病みつきKAN-SEN   作:勠b

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「指揮官様、その目障りな小娘は何かしら?」

「あれぐらいの仕事、大鳳なら簡単にすませれますわ〜ねぇ、指揮官様」

 俺の腕に両腕を絡ませ、これでもかと言わんばかりに身体を密着させながらウィンクし、内面外面共に激しいアピールをしながら大鳳はそう言った。

 正直めちゃくちゃ助かった。

 午前中、急に手伝いに来たと言い訪ねてきた大鳳は自発的に来るだけあってその働きぶりは優秀そのものだった。正直、この騒動が終わった後の俺の仕事量は考えたくもない程だったが、彼女のおかげで昨日今日の簡単な雑務は無事に終えれた。それどころか、手暇になると書類の整理や部屋の掃除等も積極的にやってくれ、その様はまさに秘書艦の立ち振舞とも感じ取れた。

 

「楽しい時間は何でこうも早く終わってしまうんでしょう。指揮官様と大鳳の2人っきりでもっと過ごしたかったですわ〜」

 より絡んだ腕に力を入れながら呟く。午前は自主的に大きな力になってくれた大鳳だったが、午後からの目的の方がメインだったんじゃないの? 嫌そうな顔をする彼女の機嫌を損ねるのは少し怖かったから口には出せない。

 俺達は今日の本題とも言える、重桜の長である長門に会うために彼女達の寮へと向かっていた。もっとも、約束の時間にはまだ余裕がある。大鳳のおかげで早めに仕事を切り上げられたのはいいが、彼女と2人で密室に居るのがすこし怖くて早めに部屋を出ることにしたのだ。彼女もそれに同意してくれた。

「大鳳、指揮官様に飲んで頂きたい美味しいお茶をご用意していますの〜是非とも、大鳳の自室に寄ってから向かいましょう」

 と言われたから、結局の所密室で2人っきりという自体は変わらないのが頭痛の原因なんだろう。

 

 2人してゆっくりとした足取りで。大鳳は口にしたように俺と少しでも長く2人でいたいからだろう。何時もよりもゆったりと持たれたかかれながら歩く。俺の方は、そんな彼女に絡まれた腕を引っ張られていて、早く行こうにも邪魔をされているから自然とゆっくりとした足取りになっていた。何よりも早く行ったところで大鳳と2人っきりなのは変わらないのだから。

 別に大鳳と2人でいるのが嫌な……いや、正直少し嫌だ。朝のような思いは余りしたくない。それでも、彼女は俺の事を思っていてくれている。その思いを無下にしないように口にするのも顔に出すのも止めて苦笑いで頬を膨らませる彼女を宥めた。

 そんな時だった。

 

 重桜寮の目の前にいる2人の艦船に向けて隠すことなく嫌そうに前を見つめる大鳳から、俺も彼女達に視線を移す。

 

「指揮官様、その目障りな小娘は何かしら?」

「指揮官、随分と早い到着じゃないか?」

 黒い着物を纏う赤城は普段の優しさを感じさせるような声を捨てて、白い着物を纏う加賀は何時ものような冷静さを感じさせながらも何処か怒った音色で疑問を俺に投げかけた。

 

 寮の前でまるで門番とでも言わんばかりに立つ2人の艦船。可愛らしい獣耳と愛くるしい尻尾はお互いに対になるような色合いをしていおり、それぞれ着物通り黒と白を基調としている。

 同型艦ではないが、まるで姉妹と思える程良好な関係を築く彼女達、赤城と加賀は2人揃って俺の横にいる大鳳を睨むように見つめる。それに加えて赤城は返すように明らかな嫌悪感を、加賀は表情こそ変えないが明らかな敵意を見せつける。愛くるしい尻尾やその可愛らしい獣耳達は内心の感情を示す様に小刻み震えていた。

 

「指揮官様〜こわ〜いおばさん達に見つかっちゃいましたわ〜」

 彼女達に聞こえないよう小声で挑発的な事を言う大鳳。よくこんなあからさまな敵意を向けられて平然と居られる。俺は溜まっていく唾をゆっくりと飲み込みながら仲良く肩を震わす彼女達に近づいていく。

 

