パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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アヴェンジブースト

軽すぎるリファナの体を背負い、館を出る

 合間にうだうだ言ってきた馬鹿丸出しの豚はピックで喉を貫いてやった。恐らくはあれが領主だったのだろう。鞭なんぞ持ち出して騒いでご苦労な事だったが、もうあいつは何も言えない。壊毒を先端に塗った小型ピック、今頃奴の声帯はボドボドに溶けているはずだ

 良い気味だ。リファナを傷付ける奴は死ねばいい

 

 勇者ユータの幻影は張ったまま、街を歩く

 ってラフタリアは数歩離れて付いてきてるな、はぐれるぞ。リファナを背負ってる以上意識して離れることは流石に無いかもしれないが。何か悪いことでもしただろうか、寄ってこない

 ……正直な話、本来の姿で近付いた時より遠いぞどうなってるんだ。謎の怪しい鼠亜人以下ってお前な……

 

 「……どうしたラフタリア」

 なので問い掛けてみる。ラフタリアともう呼んでも大丈夫だ、さっきリファナがそう呼んでいたのを聞いて名前を知ったで通る

 「離れるなよ、領主の館で無くてもこの辺りは亜人への当たりが強い」

 それで苦労したものだ。そういえば、あの店はまだあるのだろうか

 

 「……怖くて」

 「……怖い?」

 足を止めて、ラフタリアの眼を覗き込むように膝を折る

 時折咳き込むリファナの背を、幻影で姿を隠した禿尻尾でゆさぶりながら

 「その、眼……」

 「眼?」

 怯えるなよラフタリア。恐怖顔に出てるぞ

 「赤い……眼」

 「……赤、か」

 何だそんなことか

 

 というか、赤目発現してたのか俺。それはもう怖がられても仕方ないな

 『称号解放 厨厨鼠』

 厨二と鼠の鳴き声を組み合わせた画期的な称号、ってうるさいぞクソナイフ

 赤目は俺にとっては何でもない事だ。幻影貫通してるとは驚きであったが

 

 「勇者特有……って訳でもないけどさ、異世界から呼ばれた勇者の資質の発動、かな

 気にしなくて良いラフタリア。別に悪いものじゃない」

 そう、別に悪いものではない。俺にとっては普通のもの。そもそも、俺が女神に選ばれた理由である

 

 曰く、弓の勇者川澄樹は異能のある世界から来た。それに関して盾の勇者主人公の尚文は色々と言っていたが、俺の世界にも普通に異能はある。正直な話、しっかり探せば的中能力を持った川澄樹だって居たかもしれない。探す力なんて無かったが異世界転移モノと言えば元々持っていた異能を駆使して大活躍、がお約束の展開とされていた世界において、盾の勇者の成り上がりは異能持ちが敵だけの転移モノという点でネット掲示板の注目を集めていた。まあアングラな場所ではあるのだが

 そして、俺の異能はクソナイフが再発動をアナウンスしていたがアヴェンジブースト。セクシャルブーストやらダメージブーストやらドランクブーストやらスカッシュブーストやらのブースト系異能の極致。最強候補筆頭にして次元の違う最弱の異能。その発現の初期段階が充血して真っ赤になった瞳である、というだけ

 「髪は?どうだ?」

 「黒い、けど」

 「そうか。第一段階だから気が付かなかった、悪いなラフタリア」

 因みにだが、第一段階で目が充血して真っ赤になり、多少目が良くなるが寝れなくなる。第二段階はプラズマで髪が半端に逆立ち青白く光るようになる。この段階になると周囲の電子機器が壊れ出すのだがこの世界ではちょっと静電気でバチっとくるくらいだろう。電子機器は無いのだから

 ぶっちゃけた話、アヴェンジブーストは最強のブースト異能と言っても樹の的中なんかに比べて完全覚醒で無いとそう強くはないのだ。第三段階(完全覚醒)に行かなければちょっと目が赤くなり髪が青白く光って逆立ちつつ静電気がバチバチする程度の異能でしかない。セクシャルブーストで言えば頬どころか掌キスすればこれくらいのブーストは出来るな。当然それ以上ならばもっと強い

 正直、俺としては異能はブースト系ならば炭酸飲むと動きが速くなるスカッシュブースト辺りで良かったんだが

 

 閑話休題

 とりあえず、座れる場所に行こう。館の奴等は全員夢の世界だから追いかけられるのはまだ先だ。とりあえず腹ごしらえだ腹ごしらえ。リファナに何か栄養あるもの食べさせないと栄養失調で死んでしまうからな。ラフタリアもだが

 

 ということで、昔村を飛び出した時にお世話になった寂れた料理店に顔を出す。まだ残ってたのかこの店、何時潰れるんだというレベルで寂れてたんだが

 名前を、ドブネズミの残飯亭。自虐の強い名前だが、本当に小汚い店である

 「ラフタリア、入れ」

 「で、でも」

 「小綺麗な店に行きたいか?

 無理だ。亜人お断りの一言で片付く」

 まあ、そういう話である。何とか細々と生きていこうという亜人向けの店。この街のスラムとまともな通りの境界にある、両側から入れはする場所。とはいっても、まともな通り側の扉は、流れの冒険者なんてやれてる奇特な亜人と、未来を夢見てスラムを出ていく現実を知らない亜人と、運良く奴隷にも死体にもならずにスラムに逃げ帰れる現実を知った亜人くらいしか通らないのだが。今の俺は……亜人奴隷の少女を連れた謎のお客さまという珍種扱いか?

 

 軋む扉を空けて中へ

 水?出るわけ無いだろ金だ金。こんな場所の水なんて金払わなきゃ何入ってるか分かったものじゃない。まあ、金払おうが加熱消毒はしてある、くらいの差なんだが

 店員は一人。案内のウェイトレスなんて上品なものはない。なので適当に座り、適当に注文し、たまに間違えたものが出てくるのもご愛嬌。そんな店である

 「何でも良いぞラフタリア。どうせどれも美味しくないから好きなもの頼め」

 まあ、当たり前。選外品なり何なりの捨て値の食材でやってる店だ美味いはずもない。値段相応に飯の量はある、亜人でもぼったくられない、栄養はある、その三点があるので気にはしてないが

 

 なんて言いつつ、リファナの体を……

 相変わらず汚ねぇなこの店。リファナを下ろしたら病気になりそうだ。背負っておくか


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