『ピッピッピィー!』
ご機嫌な鳴き声が響く
……あれから2日。適当に魔物を狩って食わせつつ、歩みを進めていた
にしてもデカくなったなこいつら。もうでちと背丈あんまり変わらないぞこいつら。俺よりは背丈が無いがまあ、小柄なハツカ種とはいえ俺は外見成人だからな。前世の尺で言うならば160cmはあるぞ(頭の上のネズ耳含む)。胸以外は10代前半な作者の嗜好が知れるでち悪魔とは違うのだ
……全体的にちっこいな
そろそろ馬車が引きたくなってくる頃だろうか。大分デブ……いや丸くなってきた。いや、馬車を引きたくなる鳥って本当に何でそんなもの作ったんだよ昔の勇者。普通に乗れよ変なオリジナリティを何で組み込んだんだ
『ピヨ!』
地毛が黒い方……リヴァイは何かゼファーの回りを回っている。ゼファーにはなつき、俺にはそうでもない。このエロリアルが。因みにムゥは逆……ってこともなく、俺にもゼファーにも割となついている。リヴァイの奴、俺が餌投げても無視するようになりやがったぞ、魔物紋は俺個人持ちだけど何やってだエロリアル。そして兄妹だからか、二羽の仲は良いようだ。喧嘩は見たこと無いな
なんて特に見所も無い道中
「ムゥ、取ってこーい!」
手慰みに魔物使いのフリスビーⅢに変えたクソナイフを投げて取ってこさせる遊びなんてやりつつ。犬相手かよとなるが、楽しそうに取ってくるのだから仕方ない。クソナイフだけあって、速度とかある程度調節出来るからな。RCクソナイフリスビーだ。フリスビーなんぞを形として選んだ以上こうして遊ばれる為にやったんだろクソナイフ?
と、投げたものはジャンプしたリヴァイに取られる。お前が取るのか
『ピヨォォォッ!』
勝ち誇るな羽根を広げるなおい。まあ良いや
丸っこいが、今のところ成長はここまで。変な成長を遂げる兆しは無い。やはりというか、パチモノ勇者では正規勇者が育てた場合のクイーン化とか起きないのだろうか。まあ、リヴァイはキングだが。キングフォームとかあいつ喜びそう……だろうか。俺はカッコいい名前と思うが奴等リヴァイアサンなんて名前を喜ぶ鳥頭だからな。単なる王なリヴァイフィロリアルキングフォームとかじゃなくてリヴァイマジェスティとかの方が良いのかもしれない。って俺が考えることでもないな
因みに二羽のレベルは10ちょっとだ。逆らわないのを良いことに思い切り極限育成をしている。レベル上げては1まで戻して資質向上という感じ。資質向上資金は道中狩りで賄う。まあ、ここは仕方ないな。他人に資質向上かけること自体がオーバーカスタムによる機能だしな
村……が見えたが華麗にスルー。疫病の村なんぞわざわざ訪ねる意味あるか?薬もないし
遠目に見ても尚文等が来た様子はない。疫病は蔓延したままだ
知らねぇな。確かこの疫病の原因は錬の倒したドラゴンの死骸だ。とはいえ、あいつら錬が倒したドラゴンそのものには興味がない事を良いことにドラゴンの死骸から素材剥いで売り払い金を得ていた……はずだ。ついでに、ドラゴンの巣を襲撃して金目のものを取りつつ卵やら幼竜を叩き潰してもいた、と原作にはあった
結果処分しきらなかったドラゴンの死骸が腐って疫病得たとか半分自業自得だろそんなもの。得たあぶく銭払って自分で治せ
ということでそのまま山へ向かう
「バチバチして気持ちいいでちね」
「……これで良いのかよとは思うけどな」
アヴェンジブースト第二段階。回りにスパーク纏う半端に逆立つ青白い雷撃の姿。とはいえ、別に金髪にはならないし超戦士にも覚醒していない。それでも回りの電子機器を狂わせる程度は出来るし、毒素も勝手に分解されてるっぽい生前から自在にここまでは変身出来た姿
それに意識してなっておくことで、回りの空気は割と綺麗だ。気にせずともどんどん進める
『ピヨ!』
