目が覚めた時、視界に映ったのは知らない天井であった(様式美)
……ってカビ臭、掃除されてないなこの謎の場所
……真っ暗である。いやまあ仮にもハツカ種の亜人である俺は習性上かなり夜目が利く方なので普通に見えてはいるのだが明かりが何もないくらいに暗い。多分普通の人間だと真っ暗闇で何にも見えないんじゃなかろうか。換気用の窓とか日光取り入れる為にも付けとけよこの部屋の主。いや、多分だが完全に地下だろうし窓がないのは当たり前なのだが愚痴る。カビ臭くて空気も澱んでいて環境が悪すぎる
で、此処は何処だよ。何だか知らないが手錠でもって両腕拘束されて吊るされてる訳だが
いや本気で何があった
確か転生者の癖に勇者っぽい波を一人で鎮めるなんて事をやらかした結果産まれながらに仕込まれてたんだろう安全装置の心臓病か何かで死にかけた事は覚えている。あれで死ななかったのは運が良かったのか言い訳が通ったのかそもそも殺せるだけのパワーが無かったのか執行猶予なのか何なのか
……とりあえず、そういえばあったなという視界の端の砂時計のアイコンを注目する
……時間は微妙な表記だな
確か波は始まってから基本的に一月毎に来るようになるのだったか。あの時起きたのが初めての波であったはずだから、盾の勇者本編が始まり主人公岩谷尚文達が初参加する事になる波は今俺の視界に出ているこの波であるという事なのだろう
確かだが、勇者が召喚されてから尚文が冤罪にかけられるまでが二日、三日目に転生者と並ぶ女神の尖兵クソビッチに裏切られて本編が始まる。そこからひとりぼっち期間が2週間、ラフタリアを買ってから1週間ちょっとで波、というスケジュールだったか
つまり、逆算すれば4週間前よりは後に勇者召喚はされるという訳だ。一月後に波がくる訳だから、波から数日で四聖勇者が召喚されると
……今の残り時間見るに、もう勇者召喚されてるんじゃないだろうかこれ。そもそも原作通りに進むのかこれ?確か最初の方で本編で尚文が要約していた事によると、波の伝承を舐めてたメルロマルクは波で多大な被害を受け、何とか騎士と冒険者達で波を鎮めた。だがこの先波が強大になれば抑えられない事を痛感し伝説の勇者の召喚に踏み切ったという話だったはずだ
……オイ杖の勇者。お前七星だろ何ほざいてるんだと言いたくなるが、まあ四聖召喚の方便だろうし仕方ないか。正規七星勇者の癖に四聖の一人を冤罪にかけて殺そうとする辺りは俺並に質が悪いが
それはともあれだ。被害は出たには出たが、本来は波で滅ぶはずだった村、普通に俺が投擲具の勇者に化けて守りきってしまった訳だが。多少の犠牲は出たものの勇者一人が片付けてしまった、と勇者が来ず多大な犠牲を出して鎮めた、では完全に周囲から見た危険度が違いすぎる。七星の武器で所有者が見つかっていないのは小手だけ、という話になっていたはずであるし、七星勇者が居れば良いんじゃない?とそもそも四聖呼ばれず本編始まらない可能性があるぞオイ
……まあリファナが死ななかったんだ、それくらい仕方ない差か
とりあえずは世界より俺の現状だよ
ステータスを開いてみる
『醜い鼠の子』マルス
職業 奴隷 Lv1
装備 奴隷の服
仕込み吹き矢(伝説武器)
奴隷紋
スキル エアストスロー etc.
魔法 ミスディレクション etc.
……職業奴隷にクラスアップしてレベルが1になっている
寧ろクラスダウンか
……行き倒れネズ公拾ってとりあえずレベルが自分より高かったからか亜人への恨みからか龍刻の砂時計でレベル1に戻して奴隷紋刻みやがったな拾った奴
ふざけるなオイ。と言いたいが死ななかっただけマシか
と、言いたいんだが……ステータス下がってないな。寧ろレベル40だった頃よりも上がっている
ん?ポップアップが出た。これは……履歴か?