「す、少し早く仕事が終わってね」

 赤城の問には応えられない。きっと普通に大鳳ですと言っても意味がないだろう。同じ重桜なのだからきっと知っている。そのうえでなんで隣にいるかを聞いているのだろうから。だからこそ、応えやすい加賀の方へと言葉を返す。

「指揮官様が来られると聞いたから、赤城が出迎えをと思ったのに……うふふ……指揮官様、赤城に説明をして下さい」

 逃げれなかった。追い打ちをかけるようにそっと隣に立つ大鳳に指を指す。説明と言われ真っ先に言い訳を考えるがまともな言葉が出てこない。俺に向けられていないとはいえ、大鳳もまた大切な仲間。放っておくわけにはいかない。庇うように前へ出るとその鋭い視線がこの身を打つ。庇った彼女に届かせるようにより鋭くなると、打つどころが撃ち抜いた気さえする。明らかな敵意に晒されて俺の膝は自発的に震えてしまった。

 

「震えてしまって……。可愛そうな指揮官様。大鳳が秘書艦として代わりに応えてさしあげますわ〜」

 自称秘書艦となった大鳳は目の前の彼女等のように、でも違う意味合いで震える俺に優しく耳元で囁いた。その光景は面白くないのだろう。赤城の視線はよりキツく、加賀は一歩大きく足を出して距離を詰め寄せる。

「簡単な話ですわ〜大鳳が指揮官様をお迎えに行きましたの〜」

「それはお前じゃなく天城さんの役目だったはずだが」

 食い気味に、まるでそのまま噛み砕こうとする意思すら感じる程に加賀は鋭く口を挟む。天城の名を聞いて2人がここまで怒っているのに少しだけ納得した。彼女の存在は2人にとってとても大切な存在なのだから。そんな彼女を蔑ろにするように大鳳が出しゃばったことをしたのに怒っているのか。納得すると少しだけ震えが収まった。てっきり大鳳と(一方的に)腕を組んでいたことに対して怒りだと思っていた。自惚れていた。

「指揮官様の隣に立つのは赤城が決めた人だけ。大鳳。あなたは相応しくないわ」

 自惚れではないらしい。純粋に大鳳の素行に対して少なくとも赤城は怒りをあらわにしている。

 

「天城さんの体調が悪そうでしたので、変わりにと大鳳が引き受けましたの〜」

「天城の体調が?」

 2人よりも俺が反応してしまう。実際に体調不良なのだろう。それを言われて2人は俺とは違い黙ってしまう。その視線だけ鋭くしながら。

「そうですわ〜でも、指揮官様は気にしなくていいですよ」

「気にするよ。天城には何時も世話になってるし……」

 この場にいないのにこれだけ話題になる天城は、重桜でもそれなり重要な存在だ。長門と話せない時等はよく彼女に相談していたりもする。それに、エンタープライズとは違った意味で軍事面で必要な存在。参謀格として策をこうじており、それどころか自身も前線に立ち多大な功績を出してくれている。

 戦闘も知略も人柄も、全てにおいて優秀な天城だが、1つだけ目立った欠点がある。

 身体が弱い……ということ。

 それを欠点と俺は思ってないが、本人はとても気にしている。病弱な身であるからこそ、残された時間を皆の為に、俺の為に使いたいと言ってくれた事をとても覚えている。その時の彼女の寂しそうな笑顔を思い出した。

 

「まだ時間はあるよな」

 予定よりも1時間以上は早く出た。ゆっくり来たとはいえまだ余裕はあるはず。その呟きが引き金となってしまった事に気づいたのは、隣の没前とした顔と前の瑞祥とした顔と目があったから。

「……駄目ですよ、指揮官様。大人しく大鳳と一緒に行かないと。

 指揮官様の横にいるのは大鳳だけ。

 それだけで十分。

 それ以外の子なんてみんな放っといていいですから。

 ささ、早く行きましょう」

「あぁ、お優しい指揮官様。

 是非とも赤城と加賀をお供にして天城お姉様の傍へ行きましょう。

 ですが

 大鳳、あなた我儘が過ぎると思わない……? 

