視界がフィロリアルの聖域に戻る
「ばちばち、どうかしたー?」
そう聞いてくる、外見は自分より幼い少女の胸元のリボン。ついさっき見たものと、大分ボロボロになって分かりにくくはなっているものの装飾はよく見ると同じもの。それを見つけて、俺は苦笑した
あれか?あの人……ってか神は20代くらいで、俺の外見もまあ20前後。実年齢は16+11で27のはず。そして数百数千年の時間が経ったから恩神の事をばちばちスパークしてた20代くらいの男って事しか覚えてなくて、俺と彼を見間違えたのか?それならば、やけに素直なのも分からなくもない。俺の事を昔むかしに自分達を助けてくれた恩人と勘違いしているから割と好意的。襲ってきたのもレンを焚き付けつつ、あの時のゼウスを名乗る神=俺という認識ならば止められない道理はないから万一レンが本気を出さなくても死ぬことはないと思いつつ確かめたのか。別人なら死ぬかもしれないが、俺はアヴェンジブーストという持ち前の異能でばちばちしつつ止めてみせた。それで俺を彼と思い込んだと
うん。勘違いだぞフィトリア。確かに俺も雷の異能力は持ってるが俺は世界を守る神どころか世界を侵略する神の側の尖兵だ。お前の思ってるのとは真逆。あの記憶でゼウスなる神が言ってたメディア・ピデス・マーキナーによる転生者だぞ
というか、あの女神の野郎そんな昔から既に暗躍してたのかよ。まあ神だしそんなものか
「いや、何でもない
そのリボンは、もうボロボロだし付けてると破れちゃうと思うが良いのか?」
何だそれじゃなく、知っているとも知っていないとも言わない曖昧な言葉
明確に嘘はつかない。けれども、本当の事も言わない。向こうが俺をあの世界を守る神の関係者若しくは人間レベルに力を抑えてやってきた当人と勘違いしていてくれるならばそれは存分に利用させて貰う
俺を彼と勘違いしているならばちょうど良い。恩人(勘違い)の為に馬車鳥の如くってか馬車鳥そのものだが働いて貰うぞ
「んー?あたらしいのくれるの?」
「……今は、持ち合わせがないな」
ってか神の与えた布だぞ仮にも。俺には鑑定技能とか無いし下手に変な能力付加されててもそれが解らない。下手なものを渡して前のリボンにはあった○○が無いからニセモノーされても困るのだ
「ぶー!」
「此方にもお金の問題とかさぁ……」
「なんというか、すまない」
「お前が戦うのに必要だと思ったから俺が自分の意志でその剣を買ったんだ。そう気にするなよレン」
すまなさそうに少しだけ目線を下げる少女にフォロー
そもそも、金はあるぞ多少。まあクソナイフ強化しようとすると全部オーバーカスタム扱いだから軽くふっ飛ぶ金だが。そもそもリボンに出来る布がないのは俺がそんなにオシャレに金使ってないからだ。あの神みたいに腕にシルバーとか布とか巻いてないし
「そういえばフィトリア、こいつらは」
と、ついてきたフィロリアルズを見て聞いてみる
「お前みたいにクイーンやキングにならないのか?ってか、お前の回りのフィロリアルも変化してないようだが」
勇者が育てると変化するはずだからなフィロリアル。つまりは、良く良く考えてみればフィトリア旗下のフィロリアル達も馬車の勇者であるフィトリアに育てられたフィロリアルと言えるわけで。勇者に育てられればというのが『四聖』とか冠がつかなくても良いならば周囲のフィロリアルはほぼ全員がキングクイーン種の神鳥の群れでなければ可笑しいのだ。メルティやらですぞ元康が見たらトリップして卒倒ものだな。俺は……別にどっちでも良いが
「えっとね、四聖が育てたらみんな変化するよ?」
「七星なら違うのか?」
「フィトリアだと100羽に1羽くらい?」
「確率低いのか」
「別の世界から召喚された七星だともうちょっと高いんだってー」
へぇ。四聖は召喚限定だし、召喚された勇者の方が四聖っぽさあるからとかそんなんか?
「それで、ムゥ達は?」
「ねぇねぇ、そこのはなって欲しい?」
「ぼ、僕か?」
レンに話を振るのか?何でだろうな
いや、転生者な俺に聞くよりは現地人なレンに聞いた方が良い気がするが、だとすると勘違いは?となるしどうなってんだ?
「い、いや僕は勇者ではないし……」
「なんでなんで?フィトリアに聞かせてー?」
「な、なってくれるならば心強い味方……だと、思う」
押されぎみに、レンは頷いた
うん、引くの分かるぞレン
「ばちばちはどう?フィトリアみたいになって欲しい?」
「そもそもなるのか?」
パチモノ勇者な転生者に育てられたんだがそれで変化するならタクトやユータやレーゼが育てても変化しうるんじゃないかってほどにガバガバ勇者判定だぞそれ
「フィトリアがとめてるのー!