……レベル下げられる前にオーバーカスタム、資質向上が発動している。レベルを40から1にして還元したレベル分の力をステータスに振っている。これも勇者の強化方法のひとつだ。本来はレベルを1にまでする必要はないが
おいクソナイフ、この資金どっから出した、って村に入れるために残してた金勝手に吸いやがったな
よくやった、この現状ではあの金もレベルもお前が吸わなかったらどうせ取り上げられてたものだ、素直に礼を言おう。でも下がってないのはどう言うことだ
……あれか、七星武器を持ってるパチモノ勇者な転生者のレベル1は七星武器無い奴のレベル40よりステータス普通に高いのか。割と理不尽だな勇者
「フロートダガー」
スキル名を呟く。普通に虚空にダガーが出た
それでもって腕を縛る鎖を軽く切り落とす。この点ホント便利だクソナイフは。さらっと魔法封じるように造られた鎖も破壊できるんだから
奴隷の服……という名の襤褸布に刺さっていた針を引き抜き、ダガーに姿を変える。……針って吹き矢カテゴリの投擲具だったのか。呪いのように付いてくる武器であり、針の姿になってたから取り上げる際に見付けられなかったな。小回りの利く奴だ
とりあえず、ぐるっと見回せば牢獄だ。地下牢という奴だな間違いない。見張りは居ない
当たり前か、本来レベルを1にするのは重い罰だ。ステータスが下がりすぎてまともに動けるはずがない。見張りなど居なくても逃げられるわけがないのだ
此処に例外が居る訳だが
とりあえず、クソナイフでもって探してみると腕に刻まれてた奴隷紋は壊しておく。本来勇者は奴隷紋を弾くので、七星武器で壊そうとすれば簡単に壊れた
鉄格子もさっくり斬って、そのまま外へ
幻影魔法も使ってこそこそと出る。残念ながらプラズマで強引に光を屈折させているだけなので触れられる事までは誤魔化せない。だから人が見てないことを確認しなければ扉を開けたり出来なかったのが難点ではあったがあっさりと出られた
……
地方領主の館だな。冒険者として村出た後に遠目に眺めた事はある。一ヶ月ほどこの街拠点にしてたからな。村からはまあ歩きで1日かからないくらいだ
……帰るか、村
腹いせに館に放火でもしてやろうかとは思ったが無益過ぎて止めておいた
そうして、村に再び帰り着くと
村は其処にはすでに無かった
有るのは焼け野原だけ。魔物の死骸と共に、家であったものの残骸と乾ききって染みになった血糊が散乱している。だが、遺体は一つとして無い。あれだけの血が流れて無事な訳がないだろうという血溜まりも、引き摺った跡と共に死体は消えている
……少しだけ探し回り、旗が靡いていた村役場の残骸辺りに、こんもりとした山を見付ける
地面を掘り返し、そして埋め直した痕だ。端がちょっと焦げた折れた旗が、その小山の頂点に横たえられている。そして小山の前には花束代わりだろうか、数本の珊瑚とビンの安酒が供えられていた。顔役の好きだった銘柄だ
「……サディナさんか」
恐らく、遺体が一個も無かったのは全員集めて此処に埋葬したからだろう。酒が添えられているという事は、顔役も此処に
何も置くものを持っていないから手だけ合わせ、両親の遺した家へ
見事に残骸だ。カチ割られた地下への扉とかが辺りに転がっている。この荒れよう、魔物の仕業っぽい乱雑さだが不自然だ。波の魔物は倒しきったはずだ
リファナは無事なのか、この村に何が起こったのか、リファナは無事なのか、他の皆はどうなったのか、リファナは無事なのか、それらを確認するしかない
波の時にリファナ達を押し込んだ家の地下に降り、とりあえずは襤褸布から焼け残ってた服に着替える。海難事故で死んだ父鼠の服、処分せずに取っておいて良かった。サイズ割とキツいが襤褸布よりはマシだろう
そして、地下に仕込んでおいた映像水晶を起動。扉を鍵を使わず開ける、つまりは鍵外さず扉と枠が離れると起動して暫く辺りの映像を撮影するようにしてある魔法の水晶だ。盗難対策である
………………
…………
……
「……狸の、親父……」
パキン、と軽い音と共に握りつぶしてしまった水晶が砕け散る
其処に映っていたのは、一つの光景であった
燃え盛る火の中、兵士に押さえ付けられるリファナ達子供の姿。そして、泣き叫ぶ幼い狸娘を庇うようにして背中から剣で胸を刺し貫かれる海難事故で両親を喪った俺に良くしてくれた
自分を貫いた剣の切っ先が倒れた娘にまで届かぬように両の腕で体を支える姿が痛々しく……
「や、や……
やりやがったなメルロマァァァァルクぅっ!」
全てを理解した
波で厄介なセーアエット領が滅んでくれなかったからだ
波に対して勇者が必要だという世論に持っていく為に、ついでに目障りな亜人の村を潰すために、騎士団を使って村を滅ぼしてそれを波のせいだという事にして波の被害を盛ったのだ。後はこれだけの被害が出たからやはり四聖勇者が必要だと世界会議で声高に叫ぶだけ。滅ぼしたのは目障りな亜人の村だから痛くも痒くもなく世論も誘導できるという一石二鳥……いや、亜人殺しを兵士が楽しめるから三鳥の策だ
「ぶち殺すぞヒューマン!」
「叡智の、賢おぉぉぉぉうっ!!」
残骸のなか、吠える
理性を保てていたのは、リファナは捕まっていて、つまりは殺される事は無かったというその一点があるからだ。リファナが殺されていれば、今すぐどうなろうが構わず杖の勇者を殺しに行っていただろうが、そんなことすれば良くて相討ち。捕まって俺と同じように奴隷にされているだろうリファナやついでにラフタリア等を助けられない
それだけが、駆け出す足を止めていた
カースシリーズ、憤怒の投槍の解禁条件を達成しました。英雄武器によってロックされています
魂の異能、アヴェンジブーストを再修得しました