私は今年は大好きなローンから貰いました。
よかったら、誰に貰ったか教えて下さい。
タイトルに前篇とある通り前後編の番外編になります。
本当は他の艦船も色々と出して5話ぐらいのボリュームになっていましたが、バレンタイン関係ない話が多く見られたためバッサリカットに……かなしいなぁ
今回は時間がなかったため比較的書きやすい三人称視点になります。
少し見づらいかもしれません。
もしも、一人称の方がいいや、三人称の方が読みやすい等の意見がありましたら教えていただけたら嬉しいです
「あなたに対する愛情をぎゅ〜って詰めたチョコレートを持ってきましたよ〜」(バレンタイン前篇
バレンタイン
チョコを貰えるかどうかで一喜一憂する日
チョコレートという物に特別な価値が付与される1日。
少年もまた、この日に対して一喜一憂する時があった。
まだ『普通』の人と変わらない時は、小さな町で生まれ育っていた事もあり幼馴染とも呼べる女性と仲良く過ごしていた。
毎年この日にはその少女からチョコを貰えていた。
町が消え、『普通』というレッテルが剥がされ、薄暗い牢獄のような場所に監禁されてからは三笠が彼へ特別にと大福を送り共に食べていた。
周りの軍人達は何処かで買ったのか、甘い物を彼に見せびらかすように食べる事が多かった。
それは、彼にそんな嗜好品を買う権利も金も無い事を知っていたから。
提供される食事に、そんなご馳走はなかったからだ。
それでも、三笠は人の目を盗み時折彼に恵んではいたが。
だからこそ、彼は今でも甘い物が好きなのかもしれない。
少年は思い返してクスリと笑う。
いい思い出ばかりとは口が裂けても言えないが、それでも楽しいと思える時は確かにあったのだと。
その時はがりは、『甘い物』というものに対して彼は特別な価値を見出していた。
物には必ず価値がある。
バレンタインというイベントにとって、チョコレートという菓子に価値が付くように。
この特別な日に、自らの思いを乗せて価値を付与させようとする女性達。
この母港において、少年は大多数の者たちにとっての特別だ。
その特別を一重に受ける少年からしたら、この日はある意味憂鬱なのだろう。
思いという価値が乗った物を渡されるこの日。
少年からしたら、絶対に受け取りたくないものがやってくる。
だからこそ、この価値が邪魔となるのだ。
バレンタインという地獄の1日が始まりを告げるように目覚ましが鳴り響く。
「あなたに対する愛情をぎゅ〜って詰めたチョコレートを持ってきましたよ〜」
陽気な声と共に満面の笑みを浮かべて彼女、ローンは部屋に入る。
入ってすぐ、何時もとは違う異様な光景が飛び込んできて彼女の笑みは苦笑へと変わった。
まだ朝早いと言うにも関わらず、部屋の済には大量の箱が山積みにされていた。
大きいものから小さいものまで、崩さないようにと丁寧に積んでいるその様が彼の几帳面さを表しているように感じる。
それだけではなく、少年は普段のように仕事机ではなく来客用のソファーに腰掛けて眼の前の巨大なチョコレートケーキを必死に口にしていた。
明らかに1人で食べるには苦痛であろうその大きさに、少年は疲れ切った笑みを浮かべていた。
「あぁ、ローンありがとう」
力ない返答に「えぇ……」と返してしまう。
まさか自分が早くからこんなに引くことになるとは。
思ってもいない始まりにつまずいてしまう。
「ローンさん、ご主人様はこのケーキを先ずは口にしないといけません。
ですので、そのチョコレートは先に預かった後に然るべきタイミングで提供させて頂きます」
巨大ケーキを挟んだ先にいるのは、彼の秘書官であるシリアス。
彼女はスプーンの変わりにナイフを持ちご主人様である指揮官の前にある皿が開くのを今か今かと待っていた。
1/4の程平らげで入るが、そこで流石に限界なのだろう。
彼女が健気に待っているにも関わらずその皿に置かれたケーキはまだ半分を消えずに彼のスプーンで遊ばれていた。
「……えっと、なんでそんな巨大ケーキを朝から食べているんでしょうか?」
