『ピィ!ピィ!』
俺のネズ耳を銀の嘴がたのしそうに引っ張る
……って何やってんだムゥ。緊張感削がれるな。産まれた直後は確かに俺の耳で遊んでたけどさ
「ネズ……ミ、だよな」
「ああ、ネズミさんだ」
馬車を引くフクロウは大人しくしてる。会話は待ってくれるんだろうか。奇襲した割には律儀というか余裕というか。会話の最中にだってクソナイフのスキル撃つくらい訳はないぞ。リベレイションクラスの魔法とかはちょっとパズルやってられなくて無理だけどファスト級なら組めるしな
「!??」
レンが眼をぱちぱちとしばたかせている
いや、困り顔割と可愛いんだけどさ、とっとと起き上がって構えろよレン。俺が味方のフリした敵だったら今頃無防備過ぎてそこそこ薄い胸をざっくり開かれて死んでるぞお前
「改めて自己紹介しようか
俺の名はマルス。投擲具の勇者だ
さっきの姿はかつての投擲具の勇者ユータ・レールヴァッツ
言ってしまえば、先代のフリしてたんだよ」
「せ、先代のフリ……」
「んまあ、とあるあこれ死んだわって状況で、突如知り合いの投擲具の勇者が持ってたはずの伝説の投擲具が俺の手に天からの救援のように現れた」
嘘である。パクってその隙に殺しただけだ
「現れるものなのか」
「現れるものなんだ」
フクロウが頷く
俺が転生者でも何でもない単なるリファナの幼馴染のハツカ種で、単純に幼馴染等を守るために勝てるはずもなくともあそこで転生者等に挑んでいたとしたらきっとそうなってただろう。実際原作でも鳳凰戦でアトラが皆を庇って死んだ後、覚醒フォウルの前にお前のその覚悟を待ってたとばかりにずっと眠ってた小手が飛んできてたりする。本当に勇者足り得るか確かめたのだろうが性格クソだろお前。大切な相手を永遠に喪いそれでもと立ち上がれる心の強さをもって真に自身の勇者足ると認めるのは良い。英雄譚っぽさがある。良いがお前がそんな覚悟見てからじゃないとやーとか英雄譚っぽくとかの意地はらずに鳳凰前に小手に選ばれるか挑戦した時にとっととフォウルのところに行ってればあそこでアトラや他の皆死なせずに済んでるぞ多分。ってかフォウル以外に選択肢無かったんじゃないのかあの時何故渋ってんだ小手ェ!ぼったくりクソナイフ以外をあまり言いたくないが正直クソコテならぬクソ小手だろこいつ間違いなくクソナイフの同類だ
「で、新しくこのネズミさんが投擲具の勇者ってものになった訳。勇者の力で何とかその絶体絶命の状況は解決できたんだけどさ、そこで問題が出る
勇者ってのは一部からは神のように扱われる。メルロマルクで見ただろ、三勇教?あれと同じで、国によっては盾だったり投擲具だったり色々と神は違うけどあんな宗教多い訳。クテンロウとかでは勇者武器が自分の国に無いからちょっと馴染み薄いかもしれないけど、ここらはそういう国なんだ
で、そんな国で元々の勇者がどこかで死んで新しく俺がなりましたって言って簡単にはいそうですかってなるものでもない
神は死んだ。俺が新しい神だってそりゃ大混乱だろ?だから、向こうの管理者と話を通した結果、対外的には先代が死んでいないフリをしなければならなくなったって訳。ゴメンな、騙すような事をして。でも、そうそうバレるような行動をする訳にもいかなかったってのは分かってくれ」
「そういう、事だったの」
ゆっくり立ち上がり、頷くレン
おい、物分かり良いな大丈夫か疑うことを知ってるか。いや疑われても困るの俺だけど
「それで?話は終わったぞ馬車の勇者。仕掛けてくるならば、もう良いぞ」
青白く逆立つ髪はそのまま。バチバチとスパークを走らせて一言
……金にはならないな。金雷はあくまでも怒りで自然発動した時だけか。まあ良いや別に。最悪死にかければ発現するだろう。ワンパンで殺される気はない
だが、無言。寧ろ引いている馬車がショボくなっている。砲が無くなってるな
「ば、馬車の勇者!?
勇者は四聖だけじゃ……ない、のは知ってる。でも七星にそんなの……」
うん。レン。お前が清涼剤だ、常識的な反応をしてくれて有り難う
「俺が七星を眷属器って呼んでた事あるだろ?
