病みつきKAN-SEN   作:勠b

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「急にごめんね」

「急にごめんね」

 困ったような、照れているような感情を隠すように笑いながら誇らしきご主人様は私の、シリアスの部屋に入った。

 

 非番という普段は何をしていいかわからない1日。

 気まぐれに散歩をしたり、他の方々とお話をしたりと平和に過ごす事が一般的とされていますが、シリアスの落ち着く時間は指揮官様の傍に居る時。

 何時もならばそう言って仕事に励む誇らしきご主人様の傍でゆっくりとくつろいでいる1日。

 最も、仕事の日でもやっている事は変わらないのが傷ではありますが。

 

 しかし、そうはいきません。

 今日‥‥ひいては、今後は。

 予定通りならは誇らしきご主人様は出向されており、帰宅は夜になると聞いていました。

 今はまだ昼手前。

 やる事もないため、早めの昼食を取りに出向こうかと思っていた矢先に聞こえたノックの音。

 他のロイヤルの方々かと思えば、そこにいたのは何かを隠すように笑っている誇らしきご主人様の姿が。

 余りにも急すぎる事態に驚きつつも、来客者を外で待たせるのも無礼なもの。

 指揮官様を自室へと案内した。

 

 聞けば、後はローンさんお一人で事が済むため無理を言って早めに帰ってきたとのこと。

 此方から理由を尋ねなくても指揮官様はそう矢継ぎ早に言った。

 まるで、聞いてもいない言い訳を言う子供のように。

 しかしなぜ、シリアスの部屋に来られたのでしょうか? 

 深くは聞かない。

 ただ、来てくれたという事実でシリアスは──

 

 会いたかった。

 片時も離れたくないという気持ちが強く、抑えれない。

 会いたくなかった。

 気持ちだけで常に傍に居られるとは限らないと見に滲みたばなりでしたから。

 様々な気持ちが複雑な形になり、歪に歪むのを感じます。

 その気持ちを整える間もなく現れた指揮官様。

 

 酷い方。

 それでいて、とてもお優しい方。

 本当はいけないと思いつつも、落ち込んだシリアスの前に現れた事の意味を見つける。

 駄目なメイドをその優しさで包んでくれるのだと。

 指揮官様のお手を取り、そっとベッドへと誘導する。

 置かれていた椅子を指さされていますが、せっかく体と心を休めるベッドがあるのに椅子でするなといけません。

 

 都合のいい言葉を並べながら、ベッドへと導くとその縁へと座られる。

 体裁を保つという言葉をベルファストさんから指導を受けている際に教えていただきました。

 栄誉を損なわずに事をなす様。

 メイドとしての体裁を保つ為にもと指導していただきました。

 

 誇らしきご主人様。

 その名誉に傷をつけないように事をなしたいと言うのであれば。

 このシリアス、貴方様に慰めてもらう為ならば如何様な演技もいたしましょう。

 縁に行く指揮官様との距離を更に縮め、普段から時折チラチラと見られる胸部を前に出し、顔を近づけていく。

 

「誇らしきご主人様、傷ついたシリアスの為に──」

「話したいことがあるんだけど」

 

 何かを察したように言葉に割り込む様にシリアスは

「‥‥誇らしきご主人様の心身共に安らぎを与えれるのがメイドたるシリアスの努め。

 指揮官様、シリアスの為にと思って何なりとお話ください」

 少なくとも、メイドとしての体裁を保つ事は叶ったと思いましょう。

 顔を赤くする誇らしきご主人様。

 きっとシリアスも、同じぐらい顔を真っ赤に指定るのでしょう。

 違いがあるとすれば、彼の目には薄っすらと隈があるということぐらい。

 

 

 

 

 指揮官様の話は深く要領を得るには断片的すぎるものだった。

 言えない事もあるのでしょう。

 ただ、察しがついたのはシリアスが知らない事を、知ることもできない事をローンさんが知っているという事。

 それを使って誇らしきご主人様を傷つけたという事。

 ‥‥許せない、とあの方はよく口にすると聞きますが、この件に関しては此方がそれを伝えたい。

 

