「充分食べたか、ラフタリア」
リファナは結局眼を覚まさず、なので特に何も食わせることはなくラフタリアを連れて店を出る
特に何もなし。昔のように不味い飯を喉に押し込んだだけだ
お子様ランチ?旗?そんなものは無いそんな高尚なメニューがあそこにあるものか。旗なんてそんなコストがかかる。そもそも俺は尚文の奴じゃない
亜人を連れていては嫌な顔ばかりでロクに買い物も出来やしないのでそのまま街の外へ。外に出るからと最低限のものを食べさせただけである。まともな食料には限りがあるしリファナに食べさせてやるべき量はかなりを占める。不味かろうが何だろうが食える魔物よりはマシなのを最初に食わせてやるべきだろうというだけ
魔物の肉やらって、ロクに栄養があるかも分からないしなアレ。村出てからたまに解体して食べてたけど。味は微妙、だが何もないよりはマシとして焼いたり煮たりして何とかやりくりをしていた。家の維持費とか何とか全部ほぼ全財産である船ごと海の藻屑と消えた両親の代わりに狸の親父が出してくれてたんだし金は貯められるだけ貯めるべきだったからあまり食料は買えなかった
まあ、その金は結局クソナイフのぼったくりに消えたのだがそれは良いか、奪われるかぼったくられるかならばなにかが残る後者の方がよほどマシ
「……此処だな
ファスト・レビテート」
ということで、門を出るや道を軽く外れ、林に近づくや魔法を唱える
まあ、当たり前だ。突入するのに荷物を持ってはいけないだろう。誰かに預ければパクられるかもしれない。クソナイフにはアイテムストレージが付いてはいるがあれはドロップ品取り出し専用であり入れたものは武器に還元されてしまうので困ったことに食料品保存辺りには使えないのだ。ならば、どこかに隠しておくのが得策。誰かを介さない分見付けられさえしなければ無くならない。多少は安全だ
そうして掘り出したのは布のバックパック。とはいえリファナを背負った今背負えないので手に持って
そうして、当てもなく歩き出す
マジで当てが何処にもない。村に帰っても廃墟、かといってメルロマルクには亜人の居場所はほぼ無い。俺一人ならば魔法で耳も尻尾も誤魔化せるし何とかなるのだが、リファナは無理だ
ラフタリアも無口。何も言わずにただついてくるだけ。何か言えよ、と話題を振りたい気もあるが、じゃあ何を話せというのか。まだ村の一員のマルスとしてならば話せなくもないが、投擲具の勇者ユータのフリして何を言えと
「……なん、で?」
どうしたラフタリア、ふとした時にそんな
「なんで、助けてくれたの?」
……おいまたか、前に言っただろう何が不安なんだ
「だから言ったろ、直後に波があって、更にはいつの間にか村が焼けててさ、気になったって。これでも関わった訳だしさ
……放置するのも勇者として寝覚めが悪い」
まっさか今更アイムマルス、あの村の亜人だし当たり前だろラフタリアなんて言えないので当たり障りなく
うん苦しいな。というか、すまない投擲具の勇者、この言い訳だとお前そのうちどっかからこの事が噂になった頃にはロリコンでケモナーの謗りを受けることになる。死後に自分を騙る偽者のせいで謂れの無い……いやあるか、リファナに眼を付けてたかは兎も角あいつ村に可愛い娘居たし云々ぶつぶつ言ってたな。だからつい喧嘩吹っ掛けたんだった。言い直そう、謂れのあるロリコンケモナー扱いという辱しめを受けるとか災難だなと思うが大人しく受け入れてくれ、俺なんかに七星武器奪われて返り討ちにあったのが悪い。仕掛けたの俺からだけど
そうして、日がそろそろ暮れる頃
背中の少女が身動ぎした
危ね
とギリギリで軽く背中を擦る尻尾を垂らし、耳をぺたんと頭に付ける。その直後、目が覚めたのか動く少女の手が俺の頭に触れた
……あくまでも幻影。勇者ユータのように姿形を見せかけてはいるが、別に俺の尻尾も耳も無くなった訳ではない。実は本物はもうちょっと背が低いのだがそこはイメージでちょっと俺に合わせて頭身を伸ばして対応してるしどうでも良いなそれは
鼠の耳が其所に無いように見えるのは視覚だけ。頭の上の虚空に見える場所にしっかりとある。しっかりと倒して頭につければまだ何とか昔の怪我で瘤がとか多少嘘吐きやすいが、立った所を触れられたら跳ねた髪だと凄く嘘臭く誤魔化せってのか?
