ある少年の、未来変わってしまう未来とは……

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これまでの自信も、未来に続くとは限らない

 

「――くん」

 

 幼さが残る少女が、とある少年の名前を呼ぶ。

 

「……大会、勝ってきてね?」

 

 その少女が、不安そうに彼のことを見つめながら、そのように問いかけると。

 

「大丈夫だ、絶対に日本一になって帰ってくるから、心配するな」

 

 少年はニカッと無邪気な笑みを浮かべつつそう告げると、少女の肩を軽く叩く。そして、そのままサッカーの道具を持ってバスに乗り込んでいった。

 その少年は少女が見えるよう窓側に座ると、バスが出発するまでの短い間、少女に向かって手を振ると、少女もそれに応じるように手を振り替えしていく。

 

 後日――その二人の少年少女は、お互いの両親と共に、喜びを分かち合ったのであった。

 

 ×  ×  ×

 

 どこか懐かしい感覚に浸っていれば、突然、バシッ、と頭を叩かれた。何事か……と思い、顔だけを上げてみると。

 

「あんたさ、寝てないでしっかり授業受けないと後で大変になるじゃないの」

 

 どうやら俺は、昼食前の最後の授業中に眠っていたみたいだった。

寝ていたときから組んでいる腕を崩さずに最後列から教室を見渡せば、クラスメイトは教科書などをしまい、各々昼食の準備をしている。視線を前に戻せばその交差させた腕にあごを乗せ、ポツリと誰に向けたものではなく、ただ単になんとなく。

 

「……あーあ、昔はこんなに気が強くはなかったのにな」

 

 そのように呟けば、無言でもう一度、手で頭を叩かれる。

 いつからこんな調子になったんだろうか……小学生のころは、少なくともこんな性格じゃなかった……などと思い返していると、はぁ……と軽くため息をつきながら幼馴染が畳み掛けてくる。

 

「ホント、そんな調子であの高校行ったら辛くなるだけでしょ?」

 

「いや、勉強は今現在だってそれなりにできてるし、サッカーだってクラブユースとかからいくつか声が掛かってるからなぁ」

 

「そうやって怠けてるから、中一の最初のテストだってひどい点を取るんじゃないのよ……っ!」

 

「痛い痛い……っ、悪かった、次からちゃんと起きて勉強するから……!」

 

 怒ったように……いや、本当に怒ってるんだろう、左右のこめかみを親指でそれなりの強さで押さえつけながら事実を突きつけてくる。

 その痛さに思わず自らの手をあごの下から抜くと、こめかみを押す手をどうにかして離そうとする。しかし、忘れていたがこいつも案外力が強いおかげで、中々離す事ができなかった。

 

「前もそんなこと言って、結局直ってないじゃない。あんたに、本当に直す気があるのかしらね……?」

 

 今度はあきれた様子でそうつぶやくように口にしながら、押さえ付けていた指を離していく。

 

「分かってる、さすがに受験まであと半年位だから、何とか頑張ってみるさ」

 

「何とかじゃない、本気でやりなさいよ」

 

 それにホッとしつつ顔を上げそう返すと、頭を軽く叩かれた。昼休み三度目のそれをもらえばバツが悪くなり幼馴染から目をそらせば、ある人はクスクス、ある人はニヤニヤとしながらこちらを見ていることに気付いた。

どうしたのかと戸惑いを隠せず幼馴染をちら、と見ると、こいつも少し戸惑っている。

 

「本当に、二人の夫婦漫才は飽きないねー?」

 

 そう、とあるクラスメイトの女子がニコニコと笑みを浮かべながら視線をこちらからはずさず、クラスの中にいる人間に聞こえるような声量でそう彼女の友人に告げた、その時だった。

 

「だっ……だから、あたしたちはそんな関係じゃないって何度も言ってるよね⁉」

 

 幼馴染がそう早口でまくし立てた。

 それに驚いた俺は幼馴染の方へ顔を向けると、顔を赤くし、恥ずかしさなど色々な感情が混じったような表情をして、立ち尽くしていた。……俺は初めて聞いたが、何度もってことは、今までも時々言われてたのか。

 そして、周りは照れ隠しととらえているのか、あからさまにニヤニヤしたりはしなくなったものの、暖かい目でこちらを見ている。そのためか、ピリッとしたものが混じりつつもほんわかとした空気が教室内を染めていた。

