「こ、恋の旅人ぉ?」
すっとんきょうな神の声
いや、似たようなの……ぶっちゃけ原作後半の槍の勇者に関して読んだことがあるから俺はその辺りはああはいはいこういう奴ねってのは流せるんだが、神には無理だったか
ってか、世界を守る神か。そういうのも居るとは言われてたな。女神メディア・ピデス・マーキナー相手にはそいつらが乗り込もうとしたら世界壊して逃げるだろうから介入は無理とあの世界放棄されてたけど。だから出てこなかったのだろうか自称ゼウス。やっぱりこいつらもクソ神なのでは?
「そういうことだよ」
「なんだそれは
……だが、ワームホールクロックシステムの稼働に成功した。これで世界は神のも……」
勝ち誇る神に向け、すっ、とゼウスを名乗る赤髪と化した神は手を翳す
「今、おまえと話をしてるんだ。勝手に事態を進めないでくれないか?」
「んなっ、システムが強制的に止められて!」
「ああ、ちょいと止めさせてもらった。おれが時を止めた……ってカッコつけても良かったんだぜ?」
「恋の旅人だか何だか知らないが、お前だって世界を手にする力を得て好き勝手してる同じ穴のムジナでしょう!何故こんな!」
「ん?おれが恋の旅人だからだけど?
異世界ってのはたまーに精霊の許可を得て訪れて、自分の世界との差を楽しんで、ついでにそこの可愛い女の子と一夜のロマンスを過ごせれば120点。それで良いんだよ」
「何を」
「だから、お前らみたいに自分達の世界以外を侵略してそこの女の子達を不幸な目にあわせあまつさえ支配したり殺したり?そんなのおかしいってんだよ
どっこの世界も大抵は元々の自分達の領分を越えてもっともっとと欲望に取り付かれた奴等が起こしてきた戦の連続が歴史だってのは同じだろ?お前らは本当にさあ、歴史や哲学の先生から歴史の授業受けてきたのかよ?
ってお前らじゃ受けてても落第点か」
「抜かせぇぇっ!」
神が吠える
うん。煽られて随分と余裕消えたなーあの神。やっぱり世界を侵略する神どもって総じて煽り耐性無いんだろうか。女神メディアも原作で煽られてプッツンしてたようなだしな
「相転……」
「アルゲスの矢」
今一度、胸部クリスタルからビームを放ち今度は男を吹き飛ばそうとする神。だが、その動きが実る前に、狙われた男の手から小さな光が放たれ……
「光になれ、ってな」
炸裂。無駄に精悍なロボットの頭と、コクピットが存在しているだろう胸部上部が、光の中に溶けていった。……なーんか見たことあるんだけどな、何処だっけ。忘れた。覚えてたはずなんだが……まあ思い出せないものは仕方ない
「んなっ!何を」
コクピットの中身を剥き出しにされ、ロボットに乗っていたらしい男が露出する。黒髪のメガネ。中々に若々しいな、外見は高校生くらいか
「お前の相転移砲と原理は同じだよ。その機体の上の方を構成している物質を固体からプラズマ体まで相転移させた、それだけさ」
「ふざけるな!Gシステム、奴を……」
「おっ、と」
ふわり、と宙に浮かび上がる男。目線は数mの高さにある機体という殻から追い出された神よりも高く
そんな赤オーラの男を撃ち抜くべく、騎士の礼で止まっていた周囲のロボット兵達から無数のマシンガンが撃ち込まれた
……だが
「テロメア短縮弾か?そんなんでお前らと同じく不老不死になった神を殺せる訳無いだろ。ホント選ばれた存在である自分達と違って異世界には下等な定命生命しか居ないしと見下してんなぁお前らはさぁ
そこの世界なりの種族の美少女とラブって良い思い出作るとか考えないわけ?」
その体を銃弾は全て突き抜ける。あの体、固体じゃなくてプラズマ体なのか。
「支配してからで良い!」
「あっそう。お前らがそんなんだから忙しくて気のむくまま精霊に一時滞在許可を貰っての異世界旅すらロクに出来ないってのに
スルトの冷血漢には世界を離れられない自分の代わりにもっと働けとどつかれるしさぁ。あいつ業火だろ冷静ぶらずにノリで生きてろよそっちは氷結の仕事だっての。ホント、いい加減歴史に学んで休みを寄越せ神様軍団」
うーん。これ、一応は神と神の対話の筈なんだが、ちょっと出てくるアイテムや力が規格外なだけで言ってる事の内容そのものは人間社会と全然変わらないなオイ。もうちょっと神々しいのかと……
いや、此処で言う神なんて結局、不老不死と次元を渡る力を得て調子乗って外国に戦争ふっかけるより軽いノリで異世界を侵略してるだけの元人間だしそんなもんか
「……ふふっ
貴方が長々と語ってくれているうちに……」
「同盟に助けを求めた?