当たり前の疑問を投げかける。
今日しか答えることのない問いかけにも関わらずスムーズにシリアスは応えた。
「ニューカッスルさんとベルファストさんから今日は特別な日だから、と甘い物好きなご主人様に対しての褒美としてプレゼントされました。
ですが、ロイヤルの冷蔵庫は今そんなにも余裕がなくこのようなケーキを入れるスペースがありません。
このまま破棄するのは作り手に悪いと言われ、誇らしき御主人様がこうして懸命に食していらっしゃるのです」
「そうなんですかぁ〜。
確かに、残したりしたら悪いですもんね。
でしたら、私もお腹が空きましたし少し頂いてもいいですかぁ?」
「駄目です。
これはメイド隊の殆どの皆さんががご主人様に向けて作られたもの。
他の者に口にさせてはいけない、とシリアスは命じられています。
ご主人様もそれを了承の上でこれを頂いたのですから」
それはそうだ。
こんな物を貴方のために頑張って作ったから一生懸命食べてね、なんて言われればこの指揮官が断るはずがない。
ローンはチラリと横顔を顔を見る。絶賛後悔中と書かれたその顔を。
何時もの作り笑顔にも切れはなく、死んだ目をして口元にのみ浅い笑いを浮かべていた。
「ごめんねローン。
本当は今すぐ食べたいんだけど、今日は少し……」
あぁ、これが狙いなんですね。
思っていた以上に薄味な反応を見てすぐに理解した。
1人で食べ切るには絶望的なケーキを与え、その日に食べないといけないも理由をつける。
優先的にそれに手を付けると、自然と他のチョコには食指が伸びない。
このバレンタインに対して他者からの物を口にさせない、封殺させるというわけだ。
……それでこんな物を朝から作って出すなんて。
メイドと言っておきながら、ご主人様の栄養管理全無視していいんでしょうか?
普段はロイヤルメイドと息巻いて指揮官の世話をする彼女達が自分の利益のためだけに主人に毒を与える光景に呆れ返る。
「……そうなんですか」
朝一は狙う艦船も多いだろうと少しズラしてきたのだが、どうやらいつ渡してもその反応は変わりそうにない。
隅に広がる撃沈された艦船達の思いの山がそう告げていた。
ですが、私は少し趣向を凝らしていますよ。
内心の笑みを隠すように満面の笑みを浮かべてローンは指揮官に近づいていく。
「残念です。
本当は、眼の前で食べてもらって感想をお聞きしたかったのですが」
「ごめんね、流石にキツイかな」
彼が断るのも無理はない。
実際、急いで食べなければいけないケーキですらもう心が折れているようなのだから。
その言葉で、また今度食べてね、と渡して出来たのがその山だ。
最も、それでも食べさせるのがローンのやり方だが。
「では、これをどうぞ」
ローンは後ろ手に隠していた包箱を差し出す。
その際に、自らの指を見せつけるようにしながら。
「怪我したの?」
受け取りつつ、指揮官はその指に反応をした。
様々な場所にバラけて数枚貼られた絆創膏を見て心配そうな顔をする。
「あぁ、これは……」
恥ずかしそうに、照れくさそうに頬を指で描きながら苦笑する。
「料理だなんて私余り慣れてなくて……少し怪我しちゃいました」
「チョコ作りに?」
「むぅ、チョコ作りでも包丁とか使って危ないんですよ」
頬を膨らませてわざとらしく怒っているような雰囲気を作る。
だが、それも少しの間。
すぐに悲しげな笑いを浮かべて一歩離れる。
「ですが、指揮官もお忙しそうですし……
感想はまた今度の方がいいですよね。
こんなにあるので、私なんかが作った物なんて後回しになるかもしれませんよね……」
「……あっ」
その言葉に彼は後ろに積まれたチョコの山を見つめる。
それだけで、ローンは心の何処かで確信を持てた。
「いいんですよ〜。
私の初めて、指揮官に上げたかったですけど
ですが、初めて作ったからといって私の物が優先されるわけではないですもんね。
このチョコが特別なのは私だけで、あなたにはそうでもないですから」
「そ、そんなことないよ!!
