パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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3/12の偽神 vs12/12の偽神

剣を振り下ろした教皇も、そしてなおふみ様もフリーズする

 そんな中、当たり前だろ?とばかりに軽くわたしの幼馴染は剣を振って

 「ねぇねぇ、なんで?なんで手を抜いたの?」

 そう、銀髪の女の子に問い詰められていた

 

 「手?抜いたか?」

 「ふぃろりあるすとらいくー」

 「一応きちんとスキルは強化段階で撃ったぞ」

 いや、手抜きだと思う。だって、今持ってる剣の姿より、俺が止めるってなおふみ様と別れる前に使ってた姿の方が強いし。武器の姿に応じて性能が違うのは、それが関係ないなら常に誤魔化せるようにブックシールドっていう本みたいな盾にしておけば良いのに戦闘になるとキメラシールドなんかになおふみ様が盾を変える事からも分かるよ

 「……ってあれか?

 いや、あんな奴程度にフィトリアルストライクとか単なるオーバーキルだろ」

 フィトリアルストライク

 うん。なんというか凄い名前だな、って。それしか言えない

 「いや、オーバーキルして槍の勇者を殺して良かったのか?駄目だろ?」

 

 「勝手に死ぬように言うな!」

 「じゃあ耐えてみせろよ槍の勇者

 言っとくが、俺は前の波でてめぇを床に転がした時よりは強いぞ?何たって、勇者になったからな」

 あ、あくまでもその設定で行くんだ。あの時……っていうか、なおふみ様に会う前、村に帰ってきた時からもう勇者だったよね?不審者な前の勇者様のフリしてたけど

 だからきっと、あの時とマルスくんの強さってあんまり変わってない。うん、多分大丈夫……だと思う。だって、彼がわたしになおふみ様と逃げろって言わないから

 3年前の肝試しの時だっけ。お化けの仮装じゃなくて、本物のお化けのモンスターが出たのって。あの時は、大人を呼んできてって形でわたしに逃げろって言ったっけ。でも今回は気楽そうで

 

 「試し撃ちはこれくらいにしましょう。本気で行かせて貰います」

 「そうかよ」

 相変わらず多分本気なんだろう偽・フレイの剣……だっけ、そんな名前の剣には変えず、構えすら自然体のまま、ネズミな幼馴染は言う

 「ってか俺がそっちを舐めてるうちに本気を出した方が良かったんじゃないか?」

 いや、今も舐めてるよね?

 教皇が剣を前に向けると、その姿が槍に変わった。なおふみ様と同じ盾じゃなくて良かった

 「槍に変えて意味でもあるのか?」

 「いや、そこは驚こうよ!」

 「フォウル、あれはね。伝説の勇者が持つ武器をどうにか複製しようとした過去の遺物なの」

 「複製品か?今の尚文の盾より強くないか?」

 「というかそんなものがあるなら量産しろよ。俺を巻き込まず」

 と、なおふみ様

 「量産したらしいぞ?大半昔の波でぶっ壊れたらしいが」

 「フィトリアもってるよー」

 ……緊張感が、無い

 

 「数百年前に行方不明になったらしいのだけど……え?持ってるの?」

 「あんまりつよくないよ?四聖武器だけで見ても、1/4くらいしかないよー?」

 「いや、明らかに今の元康の槍とか、俺の盾より強いだろ!」

 うん。でも……マルスくんの持ってる投擲具に比べたら雲泥の差ってほどに弱い。1/4というのも嘘じゃないのかも

 じゃあ、何でなおふみ様の盾より強いのかは……分かんない

 「マルスくん。なおふみ様も、マルスくんみたいに強くなる?」

 「なるに決まってるだろ?その状況を1として、四聖だけの更に1/4だから1/12相当の雑魚、それがあの武器だからな」

 勇者になったから軽々しくそう言えるんだと思うけど、わたしからすればマルスくんの1/12って凄く強いと思う

 「1/12?」

 「……ん?当たり前だとは思うが、勇者の武器の強化方法には互換性があるぞ?だから、勇者武器を手にした瞬間、端から見てたお前の強化方法試し、そして使えた

 つまりは、全ての勇者武器の強化方法を組み合わせた状態が、本来の力って事だな。単純計算で今の12倍、相乗効果もあるから実際はそれ以上。今の俺も全部知ってる訳じゃないが、半年の間に会った爪の勇者の強化方法とかも試した結果、今がある」

 「……は?」

 「最初は無かったけどな。正規勇者が目の前でその強化やってるのを見てきたんだ、やって出来ない筈がないと思ったら使えたぞ?」

 「何時まで無視してるんだ!」

 話に割り込むように、置いてけぼりにされた槍の勇者が吠え、スキルを放つ

 それに合わせて、教皇も

 槍にわざわざ姿を変えたのって、二人で合体技みたいにするから、だったのかな

 でも

 

 「ブリューナク!」

 「流星槍!」

 「……見せてやるよ尚文。これが勇者武器の強化のひとつ……その昔って数ヶ月前、小手に選ばれないかなーって行った先で見つけた資料にあった強化方法……

 満月扇Ⅶ!」

 彼の手から投げ放たれた円形に広がる扇が、三又の輝く槍と流星のように尾を引く槍のオーラを受け止め、そのまま対消滅する

 「Ⅶ!?」

 向こうで驚いたように叫ぶ槍の勇者

 でも、マルスくんって此処に飛び込んできた瞬間にも……というかフィロリアルストライクにも良く思い出すとその強化使ってたよね?そんなに驚くことかな

 「てめぇに出来るかな、槍の勇者」

 「いや、敵に塩を送ってどうするんだよ」

 「そうよ!それで強くなられたらどうするのよ」

 「バカが使えるとは思わないから良いかなと」

 って、フォウルくんとメルティちゃんに彼は返して

 

