「んぐっ!」
感じるのは熱い感触
熱く、柔らかな未知の感覚。唇の感覚。いやまあ、御門讃時代から俺って恋人居たこと無いからなそりゃキスなんて知るはずもない。シスコン童貞の名は伊達じゃない、中3の時のクラスメイトからの渾名だが
ファーストキスはレモン味……じゃないな。チキンスープ……でもない
って混乱してるな俺落ち着け俺
『ピィ!?』
「な、なっ……」
回りも混乱している
そんな中、仕掛けた側の鳥は舌を絡め……
いや、違う!舌に乗せて何か此方の喉に流し込んできてるのか、これは!
それが目的か、無茶をする!
ぐっ、顔をちっこい両の手で固定されていて逃げられない。逸らせない。強引に吐き出せず、それが何であろうが押し込まれた鳥の唾液と共に喉を通すしかない。ロマンチックさの欠片もないな実際のところ!
ならば仕方ない、チェンジダガー(閃)!フラッシュピアース!
と、逃げられないのは逃げられないとしてスキル使用。自分の喉の下に超小型ピックを突き刺す
吸え、クソナイフ!素材として吸収しろ、出来るはずだろう毒だろうがインクだろうが素材にしてきたお前らならば!
いよっし!吸えた!
って一部だけか、仕方ない
「ぐっ、がぁぁぁっ!」
ピックを引き抜きながら、唸る
毒か!?いや、これは何か違うような……
体が熱い。実際に熱をもっているのだろう、軽く湯気が立っているのが物理的に見える……気がした。体温なんて60度越えてるなこれ!キスで
「ぁぁぁあぁぁっ!がっ!」
唇と手を離され、喉をかきむしる。ピックの穴から血は軽く吹き出し少女の姿に変わったフィロリアルの顔を赤く汚すが気にしてられるか!
「ぐっ、ぎっ、がぁっ!」
そんな中、止まらないものがある。雷だ
アヴェンジブーストの雷、復讐の金雷。何時もとは違い覚醒状態と同じ金に近い色のスパークが、止まることなく俺の意思を無視して噴出する
「ぎぎっ!」
痺れる……痛い……苦しい……
なにかがおかしい……俺の異能自体が俺の傷付けるのは本来無いはずだ。自分に向けて撃ち続けていた事すらあったはずなのだからこんな痛みと共に出るはずもない。何が、どうなって……
「だ、大丈夫……なのか?」
というレンの声も遠く聞こえ……
「フィト……リアァァァアァァッ!」
叫ぶ自分の声すらも遠く
"Я"アゾットによる強制解放!0の円輪が解放されました!
前提武器全解放により武器合成自動発動!"Я"アゾット、0の円輪が合成され真アルケミックファイナリーが解放されました!
原典の水により強制解放!霊亀の円盾が解放されました!
原典の水により強制解放!鳳凰の双飛刃が解放されました!
原典の水により強制解放!麒麟の双角槍が解放されました!
原典の水により強制解放!応竜の投剣が解放されました!
前提武器全解放により武器合成強制発動!霊亀の円盾、鳳凰の双飛刃、麒麟の双角槍、応竜の投剣が合成され煌応の天輪が解放されました!
前提武器全解放により武器合成強制発動!真アルケミックファイナリー、煌応の天輪が合成され神滅輪アル・グレアが解放されました!
神滅輪アル・グレアによる強制解放!アゾットが解放されました!
神滅輪アル・グレアによる強制解放!フィロリアルの投羽が解放されました!
………
……
…
神滅シリーズ、フィロリアルシリーズ、コンプリート!
なんて視界の端に流れる良く分からん異様なものが解放されていくメッセージもぼんやりとしたゆだった頭でしか確認できず
ってか厨二心をくすぐる武器に混じって0の武器とか四霊武器とかこんな時期に解放されちゃいけないだろう武器の名前が見えた気がしたんだが……。体を走る雷撃による痛みで、それ以上の思考は中断される
この、痛み……この息苦しさ……どこかで……いや、初めて(そして今までで唯一)復讐の雷が覚醒段階までいったあの時、意識を喪う前に感じたものと同じ……
「ぐっ、はぁ……」
不意に、視界を縁取る雷が消え、息苦しさもふっと最初から無かったかのように終わりを告げる
そのままふらり、と前に倒れかける。足に力が入らない
「ばちばち、へーき?」
「平気に、見えるのか……?」
だが、倒れない。力の抜けた体を、小さな少女の生やした大きな翼が受け止める
「ユー……いや、ネズミ
大丈夫か?」
「どう、だろうな……」
萎えた足で何とか立ち、その元凶を怒りを込めて睨む
……?