放生もいいですが、こうして餌を与えて反応する姿を眺めるのも楽しめるものがありますね。
慌てて首を振る姿に、餌に釣られた魚のようなわかりやすさに思わず彼女は微笑んでしまう。
「…………食べるよ」
「ご主人様!?」
「えっ」
「うん、全部食べるとは言えないけど、少しだけ今食べたいな。
良かったら感想聞いてくれないかな?」
「……指揮官!!」
その言葉を聞いて、すぐにローンの身体は動いた。
彼の優しさに付け入るように、そっと横に陣取る。
そして、小さな彼の身体を簡単に持ち上げると
「ちょっ!? ローン!!」
「もう!! そんなかわいいこと言ってくれるなんて、私喜んじゃいますよぉ〜」
自分の膝の上に乗せてぎゅっとハグをする。
急な拘束に彼は軽く暴れるが、大きく動くとテーブルにあるケーキが崩れてしまいそうでそう激しく身動きが取れない。
そんな光景を不満気に見つめるシリアスを横目で見て、これ以上は横槍が入ると思ったタイミングで切り上げた。
「ふふふっ、それでは私が作ったチョコのプレゼントですよぉ〜」
そう言いつつ包箱を乱雑に開けていき、中から現れた数個のトリュフチョコを彼に見せた。
「初めてにしては上手くいったと思うんですけど、どうでしょうか?」
「……トリュフチョコ? いきなり難しそうなの選んだね」
拘束する手は緩んだものの、離される気配のない手に諦めつつ少年は話を進める。
この手も話が終われば離されるだろうと見通しを立てたからだ。
「はい、指揮官はきっと沢山の方から貰うと思ったので小さめの物にしたんです」
気遣ってますよとアピールをしつつ、料理初心者が小難しそうなものに挑戦したとアピールをする。
あなたのためにがんばったんですよ、ときちんと伝えながら。
「見た目は上手くいったんですけど、味は自信がなくて……」
「ローンは料理とか得意そうだから、大丈夫そうに感じるけどね」
「ふふふっ、そう思いますか?」
「優しいお姉さんってイメージだからかな?
イメージだけで決めつけてごめんね」
「いえいえ、指揮官のためなら料理も上手で家庭的なお姉さんを目指しちゃいます〜
!!」
やり取りを重ねつつ、ローンはチョコ1つ掴んでそっと運ぶ。
「はい、あ〜ん」
「……自分で食べるよ?」
「もうっ、今は優しいお姉さんなんですから少しぐらい甘えてくださいよ」
「……それは」
「そこまでです」
彼の困った視線を受けてシリアスは立ち上がる。
苛ついた表情を隠そうとしているが、その目つきは鋭いものがあった。
「ご主人様ごお困りになっていますので、それ以上は止めて下さい」
「指揮官、困ってますか?」
「……困るっていうか、恥ずかしいかな」
「……そうですか」
残念そうに呟きつつ、ローンは軽く頭を下げた。
「では、この一個だけ食べてもらったら私は帰りますから。
一個だけ、あ〜んさせてください」
「そのような事は、ご主人様がお困りになられてますので……」
「…………」
一個、という言葉に指揮官の心は動く。
初心者にしては困難そうな物を作り、それも自分のために。
この奇行も嬉しさの余りに出てしまったものだとするのなら、と。
「それじゃ、一個だけね」
軽く考えて苦笑しつつ答えを出した。
「ふふふっ、ありがとうございます」
「……ご主人様は、残念になられたのですね」
落胆するシリアスと嬉しそうに笑うローン。
そんな二人に挟まれつつ、早く終わってほしいと口を開けローンに見せた。
「それじゃ、あ〜ん」
そう言いつつチョコを口に運んでいく。
確かに入ったことを確認し、そっと指を話していく。
生暖かい吐息が指に当たる。
その感触に、ローンは言いようの無い高揚感を少し覚えた。
悪戯、ではないがちょっとした遊び気分で彼の舌に指を当てる。
「んっ!?」
反射的な勢いで噛まれそうになったが寸前の所で歯が止まる。
噛まれないように、それでもその時間を少しでも長くとゆっくりと舌に指を添わせながら離していく。
口から出た指は、透明な糸が少し伸びていた。
それもすぐに切れてしまったが。
