「あんな魔法をこの国の王女が居る場所へ撃つとか……何を考えてるんだ?」
と、空気を戻すようになおふみ様
その魔法は、割とあっさりと打ち返されてたけど
「あんな魔法をリファナ達に向けて撃つとは、喧嘩でも売りに来たのか?」
というのは何時も通りのマルスくん
「次期女王候補の方々は正義の為に、いえ、既に盾の悪魔によって殺されているのです。今、そこに居るのは生きる屍なので、気にする必要はありません」
「生きる屍、ね」
「ナオフミ様はそんなことしません!」
「生きる屍ってのは精神の崩壊した奴の事で、ゾンビは動く屍じゃないのか?」
「そこはどうでも良いだろ!?」
思わず突っ込みに走るフォウルくん
……うん、何か幼馴染がごめん。マルスくん、ちょっとズレてるから
「神の慈悲に感謝をしなければいけないのに盾の悪魔は侵略行為をしました。ですから私が神の代弁者として浄化に来たのです」
「凄い理屈だな」
「バカの理屈なんてそんなものだろう」
ふっ、と何時ものように纏っていた雷が消え、光と共に現れる剣を握り込み、マルスくんは呟く
「全てはこの国、果ては世界の為の聖戦です。人々を誘惑し先導する盾の悪魔と人々の信仰を揺らがせる二人の偽勇者を我が教会が駆逐し、権威と威信を確固たる物にする為の戦いですよ」
「偽勇者ね……」
なおふみ様の呟きに何とか貼り付けた笑顔の仮面を若干歪ませて教皇は不愉快そうに答える
「ええ……各地でそれぞれ問題を起こす偽勇者によってこの国の信仰が揺らいでいるのです。剣の偽勇者は疫病を蔓延させて生態系を狂わし、弓の偽勇者は権威を示さず我が教徒を苦しめる。真に遣わされた勇者は槍の勇者様ただ一人」
「その槍の勇者だってバイオプラントを解き放って色々と問題を起こしただろうが」
と、半眼になるなおふみ様
「あれは……あんな化け物になるような植物じゃなかった筈なんだ!」
言い訳のように叫ぶ槍の勇者
それに応じるように、重々しく教皇も口を開く
「ええ。あれはあの土地の異常活性が原因です。恐らくは槍の勇者様を貶める為に、盾の悪魔が仕込んだこと」
調子の良いことを、彼らは言う
「あぁ、そうなるのねそこ……」
って、バツが悪そうにマルスくんが関係ないだろうに頬を掻くのが可笑しくて
「そうだ……お前達がそんなだから……
リファナちゃんやラフタリアちゃん、リーシアちゃん達を支配して好き勝手やるから……
俺しか居ないんだ、マルティ達を、この国を、引いては世界を守れる勇者は」
「ばちばちー、あの槍の人おばかー?」
「止めてやれフィトリア、まだあいつはバカなんだ」
悲壮な顔で決める槍の勇者だけど、何か締まらない
「槍一人で世界を守る、か。大きく出たもんだな」
「煩い!俺達勇者は異世界人だけど、異世界人だからこそ!奴隷なんて人の体と心を無理に縛る事なんてやっちゃいけないんだ!」
「俺は普通にルロロナ村出身なんだけどな!」
マルスくん、張り合うとこそこじゃないと思う
「キャー元康様ー!」
って、教皇の後ろから、カッコつけてる槍の勇者に向けて黄色い声援。こんなところにそんな事やりに来るなんてどうかしてる気がする
「……そこのネズミ……
リファナちゃんや……その翼の女の子」
「フィトリアな」
「フィトリアちゃんも多分縛っているだろう尚文に次ぐ悪魔!」
「ばちばちー、槍が気持ち悪ーい!」
「そのうち愛を囁きに……いや叫びに来るようになるから待ってろ」
「それも、やー!」
「聞いてるのか!」
「聞く価値ねぇよ槍の勇者様!」
「ん、んなっ!?」
「ま、まあ良いでしょう
要らぬ事を始めた弓の偽物は処分しましたし、剣の偽物は偽物らしくあの波で死んだのでしょう
後は、盾の悪魔を祓うのみです」
……教皇さん。なおふみ様から聞いたけど、剣の勇者様はあの波生き残ってるし、弓の勇者様とは最近会ったからそれ上手く行ってないよ多分
って、わざわざ敵に言う気にはならなくて
「盾の悪魔には……ギリギリで通じなかったようですが、弓は指定の場所に信者に呼び出させ、『裁き』によって存在ごと消滅させました」
あ、マルスくんが跡形も無いってのは逃げられてる事が多いんだよなぁ……やるならしっかり死体確認してから消し去れよってぼやいてる。向こうには聞こえない大きさだけど、敵にアドバイスしてどうするんだろう
「死なせたのか!? この世界の為に戦って来た、皆を……錬を!」
槍の勇者がすごい剣幕で捲し立てる
って、樹さん……弓の勇者の方は良いの、それ?