可笑しい。スパークが走らない。視界がそのまま。眼は充血しない。怒りを元に何時も噴き出すはずの力が、うんともすんとも言わない
「何、飲ませた……」
「フィトリアのだいじなものー!」
なんだそりゃ
「毒じゃないのか」
「うん、だいじなどくー!」
「ど、毒なのか……」
「毒じゃねぇか!そんなもの飲ませ……げふっ!」
いかん、血吐いた。でもこれ、強引に全部飲みきらない為に喉にクソナイフぶっ刺したせいだな。毒の影響じゃない
「ばちばち、へーき?」
「だから平気じゃねぇよ!」
必死に脳内で覚えている原作を捲る
「あれ、か?
一口は永久の苦しみ、二口は永劫の孤独、三口飲んだら……な」
「?」
……首を傾げる白いショートボブくらいの髪の幼げな少女。まあ、人の姿に変わったフィトリアなんだが
「良くわからないけど、それとおなじようなものー!」
「フィトリア、てめぇ!
やべぇもの飲ませんなぁぁっ!」
俺が言ったのはフィロリアルの聖域でフィトリアが管理している赤い液体だ
エーテルとか賢者の石とか言われるアレ。毒みたいなもので、一口で不老、二口で不死、三口飲めば次元を越えて神化する。いや薄められてるから実際に神にまでたどり着くには5~6口、つまりはフィトリアが小瓶で管理しているあれを全部飲み干すくらいは要るかもしれないのだが。そこらは知らない。神と言っても次元を越えて別次元に干渉出来てしまう化け物、つまりは今この世界を手にしようとしている女神と同類になるってだけで四聖武器の精霊みたいになるって訳じゃないが
因にだが、この鳥が遥か昔の波からずっと馬車の勇者として生きてる理由でもある。不死……かは流石に知らないが少なくとも彼女の慕う勇者に言われて飲んだ結果不老になり、結果まだ生きてるという訳だ
「ってか、何故飲ませた……」
俺を好き……な筈はない。好きだから自分と同じく永遠の存在にした、とかそんなに好かれている道理がない。初対面だしフィトリアはそもそも遥か昔の盾の勇者だかを未だにごしゅじんさまと深く深く慕っているってのに
「世界をまもるため!」
「それとこれと何の関係がある!俺の異能が消えたことと関係あるのか?」
「消えてないよー?ちょっと眠ってるだけー!」
「……」
確かに。心の奥底に微かに鼓動を感じる……ような感じないような。かつての覚醒前、一切怒りで雷なんて出なかった時期とは歯車の噛み合いが違う気がしないでもない。だが、一度覚醒した後のように眼が充血したりスパーク走ったりの覚醒出来なくとも一部は使えるって感覚はもう無い。不意に使えることを思い出した3つの技も恐らくだが撃てなくなっている。異能の雷を混ぜてリベレイションしてる訳だしなあれ。素材が足りない
「あれか?刹那の存在であればこその輝き、不老不死に近くなった俺だとそんな深い怒りを覚えるはずもなくなって眠りについたとか、か?」
「フィトリアわかんない!でも、知ってる!」
「何を」
「ばちばちが言うように世界をまもるなら、あの毒でばちばちには寝てて貰わないとめっ!」
……ってか割と饒舌に喋るのなこいつ。勇者との約束はどうした
「そ、そうか……」
ふと、視界の端の砂時計を見る
……あと3週間近く。本来の波の周期に戻っている。明日ってのは無くなったようだ
うん、嘘じゃないな。確かに俺のアヴェンジブーストのせいで歪んでたのか、波の周期
って何で歪んでんだよ世界!しっかりしろ世界!超S級、人じゃねぇよお前らされてるとはいえ向こうの世界の異能力でしかないものの、しかも覚醒しきれない半端段階があるだけで波を近付けさせてしまうとかさぁ……どんだけ余裕無くなってるんだ。俺の知る残り3つの超S、アブソリュートロックとかブレイブバーニングソウルとかディメンションウェーブとか持ってる彼等を女神が万一転生させた日には毎日のように波くるんじゃねぇかこれ。崖っぷち過ぎる
「ネズミ……えっと、何て呼べば」
「マルスで良いよ、レン」
「じゃあ、マルス。話について、いけないんだが……」
「大丈夫だレン。俺もフィーリングでやってるだけでロクに理解してない」