とさっと、とても軽い音と共に、事切れた躯が地に落ちる
手にしていたダガーがその掌から零れ落ち、光となって飛び去……っておい逃げんなクソナイフ。お前は俺の所に来いよクソナイフ転生者パワーで縛るぞクソナイフ
「……タク、ト?」
揺れる中で吊り糸を切られ、顔面から地面に突っ伏したというのに男は顔を上げない
当たり前だ。死んでいるのだから
「タクト様?」
「タクト、今は冗談なんて……」
その遺骸から、二つの光が更に飛び出し、一つは飛び去り、一つは此方に来る。これは……なんだ、槍か。元康んとこに戻りに来ただけかよ。飛んでったのは爪か。どうせならフォウルの手にでも収まれば良いのに
クソナイフにダメ出しされた。今の腑抜け選んでどうする、と。その通りかもしれない
拭いきれない違和感
いや、気が付け俺。タクトが隠し持ってた武器は合計で4つ。追加で奪ったのが2つ。つまりあいつは俺が殺した時点で、6つの武器を持った転生者だった。そして、今奴が死んだことで解き放たれたのは3つの勇者武器。では、残り3つは?
野郎!死んで尚魂だけで3つ捕まえてやがるな!
流石は転生者、死んだ程度じゃ諦めない。クソみてぇな性質の煮込み料理かよ
「アストラルシフト!」
ならば追撃するまで。肉体が死んでも魂だけで復讐に来るならば、魂までも消し飛ばすのみ。幸い奴の肉体は死んだ。魂だけでは、逃げる以外何も出来るまい!
っと、その前に……
「フロートダ」
「フロートシールド!」
先手打たれた。発動者の死によってハンギングガロウズの縄から解放されたリファナの体が落ちてくるのを、クッションシールドだか何だかだろう柔らか素材の盾が受け止める。って俺がやるより良いなこれ。余計なお世話だったか。ってか、焦ってアストラルシフト撃ったせいでそもそも今普通のスキル打てないわ。アホだったか、俺
何処だ、タクト!隠れても為にならないぞ!
と、言いたいんだが俺には魂を見る手段がない。いや、正確には今は。アヴェンジブースト中はぼんやりとそれっぽいの見えるんだけどな。アブソリュートロックの奴なら当てると決めて撃てば見えてなくても当たるんだが俺にはそんなもの無いし。ってか、アストラルシフト時の外見が超S級異能力であるアヴェンジブーストに似てるし同じ超S級異能力であるあいつっぽい姿も選べたり……しないか
『刻滅の氷戒への変化はロックされています』
あんのかよ!そして結局使えないのかよ!意味が無さすぎる!
って、仕方ない
周囲一帯吹き飛ばすか。アレだ。居そうなところ全部を攻撃すれば多分当たる理論だ
……くっ!片腕だとチャージが上手くやれない。両手?いや、神経引っこ抜いて糸に変えた上に根元から切ったのに左腕が動くわけ無いだろ。全治何ヵ月だろこれ
地点で爆裂するパターンよりも、一帯を薙ぐ方が良いだろうとアストラルゲイザーを、間欠泉のように吹き出すエネルギー波を選んだのだが……溜まりが遅い!