 「さて。まあ良いか。のんびり話すには邪魔だ。そろそろ皆追い付いてくる頃だしな」

 「やっぱり置いてきてたんだ……」

 いつの間にか連れてた女の子が今回は居なかったからあれ?って思ったけど

 

 「散々虚仮にしてくれたようですが……」

 「ネズミぃぃっ!」

 槍の勇者が、今のなおふみ様が構えている盾と良く似た禍々しい槍を構え、教皇もそれに合わせてもう一度槍を構える

 「フィトリア、上任せた」

 「やー!盾に働いてもらうのー!」

 「援軍に来た意味無いなそれ!」

 「盾が何にもしてなーい!」

 「やるべきこと全部盗っていったのはお前だろ!

 それだけ強くなったなら一人で戦えよ」

 あ、またなおふみ様が拗ねた

 「……いや、前に言ったがお前にしか盾の勇者は出来ない。だから盾の勇者として戦え

 その言葉は、今も変わらない」

 

 「……イナズマシュート」

 「イナズマシュート!」

 話してる間に、二人のスキルが完成して撃たれる

 そして……

 「合成魔法……『裁き』!」

 もう一度、光の柱まで降ってきて……

 それでも、それら全てを一人で何とか出来そうな唯一の人は動かない

 「尚文!お前に任せるしかない!」

 「そうよナオフミ!このネズミ頼りになりそうでならないんだから!」

 フォウルくん達はなおふみ様に丸投げし

 「がんばれー、盾ー!」

 フィトリアって子はマルスくんみたいに気楽で

 「ナオフミ様!信じてます」

 やっぱり、ラフタリアちゃんも結局はなおふみ様に投げて

 「盾の勇者

 お前がやらなきゃ!誰がやる!」

 って、マルスくんは煽って

 うん、なおふみ様怒ると思う。そういうとこだよマルスくん

 「お前がやれよネズミ!」

 なんて叫びながら、なおふみ様の構える禍々しい盾……ラースシールドっていうらしいそれが更に変貌し

 「このネズ畜生がぁぁぁっ!エアストシールド!」

 飄々と立ってる彼等に向けてカースの炎を撒き散らしながら、なおふみ様はスキルで周囲を守る

 

 「……尚文、熱いんだが」

 自業自得じゃないかな

 でも、そんなカースなんて撃ってる余裕はすぐにも無くなって

 「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 何度も見たエアストシールド、セカンドシールドが弾け飛ぶ。なおふみ様の防御をこれだけ抜いてくる相手なんて始めて見た

 全体を覆うように出したシールドプリズンも割れ、なおふみ様の……勇者の盾の防御範囲が見える。わたし達が居る凄く近い範囲だけ……じゃなくて、フィトリアさんが普通に外に出てるくらいの狭さ。前から飛んでくる二条の雷槍は、その背中の翼と、マルスくんの剣に受け止められていて

 「電気ネズミさんに雷で挑むのかよ!挑戦者だなオイ!」

 「びりびりきもちわるーい!」

 あ、うん。平気そう

 「ナオフミ様!頑張ってください!」 

 ラフタリアちゃんの応援。いや、応援しかする事が無いし

 マルスくんはちょっと乱暴にとっても酷い方法でなおふみ様を鍛えようとしてて。わたしに出来ることは何もなくて

 

 「負けられないんだ!リファナちゃん達の為にも!」

 なんて、余計なお世話を言って槍の勇者は気合いを入れる

 「槍の勇者に助けて欲しいか、リファナ?」

 「なおふみ様との決闘の時にも言ったけど、要らないかな」

 「……だって、さ」

 「うぉぉぉぉぉぉっ!俺は負けない!」

 「尚文も限界か、もう良いや」

 すっ、と。白髪のネズミは遊ばせてた左の手を剣に添える

 「ひとつ教えてやる

 何故か剣を引き継いだ扱いしてたが……そもそも、俺の継いだ勇者武器は投擲具だ

 スプラッシュケージ」

 瞬間、スキルを発動して力んでいた二人の槍使いを、虚空から突如出現したダガーが切り刻んだ

 

 「ぎぃやぁぁぁぁぁっ!」

 両手両足、全身の筋から血を吹き出し、槍の勇者が地面に転がる

 「……地点指定したのが不味ったかな

 片腕だけか、持っていけたのは」 

 そして、マルスくんが言うように、ギリギリで避けようとしたのか、教皇は……左腕だけがボロ雑巾のようにメタメタにされ、他は五体満足の姿で此方を睨んでいた

 「「「教皇様!?」」」

 集中も途切れたのか、光の柱も消える

 何とか守りきって、なおふみ様が息を吐いた

 「と、投擲具?」

 「いやラフタリア、何で俺が残って足止めした俺が生きて帰ってきたと思ってんだよ

 そもそも剣を受け継ぐも何もあのタイミングでそんなこと起きるわけ無いだろ」


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