パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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まーた閑話です。今回は向こうの世界とか逃げてった彼どうなってんの?的な補完です。本編とは現状絡みはないです


閑話 冷泉一樹と鎌の○○

「ぎぃやぁぁぁぁぁっはっはっはっはっ!」

 薄暗い部屋に、そんな下品た嘲笑い(わらい)声だけが反響する

 

 此処は岩谷尚文の世界ではないが近い位置にあるとある世界。とある時

 軽薄そうな、けれども身なりだけは王公貴族であるかのように良い、服に着られているような男が、血まみれの肉塊を見て笑い転げていた

 

 「なに、笑っ……だよ、セオ……」

 「だってよ、レーゼ!お前さぁ、あーれだけ自信満々に向こうの勇者武器どれ持ってこよっかなーやっぱり王道は剣だしそれが取れると良いな刀の上位互換だろ強化フォームっぽくてちょうど良いとか言っといてよぉ!

 ぎぃやぁぁぁぁぁっはっはっはっはっ!ばぁぁっかみてぇ!これが笑わずにいられるかってんだ!あぁ、酒うめぇ!」

 ばんばんと、拳で頑丈で無駄にと言って良いほどに装飾の施された机が叩かれる。細長い瓶が一つ倒れ、琥珀色の液体が卓上に地図を描いた

 

 「ああ、もったいね。ったくよぉ、俺の魂は子持ちだってのに未成年に酒はとかうっせぇんだよあのクソジジィ。勝手だし魂は未成年じゃねぇっての、飲ませろよなぁ

 

 まーた泥棒避け抜けてかっぱらってこなきゃいけないとか、お前が笑かしたせいだぞレーゼ」

 清々しいまでの責任転嫁

 それに対し、右目をぱっくりと縦に開かれ、右腕を根元から切断され、腹から下を異世界に置いてきた赤黒と青のまだらの髪……いや、こびりついた血で赤黒い部分が出来てしまっている青髪の男は自分の体がほぼ肉塊と化しながらも自業自得を指摘する

 「笑い、ものじゃ……ねぇぞ、セオ」

 「んでよぉ、お前の大事な大事な恋人様はどうした?ん?死んだか?ざまぁねぇなぁリア充が。爆発してお前も死んでろよ」

 「ユエ……は」

 「知ってんよぉ。少し前になーんでか二度と立ち上がれないくらいにボコしたはずのグラスの奴が、(ユエ)が異世界に持っていったはずの扇どっかから奪ってこっから逃げ出してやがった

 殺されて向こうの勇者に扇を奪い取られたんだろ?調子のって波が始まってから呼ばれたひよっこ勇者ごときに返り討ちにあうとかクッソ受けるんだが、笑い殺す気かよ」

 「ユ……エ」

 「だから、このセオ・カイザーフィールド様が向こうの勇者を全部殺してやるって言ったのによぉ。(リョウ)のオキニだからって行ってこれかよ。逆に折角倒して良い女だからオナホにしようと生かしといた勇者(グラス)が復活しただけじゃねぇかよ使えねぇ」

 げしげしと、何故生きているのか逆に一般人であれば疑問に思うかもしれない喋る肉塊を足蹴にしつつ、男……セオ・カイザーフィールドは笑う

 「お前だって鎌に逃げられている……だろう」

 「冷泉一樹(レーゼ)よぉ!オレサマはあの鎌野郎を殺すには必死に抵抗するカワイコチャン達を手に入れた鎌でばっさばっさしなきゃいけないから、どーせオレサマから奪うなんて無理だし慈悲の心で見逃してやったの

 それに対してお前と恋人サマはさぁ!折角俺が鎌振るって助けてやったから手に入れられたグラスと扇を、今更にがしたんだっつの」

 つかつか、と男は椅子から立ち上がるや肉塊に近付き

 「どっちの方がより悪いか、そんな血と一緒に全部どこかに置いてきたような頭でも分かるよなぁ、レーゼぇ?」

 その髪をむんずと掴み、自分の目線の高さへと持ち上げる?

 「分かる?この罪の重さ。どぅーゆーあんだーすたぁん?」

 にやり、と唇を歪め、セオと呼ばれた少年は手にしたゴミを床に投げる

 

 「……セ……オ。頼む……」

 「アーハン?

 オレサマにものを頼む態度か、それ?」

 「頼む……お願い、します……」

 「どうしたよ、言ってみな冷泉」

 「月の仇を……ともに」

 「なーんでリア充見せつけたクソ野郎の為に働けと?見返りは何だよ」

 「あの……忌まわしき雷撃を、」

 「雷っ、撃?」

 ぎりっと、奥歯が鳴る

 

 「レーゼ、今何つったてめぇ?

 雷撃?オレサマが雷大っ嫌いな事知ってて言ったんだよなぁてめぇ!」

 転がした頭を、忌々しげに蹴る

 「雷撃を纏う……溝鼠を……」

 もう耳が聞こえなくなったのか抗議は無視し、肉塊は言葉を続ける

 「雷撃を、纏う……」

 嘲る少年の動きが、少しだけ止まった

 

 「まさか、まさかなぁ

 まさかたぁ思うが、てめぇなのか、讃。おとーさんを殺したあの親不孝ドラ息子がぁっ!」

 「頼む……御門星追(セオ・カイザーフィールド)……」

 「いぃや、有り得ねぇ。あの世界一親不孝ドラ息子だぞ?こんな世界に転生せず平和なあの世界でおとーさんを殺した罪なんぞ忘れてのうのうと生きてやがるはずだ

 ……だが、万が一讃ならば

 

 許さねぇ。父親の愛の鎌でじっくりたっぷり親不孝の報いを受けさせて殺してやる」

 「……セオ」

 「ああ、分かったぜレーゼ。このオレサマが手を貸してやる。その死に損ないをとっとと止めて、一度死んで甦ってこい」

 「……ああ、そう、だな……」

 ゆっくりと、肉塊は眼を閉じ

 その心臓に、禍々しい形の鎌が突き刺さった

 

 「バカレーゼが。てめぇを女神様の奇跡で生き返らせても何の得もねぇよ。大人しくオレサマの鎌のエネルギーになってろそっちの方がよっぽど讃を殺す役に立つ」

 

 それらの話を全て無視して、部屋の奥。少年の妹ルナ・カイザーフィールドは一人、せっせと煌めく裁縫具でマントを縫っていた


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