パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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ネズミ盗り

「……終わりだな」

 カッコつけながら、そう呟く

 同時、アストラルシフトが終了し、纏う雷が消えてクソナイフが手元に戻ってくる。まあ、そもそも魂に作用する雷霆ならばタクトのチートにも効くんじゃないかと試すために撃ったものだからな。それで勝負を決める気など無かったし、第一決めきれるだけのSPが残ってなかった。絞りカスのSP突っ込んで発現しただけの維持を欠片も考えていない一撃

 現に俺のSPは底をつき、カッコつけてはいるがこの先出来ることはない

 

 ……通常ならば

 「ふざけるな!

 ネリシェンを!マーシュを!ユーを!みんなを傷付けたお前を!」

 と、タクトは吠え、爪を構える

 ってホントこいつ爪だいっすきだなオイ。そこで四聖武器である槍ではなく爪をわざわざ選ぶのか

 「俺は絶対に許さない!」

 「その意気ですタクト様」

 「俺はお前を殺し!盾も手にし!救いだした女の子達も連れて!エリーのところに帰る!」

 「……返してやるよ

 てめぇの首を」

 ……なあタクト、知ってるか?

 「ヴァーンズィンクロー!しぃねぇぇぇぇぇっ!」

 タクトの一つ覚え

 てめぇは何時もそれだが、俺にはまだ見せてない奥の手ってものがある

 「……なあ、そうだろう、爪」

 そう。今までの戦い、俺は正規勇者のフリをして、自分を正規勇者であるかのように語ってきた。別の転生者との戦いでもやった事だが……己が転生者であるという致命的な事実を隠しとおしてきた

 ……だからよ!あまりにも持ってる勇者武器のガードが甘過ぎだ!自分が正しく持っていない事を理解して無い、自分は盗る側であり獲られる側ではないと思っているから、そんなにも無防備でいられる。ハーレムメンバーの壁に阻まれてそれが出来る転生者と出会わなかったか?魂と一つになった正規勇者以外の奴の持つ勇者武器など、軽く奪える程度には不安定極まりない状況だとも知らず!

 隙だらけだ!

 「軛を受けよ、爪!

 スクラッチレイドⅡ!」

 転生者能力で奪いにかかる。選んだのは爪。タクトが何かと使っていることもあり、精神的ダメージと対応ミスを狙ってのものだ。他には転生者からパクって正規勇者に返すべき優先度的には四聖の槍という選択肢もあったのだが、今回はレーゼだ何だの時とは違う。そりゃ四聖勇者に武器を返さなきゃ世界が面倒な事になるのは同じだがあの時のレンは真面目に波と戦っていた。だが今回の元康の奴は何かだまくらかされて尚文等を三勇教と共に襲撃してきた馬鹿だ。返したところで教皇と一緒になって教皇相手に戦ってるだろう尚文等を攻撃しに行くわけだろ?さっと返しても危険だ

 

 ……だが

 「させません」

 ばちっ!とスパークと共に俺のところで形成されかかっていた爪の形が崩れ去る

 ……妨害!?

 「んなっ」

 「危ないところでした」

 俺が軛として張った目に見えない導線。爪の精霊を俺の支配下に移すそれを断ち切ったのはタクトではなく……口許は綻ばせつつも瞳だけが空虚な虎娘

 「アトラ!」

 「タクト様、危機一髪でした」

 「良くやったなアトラ!」

 「はい、タクト様がネズミと呼んでいましたが、あのバケモノの魂にはネズミの要素が一切ありませんでしたから」

 ……。転生者の魂は転生前と特に変わることはない。例えばリファナの魂の形を見たとしても、尚文の魂の形を見たとしてもそれは肉体とそう変わることはない。ちょっと肉体より幼かったり老けていたり、或いは亜人の場合獣成分が少し濃い薄いあるらしいがそれくらいだ。同一人物の時代違いってくらいの差にとどまる。だが、転生者の魂を見た際、先の理由から肉体とは完全に乖離した姿を見せる事はとても多い。それこそ、TS転生だ何だということで10にも満たない少女の肉体なのに魂は40越えたオッサンとかそんなんすら有り得るのが転生者だ

 ……ってまあ、俺自身は魂なんて見れないし、だからこそ何とも言えないのだが……。その法則に則れば、俺の魂を見た場合、それはハツカ種の亜人の姿ではなく人間御門讃の姿をしていることだろう

 ってかアトラの奴魂なんて見れたのかよ誤算過ぎる!あの奇襲は相手が俺を転生者だと気付いていない事が大前提。魂の姿が体と別物だから転生者だ、とバレてればそりゃ奇襲にもならないわな!

