それから、約1週間
村を駆け出した俺は、ひたすらに村の生き残りを探した。恐らくは無事で、自分なりに皆を探しているのだろう
……だが、昼夜問わず探しても手掛かりひとつ無い。此方が捕まっている間に何があったのか、そもそも何時襲われたのか、それすらも分からないので探しにくいのだ。日付入りで手掛かりになりそうであった水晶はうっかり握り砕いてしまったし
埋葬からそこそこ時間も経っていたのだろう、周囲を探しても既に遠くへ行ってしまったのかサディナとは合流できなかった
収穫はあった。天木錬、北村元康、川澄樹、岩谷尚文。名前も本編と同じ四人の勇者が確かに召喚されていた事を確認した。それとなく絡みに行って話しかけてはみたのだがフィロリアルに興味無さげでクソビッチ含む女とばかりつるんでいたので恐らくあの元康は普通の元康だ。ですぞ元康ではない。槍の勇者のやり直しとかいうループ外伝の世界ではなく盾の勇者の成り上がり世界準拠だという事だろう
ついでに翌日朝幻影張ってまっさか城に捕まってないよなしたらクソビッチに嵌められて冤罪にかけられる尚文も確認できた。波一人で鎮める事をやらかしてしまったが、メルロマルク的にはあの村は滅びてくれなければ困るので大きくルートを外れる事は無かったのだろう。見ていたんだからこっそり助ける?バカを言え、何で俺が今から尚文なんぞ助けなければいけないんだ
放置して追い込まれてくれないとラフタリアを奴隷として買わないだろ
……残された時間は残り少ない。尚文の冤罪から2週間後には彼は奴隷としてラフタリアを購入する。その時には既にリファナは死んでいるという訳だ。俺が捕まってたあんなカビ臭い環境と似たような状況だとすればあっさり体調壊してそのままという事も有り得る。体調崩そうが何だろうが労られる事はないだろうから一度体調崩せば終わりだ、隔離すらされないから誰かがそうなれば感染も含めて病が蔓延し後は使えねぇ亜人だと捨て置かれて死ぬだけ
だからこそ早めに見つけなければならない。早く、早く
ストーカー染みた事をやるべきであっただろうか、とは思う
街から街へ駆け抜ける中邪魔だとばかりに遭遇する魔物をぶった斬ってレベルを戻していく中、適当に鉱石吸っていたら磁針の針という投擲具が解放された。特定のものの方向を指すという特殊能力があり、それでリファナを探そうかと思ったが対象の一部が必要だったので無理だった。リファナの家は完全に焼けていたし、残念な事に引かれるだろうからこっそりその髪の毛をお守りに入れてたりしなかった。お守りに髪の毛でも入れてれば今頃磁針の針で見つけられていたろうに、何でバレた時のストーカー扱いを恐れたんだ当時の俺の大馬鹿者
他にはとりあえず薬草だとか薬だとかにからむ投擲具は片っ端から解放を続けた。助けたとして、体調崩したリファナを治療せず放置したらそのまま悪化して死んでしまうかもしれない。薬の知識なんぞ無い俺よりはまだ仮にも七星武器なクソナイフによる薬のほうが何倍も信頼が出来る。悲しいことに
……そうして、今
「お前は奴隷商に売り渡せとの事だ」
「ねぇ、リファナちゃんは?」
ビンゴ。漸く当たりか
……王都からほど近い貴族の館。俺が捕まってたのとは隣の地方だな。セーアエット領とはどちらも接している。恐らくはあの二つが共同して騎士を出し、あの村を波で滅んだことにしたのだろう
……遅すぎる、間に合ったとはいえギリギリに過ぎる
「あいつはもう駄目だ」
……
もうダメだまで追い詰めておいて、リファナを見捨てて死なせるのか
その前に貴様が屍を晒せ
「ヴェノムダガー」
殺意のままに苦しんで死ねと毒スキルを放ち
「チェンジヴェノム」
ギリギリで毒を神経性の麻痺毒に差し替え
「セカンドダガー、ワンモア!」
更に撃ってラフタリア以外を麻痺らせる。兵士が倒れて馬車を走らされたら面倒だ。馬も暴れられても困るのでしっかりと麻痺らせておく
危なかった。もう少しでクソ野郎ではあるが直接の下手人ではない人間すら殺してしまうところだった。殺人はいけないだろう
……直接リファナを傷付けた奴等?それは死んで良い奴だ俺が決めた他人が何を言おうが知るか文句があるなら止めてみろ。倫理は感情を超越しない
そうして、またまた勇者ユータに化けてひらりと格子の填まった馬車の前に飛び降りる
「……大丈夫か?」
裏声でラフタリア、と続けそうになった、危ない危ない
そもそも勇者ユータはリファナの名前もラフタリアの名前も知らなくても可笑しくない。下手に呼んだら化けてるだけなのがバレる。声は裏声で何とかするとして
「あ、あの……」
茫然とするラフタリア
いやまあ、突然すぎるよな。タイミング逃したら堂々とリファナ助けに行けなくなるから迷ってる暇なんて無かった訳だが不自然すぎる
「あの時名乗り忘れたか
俺はユータ。投擲具の勇者だ」
と、クソナイフを麻痺って倒れた御者や兵士から引き抜いてひとつに戻し、ひょいひょいと姿を変えさせる。アイスピック、チャクラム、短剣、投げ槍といった感じでぐるぐるとランダムに、種別すら変えて出来る限り派手に
これが出来るのは勇者くらいなので、信じてくれるだろう
「……勇者、さま?」
「残念ながら、
「……なん、で?」
……警戒の色が消えない。怪しすぎたか
「村を訪ねたときから気になってた」
うっわ、キザ
俺が言ってて寒気がするけれども、ハーレム野郎ならば言いそうなので言ってみる
『称号解放 キザ野郎』
茶化すなクソナイフ
「他の子は?犬の子とかイタチの子とか」
「リファナちゃん!