 指揮官様を誑かして、それどころか私達の邪魔をして。

 指揮官様が優しいからって、甘えて調子に乗っての度が過ぎるのは良くないわ。

 いいわ、教えてあげる。

 我儘の域を越えたらどんな目に会うのかという事を」

「お前に教えないと。

 弱者は何も与えられない。

 指揮官の全ての享受を得られるのは強者のみということを

 指揮官、すまないが少し待っててくれ。

 すぐ迎えに戻るから」

 

 赤城と加賀は揃って残り少ない距離を詰めてくる。それに対抗するように大鳳も俺から離れて歩み始めた。すぐに3者の距離は無くなり手を伸ばせば触れ合えるような程になる。

「指揮官様だって大鳳のような最新型空母の方が喜ぶに決まってますわ〜

 この体だって、若くて綺麗なものですもの。

 足の遅い空母や病弱な戦艦なんかより若くて強い最新型空母の方が指揮官様の役に立つと思いませんこと?」

 はだけた着物から見える胸部を強調しながら甘い声で煽る。

「あなたなんかよりも天城お姉様の方が遥かに優秀。

 指揮官様の傍にいていいのは、そんな優秀なお姉様や赤城や加賀のような実力者だけ。

 大鳳、あなたはお呼びじゃないわ」

 白いインナーから見える大きく見せた胸部を張りながら冷たい声で煽る。

「礼儀を教え込ませてやる」

 黒いインナーから見える2人に比べたら控えめな胸を羽織った白い着物で少し隠しながら睨みつける。

「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ!!」

 大量の冷や汗をかきながら震える膝に必死に鞭を打ちつけて3人の間に入って宥めるてみる。朝のような一方的に俺に向けられている感情ではないからか、少しだけ余裕はある。何よりも、早く無事に終えないと天城の顔を見ることすら叶わなくなる。そう思うと頑張れた。

 

「赤城」

「指揮官様、この害虫の事は赤城におまかせを。

 直ぐに壊して加賀と共に迎えに来ますから、そしたら天城お姉様のお見舞いに行きましょう」

「……加賀」

「指揮官、お前はゆっくりしててくれ。

 赤城と共に直ぐに戻る」

「……大鳳」

「指揮官様〜この用事が終わったら是非とも大鳳とお茶でもしましう。

 その前に、お掃除をしないといけませんわ〜」

 少しだけあった余裕が聞く耳を持たない3人の間に立つと途端になくなった。

「……あ、あの」

「指揮官様の隣に立つのは赤城が認めた人だけ」

「強者でない奴が我儘を言えると思うな」

「大鳳と指揮官様の間を邪魔する虫は消さないと」

 

 間に立つ俺の事を全く気にしなくなると、また鋭い視線が俺越しに各々向けられるのが肌で感じた。

 ふとシリアスの事を思い出す。艦船と俺との間でトラブルがあると直ぐに間に入って俺を守ってくれた彼女。何時もこんな恐怖に晒していたと思うと自分が情けなく感じる。

 いない彼女を思うのはここでは無駄な事。何時もしてもらっていたようにこの場を収めなければ。

 次の言葉を考える。何も出ないけど、それでも口を開けようとする。

 

「何事ですか?」

 けほけほと咳き込みながらこの場に投げられた言葉。火中の人物でもあるその声の主である天城は、妹でもある赤城やあからさまに挑発的な服装な大鳳とは違いキチッと着こなした着物姿で入り口から顔を出す。2人同様にある獣耳は少ししおれており元気がなさそうに見えた。これも彼女の内心を表しているのだろう。

「天城お姉様!!」

 この場に来ると思ってもいなかった彼女、天城の登場で赤城と加賀それに俺も驚きに、大鳳は敵が増えたと思ったのだろうか、明らかに敵意を強くして迎える。その反応を視線のみ移して見回ると最後に取り囲まれている俺を見て何かを察したのだろう。溜息と共に入り口から出てくるとゆっくりと近づいていく。

 

「天城お姉様、聞いてください!! 私達と指揮官様との仲を邪魔するモノが……」

「天城さん、私達は指揮官を困らせる者を……」

 一歩、また一歩とゆったりとした足取りで歩む彼女に向けて口早に語る2人。先程までの負の感情はどこへやら。何時もの彼女達の関係を見せつけられる事にとてつもない安堵感を感じる。

「言い訳しない」

 カンと甲高い音は赤城に、もう一度は加賀に向けて振り下ろされた拳が頭に向かって勢いよく落ちていった。

「赤城、加賀。同じ母港の仲間同士仲良くしないといけませんよ。それに、相手は同じ重桜の艦船。同じ重桜の仲間と仲良くなれないのに他の陣営の仲間達と仲良くなんかなれませんよ〜」