ばちばちがなって欲しいっていうならやめるよ?」
「お前のせいかよフィトリアァッ!
いや、そこまで変化をするはずだと思っていた訳じゃないし、責める気は無いが」
ウッソだろおい。フィトリアがフィロリアルだしと止めてただけかよ。実は勇者武器奪っただけの転生者でもクイーン化判定あったのか
「うまくいかなかったら死んじゃうの」
「失敗する事があるのか」
「うん、だからとめてるのー」
「そうか。俺の意見は……
ムゥとリヴァイに任せる。あいつらが力が欲しい、クイーンになりたいっていうならばなれば良い。危険を犯してまでそんなんになりたくないならば、そのままで良い」
『ピィ!』
『ピヨ!』
「うんわかったー!やっとくねー!」
これで、もしかしたらこいつらは変化するのかもしれないのか
……服を買っておかないとな。変化時に最初から服を着ててくれるのはフィトリアくらいだ。俺は全裸のロリショタ奴隷を連れた(実際は魔物紋なのだが専門家でなければぱっと見人間に刻まれた魔物紋は奴隷紋にしか見えないだろう)犯罪ネズミにはなりたくない
ってか今のパーティ女ばっかだな。ハーレムかよ。いや、ハーレムor逆ハーレム築いていて同姓居ないってのは凄く転生者みがあるけどさ。やっぱり俺も転生者なんだなってよーく分かる。誤魔化すためにフォウルには残ってもら……いや尚文の元にいてくれた方が安心だ、主にリファナの安全的に。リファナがフォウルに惚れたら?おのれフォウル!するだけだな、リファナが幸せなら仕方ない。リファナを不幸にしてまでリファナが欲しいかというと、なぁ……。俺の想いなんて鼬気違い自称しててもその程度なのだ、所詮
閑話休題、ハーレムパーティっぽさの軽減の為に是非キングになってくれよリヴァイ。ムゥは……どっちでも良いや。騙されているのを良いことにほぼ上位互換なフィトリアが手を貸してくれそうだしな。どうせムゥだって人化したらフィーロみたいに煩いんだろ?ならフィトリアで良いじゃないか
「フィトリア?何時くらいに変化するんだ?いや、キングになることを望んだら、だけどさ」
「明日ー!」
「波の来……いや、もう来ないのか明日には」
何でか知らないが、俺の異能力のせいで周期が早まってたみたいだしな
「うん、ばちばちが寝てるからだいじょーぶ!」
「元の周期ってことは、錬も樹も尚文も無事か」
勇者、特に四聖が欠けてたらバランス崩れてさっきまでみたいに波の周期が早まるらしいからな。まあ、世界を守る力である四聖勇者が欠けてるんだから世界を融合させて乗り込もうという神の起こす波に対して抵抗しにくくなるのは当然の話だ
じゃあ、俺の異能力が寝てる……というか覚醒前に戻らないとなんで波が早まるんだ?って疑問は残るが……
あれか?杖は勇者の手元を勇者の為に離れている。小手は転生者にパクられた。原作ではまだしも勇者側であった七星武器が転生者側に更に捕らわれたせいで歪んでいて……。いやならば俺の異能力関係なく早まってるな
うん、ワケわからん!分からんものを考えても仕方ない、忘れよう
「それで、フィトリア?お前は……
これからどうするんだ?」
ふと、聞いてみる
「ばちばちはー?」
「戻って敵に備えるさ」
波に、とは言わない。いや、転生者にも備えないといけないし、レンやフィロリアルズの育成もあるしな
「ばちばち、フィトリア付いていった方が良いー?」
小首をかしげ、少女の姿の勇者は、そんな俺にそう問い掛けてきた
……ここでああ、一緒に来てくれと何も考えずに言えたらどんなに楽だろう
だが、それはダメだ。何よりずっと行動していれば俺が本来は転生者だとバレるし、表面的にも大問題
「いや、そもそもお前と居ると経験値が」
「さっきそれなくなったよー?」
「そうなのか」
確かめるには近くのフィロリアルを惨殺しなければならないので聞き流す
「いや、だとしても駄目だ」
少しだけそれでも騙されているとも知らず恩人の縁者だと勘違いして俺の味方をしていてくれる間は心強いし、最悪の場合バレた瞬間馬車を奪って逃げるくらいのことは、と思ったのは確かだ。殺す?却下
「確かに居てくれたら心強いよ。いっそ来てくれと言いたくもある
でも。だからこそ、お前が居なかったら誰がこの世界を守るんだ、フィトリア。各地の細かい波は、お前とフィロリアル達が何とかしてくれているんだろう?」
そういう設定だったはずだ、原作では。恐らくそれはこの世界でも変わっていない
「お前が俺と居たら、それらの波に対抗できない。だから、来てくれと言える状況じゃないだろう?」
「うん、わかったー!