 とはいえ、この状況が続くのは好ましくないだろう。

 

「なぁ、そろそろ昼飯食べようぜ。さすがに腹が減ったわ」

 

 机に寝そべる体制から起き上がると体を軽く伸ばし、机の上に広がったままの教科書やノートを片付け始めながら幼馴染に向けてそう呼びかけた。すると、幼馴染は驚きの表情を浮かべながら俺の方へと向いたものの、数瞬すると毒気を抜かれたように呆れた様子で軽く息を吐く。

 

「そういえば、今日はあたしが持ってくる番だったっけ。ちょっと待っててね、っと」

 

 やれやれ、といった様子でその様に返しつつかばんから弁当を二つ取り出すと、片方を俺の机の上に置いた。

 

「ありがとう。いつもありがとうな、助かるよ」

 

「べ、別にあたしが作ってるわけじゃないから……それに、あんたの親にも作ってもらってるんだから、お互い様でしょ」

 

 俺が礼を告げれば、少し照れた様子で言葉にしながら机を俺の方へと半周回転させ、いつも通りお互いが向き合うような形にしてから幼馴染も着席する。先ほどの照れたような仕草もそうだが、それ以前に、同じ手作りの料理でもこいつのと時々食べさせてもらえる母親のは微妙に味が違ったりしてるんだよな……なんて言わないでおこう。言ったら最後、どんな仕打ちが待っているか想像したくもない。

 

「でもいいだろ、俺だって助かってるんだし。じゃあ、弁当を食べさせてもらうかな。いただきます」

 

「分かったわよ……いただきます」

 

 二人そろって手を合わせ、弁当を開けてみる。するといつも通り、多少は冷凍物もあるものの色とりどりの内容だった。

 味付けも最初から割と好みのものではあったが、最近はより俺好みの味付けになってきていて食べやすく、俺としても嬉しい限りだ。

 

「そういえば、進学したい学校とかって決まってるのか?」

 

「え、えっと……別に、決めてなくはないけど?」

 

 箸を取り出しつつ問いかけてみると、箸を出し終えた幼馴染は視線を軽く逸らしながらぼそぼそと細い声で返してくる。

 そう答えた後は、恥ずかしかったのか頬を染めながら俺よりも多少小さめの弁当を食べ始めて行く様子を見て、軽く首を傾げた。

 

「俺は教えてるのに、何でいつになっても教えてくれないんだよ……そういや、今年の予選だったり、行ければ全国大会には来るんだよな?」

 

「当たり前でしょ、マネージャーなんだからさ。あんたさ、時々よく分からない事を聞かないでよ」

 

「……っ。いやだって、去年は予定があるとかで全国の方は来れなかっただろ? だから、今年はどうなのかと思ったんだ」

 

 弁当を食べつつも不満げにそう返されれば、同じく返答の間に口に入れたおかずを飲み込んでからそう返した。

 実際、去年は家の用事で全国大会の方に来れなかったせいで、大会の前後は俺と会うたびどこか不機嫌そうだったのを覚えている。……そういえば、小学生の頃も応援に来れなかったときがあったな。あの時はチームの主力ではなかったためベンチスタートも多く、こいつの親も「今回は……」と応援に行くことをあきらめるよう説得したんだった。そのお陰か、出発する前には不安そうにしていたことを覚えている。

 

「そういえばそうだったわね……今年は行くわよ、中学最後なんだし。それに、今年こそは約束通り優勝して貰わないと」

 

「あー、そういえばそんなことを約束したよな……でも、全国ともなると嫌な相手が中学に上がって来たしなぁ」

 

「つべこべ言わずに、絶対優勝しなさい。チームプレイとはいえ、あんたが軸のチームなんだから」

 

 などと、思い出を交えつつも軽い調子で昼食を食べながら雑談を進めて行く。しかし、まさかの事態はいつでも起こりうる。それが気のゆるみなどから来る不注意なのか、注意していても対処が出来ない物なのか、それは問い詰めて行ったとしても、分かることはないのだろう。

 俺だけじゃなく幼馴染をはじめ、多くの人がしばらくしたある日にあんなことが起きるとは予想だにしていなかった。自分が少しでも気をつけていれば起きなかったであろう、その後歩む人生の方向を否応にも変えることになる出来事が起こるとは……

 

 

 




(三題噺・昼寝、食事、机より)

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