「って範囲から出るなよリヴァイ。お前生まれてからまだ二日くらいなんだから病気になったらどうすんだよ」
と、魔物をぶっとばしつつのんびり語る
毒持ちの変異種だらけだな。雑魚ばっかだが毒液がうざい。近付いて切り付けるとその血が毒なんだよな。まあ、クソナイフを投げてる分には無関係、でちもどっから取り出してるのか知らないが弓矢でほいほいと射抜いていくから良いんだが、フィロリアル二羽はな。足で蹴ると毒がついてピイピイ言うのだ。ネズミさんは洗い流す水の魔法とか使えないから止めてくれ
ってのに、フィロリアル二羽は興味深そうにやって来る魔物を見て勝手に蹴りにいくから困りもの。置いてくるわけにも行かないけどな
ってな感じて登って行き、数時間かけて漸く山頂近くに辿り着く。ドラゴンの死骸が漸く見えてくる
……だが
「……」
「……見事にばらばらでちね」
「ああ」
その死骸は、多分かつてはドラゴンのものだったんじゃないかなーって惨状であった。いや、ドラゴンのだな。腹部には大きな傷。恐らくはそれが致命傷だったのだろうというもの。内臓が零れおちていて、腐敗が酷い。虫の魔物の幼体が蠢いてるし、焼き払いてぇなこれ
だが、それだけではない。液状化したドロドロの肉が翼等の骨を覆うように散乱していて。その胴は10mはあろうというこの巨体をも更に越える巨獣に襲われたように、巨大な爪痕を残して4つのパーツに引き裂かれていた
「……爪」
いや、どうだろう。まっさかねぇ……
……とりあえず、蘇ってくる気配はない。なので無視して、更に先へ
そうして、巣であろう場まで辿り着く
其処には、一人の少年が立っていた
……いや、少女か?中性的というか、胸がないというかでちょっと見分けが付かなかったが、スカート穿いてるし。体つきは……線の細い男ならあんなもんかなって感じ見分けがつきにくい
その少女は、何かを表情の抜けた瞳で見下ろしていて
何かな、と見てみる
「……ああ」
思わず生きを吐いた
其所にあったのは、無惨にも惨殺されて転がるかつて少女であったもの。顔は傷付かずに残り、死んでから2~3日といった程度なのかあまり腐敗もしていない。傷は一つ、脇腹が抉れているくらい。それが致命傷だろう。そして回りに、あの竜の死骸を引き裂いたのと同じような三条の爪痕。脅しなのか、少女の死骸の近くを走っている
淀んだ風が、少女の死骸の頭の犬っぽい耳を揺らした
ん?犬っぽい……耳?
何だろう、嫌な予感……ってかもう分かってる。谷子だこいつ
……なあ谷子?何でこんな所で死骸になって転がってんだ谷子?何となく予想が付くけどどうなってんだ谷子?
ん?クソナイフが震えてるな、怒りに震えて……な訳無いな。特定の武器が呼んでる感じ
その意図のままに任せ、姿を変えさせる。しなやかな流線形の投げナイフ、ンテ・ジムナの剣か
それに、何かが吸い込まれたように見え……
ふっと、眼前に場景が浮かぶ
生前の犬耳少女ウィンディアが、人好きのする……と一般的には言うのだろうがどうにも俺から見ればクソッタレな本心を隠しきれてないと言わざるをえない笑みを浮かべた金髪の男に向かって啖呵切ってる場面だ。私は死んでもアンタなんか好きにならない、と
それでも金髪……タクトは言い寄り、何のかんの連れてきたらしい狐耳やら龍やらがタクトがどんなに素晴らしい男か解き、父の死骸を傷付けるようなと尚も少女が突っぱねた所で閃光が走り、視界が元に戻る
そして、俺のSPがさくっと半分減った。減りすぎだろどうなってんだ
見ると、解放されたは良いが良く分からなかったンテ・ジムナの剣のスキルが一つ解放されてる。もう一個のスキルであるアストラルシフトはまだ黒く消灯してるが
スキル、ソウルテスタメント。対象の最後の意志を見ることが出来るスキル、か。使いようは……あるのかこれ?
