「……?
どうした、レン」
あれから2日後。ぎこちないレンに声をかけてみる。でちはフィロリアル二羽とお出掛けだ。って言ってもあいつらを走らせてる感じだけどな。この辺りの魔物撥ね飛ばして倒せるくらいには成長したからな。あいつらだけでレベル上げも出来る。レン?ダメだ馬とか乗ったことなさそうなので下手したら酔う。だからとりあえず走る調整とかを覚えてからだな。最終的には騎乗して戦えれば良し。って剣だとやりにくいか
因みにダチョウっぽい成体のままだ、変にクイーン化とかは起きてない
「い、いや。やっぱり慣れなくて」
と、微妙な表情を浮かべるレン。困っているようなそうでもないような
「そのうち慣れるだろ。波だって起こるんだ、一人で戦い抜こうなんて、勇者でも言わない言葉だよ」
「勇者は……強い、ってのは」
「強くてもだよ。一人では、勝てやしない。そんなこと、分かりきってる」
例えばだ。俺がこの世界に今ちょっかいをかけている女神メディア・ピデス・マーキナーに一人で勝てるかと言われるとNoだ。試さなくても分かる。リファナを殺されて復讐の雷を解放し、その上で制限なしに手を貸してくれるようになるだろう投擲具と完全覚醒したアヴェンジブーストをもってしても一歩及ばない。そう確信できる
まあ、尚文達は力を合わせてその女神に勝つ、って俺の読んでた小説ではなってた訳だからな。協力するというのはそれだけ大きな力になるのだ
……?いや、幾らジャンルが現実じゃない扱いされる超S級異能力でも何で女神相手にする時にナチュラルに切り札扱いしてるんだろうな俺。勇者の力でも神の力でも無いだろうに。いやでも、何故かは知らないがそういう風に思えるんだよな。瑠奈が死んでからしか覚醒しなかったしリファナが死ななきゃ覚醒し直さないだろうゴミカス異能の癖にな
「あ、あの雷でも……なのか?
ぼ……いや、見たことのある剣の勇者よりも明らかにレベルが違ったんだが」
「ああ、あれ?そりゃ剣の勇者達って異世界から来てロクに武器の強化も魔法の修得もしてないだろ?そんな赤子みたいな勇者と比べれば、そりゃ格が違うよ」
「あ、赤子……」
呆れたように軽く口を開くレン。よし、ちょっと実演でもやってみるか
「レン、ここにまあ弱いナイフがあるな?」
取り出してみるのは初期武器のナイフ。簡素で持ってても怪しまれないからロクに振ってはいないが持ってる時間だけは長い。お陰で熟練度とかは中々に溜まってる
それを軽く近くのモンスターに投げてみる。ヒット。だが、流石に素が弱すぎて倒せない
まあ、それを見せたかったんで良いんだが。呼び戻して二度、三度と投げる。三度目でその熊っぽい魔物は地面に倒れ伏した
「じゃ、これを熟練度変換して強化する」
オーバーカスタム扱いで金がかかるのが面倒だが初期武器だけあって安い。同じ種類の魔物にナイフを投げる。今度は二度目で倒れ伏した
「次にちょっと武器を鉱石で強化してみる」
鉱石強化を終えてから三度目の正直、また熊に投げると今度こそ一撃で沈んだ
おお、中々に上手くいった。上手く強化するごとに一発減ってくなんて本当にちょうど良いな
「こうやって強化していけば、俺くらいに強くなるって感じだ。あと10種類は強化出来るぞ?」
「……は?」
「あの剣の勇者は……多分一回目の強化、熟練度変換くらいしかやってなかったんじゃないか?」
「そ、そうなのか?」
「多分な」
「その熟練度変換?の他のが使えるってのは、本当なのか?」
「そんな事気になるか?勇者にしか意味のない話だけど
本当だよ。ってか当たり前も当たり前だろ。勇者武器は全て合わせてこの世界を護る12本の楔だ。昔は違ったかもしれないが、今はそうなった
ならば、その勇者武器の間でこの強化は使える使えないなんてある訳がないんだよ。何でわざわざ自分達で自分達の力を制限する意味がある。一つしか見えていないとしたら、他の勇者を、仲間を信じる心が足りてないから全強化を解放した際に力に溺れないか不安がられてロックでもかかってるんだろうよ
って、俺も投擲具の基本強化方法が"他の勇者武器の強化方法を金を支払うことで限界を越えて適用出来る"って言う他の強化方法が当然使える前提な方法だったからすぐに気が付いたってだけなんだけどな」
へぇ、とばかりに頷くレン
いやまあ、勇者関係ないと面白くもなんともない話だしな
「んまあ、そんな事より今は波だ。そのうち……」
ふと、視界の端にずっとある砂時計に目を止める
……いや、待て。何か見間違えたぞ
「……は?」
見間違いでは無かった。本物だった
「正気で言ってるのかこれ……」
「ど、どうしたんだ」
不安げに聞いてくるレン
「次の波は……明日だ
ちょっと待てぇぇぇっ!前の波から一週間経ってないぞオイ!大体1ヶ月毎だろうが一週間って間隔狂ってるだろ真面目にどうなってんだぁぁぁっ!」
『『『『グア!』』』』
どこか遠くで、野生のフィロリアルの群れが鳴いていた