そうだ、リファナちゃんを助けて」
「大丈夫だ、その子も助ける
……他は?」
「一緒に居るのは、リファナちゃんだけ」
良し良し、リファラフを引き離さなかった事には感謝しよう。横に親友が居れば言葉で支え合えるだろうが、一人ぼっちだと未来に絶望して気力を無くし既に二人とも牢獄で病死していても可笑しくなかった。がこれで何とか間に合う。だがやらかした奴は死ね、いや殺す。目の前に出てきたら今度こそ麻痺毒になど変えずに致死性の毒を叩き込んでやる。遅効性だ、存分にのたうち回れ
とりあえず、これで良い
キールは別の場所なのかもしれないが、キールは本編で奴隷としてそのうち尚文に買われていた。つまりはまあ生きてるだろうきっと。死んでて気分が良い訳はないからそれは有り難い話だ
リファナには死んで欲しくなく、良くしてくれた狸の親父の愛娘を死なせたら娘を守って死んだ狸の親父に申し訳なく、キールとも割と遊んだので死なれたら良い気はしない
他は……殺されてしまった狸の親父とサディナさんくらいしかそこまで親しくないしな……一部に至っては顔を覚えてるかも怪しい。同種の中に混じられたら5割当てられるだろうか
多分向こうも俺をハツカ種10人の中から当てろと言われたらほぼ間違いなく当てられるのは三人くらいだろう。サディナ、狸の親父、リファナだ
キールは……どうだろうな、成長した俺は見分けられてたからか素直に家の地下に避難してくれていたがあれは緊急事態だったしな
「なっ!」
「邪魔だ」
「お前」
「黙れ」
「侵入、しゃ……」
「目障りだ」
「者共」
「全員寝てるよ、お前も仲間入りしろ」
「貴様ぁぁぁ」
「貴様じゃない、勇者様だ」
鎧袖一触。立ちはだかるすべてを目線だけでパラライズ
というのは大嘘で麻痺毒盛ったフロートダガーを睨んだ相手に放ってるだけだが、端から見ればそう見えただろう
ラフタリアは付いてきている。おっかなびっくり、数歩離れてではあるが
「早く会いたいなぁ、……会って……、お嫁さんにして貰うの……」
……ああ、こりゃもうダメだ。死にかけて幻覚見てる
リファナの声ソムリエではないがある程度は聞き分けられる。確かにこれはもうダメだ。今日の夜を越えられないだろう
……よしこの館の奴全員殺そう
と、言いたいが震えるクソナイフの猛抗議に折れる。冗談だ、リファナを助けるのが先に決まってる
キィと音を立て、牢獄の扉を開く
「誰……、勇者、さま……?」
ああ、もう目が見えてないなこれ
よし、これから即日館焼こうぜ
『称号解放 これから毎日家を焼こうぜ』
おいこらクソナイフ再建早すぎだろこの館
「残念ながら別人だ」
言いながら、粗末も粗末な石のベッドに横たわる体を見る
……酷い怪我だ。全身に残る痕は鞭だろうか。こんな不衛生な場所に生傷残ったまま押し込められていたらそれはもうダメだ。病気で死ねと言っているようなもの。やはりこの館焼くべきだろ
「投擲具の勇者様だよ、リファナちゃん!」
「……ラフタリア、ちゃん……?」
「とりあえず、飲め
安物の薬だが無いよりは良いだろう」
と、とりあえずナイフから取り出したイグドラシル薬剤を焦点の合わない目のリファナに飲ませる
因みに安物というのは嘘ではない。リファナの命が助かるならどんな薬だって安いだろう当たり前だ。逆に助からないなら相場の1/100で売られている薬だろうが何だろうがぼったくりだ。リファナが助かる銀貨4000枚の薬と助からない銀貨100枚の薬ならば後者の方が高いのは当たり前だ
まあ、この薬を仕入れるために走り回る中ひたすら出会う魔物をダマスカスナイフでトレハン即斬してきたのだが、買った上で使いどころがあって良かった
ついでにそれだけじゃあ不安なのでクソナイフに良いから出せとひたすら薬剤効果に関係する投擲具を表示させては素材を買い漁って解放しておいた。多少は意味があるだろう
「勇者、さま……」
それだけ呟いて、少女は目を閉じる
その手から、小さな旗が溢れ落ちた
「リファナちゃん!」
「大丈夫だ、眠っただけだ」
……息はある。まあ薬も飲ませたし暫くは大丈夫だろう。記憶にある姿より痩せているし、栄養失調なんかも発症してるだろうから起きたら色々と栄養のあるものを食べさせないと不味いだろうが、最悪の一歩前で何とか間に合った
……旗を拾う。牢獄の襤褸布の切れ端で作られたものだ
旗、村の旗、盾
……尚文ぃっ!結局お前か、盾の勇者か!
ダメだ取り乱した。多分平和だった頃の村への想いを馳せて作ったものだろう。拾っておくべきだ置いていくのは悪い、とリファナを背負って旗はポケットへ