パチモノ勇者の成り上がり   作:雨在新人

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高慢なる転生者

揺れる小柄な体

 ……あ、スカートの下覗けそう、ってアホか俺

 

 「形勢逆転だな」

 「ああ、そうだな」

 ……その通りだ。今から俺が何をするにしても、リファナを死なせることになる

 

 「あ……う」

 苦しげな声。当然だ。カーススキル。処刑具スキル。勇者武器による断罪の力が、今正に文字通りリファナの首に手を掛けているのだから。苦しくて当然。タクトが処刑の執行を告げた瞬間、その命は死神に刈り取られるだろう。リファナに出来ることは、死を待つことだけ

 

 「……」

 仕方ない、か

 どうにかする道を模索もする。だが、無理だ

 フィトリアを呼ぶ?呼べば来てくれるだろう。呼んだ時点でタクトに処刑されて終わりだ

 潜伏しているだろう樹に気を引いて貰う?確かにあいつ今此処に居るだろう。ふと見たときにリーシアが尚文と共に戦ってたのがその証拠だ。だが、樹の攻撃では少しの間だけ気を引くのが精一杯だ。その僅かな隙を付いてリファナをカーススキルの処刑台から救い出す二の矢が必要で、今の俺に二の矢は無い

 

 『フィトリアががんばる?』

 ……駄目だ。リスクが高すぎる

 樹が気を引いてる隙にフィトリアを呼んでカースの巨木を粉砕する。これが一番な気はする。だが、それではタクトを止められない。どうすれば良い

 何がある、考えろクソネズミ。リファナを助けるには何かあるだろう

 

 ……だが、結局のところ

 「シールドプリズン!」

 尚文が無駄な努力で盾の檻に閉じ込めて何とかならないか等をやってみるも無意味。何一つ出来ずに、囲うことすら終わらないうちに盾は粉々に砕け散る

 

 ……傲慢、だったのか?俺が……転生者なんぞがリファナを守ろうと、リファナの生きるこの世界を勇者のように救おうと

 所詮は俺は……

 『そんなことない

 ばちばちは、何で世界を守ろうと思ったの?』

 ……何でだっただろう

 高慢な驕りからだったはずだ

 

 ……そうだ。傲慢な思いから、だ

 一つの言葉を思い出す

 「……お兄ちゃんは、瑠奈の太陽(サン)だったから

 もう、瑠奈と曇らないで」

 俺への謝罪ばっかで。勝手に死んでご免なさいと言って。苦しいことも全部抱えて首を吊った一人の少女の遺書の一節

 ……俺は瑠奈の太陽だから。御門讃は太陽で在り続けよう。そうだ

 だからこそ、俺はリファナの未来を、この世界の未来を照らす勇者(太陽)を目指した。辿り着けぬ蝋の翼しかなかろうと、それでも、と

 それが傲慢と呼ぶなら呼べ

 俺はそんな存在だ。太陽になりたいネズミさん。それで……何ガ悪イ!

 

 「……!!!」

 足りない

 あと一つ、ピースが足りない。傲慢な思いに身を焦がして尚、まだ足りない

 カースにはカースを。憤怒には傲慢を

 プライドダガー。傲慢のカースを司るカースシリーズの一つ。それしか無い。タクトのようにいたぶるためにあえて止めを刺さずに首吊りのまま等しない。最初から殺しに行くカーススキルの発露。樹に時間を稼いで貰い、タクトがリファナを殺す前に俺がタクトを私刑する

 俺に見えた勝ち筋は、それだけだ

 それにはまだ、俺の想いが足りていない!

 

 「……頼む」

 「ああ?聞こえねぇよネズミぃ!そこの子殺すぞてめぇ!」

 調子に乗りまくったタクト

 まあ、逆転だものな、文句なしに

 「どうなってんだネズミ!」

 「ギリギリで俺が保ってた均衡が、向こうに崩れただけだよ

 俺のせいだ。俺が……お前たちが来る前に片を付けていれば」

 「ああ?」

 吊られたリファナの顔が歪む

 痛いよな、苦しいよな

 ……瑠奈もこうして、死んでいったのだろうか

 

 ……なあ、どうしてだ?どうしてお前は応えない?リファナが死ぬって時に、どうして雷霆の片鱗すらも見せない御門讃!