「……何だ、起きたか」
歩みを止める
……良かった、イグドラシル薬剤の効能疑ってたんだが効いたならば可能な限りの素材を集めてきて素材下取りで安くしろと勇者面して無理に買い叩いた甲斐もあった
「リファナちゃん!大丈夫!?」
「起きたということは大丈夫だろう」
とりあえず、開けた場所だ。危険は薄いだろう
盗賊?知らん、返り討ちにすれば良い
「……此処、は」
「メルロマルクの中だよ、残念な事にな」
メルロマルクはやはり危険だ、亜人の国シルトヴェルトにでも向かおうか。って駄目だな、盾の勇者大嫌いなメルロマルク軍が既に封鎖してるはずだ。本編では尚文はシルトヴェルトへ向かってなかったはずだが実はそんなことになってたと読んだ気がする。言うてそんなに強くないはずだし強引に突破出来なくはない気がするが止めとこう変にリファナ達が怪我してもいけないし突破の際に兵士を何人殺すことになるやら分かったものじゃない
とりあえず、此処で良いかとリファナの体を下ろす。草の上、しっかりとした汚れにくい場所にしないとな
「まあ、とりあえず食え、何か食わないと死ぬぞ」
バックパックから出した果物を座らせたリファナへと投げる
新鮮さは大丈夫だ今日買ったものだから。味は……まあ個人的には好きだ。前世的に言えば柑橘系の外見と食感だが味は梨っぽいだろうか
「……っと、ラフタリアにもな」
忘れかけてた。リファナばかりに与えても不自然だろう。平等に平等に
……ちょっと古いので良いか、自分で食べるかと昨日買ったものだ値段は半額だが別に目利き出来るわけでもあるまい。差はきっとバレない。昨日良いもの買ってないのか?いや古くなるから朝食ったに決まってる
自分のなくなったな、まあ良いか。そもそもリファナ見つけたときにキールやラフタリアが一緒に居る可能性考えて多目に買っとくべきだったと反省するだけだ
「……良いの?」
「良いんだ」
「……でも、あっ、えーっと……」
言いにくそうだなリファナ、どうした
「何て、呼べば」
……ああ、そういう
「俺はユータ、投擲具の勇者ユータ
って何度か言ったな」
「勇者、さま?」
「俺は
リファナに様付けで呼ばれるとゾクゾクする。二つの意味でだ
『称号解放、変態ゾクゾクネズミ』
黙れクソナイフ、というか増えてそうな称号だなおい、せめてゾワゾワネズミにしろよ
嬉しい気持ちもあるし、距離があって寂しい気持ちもある。嬉しさが俺ではなく勇者ユータへの尊敬である事を思うと半減以下なのでこんなものゴミだゴミ
「……えっと、じゃあ」
何を考えてるんだかリファナ、気にせず食え。お前の為に店頭で良さげなもの目利きしてーまあ品質確認を果物ナイフをコピーした時に得たクソナイフのパッシブスキルでやっただけなのだがー良いもの選んできたんだから
「ユータ、くん……さん?のが」
「俺のはもう食べたから、気にせず」
……朝にな
というかくんさんって何だリファナ、何で言い直した。というか何で最初にくん付けた
まあ良いや
「……ラフタリア、気にせず食べろよお前も
栄養はあったがクソマズかったろ昼飯」
不味い不味いと言いながら食べてたからな半年前の俺
「で、でも」
何を悩むラフタリア、おい、なに警戒してんだ
「大丈夫だよ、ラフタリアちゃん」
「でも、毒とか……」
……毒?酷い言い掛かりだなおい。ラフタリアに毒盛ってどうする、リファナに軽蔑されるだろうが。第一、ラフタリアだって村からの知り合いだ、リファナの次くらいには幸せを祈ってる。そんな相手に毒盛るとか何がやりたいんだ。アレか、自分へ向けての怒りでアヴェンジブースト発動でも狙うのか
……止めとけ、どうせその毒で苦しみながら死んでいく姿を見てすら第二段階発現がギリギリだ、覚醒段階になんて到底行かない
「大丈夫だって、ラフタリアちゃん」
言いつつ、外皮を剥いて、中身を一房はがすと少女は果実にかぶり付く
「うん、美味しい」
そんな親友の姿を見て、おずおずとラフタリアは果実に手を付けた