「……はぁっ!」
気合い一発
ってやっぱりここまでやっても雷出ねぇわ。復讐の雷霆は今の俺には応えてはくれないようだ。何で自分の異能に裏切られてんだろうな俺
っ、まあいい、どうにかして尚文達が来る前に終わらせる!
「ファスト・ライトニングオーラ!」
っ!遅い!だが今の俺にはファスト級の魔法が限界、やれるもので殺るしかない!
「っらぁっ!」
雷光を纏い加速、そのまま……タクトの前に立ちはだかるゲンム娘に殴りかかる。女の子を殴るなんてサイテー?知るかボケ
膝蹴り一発、腹に叩き込むや尻尾を背後から隙をつこうとしたシュサクの腕に引っ掛け、それを強引に軸にして反転、後ろを取った相手の更に背後に飛びつつその翼を蹴って離れる。SPの回復は追い付いてないが、身体能力だけで斬り結ぶのみ!追い付いてくる虎娘のひ弱な拳は偽・フレイの剣に変えたクソナイフの刀身で受け……
「っはっ!」
衝撃が貫通してきやがった!防御無視攻撃か!こいつ……やっぱり病を考えず才能だけならフォウルより上とか言われたスペック伊達じゃねぇな!
だが!
「負けねぇ!俺は……世界を救う転生者だからな!」
仕方なく飛び去りながら自分を鼓舞するように叫ぶ。流石にあの状態からアトラの腹蹴れるほどの余裕はない
「それは俺がやってやるから大人しく死ね!」
っ、鞭が腕に絡む……ならば!
「っ、らぁぁぁぁっ!ギガスロォォォォッ!」
刺々しい二又の投槍に姿を変えさせ、絡み付く鞭を又の間を通すようにして背中方面に向けてスキル投擲、端を持っているタクトの体を、此方に引き摺るまで!綱引きしようぜ、お前重石な!
当然俺の腕も引かれる訳で、割と痛いが気にしてはやってけない
ってちっ!流石に武器を変えてくるか!鞭から変えられたら鞭が消えるから無意味になる。だが、それで良い!タクトの持つ勇者武器は5つ。そのうちで素の射程が最も長いものは鞭だ。他も投げ技とかで割と遠くまで届くといえば届くのだが、スキル無しでの射程には雲泥の差がある。特に鞭はよくしなるからな、適当に振り回された時の近寄りがたさでは随一だ。俺の投擲具の方が素射程は長いが素じゃ適当にしならせられる鞭に当たるだけで逸れるし利点かと言われても困る
なんてやっている間に追い付いてきたゲンム娘の顔を尻尾で叩き
「エボリューションスラスト!」
投槍に投擲具を変えスキルを放つ
「お、遅っそ」
毒気を抜かれたようにタクトがぼやく
そう。エボリューションスラストとはとても遅い投擲スキル。まるで亀のような……寧ろ何で浮かんでられるんだって速度。だが、エボリューションと名の付くスキル、それだけで終わる筈無いだろう?
2……1っ!
タイミングを合わせて、とても遅いその槍を掴む
瞬間、俺の視界はブレ、タクトの眼前へ。そう、これがエボリューションスラストの真骨頂。進化の名を冠する通り、こいつは途中で超高速の槍に進化するスキルだ。その加速の瞬間に右手で槍を持つことで、俺も加速の流れに乗った訳だ
眼前にあるのは憎たらしい顔。狙った奴の股間はしっかりとクロスした爪にガードされていて……
「トルネード!アッパァァァァッ!」
因みにこれは叫んでるだけでスキルではない。単純に、御門讃時代強引に足の力で飛び上がってオーバーヘッドキック決めてた脚力にものを言わせて前傾姿勢から左腕で天空へと奴の顎をアッパーカットしただけの話だ
「なっ、ぐっ!」
顎から空へと飛ばされていく体。だが……
「てめぇもだ!」
悪足掻きのように振るわれる足。全力のアッパーカット直後では避けられず、俺もタクトに顎を蹴られて仰け反らざるを得ない
いっそ向こう脳震盪でも起こしてくれないだろうか。って望みすぎか
「タクト」
と、宙に浮かんだ俺の体は薄い胸に抱き止められる。いや、人違……
違う!これ羽交い締めだ!水蛇の魔法が俺の体に絡み付いて動きを止めに来てる!
「いま」
「ユー!でかした!」
……ちっ、元気そうだなタクトォ!