それじゃ、これあげるー!」
そう言うや、何か恭しそうに数羽のフィロリアルが運んでくる
……うん。勇者武器のレプリカ、だな。三勇教の教皇が尚文等を殺すために持ち出すアレのプロトタイプ。いや、そんなもの貰ってどうしろと
「いや、これは……」
そうしてフィロリアル達は、それをレンの前に突き刺した
「ど、どうしろと……」
「あげるー!」
「い、いや、使えないよ……僕には」
「ぶー!」
「そういうことなら、俺が預かっとくよ」
と、手に取る
うん、吐き気がする。やっぱりクソだな勇者武器の制限。でもまあ吐き気がするだけで持てるならば……
「おぇっ」
ヤバい。剣から盾に変えようとしたら恐気が酷すぎる。パチモノとはいえ勇者にロクに使えたものじゃないなこりゃ
「……何だこれ」
「ばちばちにはこれー」
と、フィトリアが差し出してきたのは……鈴?
「鈴?」
「うん。鳴らすとー」
「鳴らすと?」
「フィトリアが来るよー」
「なんだそりゃ!?」
「ばちばちが言ってたみたいに忙しいとフィトリアの代わりにー、近くのフィロリアルが」
「お前かどうかで戦力に差がありすぎる……」
近所のフィロリアルて。
「あとは、これもー!」
と言うや、馬車から何か光が放たれ、俺を包んで消える
馬車の特例によりコール・フィトリアを習得しました
……うん、何だそりゃ
「コール・フィトリア?これを使えばお前を呼べるのか?」
「ううん?鈴は鳴ったときに暇ならフィトリアがポータルつかうだけ」
「ポータルで飛べるのかよ」
「馬車だとごしゅじんさまとかばちばちでポータルとれるよ?」
流石は移動道具である馬車の勇者。移動スキルの拡張性能が高い。投擲具には無理な芸だぞそれ
「つまり波が近くなければポータルで飛んでくるだけなのか。じゃあこのコールは?」
「使うとおはなしできるよー」
ああ、電話みたいなものなのか。それで行けるか聞いてからなら鈴を鳴らせばフィトリアが来るかどうか分かると。ん?鈴要らなくね?近くのフィロリアルが寄ってくるですぞ元康辺りが喜ぶ機能しか意味がない。テレパシー会話出来てポータルで飛んでくるだけならそれこそフィトリアの力を借りたいならコールでこういう状況だから来て?すりゃ良いじゃないか
「通話料一きらきら」
「料金取んのかよ」
鈴にも意味あったわ。きらきらってどんな単位だ、ってか多分適当な光り物で良いんだろうけど基準が曖昧すぎる
そうして、そんな締まらない話を終え、レンとフィロリアルズを連れて聖域を出る
どうやら馬車の力で飛ばしていたようで、繁る木々の間を潜ったら聖域に来る前に居た林であった
「マスター、やっと戻って……」
無表情でずっとフィロリアルの間に立っていたらしい悪魔が言いかけ、口をつぐむ
「……ゼファー?」
「ネズ……マルス、ちょっと自分の顔を」
「どうしたんだよレン。笑いを堪えるような顔して」
「鏡見て言うでち」
すっと差し出される手鏡
覗き込んで……
「フィトリアァァァァァッ!てめぇぇぇっ!
男のアホ毛は可愛くないぞフィトリアァァァァァッ!」
何度めかの叫び
鏡に映った俺の頭の上には、ついさっきまでは無かったはずの三本の立派なアホ毛が揺れていた
愛の狩人と尚文とごしゅじんさまをマキシフュージョン!これでネズミに票で勝てますぞぉぉっ!そしてフュージョンにより俺はごしゅじんさまになるのですぞぉぉっ!30分だけ大きなフィロリアル様と蜜月ですぞぉぉっ!
100越えるくらいで締め切ろうと思ったのですが何でこんなにネズミ強いんですかね…ネタ選択肢でもないのに
そしてさらっと追加されるオリジナル設定。馬車の勇者ならポータルは特定の場所ではなく特定の人物の居る場所で取れる
つまり岩谷尚文の前でポータルを取れば何時でも何処でも尚文の前にポータルで来れるという訳だ。鍵かけられようがそれこそ出入り口のないバイオプラントの家の中に引きこもられようが。アトラさん、どうです?馬車の勇者……やりたくありません?
次のボス戦の難易度。イージー以下、ノーマル、ハードで以降の展開及び一部キャラの生死が多少変わります。締め切り11/1(金)の15:00頃。では、次のボス戦のシーンタイトルは…
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1周目のラスボス(難易度:イージー)
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4/7の最強勇者(難易度:ノーマル)
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皇女に捧ぐは真なる愛(難易度:ハード)