 「ちぃっ!」

 奇襲失敗。勇者武器向こうから奪って混乱のうちにと思ったが……ってどうすんだよ俺の手の内見せてしまった訳だが

 

 更には 

 ふらふらとしながらも、ゲンム娘とシュサク娘まで立ち上がる

 「ユー、マーシュ!大丈夫なのか」

 「ネリシェンが、最後に治してくれましたわ」

 ……ちっ!俺もプラズマで毒素分解とかやるからな!水魔法やら雷魔法やらで毒を分解中和……出来ないこともない。感度150倍さえなくなれば傷は浅いからな、復帰は可能だろう。やってほしかったかというと正直勘弁してくれだが

 「……みんな」

 タクトの手にする武器が鞭に変わる

 ……正直、一番出して欲しくなかったものに。あれだけは長期間タクトの元に居続けたせいか、タクトにかなり染まってるっぽいんだよな。俺の干渉が効きにくい程に。だからこそ、実のところあいつは鞭を使ってる時だけ別格に強い。鞭そのものが直接自分が戦闘する事をあまり重視していない武器だからこそそんな感じはないが、もしもあの鞭が鞭ではなく投擲具だったら他の勇者武器をだしてる時より倍近く強くなるんじゃないか?

 「ああ、みんな!一緒に勝って、一緒にエリーの作った御馳走を食べよう!」

 「うん」

 「ええ」

 「はい」

 うわうぜぇ

 「喉から下が無くても食えるものなのかよタクト!」

 「死ぬのはお前だネズミ!転生者だと気が付かなかったがアトラがフォローしてくれた!俺はてめぇと違って一人じゃない!

 みんなと居れば、俺達は無敵だ!」

 「ええ、タクト様と私が一緒に居れば無敵です」

 「ちょっと、アンタ一人じゃ無敵じゃないでしょ!」

 ……殺していいかなこいつら

 なんて危険思考は振り払い

 

 っても、仕掛ける道を思い付かないんだよな。タクトと1vs1ならまあ勝てる。鞭は強いと言っても、ある程度力を使われてる以上回りが強くなる分他より強いってくらいだ。軽くやりあってみて分かった。1vs1でなら殺せる。だがネリシェンは無力化したとはいえゲンム娘(ユー)シュサク娘(マーシュ)ハクコ娘(アトラ)が残っている。1vs4はキツい

 転生者相手にする際の常套手段であるイキリの原因である勇者武器を此方がパクってイキリ返すって手段は封じられたし……

 何か無いだろうか、この事態を打破する何かは

 

 ふと、尚文達の方を見る。そろそろフォウルが立ち直って乱入くらいしてくれないかと

 あ、終わりそうだな。ナオフミ様は悪魔なんかじゃありません!とラフタリアが叫んでいる。わたしたちはなおふみ様を信じてます!とリファナも続けてる

 そして……リーシアが結構立派な剣持って参戦してるな。ってか強い。レベルが一定値を越えると一気に伸びるのが原作でのリーシアだったのだが、その閾値を越えたのだろうか。普通に教皇と斬りあってるし、接近していて3vs1で相手が片腕だってのもあるのだろうが、相手にスキルをほぼ使わせないで防戦一方ってほどには追い込んでいる。時おり使おうとするスキルは後ろから尚文が盾のスキルで止めているし、教皇を助けようとして飛んで来る魔法も防いでいる。危なげなさそうだな。とすれば、尚文達が合流……

 いや、してどうすんだよ。あいつに盾を狙わせない為に俺がタクト引き受けたってのに


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