レールヴァッツは転生者で正規勇者じゃない

 

 うん。正規勇者の敵討ちした上に勇者側に手貸してるとか端から見れば裏切り者過ぎるぞ俺

 「エアストスロー」

 さくっと、首を跳ねる

 「あ、ゆー」

 何か言いかけたな。その前に地面に首が転がって終わったが。リネルぅぅぅっ!とあの転生者が突然あの世から帰還してくる気配もない

 「はいはい、ファスト・レビテート」

 ということで、軽く穴掘ってその死骸を埋める。転生者じゃないし、跡形もなく消し去るほどの事もないだろう

 

 「……クソナイフ。お前の最初の勇者俺がパクる前にもう死んでたのかよ」

 抗議のようにつついてくるクソナイフ。全く痛くない

 「そうみたいでちね。マスターも転生者としては内輪揉めやってただけでち」

 「そうみたいだな」

 「マスター、そんな内輪揉めの原因なゴミカスクソウェポンどもなんてとっとと見捨てるでちよ」

 なんて、ゼファーがほざきだした

 ゴミカスクソウェポン。実に酷い名前だ。ぼったくりクソナイフの方が何倍かマシだぞ

 「確かにこいつはぼったくりクソナイフだが、ゴミカスクソウェポンは酷くないか?」

 「酷くないでち」

 「ってか、捨ててメリット無いだろ」

 「マスター、マスターが本当にあのイタチを守りたいならば、ゴミカスクソウェポンは見捨てるべきでち」

 「いや、転生者的にも奪っておくべき武器だからな?」

 どうしよう、ゼファーが壊れた

 「それは肯定でち。そもそも、ボクとしてはあのイタチは死んで良いイタチでちから」

 「リファナに手を出すなよ?」

 「出したらボクは殺されるでち。そんなこと分かっててやる訳無いでちよ

 マスターに殺されるのだけは嫌でち」

 と、背中の卵が揺れた

 

 ……ひょっとしてあれか。殺した人間の経験値で……

 うわぁ、嫌な孵り方してんな

 「っと、ゼファー

 そろそろ卵が」

 「……そうでちね。言い過ぎたでち」

 元に戻ったでちと共に、卵を降ろして見守る

 にしても、突然勇者武器を思いきりdisり出してどうしたんだろうなあの悪魔

 

 なんて思っている間に、卵にはヒビが入り……

 『ピィ!』

 『ピヨ!』

 二匹……いや、二羽の鳥が顔を出した。片方は黒い色を基調に、少しだけ銀の差し色。もう片方は逆だ。対のようで、実に双子っぽい。遺伝子的には変じゃないか?と思うがフィロリアルにそれを言っても無駄だ。フィロリアルだもの

 「ふた、ご?」

 「双子でちね。お得でち」

 「……食事量が普通のフィロリアルの二倍だな」

 「……そうでちね」

 真顔で、その悪魔は頷いた。今の真顔は割と似合うなゼファー

 『『ピヨピィ!』』




因みにでちが気が付いたこととは、以下になります。故にでち公は思ったわけですね、勇者武器ってクソでち、と。オリジナル設定の塊ですのでご注意を
また、シナリオ後半までネズ公が気がつかないネタバレ過ぎるので、透明化して書いておきます。今の時点で知っときたい人やひょっとしてという疑問に対する回答が欲しい人のみどうぞ
ネズミさんこと投擲具の偽勇者マルス。彼は本来転生者でも女神の尖兵でもない
盾の精霊アトラ(竪藍阿寅)により本来の辿るべき世界線を教えられた上で世界を救うために送り込まれた、勇者側の本来存在しない二週目限定のジョーカー
原作における女神と嘯く者が死ぬ間際に龍刻の長針のようなもので強くてニューゲーム出来てしまったらとするこの世界において今度こそ女神が尚文等に勝つために大量に集められ送り込まれた新規転生者の一人
勇者武器(盾と雷霆)によって本来の勇者武器を魂の奥底に封じ込められ、『単なる強い異能持ちの転生者に出来る不幸な出来事で死んだ魂』な女神側にちょうど良い餌のフリを無自覚なままさせられ女神に向けて精霊側から差し出された獅子身中の虫
彼ならきっと封印された状態からもう一度勇者として覚醒し直してくれるよねとそれらの事情を魂の奥底で眠っている本来の自身の勇者武器から一切告げられぬままの、川澄樹の出身世界における眷属器のひとつ『雷霆』の勇者こと御門讃である
因にだが彼が勇者武器を扱える理由はとても簡単である。本来の勇者武器が自分の意志で眠りについている彼の状態が、他の勇者武器からすれば盾を表面上タクトに奪われた尚文とほぼ同じものである為、彼に呼ばれればそれよりも優先すべき事が無い場合に特例として力を貸しているだけである。女神に与えられた力は勇者側によって既にそのように変質しており、彼は本来の勇者武器を奪う力を使えているわけではない。また、彼はどれだけ封印されていようとも、既に『雷霆』の勇者である為、『投擲具』の勇者には成り得ない

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