「……三途の川を渡るのに必要なのは六文銭。勇者武器は持っていけない
俺の仲間に渡して有効活用してやるからよ、置いて地獄へ行けよタクト」
プライドダガーの傲慢さが抜けきってない
掌に集まって行く雷光。それを見て……
「マーシュさん。タクト様を」
アトラは、静かにそう告げた
タクト様。その一言の時点で分かる。此処でタクトの魂を逃がしてはならないと。ゼファーの言葉が正しければ、タクトが消滅すればハーレムの影響は消える。原作を読む限りアトラがタクトに素で惚れ込む事は無さげだし、アトラがタクト様とあいつを呼んでいる限り、奴は死んでいても再起不能ではない。ってか、寧ろ魂だけでずっと潜伏されている方が調子のって攻めてくるよりも厄介まである。何たって、拡大こそされずとも既にハーレムに取り込まれた奴等はそれでも尚タクトの為に動くだろうし、それを止める為にはタクトを消滅させなきゃいけないのにそのタクトが出てこないんだからな。それこそ、キングの駒が盤上から隠されているチェスみたいなものだ。キングを取らなきゃ終わらないのに、取るべきキングが何らかの手段で引きずり出さなきゃそもそも盤上に無いクソゲーだ。勇者側は四聖ってキングが4つも盤面にあるのにな。因みに4つあるからといって、3つまでは取られて良いやと思ってると酷い目に遭うので本来一つたりとも取られてはならない。自分で例えててマジでクソゲーだわこのチェス
「アトラ!?」
「タクト様の体だけでも、エリーさんに返してあげて下さい」
「ちょっとアンタは」
「私が食い止めます」
……殿を立てて撤退の意思。それは立派だ
だが、死にかけの仲間ですらなく既に事切れた主君の遺骸を優先する辺り、こいつら戦国時代日本の武将か何かかよ。そこは死にかけでそこに転がってるそろそろ死ぬゲンム娘を助けてやれよ、或いは麻痺って転がってるネリシェン……はでかすぎるか。人間体に戻れば運べそうだが
「タクト様の体を、これ以上傷付けさせません」
……魂に死ねと言ってるだけで、その死骸は正直どうでも良いんだが。勇者武器に食わせても食あたり起こしそうだしそれ以外の活用法も無い。愛しのタクト様の遺骸を仇から取り戻すのは誰か!と晒しておけばタクトハーレムが入れ食いのように釣れ……ても笑うわ、ねぇよ。俺ならリファナにそんなことされたらせめてルロロナ村に葬ってやる為に取り戻しに行くけどさ、そんなアホが多数居てたまるか
「止めろ!」
俺の腕に絡み付く熱いもの
……フォウルだ。って腕を固めるな
「逃げろ、アトラ!」
ってタクトを殺せないだろ!もう死んでるけど
おい!噛むな!歯形残るだろ!
「……分かったわ」
タクトの遺骸を抱え、シュサク娘が羽ばたく
「アストラル!ゲイザァァァァァァァァァッ!」
止めようとするフォウルを振り払い、片手で放つ
……思ってたのと軌道が違う!フォウルに邪魔されたのもそうだが……そもそも片目をダガーで潰されたのをすっかり忘れていた。駄目だわカースによる万能感。そういった重大なことすら脳ミソから消えちまう。お陰で何時もより視界が歪んでいることに気が付かない
だがそれでも。視界を埋め尽くす太さの光の帯はある程度狙い通りの場所を貫く
そして……
「タクト様の為ならば、アトラは無敵です!」
受け止めた!?あれは……恐らくは変幻無双流の技!って独学だろお前!何で使えてんだ!?
「……はぁぁぁぁぁっ!」
更に力を込める。円だか何だかを、強引に出力でぶち破る。光はアトラの姿を呑み込み、更に疾走る
「あ、アトラぁぁぁっ!」
首絞めんなフォウル!アストラルゲイザーは基本的に魂への作用、別に死なねぇから!
そのまま光は遠くでやりあってくれてたフィトリア達のところまで届き
「やらせん!」
と、片翼を根元から喪った巨竜が立ちはだかる。あ、そして隙ありとばかりに巨大フィロリアルの蹴りを食らった
えげつねぇ……首狙うとか絶対に今の一撃で首の骨逝ったぞアレ。ちょっと構造的にアレな方向に首曲がってるし
そして、光が消えたとき、全く抉れていない大地にはハクコの少女が倒れ伏していて、二回目を食らったアオタツも人間体に戻っている
……武器は飛んでこない
「クソがぁぁっ!」
逃がしたか!
……だがまあ、追って追えるものではない
変換SPをまたまた使いきり……使いきっては多少回復したものを使いきるループ何回したんだ今日……クソナイフが手元に戻ったのを見て、俺はリファナ達の方へと振り返った
「……大丈夫ですか、尚文」
ん?何か自分の言葉に違和感あるな、いや無いか
第一回ネズ公クイズ
今回の話でマスターが言った俺の仲間とは本来別の言葉に対するルビでち。では、本来は何と書くでち?マスターのことを知ってれば分かるはずでち(配点:5点)
正解 ネズ公「大義名分がなければ転生者として怪しまれるから言った」
フォウルの答え 「それよりアトラは無事なんだろうな!」
メルティの答え 「フォウル」
ラフタリアの答え「ナオフミ様と同じです」
尚文の答え 「知らん!」
樹の答え 「分かりません。答えられません」
リーシアの答え 「イツキ様が無理なら無理ですぅっ!」
リファナの答え 「タクト……様の敵のことな……あ、えっと、リファナ……じゃないかな、誰かって答えがあるなら」
でち公の答え 「口からでまかせでち」
フィトリアの答え「正規勇者って書いて、仲間ってよむんだよー」