「ゼファー、そしてレン」
「ベールと呼んだあの時のマスターは何処へ消えてしまったでちか!?」
くらくらとわざとらしく倒れるフリをする悪魔
どうでも良いが表情が変わらないのでシュールだ
「そんなもんクs……投擲具と共にどっかに飛んでいったわ!」
何いってんだこの悪魔。カースの影響なんてカースの根源である勇者武器そのものを手放せば消えるに決まってるだろ
因にだが、転生者であればまあタクトみたいなそもそも代価も呪いも必要としないドチートは別にしても、一時的に所有権をわざと放棄して捕らえ直すという手で強引に即座にカースの呪いを解除することが可能だ。あれはスキルにより自身に付加される呪いではなくあくまでも勇者武器が処刑具スキルを軽い気持ちで多用しないようリスクとして発生させているものだから当然だな。まあ、あのタイミングで一時的にでもクソナイフ手放してたら怪しすぎてダメだし、あくまでも小ネタに過ぎないのだが
その点他の転生者であればバレたところでと割り切れるので容赦なくその小技で連発してくる……とも限らないか。あくまでも呪いを解除出来るだけで代価は先払いだからな。例えばヘルストリンガーの呪いを消せるとして、スキルの発動時点で片腕の神経を糸にした上で切り離す事には変わりがない。二回も撃てば両腕の神経が無くなって腕が麻痺して何も持てなくなったボケの完成だ
「それで?連れ帰った奴等は?」
ふと聞いてみる。タクトハーレムの彼女等。目線と仕草でもってあの時フィトリアとでちに安全圏まで運んで貰った(だから元康の謎フィールド以降をあの悪魔は見てないんだが)捕虜達について
「無事でちよ。ボクに感謝ちゅると」
……あ、噛んだ
「こほん。ボクを誉めると良いでちょう」
……また噛んだ。ごり押す気だなこいつ
それにしても無事か。ってことはあの戦いでどうこうなったのって結局……数人タクトハーレムが死んだのとタクト本人ぶっ殺されたのと……
「教皇が……」
「死んだのかリファナ」
「う、うん」
まだちょっと引きぎみに、イタチの少女は頷く
まあ当然か。トラバサミ……ブルートオプファー無しで倒せたのかって話にはなるが。ってリーシアもラフタリアも居るし勝てなくはないのか
「わ、わたしの手……」
「汚れてないよ、リファナ
誰だって生きるために他の命を犠牲にしてる。教皇を止めなければ自分達が生きられなかった。それを汚れと言うならば、綺麗な人なんて何処にも居ない。みんな汚れてるなら、そんなもの当たり前のものだ。わざわざ汚れとして言うほどじゃないよ」
っと、ってことはリファナ等が止めを刺したのか。人を殺すのは初めて……のはずだ。やっぱりキツいものなのだろうか
いや、俺の初殺人ってクソみたいな親父とその共犯者を跡形もなく光に変えた時だからその辺り実感無かったというか麻痺してたというか……。死体を見ないと相手が死んだって認識出来ないものだな案外。まあ、転生者の死骸を見ても後悔とかあまりない辺り、俺は大分他人に冷たいゴミクズな人格なのだろう。優しい瑠奈とかならまた違うんだろうけど
「で、皆生きてるのか」
捕らえたのはネリシェンなるアオタツ、ユーなるゲンム、そしてアトラだが
「はい。アトラさん……でしたか、彼女は眼を覚まし、残り二人も命に別状は無い状況だそうです」
「よく生きてたなそいつら」
まあアトラは兎も角、残り二人とかどさくさに紛れて誰かに亜人め!と処理されてても可笑しくなかったと思うのだが
「殺して……何か良いことあるの?」
「亜人だから、それだけでルロロナ村は波の被害を盛る生け贄にされたんだぞラフタリア
更には亜人へのどうこうならば最近どこでも聞く。買い物すら幻影で人間に化けないと出来ないことがあったぞ」
「……えっ」
眼をぱちくりさせるラフタリア。いや、お前波で滅んだ訳じゃない事は知ってるだろ
ふと、思った
亜人排斥の気運はかなり高まっていた訳で。既に人に買われていた亜人奴隷等は兎も角……買い手のつかない上に高く売れそうもない奴隷等はどうなったのだろうか、と
どうせ売れないならばと二束三文で人々の亜人への怒りをぶつけるためのサンドバッグになどなってないかと
と、不吉な悪寒は振り払って
「フォウルは?」
「アトラさんに付いています」
「精神面は?」
「それが……中々に辛いそうで」
「やっぱりか」
頷く。リファナは何とかなったのだが、アトラは無理だったか。完全に掛かったとしたら早々その洗脳の影響は取れるものではない。そんな程度ならば、何かゼファーが俺と対をなすとまで言ったタクトの能力としては弱すぎる。ジャンルが現実ではなくバトル漫画とか言われる
「面倒だな……」
「面倒といえばマスターでち
勇者武器は何処へやったんでちか?」
「どっか飛んでった。まあ持ってからそんなに時間経ってないからな……」
嘘である
「そもそも俺の前に現れたのだって他の勇者を守るための特例だったのかもな」
いやまあ、その前から持ってたんでこれも嘘だ
「ま、これからはやっぱり勇者武器の無いネズミさんってことで。そのうち縁があればまた俺の元に戻ってくるさあいつは」