来ないさ。あいつらは俺達神狩りから逃げつつ幾つもの世界を支配したい自己中の互助同盟っていう矛盾したものだってのに。まっさか本気で助けに来る訳ないだろ?お前なんぞ助けても、世界を手に入れられる訳じゃなし、わざわざ俺に降臨された不幸な神をロハで助けるメリットなんて無いんだから」
「ならば、お前にはメリットがあるのですか、コード:ケラウノス!」
「ん?異世界の可愛い娘がお前らによって曇らされないってだけで合格点だけど?
ついでに……そうだな、今回で言えばそこの天使っぽい娘とかと一夜のロマンスを出来れば満点かな」
「てめっ!ならばその娘を
Gシステム!何故動かない!」
そう叫ぶ神に向け、心底呆れたように赤き神は告げた
「お前さぁ、電力をエネルギー源とする科学系世界の出身だろ?
お前の永遠の根源にある雷の神に、勝てる道理があると思うか?全部ショートさせて潰した。相性ってものを考えな。だからおれが来たんだよ
何があろうが、負けることも侵略されてる世界をどうこうされることも無いおれが、な」
背を向け、やれやれと肩を竦める赤き神の背後。動きを止め鉄の……いや恐らくは色々と組み合わされ作られたのだろう特殊合金の塊に成り下がったロボットの上で項垂れる神の姿は、段々と砂になって崩れていった
「こ、これは」
「お前の体を構成しているナノマシンも止めた。異世界を弄ぼうとした事を後悔しながら朽ちていけ」
「い、嫌、嫌だ!嫌ですよこんな!!ナノマシンによって漸く若さを取り戻したのに!永遠を手にしたのに!また明日が来ないかもしれない恐怖に怯えるのは」
「そう言って、どれだけのこの世界の人間の来る筈だった明日を消し去ってきたんだ?」
「い、嫌だ……死にたく、無い
止めてくれ……もう、異世界を侵略したりしないから……だから」
もはや腕は骨と皮しかないようなミイラで。顔もやせこけ晒された当初のようなハンサムな高校生顔は何処にもなくほぼガイコツ
「ったく」
心を動かされたのか、砂化が止まる。片腕、ナノマシンとやらが再起動したのかそこだけは若々しいまま残り
「せめてこの世界も道連れに!」
何時しか、その神の手には光線銃のようなものが握られていて。それは地面へ……フィトリアの方へ向けられていて
「やっぱりな
お前の墓標としては、お前が弄ぼうとしたこの世界は立派すぎるわ。世界の狭間にばら蒔かれろ」
それが放たれる前に、降り注ぐ雷によって機体ごとその神は世界から消し飛んだ
「んで、飛んで銃弾の向き上にそらしたから大丈夫だとは思うけど。無事か、かわいこちゃん?」
神をさくっと片付け、空から赤き神は降りてくる
「ってか、もう行って良いぞ精霊ズ。後はかわいこちゃんとお話しするだけだ、侵略兵器の残骸はちゃんと波と一緒に掃除されるからさ」
と言うや、5つの武器は何処かへ飛び去り、赤いオーラも消えゼウスを名乗る神は元の金髪に戻る
「……ロマンス?」
「んまあ、それも良いけど……」
不意に、彼は遠い目をする
「あんな警戒心の欠片もないゴミみたいな神と違うここ最近ずっと追ってる大物の尻尾を仲間が掴めそうなんだよなぁ。メディア・ピデス・マーキナーってめんどくさいの
なんで、そろそろバカ神様の起こした波も終わって精霊に呼ばれたとはいえ神様は退場の時間だし、帰って手伝わなきゃいけないんだ。世知辛い事にさ」
ふわりと笑って、男は腕に巻いていた青い細長い布……何か見覚えあるそれをほどいて助け起こしたフィトリアに渡す
「おれは恋の旅人。ごたごたが片付いて暇が出来て、旅でこの世界を訪れた時、キミがこのリボンに似合う素敵な女の子になってたらお願いしようか」
そう言って、青年はフィトリアから一歩離れ
「波は終わっても世界の傷はそれだけでは消えやしない。これからも色々あるだろうけど頑張れよ、この世界の勇者で、かわいこちゃん
そんな復興した世界、ちょいと旅で来てみるの、楽しみにしてるから、さ」
左手の人差し指と中指を額に当ててからぴっ、と少女に向ける謎の仕草と共に、雷となってかの神はこの世界から飛び去っていった
そこで、リボンの記憶は途切れた
おまけ キャラ解説(ネタバレ反転)
コード:ケラウノス(ゼウス・
フィトリアの前に現れた金雷の神。この世界を神から守る神を自称しており、その実力は確か
女神メディアを追って世界を渡っていったのだが……?
その正体は先々代『雷霆』の勇者ゼウス。当代の『雷霆』である御門讃のある意味先祖に当たる存在である。あの後、女の子のピンチを救いロマンスをやりたいが為に、寧ろピンチ起きてくれないかなという思考に陥りかけている自身に気が付き、自らの手により『雷霆』の勇者である事を止めて消滅している。その想いと魂を引き継いだ者には、やっぱりそういった恋愛って溺れてクソ神に成り下がるから駄目だという認識がこびりついているとか居ないとか