 復讐の雷霆(アヴェンジブースト)さえあれば、こうも良いようにされなかったろうに。此処からでも一人で終わらせられたろうに。覚醒した金雷ならば

 ……いや、何故持ってたのかすら不明な力を使えて当然、それも傲慢か

 「……リファナを殺さないでくれ、頼む」

 「誠意が、足りてねぇよ!」

 吐き捨てるように言うタクト

 「地面に頭擦り付けろ!その子マジで殺すぞ」

 「……頼む」

 言われたとおりに、膝を折る

 傲慢とは真逆?知るか!全てを救う為にならプライドなんぞ折れ。自分の下らないプライドよりも、それで実を全て取ろう

 

 「っはは!マジでやりやがるのかよ!」

 「……お前だって、エリーだかが人質に取られたら同じことをするだろう」

 「は!俺はエリーを他人に奪われたりしない。有り得ない仮定だな」

 ……うん。そのエリーっててめぇの幼馴染、原作だと尚文からお前庇って無駄死にするんだけどな。正に無駄死に、何一つ情勢に影響なく

 

 ……いや、リファナだって一歩間違えはそうなる。無駄にタクトに殺される可能性はかなりある。傲れ。そして冷静になれ

 そして猛れ。復讐の雷霆が使えない以上、俺に頼れるのは後はカースしかない!

 

 「っはっ!許すかよ!

 てめぇは殺す!てめぇがどれだけ許しを乞いてもな!」

 「リファナが無事ならば、それで良い」

 「はっ!御執心だなネズミ!安心しろよ、てめぇの洗脳を解けば、きっと分かってくれる」

 ……ああ、それで良い

 猛れ。傲れ。そもそも自分のものではないリファナを奪おうとする男に、片想い間男全開で!口先だけのおのれ尚文ではなく、心の奥底から!

 

 つかつかと歩み寄ってきたタクトに、背から槍を刺される

 平伏したままの俺には何もやりようなんて無く、大人しく貫かれるに任せる

 ……心臓は外れている。痛め付ける為だろう

 「はっ!なっさけねぇネズミ

 ……こんな、こんなやつのせいでユーは……」

 涙らしいものを流すタクト

 「タクト様……」

 「だけど!」

 光と共に、クソナイフが俺から飛んでいく

 ……ああ、分かってるだろクソナイフ。本体は行け、だけどお前は投擲具。少しで良い。スキル一発分、俺に残せ。投擲具であるお前だけは、それが出来る

 アイコンがスパークし、ほぼ消える。まあ、少しだけ光が残っているけどな。俺の手元のセカンドダガー分だけ。だがそれも直ぐに消えるだろう。この一撃で、決着を付けられなければ

 

 「……これが、投擲具」

 顔を上げると、ダガーを手にして染々と呟くバカの姿

 ……どうでも良いけど、もたもたしてると本当に死ぬぞそこのゲンム種。俺は奴が死のうがリファナが無事なら良いけど

 

 「……これだけで、サンドバッグかよ」

 俺の頬を鞭でぺちぺちしながらタクト

 割と痛い。ってかかなりアレだ

 それでも、リファナを生かすため、一瞬を掴むためだ

 傲慢になれ。全てを救うと

 「……くっだらねぇ

 ユーはてめぇなんぞのせいで死んじゃいけない娘だったのに」

 いや、だから致命傷なだけだって。別に俺、お前が戦闘放棄して治療に走ったら止める気なかったぞ?ってかそれを止める奴ならそもそも感度150倍にした後でトドメ刺してる

 ザシュッ!と。俺の目にピックが突き刺さる

 ……その痛みすら、もうほぼ消えてきていて。頭の中にあるのは傲慢な思いだけ。全てを救う。リファナを生かし、世界を守り……てめぇを殺す!全てをやらなきゃいけないのが、ネズミさんの辛いところだな!