 そんな気持ちに過敏に反応するように、誇らしきご主人様は「俺が悪いから」と言って宥めようとする。

 彼の手前、落着いているように装うが気持ちは全く収まらない。

 様々な感情をぶつける先にと余計にローンさんを悪く思ってしまう。

 

 この艦隊で誰よりも傍にいた。

 そんなシリアスですら知らない、知り得ないことを知る事を

 どんな形であれ、それを共有する事を

 嫉妬してしまう。

 顔に出ていることをわかっていても、隠すすべを知りません。

 

 

「温かい物をお持ちいたします」

 来客者を持て成すには余りにも遅いタイミングでの声かけでしたからか、指揮官様は気まずそうにされる。

 それとも、シリアスの顔を見るのが、でしょうか。

 ただ、求めていた言葉が帰ってくる。

「甘いのが飲みたいかな」

 心配そうに見つめる指揮官様を部屋に置いて紅茶を淹れに行くことにした。

 

 

 教えられた通りに、美味しい紅茶になりますようにと願いを込めて。

 あわよくば、これが最後の機会にならない事を祈りながら。

 

 ベルファストさんに教授して貰ったことを必死に思い返していく。

 キッチンには他のメイド隊の方々もいらっしゃった。

 軽い挨拶を交わしながら、用意を進めていく。

 誰かに見られていた方が、間違いがあった時に教えて貰えるというもの。

 最後になるかもしれないのだから、せめて美味しい紅茶を頂いてほしい。

 指揮官様の事を思い浮かべながら過程を思い返す。

 

 学んだ中で一番に驚いたのは、紅茶を注ぐ前にカップを温めておくという事だった。

 最も、作法の中でも常識に値するものらしく、驚く私を見てベルファストさんは呆れた顔をされていた。

 曰く、入れ物が冷たいと温かい紅茶のせっかくの香りや風味が損なわれてしまうからとか。

 

 美味しいものを美味しく出すためには、周りのものから念入りに手間を掛けなければいけない。

 全ての事が全て順次良く出来て初めて美味なるものが主に配られる。

 それがメイドとして抑えなければいけないこと。

 そう教えられました。

 

 周りのことから、周囲のものから抑えていかないと大切なものは手に入らない。

 そう言われているような気がした。

 シリアスが欲しい物は、初めから得ていたもの。

 秘書艦として誇らしきご主人様の傍に、誰よりも傍に佇みその一挙手一投足を見届ける事。

 そのためのらば、誰に何を言われようとかまいません。

 

 初めて出会った艦船だからと言われようが

 秘書艦としてのスキルがないと言われようが

 メイドとして落ちこぼれていると言われようが

 かまいません。

 誇らしきご主人様の傍に居られる、それだけが私の全てであり幸せだった。

 そう思える。

 今でも、何時でも。

 

 ベルファストさんは凄い方だ。

 ロイヤルメイドのメイド長としてメイド隊を率いる手腕。

 それは、クイーンエリザベス様も認めるスキル。

 ロイヤルだけじゃない。

 他の陣営の方々も、彼女の能力の高さは勝っている。

 彼女が秘書艦として収まれば、周りの不満も出づらいのだろう。

 周囲の者から手を回している彼女なら。

 

 ただ、彼女も誤算はあったと思います。

 秘書艦選びが演習によるMVPを取ったものという選考になったのだから。

 もっとも、そうなっても表情1つ崩さずに余裕を持った笑みで事の行末を見守っていたベルファストさん。

 きっと、他の手もあるのだろう。

 シリアスのように、欲しい物を欲しいと願う事しかしないタイプではないのだから。 

 

 羨ましくもあり、妬ましくもある。

 彼女の一言さえなければ、今頃──

 今も、こんな不安を持たずに誇らしきご主人様と共に過ごす時間を楽しめたのだから。

 