「うっ……うう」

「あ、天城さん」

「加賀も。赤城と一緒になって仲間を傷つけてはいけませんから」

「……わかった」

 何か言いたげだった加賀だ、ニコニコと笑う天城を前にしては何も言えずに引き下がる。そんな涙目の2人を終えると次の相手であろう大鳳を見つめた。

「大鳳」

「た、大鳳は悪くありませんわ!! 大鳳は天城さんに言われた様に指揮官様をお迎えに行っただけで……」

 先程まで2人を相手に余裕ぶっていた大鳳も大先輩である天城を眼前にしたら動揺を隠しきれない様だ。明らかに慌てふためきながら必死に言葉を重ねていく。

 そんな大鳳が急に静かになったのは天城が綺麗にお辞儀をしたからだ。

 

「えぇ、わかっています。私の代わりにわざわざありがとう」

「と、当然ですわ!! 天城さんの頼み。しかも指揮官様の助けになる事ならばこの大鳳。どんな事でもやり遂げてみせますわ〜」

 下手に出る天城を見て怒られないと察したのか大鳳は得意気に語りつつ再び俺の腕を絡ませようと伸ばしてくる。

「ですが」

 その手は触れる直前に止まった。

「少し聞いていましたが、先輩である赤城や加賀にあの口の聞き方はいけません。そこは反省して下さいね〜」

「……気をつけますわ」

「それと、指揮官様に馴れ馴れしく近づき過ぎるのも。大鳳にばかりくっつかれては指揮官様も困られるでしょうから」

 ね? と言われ投げかけられた問に何も言えずに苦笑いで返す。大鳳はそれを見て軽く歯ぎしりをしつつ俺から小さく一歩離れた。

 

「はい、それでは」

 涙目の2人の手を掴んで大鳳の前へと運ぶ。戸惑う彼女の両手を2人の手に重ねると強引に握手をさせた。

「これでお終い。仲良くなりましたよ〜」

 俺に向かってニコニコと笑みを浮かべながら報告する天城。涙目の2人に明らかに戸惑いながらも握手を返す大鳳。先程の言い合いに比べたら確かに幾分仲良くなったようにも感じるが……。

「ね、指揮官様?」

「え? あ、あぁ、うん」

 その笑みに俺も逆らう事なく同意した。

 

「それにしても、今日はお早い到着でしたね」

「あぁ、大鳳が仕事を手伝ってくれてね。それで。早めに来て皆の顔を見てから長門に会いに行こうと思って」

「仕事を?」

 天城は大鳳へと視線を移す。何か言われると察したのか露骨に避けられたのを見たあと何か思い出したかのように、周りを1、2回見回した。

「シリアスさんは何方に行かれたのでしょうか?」

 不思議そうに尋ねられた。それもそうだろう。シリアスは良くも悪くも殆ど俺と付きっきりで行動する。何時もならこの場にも立ち会っており、あの場を収めるように手伝ってくれていた。赤城と加賀も名前を聞いて思い出したのか同じような顔をする。

「色々あってね。後で皆にも伝えるけど秘書艦を変えることになったんだ」

「まぁ、それはそれは……」

 天城は口元を手で隠しつつ驚いた顔で反応した。反応の割には口調は穏やかて、何か含みのようなものを感じる。気になりはしたが、口を挟む暇なく握手を解いた赤城が慌てた血相で俺に顔を近づける。

 

「ついに、ついに指揮官様も赤城と共に歩む決心をされたんですね。

 赤城は嬉しい……。

 あの女と違って、赤城は指揮官様と繋いだ手をたとえ縫ってでも決して離しはしませんからね」

 恐ろしい例えに反応に困りつつ、一方的に繋がれた手を見る。赤城なら本当に縫いそうで少し怖くなる。

「赤城もいいが、私達の事も忘れるな。

 天城さんも私も指揮官が傍にいるならどんな運命だろうと乗り越えてみせよう

 何があろうとお前が傍にいてくれるんだからな」

 空いた手も加賀に取られる。

「指揮官様の新しい秘書艦は大鳳ですよ〜

 勝手に大鳳との仲に入らないで!!」

 その手達は叩くように間に入った大鳳によって引き剥がされると、再び3人の睨み合いが始まった。

「なるほど」

 軽く手を叩くと天城がこの場の注目を掻っ攫う。それだけで3人の争いは一瞬で終わりを告げ、気まずそうに顔を反らしあった。

 本当に頼りになる。重桜だけではなく、他の陣営の艦船達も彼女に頭が上がらない人が多いだろう。それだけの実力と知略で皆の窮地を救ってくれた彼女。俺もこの場だけで何回恩を作ることになるのやら……。それでも、心強いスケットのおかげで完全に心の余裕を勝ち取れた。感謝しかない。