「殺すなんて滅相も無い事ですよ槍の勇者様。我々を騙した偽者の悪魔を浄化したと言ってもらいたいですね」
「な……」
と、絶句するフォウルくん。何だかんだ勇者様信仰あるから、その辺りは気持ちが追い付かない……のかな
「そして王と女王にはこう言っておきましょう。偽者の勇者達によってこの国は支配されかかっていました、ですが私達が救いましたが、残念ながら姫は……とね」
さりげなく、フォウルくんがメルティちゃんと教皇の間を塞ぐように立ち位置を変える
「……はぁ、もう良いや。聞きあきた」
と、マルスくんが漸く剣を構える
「ふふふ、果たして勇者でもないネズミが、何らかの手段で一度『裁き』を防いだとはいえ勝てるとお思いかな」
……いや、ずっと勇者だよ。マルスくんって
教皇が笑いながら、部下らしい神官になにかを持ってこさせる
白銀で彩られた大きな儀礼用の剣みたいなもの。中心にはなおふみ様の盾に埋まってるものに似ていて、けれどもそれよりも大分濁った宝石が嵌まっている
「ナオフミ、フォウル!気をつけて、あれは……」
怯えたように、メルティちゃんが叫ぶ。あの武器の正体、知ってるのかな
「……まずは盾の悪魔本体から行きましょうか」
「……おい、無視すんな」
と、言いつつマルスくんが手に持った剣の姿を変えさせる。鳥の羽根をあしらった短めの刀身の剣に。って今まで出してたのより弱体化してない?いくら簡単に勝てそうだからっていたぶるために手抜きするのはマルスくんの悪い癖だとわたし思う
「……おや、剣の偽物。まさかこの世界の住人に受け継がれているとは」
眼をしばたかせ、教皇が呟く
……剣じゃなくて投擲具だけど、マルスくんは言わない
そもそも、剣ってこの世界の人には使えないから有り得ないはずじゃ。それを気が付かないって変。てんせいしゃ?って人達は使ってたけど、あれは何か変な感じがしてた。無理矢理にも見えて。でも、マルスくんとあの投擲具の間にはその違和感が無い
「……さあ、どうかな」
「ですが、関係はありません
剣の偽物の残党が居るならそれも……共に神の裁きを受けるが良い!」
そう言って、教皇は遠くから大上段に振り上げた剣を振り下ろす。普通なら絶対に届かないような距離から
「一思いに炎で浄化してあげましょう、フェニックスブレイド!」
直後、火の鳥がわたし達……というかなおふみ様目掛けて刀身から放たれ
「さあどうです!受けきれますか!」
それでも、マルスくんは静かに
「フィトリア、ちょっと力借りるぞ」
と、気軽に剣を構え……
「フィロリアル・ストライクⅡ!」
剣から巨大なフクロウみたいなオーラを放ち、飛び出してきた火の鳥を貫通させた
「……は?」
タクトー!はやくきてくれー!
弱体化したとはいえネズ公パチモノ12/12
本来の1/4とほざく上に四聖の武器にしか姿を変えられないから恐らく真実は1/12な贋作が抗える存在ではないのである
因みにイージーモードだとタクトが来ずこのままネズ公が元康と教皇を蹂躙して終わります。まあそりゃしっかり強化してない1/12が集まってある程度戦えてた相手に対して12/12勇者が居たら普通に倒せちゃうよねという話ですね