 

 「……冷めた

 死ねよ、ネズミ」

 その、瞬間。リファナはまあ調教すれば良いしということで、俺を殺すことだけに思いを向けすぎ、リファナから注意が完全にそれたその瞬間に……

 「樹ぃっ!」

 叫ぶ

 

 「流星弓!」

 そして、ずっと華麗な登場を待っていた彼は、見事にそれに応えた

 「弓っ!?だが遅い!」

 タクトが投擲モーションを止めない。意識は逸れ、だけれども投げてから防げば良いと思っている。それから、人質を殺すことを思い出すだろう

 ……そう。それがあまりにも遅すぎる!リファナを殺すのに二手かかる!俺はそれを……待っていた!

 

 感情の発露によりグロウアップ!

 特例により制限解除!プライドダガーⅢが一時的に解放されました!

 特例により回帰!戻れクソナイフ!俺の手元に残したセカンドダガーを縁に、ただ一撃の間だけ!

 「ーーーーーーっ!」

 身を焦がす万能感。何でも出来る傲慢な思い

 それを止めるように、心の中で響く声からは耳を背けて

 『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は法に裁かれぬ悪への制裁』

 ……私刑。法に裁かれぬから俺が裁く

 なんという傲慢。だが知らん、それが俺の必殺。俺の仕事

 『我が痛みの鋼線に魂すらも絡め取られ、隠された悪逆の報いを受けるが良い!』

 「ヘルッ!ストリンガァァァァァァァッ!」

 「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 そのスキル名を唱えた瞬間、左腕が針の詰められた風船にでもなったかのような痛みが脳天を貫いた

 ……これは、自殺でもしたいのか?と一瞬思うが違う。これこそが……ラースシールドにおけるブルートオプファー、ラースウィップにおけるハンギングガロウズに相当するプライドダガーの処刑具スキルの代価。ブルートオプファーが岩谷尚文の血肉を代価にトラバサミを呼び出すように、ヘルストリンガーは三味線糸……というか鋼糸を俺の腕の神経から編み上げる。痛覚神経等もろもろが形を変えて糸にされていくんだ、吐き気がするほど痛くて当然!

 まあ、タクトはチートだからか代価無しで使ってんだけどな!ふざけんな!

 

 そして……

 「タクト様!」

 アトラが庇いに入る

 だが、無駄だ!処刑具スキル相手にそんなもの通じない!俺の左手人差し指から投げ放たれた鋼糸は、時空を飛び越えてタクトの後頭部側から奴を吊り上げる!

 「ぐっ!」

 漸く気がつくタクト。だが、今更リファナを殺そうとしても遅い!

 一拍、俺の方が光速(はや)い!

 「聴け!地獄の轟きを!」

 耳近くまで指を持って行き、右手の二指をそこに重ねる。って痛ってぇぇぇぇぇっ!馬鹿か、馬鹿なのかこのスキル!自分の神経を剥き出しにして他人を縛り首にした上に電流と振動でトドメとかマジでさぁ!使う側の負担何も考えてねぇな!

 「ぎぃやぁぁぁああぅぁぁぁあぁぁっ!」

 だが、その分強さは折り紙付き!タクト!てめぇに何一つ抵抗などさせはしない!

 「タクトを離せ!」

 シュサク種が胸元から取り出した拳銃を放つ。だが、そんなもの

 「エアストシールド!」

 リファナへと向けられたそれは、盾の勇者の盾の前に何の意味も持たない

 

 俺の神経(鋼糸)を通して受けた揺れと電流にぐったりとなる男の姿を視界に捉え

 「未来(いずれ)は我が身……だとしても」

 南無阿弥陀仏

 そのまま、吊られた罪人の命脈を……糸を。人指し指を振るい、絶ち切った

 

 ここまでが、一連のスキル……ってこれ、自分の神経自分で切ってんだけど

 カーススキル、ヘルストリンガー。その力は確かだったが……その代価は、ちょっと大きかった




おっす?わたしリファナ!
そんな!タクト様に続いてアトラさんまでネズミの前にやられてしまうなんて
アトラさんには神様の力なんて無い
死んだらもう二度と生き返れないのに
絶対に許……あれ?そういばわたしどうしてあの人の味方みたいなこと言ってるんですかなおふみ様?
次回、パチモノ勇者の成り上がり 『さよならタクト様!アトラ捨て身の戦法』
「アストラル!ゲイザァァァァァァァァァッ!」
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