四聖の下だって。ならば四魔貴族や七英雄じゃあ無いんだ、四聖、つまり4つの武器のそれぞれの下が合計7ってのは有り得ない。四聖のうち一つだけ眷属が少なくなってしまう
彼女は伝説の神鳥ことフィトリア。遥か昔の波以降伝説の馬車と共に人前から姿を消した結果、あまりに帰ってこないので何時しか人間の記録から完全に消えた8つめの眷属器、馬車の勇者だ」
いや、昔の生き証人だからな。諸々喋られたらヤバいと本人がフィロリアルと引きこもってるのをいいことに他の勇者に探されないように悪魔やら転生者やらが記録消して回ってたんだがそれは言っても仕方がない
「八人目の……七星勇者……」
『ピヨ!』
あ、リヴァイが反応してる。厨二感あるよな、五人目の四天王とかみたいで
「それで?仕掛けてこないのか?」
仕掛けてこないな。レンを奇襲しておいて何だが、敵意があまり感じられない
そもそもあの奇襲、俺の幻覚剥がすだけが目的だったのか?レンを庇って俺が受け止めて足を止めると確信しての。いや、フィトリアにそこまでレンを守ると信頼されるような事してないぞ初対面だし
『ピィ!ピィ!』
必死にムゥが何かを伝えようとしてくれている。フィトリアは無言
「ありがとうな、ムゥ
でも俺、フィロリアル語分かんないんだわ」
異世界言語理解とかで……いや無理だなあれはあくまでもこっちの文字を読めるようにするだけのもの。フィロリアル語は文字じゃないし
クソナイフは流石に戦闘形態を解き、初期武器に戻して腰にマウント。それでも雷撃は消さず、血色の眼で9mはありそうな鳥を見上げる
……馬車の性能抑えた分こっちがデカくなってやがる。いや、18mとかまでいけるんだっけこいつ。まだ抑え目だな
「で、デカっ」
「もうちょっと小さい方が可愛いな。でかすぎて全体像が見えなくなるとパーツだけじゃ単なるデブでブッサイク」
……抗議はない。言葉もない。ムゥはそれでも通じない通訳を頑張る
「フィトリア
言いたいことがあって、俺達を此処に呼んだんだろう?ならばしっかり言ってくれ」
じっ、と、巨大な鳥は俺を見下ろす。遠くからサイズ感無視したら……獲物のネズミを見つけてじっと隙を伺うフクロウだな間違いない、ってどうでも良い捕まる気もない
「お前の勇者の言葉か?それで人前で話せないか?」
『ピピィ!』
ムゥがそうらしいとばかりに鳴く
「そう、か
分かる。もう居ないと知っていても、約束を破りたく無いんだな。それを破ってしまったら、残したものすらも自分の手から零れていってしまう気がして。完全に消えてしまう気がして、怖いんだろう?」
……瑠奈……。俺は、兄ちゃんはお前の遺書みたいにキラキラした世界で太陽になれているんだろうか
と、遠くを想いかける意識を奥歯を噛んで取り戻す
「分かるよ。死んだ、もう居ない。守っても守らなくても、咎められるはずもない。そんなこと知っている、それでもって
……それでもなフィトリア。言葉にしなければ伝わらない」
きっ、と見上げ、言葉を続ける
いや、睨んでるようにも見えるだろうか。完全に真っ赤だしな今の眼。逆に虹彩無くて分からないか
「お前の勇者を大切に想う気持ちは分かる
だけどな、お前が何も言わなければ何も伝わらない。なあフィトリア。伝わらなければ、世界だってきっと守れない。お前の勇者がお前に託したのは、この世界じゃないのか?自分が居なくなってからもこの世界を守ってほしい。そう願って、お前の勇者はお前に託したんじゃないのか、未来を」
出任せだ、適当だ
俺が勝手に思っているだけだ。瑠奈に託されたと勝手に信じた想いを置き換えて。合っている保証は、欠片もない
「最低限で良い。無駄話なんて無くても良い
それでも、必要な事は言ってくれないか、フィトリア。お前の勇者がお前に託したろう世界を、お前と守る為に」
うん、本心からの言葉だがどう聞いても詐欺師の手口だ。間違いない
だからって詐欺ネズミの称号を点滅させなくて良いからなクソナイフ?
ずいっと、青い飾り羽根の白い巨鳥が一歩近づく。避けない。正に眼前、羽毛が触れかける距離
もう、目は上過ぎて見えないが、じっと見詰めて
「……フィトリア」
「『ばちばちがそう言うなら』」
不意に、そんな少女の声がしたかと想うと
眼前の巨鳥の姿は消え、俺の唇には何かとても熱いものが触れていた
???「ボク以外にこんな男の趣味の悪い見る目無い奴が居るとは驚きでちね。そんな節穴に馬車なんて持たせててもきっとロクな事無いでちよとっとと新たな勇者選ぶべきでち」
と、でちが居たら言ったことでしょう。真顔ヤンデレ芸は面倒なので出禁だ
因みにとある意図があっての事で純好意からではありませんので悪しからず