とりあえず、事態は把握した。嫌な予感は当たっていたようだ。うん、蘇ってこないなーとは思ってたんだ。蘇って来る訳無いなあの死骸。ドラゴンゾンビ化した上でタクト一行に殺され、竜帝の欠片奪われてるわあいつ。何やられてんだ最弱の竜帝ガエリオン
……で?何でタクトの奴こんなところまで出向いて竜帝の欠片集めてんだよ、原作では此処にきて竜帝の欠片取ってくのは尚文達だったはずなんだが……
因みに谷子は、竜帝の欠片を得て更に調子乗ったタクトが口説き、竜キチ義娘だった谷子がそれをつっぱねたから俺に惚れない女の子なんてと殺された訳だな。大丈夫かタクト?女の子が全員自分に惚れて当然で惚れないのは可笑しいとか本当に頭大丈夫かタクト?
閑話休題
今は黒髪のショートボブカットくらいの少女の方だ
ぼんやりと、という訳ではなく痛々しそうに谷子の死骸を見下ろしている
「……君は?」
聞いてみる
暫く無言で、程なくして漸く此方に気が付いたように、少女は呟いた
「……レン」
レン。恋、蓮、錬
いや違うな。天木錬は男……のはずだ。うん、中性的な外見で黒髪だけどあいつは男でスカートなんて穿かないはずだし胸もない
胸も……良く見るとちょっとあるな、詰め物でもしてなきゃこの子は女だろう
だが、一応ちょいと転生者パワーを振ってみる。天木錬ならば剣が反応するはずだ。剣はリョウから取り戻して送り返したからな、錬のところに帰ってきているはずだ。まっさか帰る最中にタクトに遭遇してパクられたとかそんなギャグオチはあるまい
反応は……無し。タクト相手に使ったときのように全力抵抗されればほぼ関知出来ないが、そういう訳でもない。ってか、一瞬だけ俺も使ったからな、剣のオーラってか気配は何となく分かる。そのネズミの勘が、間違いなくこの少女は勇者の剣を持ってないと告げている
つまり、レンは錬とは関係ない単なる女の子だな。レンってのは恋とか書いて女の子の名前にもなるし、昔の勇者にそんなの居た気がするし、勇者にあやかって日本名っぽい名前の子供とか割と多いからそんな普通の子だろう
「何でこんなところに」
「……ここの、ドラゴンに」
「ああ、なるほど。それ以上言わなくて良い」
まあ、ガエリオンだしな。色ボケ竜だあいつは。ってか竜帝の欠片は基本色ボケ竜のはずだ。タクトにぞっこんな色ボケしかり、大量の子供を作ってたガエリオン然り。恐らくこの少女も、ガエリオンの奴が拐ってきたのだろう。谷子の母代わりにしようとしたのか、性欲を持て余しただけか、或いはあいつ谷子大事にしてたし谷子を人間の社会に連れて帰らせるために一旦浚っただけでドラゴンハーフのママにする気は無かったとか色々と考えられるが……
今更だな。谷子もガエリオンももう居ないのだから真相なんて永久に地面の下に葬られた後だ
ネズ公よしっているか
剣側がわざと帰らなければ剣を持ってない天木錬が誕生する。そして天木錬は責任感が強すぎるからこそ責任を負いたがらないしそれを知ってる剣は一度離れたからと向こうから責任やっぱり果たすよと呼ばれるまで帰ってこない事を選んでも可笑しくないのである
はい。つまりはそういうことです。やったね錬。天木錬ちゃんだよ
また、ガエリオンだ谷子だについては次回解説するのでその辺りわからなければ死んでるドラゴンがガエリオンで、死んでる犬耳が