 

「では、明石が言っていた報酬というのはこのことなんですね」

「明石?」

 急な名前を思わず口にする。明石はこの艦隊で商売をやっている艦船だ。その役割上よく関わることの多い彼女。そんな彼女の口から報酬の話なんて……思い返してるがそんな話は全く出てない。そもそもとして、演習の話自体ない。

「今回の演習でMVPになった方は特別な報酬が出ると言われてました」

「「「特別な報酬?」」」

 なんだろうか。とても気になるが少なくとも秘書艦の肩書ではない。なりたい人には申し訳ないが、この騒動が落ち着いたらまたシリアスにお願いする気は変わらない。こんな噂が何処まで広まっているかは知らないが、タイミング的に誤解を生むのは明白。早めに解いていかないと。

「それは……」

 

「指揮官の隣に立つのは強者でなければならない。

 なら、私がその席を頂くとしよう

 嬉しいよ指揮官。

 強者でこそがどんな運命をも勝ち取れる。

 そんなメッセージを込めたこの取り組み、しかと受け取った」

 加賀はこの話を気に入ったのだろうか。俺の言葉を遮って満足気に微笑みながら立候補する。

「ふふふっ……うふふふ……邪魔な害虫を潰して指揮官様の秘書艦にもなれるチャンス。この赤城、見事勝ち取ってみせましょう」

 赤城もまた、天城のように口元を隠して笑うが歪んで上がったその口角を隠しきれてはいなかった。

「そんな事しなくても、指揮官様のだ〜い好きな大鳳は秘書艦になりますのに。

 恥ずかしがり屋な指揮官様が口でお願い出来ないからってこんな風にプロポーズするなんて……可愛いい指揮官様のために、この大鳳ご期待に応えますわ〜」

 大鳳もまた、誤った解釈共に嬉しそうに笑っていた。

 三者三様にMVPの座を取れると思っているのだろう。もっとも、赤城と加賀は一航戦と呼ばれる程の実力者だし大鳳は最新型という語る肩書き通り、その性能は高い。誰がなってもおかしくないし、このまま誰かになられても話がこじれてしまう。

 このままでは話がこじれてしまう。目の前でも、知らない所でも。だ。救いを求めるように天城を見ると彼女は優しく微笑んでくれた。その優しさが本当に救いになる。

「指揮官様の横に立つ者として、この天城。今回の演習に全身全霊をかけましょう。

 例えこの身が朽ち果てようども、指揮官様の隣に立てる幸福を一度でも享受出来るなら悔いはありません」

 どうやら彼女も乗り気のようだ。やっぱり自分を助けるのは自分しかいない。

 

「あ、あのね」

 何とか口を出すタイミングを作ろうとするも今度は天城が横槍を入れてくる。

「では、私は指揮官様と少し話があるので自室に居ます。赤城、加賀。お茶と茶菓子の用意をしてもらえるかしら?大鳳は次の演習に向けて訓練を怠らないように頑張って下さい」

 その一言に声を揃えて返事をして各々俺を置いて歩み始めた。そんな彼女達を引き留めて誤解を解こうと手を伸ばすも伸び切ることなく天城に腕を掴まれた。

 シーっとでも言いたいのだろ。人差し指を口に当てて可愛らしい仕草をする彼女。

「天城、誤解が……っ!!」

「わかっております。この天城にお任せを」

 自信に満ち溢れた笑みと共に軽い会釈をされた。何をわかっているのかは知らないが、わかっているのならば誤解を解く時間が欲しい。その思いを口にするも嬉しそうに手を引っ張って俺を運ぶ彼女は止まらない。

 行きとは違う早足で俺は彼女の自室へと運ばれていった。


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