「流星槍!」
飛んで来るのは槍スキル。だが、羽交い締めを解けそうもなく、俺に手は……
仕方ねぇ!やりたくない手だが切るしかないか!
「キャスリング!」
使うのは眷属器にのみ許された眷属器共通スキル。その名の通りのキャスリング、
今回キングにしたのはぶっ倒れてる北村元康。槍がないので拒絶出来ないから選ばせて貰った。実に非道な理由ではあるが出来る手がこれしかなかったので許せ。因みに本来は七星側がどうしようもない攻撃から四聖を護るために自分と場所を入れ換えて代わりに犠牲になる為のスキルなので、今回の使い道は真逆である。というか、攻撃されてる時用のスキルなのにキャスリングとついてる理由?名前を決めた精霊に聞いてくれ
「っ、きゃあっ!」
因みに元康を選んだ理由は他にもある。そもそも尚文や近くに来てそうな樹を選ぶわけにもってのが一つ、そしてもう一つが、あいつぶっ倒れてるから入れ替わった後流星槍がその頭上を素通りして無事って点だ!愛する人の槍でも食らっとけゲンム!
「ユー!」
今更タクトが叫ぶがもう遅い!槍は放たれた後だ!てめぇが武器を変えるには少しの間がある、その間よりも早く、槍は届く!
そして流れ星のような尾を引く槍は、しっかりと少女の薄い胸を貫いた
「……ユー!」
ったく。相討ちで死ぬ覚悟もなく羽交い締めなんぞ選ぶからこうなる。あれは捨て身の戦法、死ぬ覚悟殺す覚悟決めてからやるものだ
……って生きてるわ、さすがゲンム種。亀だけあって硬さには定評がある。呆れるしかねぇわその生命力
とはいえ、まあ、致命傷だな間違いない。ほっとけば死ぬ。幾らなんでも胸に大穴空いたまま生きていける奴はそうは居ないのだから。ん?俺しばらく前に腹に大穴空いたな。まああれは所詮腹だしノーカンということで
「許さない
俺にユーを殺させたな、ネズミぃっ!」
血の涙を流しながら叫ぶタクト。ってお前の涙腺どうなってんのそれ、真面目に涙が血なの初めて見たんだけど
「いや勝手に罪押し付けるな
ってか死んでねぇよまだ」
「そうですタクト様。今すぐネズミを殺せば助けられるかもしれません」
「っだぁぁぁぁっ!」
熱っ!カースバーニングか!って自爆してカース覚醒してんじゃねぇよチートがぁっ!自業自得じゃねぇかよそんなものへの怒りでラースウィップ発現とか本当にチート転生者はさぁ!
と、禍々しい鞭を手に此方をきっ!と睨むタクトを見たらぼやきたくもなる
「てめぇはどんなに謝っても許さねぇ!
絶望の中で惨たらしく殺してやる!エリーの親友を、俺のユーを俺に殺させようとしたてめぇだけは!」
へぇ、あのゲンム種お前の幼馴染の友人なのか。って全く関係がねぇ!要るのかよその補足!
そして、折悪く
「マルスくん!」
「来んじゃねぇリファナ!」
尚文等が教皇との戦いの片をつけて此方来やがった!タイミングが悪すぎる
『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の粛清たる十三段!我が血肉を糧に産み出されし縄に絶命の血を垂らし悶え滅びろ!』
……この詠唱は!
やらせてはいけない!だが、止めようが無い!縄である以上使われているのは鞭の眷属器、そいつだけは奪えないから止まらない!
「ハンギングガロウズ!」
……やはり、処刑具スキル!
「……リファナちゃん!」
「リファナ!」
「タクト、てめぇぇぇっ!」
……だが、狙いは俺ではなく
突如として現れた巨木とそこから垂らされた荒縄は、駆け付けようとしたイタチの少女の幼い体を吊り上げて揺らしていた
「……全部だ
てめぇの大事なものを一つ一つ全部奪ってから、ミンチにして殺してやる!ユーの仇だ!」
やめて!ラースウィップⅣのカーススキルで、わたしの魂を焼き払われたら、親愛の情でわたしと繋がってる幼馴染の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、頑張ってマルスくん!マルスくんが今ここで折れたら、ラフタリアちゃんやわたしとのなおふみ様を護る約束はどうなっちゃうの? 切り札はまだ残ってる。ここを切り抜ければ、きっとタクトに勝てるんだから!
次回、「タクト 死す」。デュエルスタンバイ!