「…………」
何か言いたげな顔で軽く睨んでくる指揮官に、ローンは気持ちのままの笑みで応える。
その笑みに何を言っても効かない。
そう思うと何か言う気も失せていく。
変な感触を残したまま、チョコを味わい食していった。
「……うーん?」
飲み込んですぐに違和感が押し寄せてくる。
眉間にシワを寄せ、首を傾げて考える。
「不味かったでしょうか?」
「いや……そうじゃなくて」
一転して不安そうな顔になった顔を見て、ますますさっきの事に言及しづらくなる。
シリアスとローンの2人に見守られながらゆっくりと感想を述べていった。
「なんっていうか、甘いんだけど……変な後味? があったような」
「──あぁ、それ当たりですよ」
「あたり?」
「はい、当たりです」
よかった、と安堵の息と共に呟いてローンは続けた。
「全部同じ味じゃつまらないと思ったので、1つだけ味を変えたんですよ。
少し変わった調味料を入れたので、たぶんその味ですね」
「……えっ、プレゼントにそんなロシアンルーレットするの?」
「はい、刺激さを演出してみました」
「……まぁ、美味しかったから別にいいけど」
「ふふふっ、美味しかった、ですか」
感想を聞き、満足そうに反復しながら膝の上に座った指揮官をドカしてローンは立ち上がった。
本当はお別れのぎゅ〜をしたかったが、今の興奮のままでは全力で彼を締め付けてしまう。
自分の全力では、人の身で更には小柄な彼は持たないだろう。
自分の欲に打ち勝つためにも、ここは早く退散することにした。
「では、残りの感想は後で聞きに来ますからちゃんと食べてくださいね」
「うん、ありがとうローン」
再びケーキに向かい合い、盛大なため息を漏らす。
そんな彼の反応を最後にローンは退室した。
廊下を歩きつつ、手についた邪魔な絆創膏を剥がしていく。
そこには怪我なんて何処にもない。
綺麗な自身の指を隠していただけだ。
演出
自分の物を眼の前で食べてほしかったから
鉄血だけでもここ数日は指揮官へ送るチョコ作りに忙しかった。
殆ど皆が暇があればキッチンに出向き、各々目指すものを手作りしていた。
普段はリーダーとして振る舞うビスマルクも、この時ばかりは1人の女性として挑んでいたのは印象的だった。
もっとも、彼女は友人でもあるプリンツ・オイゲンにからかわれながら作業していた姿の方が印象に強かったが。
鉄血だけで見ても競争相手が多い中、他の陣営だって大半の艦船が張り切るだろう。
そう踏んだ彼女は、自分のチョコをより印象的にさせるためにわざわざ絆創膏を貼り、料理初心者と嘘ついた。
自分のチョコに『価値』を付けた。
別に料理ぐらいなんてことはない。
鉄血の子達にはよく振る舞う程度には覚えはある。
それでも、自分のために懸命に作ったと聞けば指揮官なら優先してくれるだろうと感じたからこその嘘。
思い通りにことは運んだ。
他の艦船からのチョコの山に囲まれながら、自分の物を口にするあの姿を思い返し、ゾクゾクとする感情が全身を襲う。
興奮が荒い吐息として現れる。
それだけではない。
1つだけ外さない指差の絆創膏。
これだけは、本当に怪我をしていて外せない。
奇しくもその指は、さっき彼の舌で転がした指。
流石に悪戯がすぎると思い、ロシアンルーレットとして1つだけに仕込んだ隠し味。
自分でもどれがあたりかなんて把握していない。
ただ、他の女共のプレゼントに囲まれながら『特別』を口にしてくれるだけで満足だった。
例え、その場に自分がいなくても。
「本当、こんなことされたら運命を信じたくなりますよ」
そっと絆創膏ごと指を舐める。
それはきっと、彼の味であり、彼が口にした自分の味だと思うと制御出来ないほどの興奮が彼女自身を襲った。
そんな興奮と不思議な幸福感に包まれながらも、まだ足りないと飢えてしまう。
そうだ、いい事を思いついちゃった。
クスりと笑いつつ、善は急げとローンは目的のために動き始める。
あぁ指揮官。
今日はとっても楽しいバレンタインになりそうですね。