 温まったカップの温度を保つように紅茶が注がれる。

 目分量はいけないこと。

 確りと測った砂糖を加えてゆっくりと混ぜていく。

 

 最初は纏まった物がゆっくりと落ちていく。

 でも、次の瞬間にはバラけて目に見えなくなる。

 残ったのは色も香りも変わらない紅茶が1つ。

 中には砂糖という不純物が入ってるのに、その姿は何もかわらない。

 綺麗に消えた。

 なくなった。

 目に見えない程に、感じ取れない程に細かくバラけてなくなっていく。

 

「皆消えればいいのに」

 

 自分自身急に何を口走ってしまったのかわからない。

 ただ、自分の失言を誰かに聞かれいないか慌てて見る。

 周りの方々はそれぞれ仕事に夢中だったり、お話に熱心になられている様子。

 幸い、誰にも聞かれていない様だ。

 安心感から来る息を大きく吐いて紅茶を手にする。

 

 温かい物を冷めない内にお出しする。

 これぐらいの当たり前はシリアスにもあります。

 挨拶をしながら、そっとその場を早足で後にする。

 これ以上、不快な気持ちを皆様に向けないためにも。

 

 後ろからコソコソと声が聞こえた気がした。

 シリアスの事を話しているのでしょうか? 

 ‥‥だとしたら

 だとしたら、せっかく抑えようとしてるこの感情を誰に向ければいいのでしょうか? 

 

 

 

 

 

「誇らしきご主人様、今紅茶を」

 そこまで言って気づく。

 シリアスしか使う事のないベッドの隅に丸まるように、指揮官様は休まれていた。

 そういえば、昨晩は余り眠れなかったと話されていた。

 普段から睡眠だけはきちっと取られていた方だ。

 そこにだけは、こだわりが強かった。

 

 ただ、最近はベルファストさんに朝から無理矢理起こされる日々が続いているとも話されていた。

 疲れが溜まっていたから、こうしてシリアスの傍に来ると安心してしまうのだろう。

 そう思うと、シリアスの気持ちも少しだけ楽になる。

 

「誇らしきご主人様」

 

 ベッド傍のテーブルにカップを置いて、その頬に手を添える。

 温かい体温が伝わる。

 シリアスの冷えた心を温めるように、肌から肌へと。

 

「ずっとお慕いしております」

 

 ただ、指揮官様の傍にいるという事実だけでシリアスは満足してしまう。

 それ以上を望みたい。

 そんな事は毎日のように夢見てる。

 ただ、それはいけない事。

 私はメイドで、彼はご主人様

 私は艦船で、彼は指揮官

 彼は人で──

 

「‥‥誇らしきご主人様。

 どうか、どうかその慈悲深い心でこれからのシリアスの行いをお許し下さい。

 卑しいメイドのワガママを。

 何度目にのるかもわからないワガママを。

 その深い心でお許しを」

 

 そっと誇らしきご主人様の唇を自分の唇で合わせていく。

 ベルファストさんには感謝をしなければいけない。

 周りの物から用意をしていく

 それがこんなに素晴らしい教えだとは。

 気づけば、シリアスは指揮官様と向い合せになるように横になる。

 両頬を確りと、だけど優しく両手で包んで。

 もう一度、もう三度と唇を重ねていく。

 キスという前段階だけでこんなにも身体が暖かくなる。

 冷え切った気持ちが暖まるのを感じる。

 

 こうしてシリアスのベッドで身体を重ねるのは二度目だ。

 あの時も、こうしてシリアスが無理矢理に──

 

 あぁ、指揮官様

 規則正しい、暖かい吐息が鼻に、口に触れる。

 目に触れると少しくすぐったくて口元が緩む。

 もっと、もっと感じたい。

 その顔を自分の胸に押し当てながら、小さく小さく呟く。

 聞かれないように、聞こえるように。

 願うように、祈るように。

 語るように、騙すように。

 

 

「誇らしきご主人様、傷ついたシリアスの為に──」

 

 どうか、どうか

 その身をシリアスにお貸しください。

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