そんな感じのオリ狩人が既存キャラと会話したり、仲良くしたり、ドン引かれたりする話。
ガスコインとヘンリックとアイリーンと喋る。あと、NPCが「良い夜を」とか言ってくれる……。
ブラッドボーンの二次創作ファンアートです。
*正直これまでのゲームはチュートリアルに甘やかされて生きてきたのでお助けキャラが居なくて謎の虚ろに襲われた。欠落感すごかった。後半まで結構寂しかった。
*NPC ツメタァイ…。
*という上記の感情を詰め込んでマイルドにしたやつ。
(誤字脱字修正ありがとう…嬉しかったです…!)
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「……騒々しいな」
人の生命力が強いのは良いことだ。血は巡り、活力に満ち、また、病に罹ることが少ない。だがこいつは――これは、もう人ではない。
喉を浅く切り裂くと、ごつ、と骨に邪魔をされる。それでもどこかに穴が通じたか、「獣」の絶叫は、血の噴出へと取って代わった。
外套に血がかかり、体中が特有の臭いに包まれる。心地よいとはとても言えない臭いだが、その狩人――ブルクハルトにとっては、生まれたころから親しんだものである。懐かしさにも似た安堵を覚え、彼はほうと息を吐く。
持っていた鉈を仕舞った後、ブルクハルトは近くの民家へと近づく。
先ほど、断末魔と血の水音に、「ヒッ」と怯えた声がしたので、中に人がまだいるのだろう。彼は血臭を纏いながら、気負いもなくノックした。
「俺だ、ブルクハルトだ。どうだ、この辺りに病人は他に居なかったか」
「な、なんだ、ブルクハルトか……」
色付き窓の向こうから、男が顔を見せる。血まみれのブルクハルトにウッと嫌そうな顔をしたが、彼の中では親切心が打ち勝った。
「聞いた話によると、橋の方が酷い容態だってよ。でも、まだ獣にはなってねえんじゃねえかな……あいつら、結構上手く隠してやがるから、医療教会も気づいてねえんだぜ」
そして、この男もそれを医療教会には告げない。ブルクハルトも。
「……そうか、ありがとう。それじゃあ、俺は次に行く。あんたも気を付けろよ。では、良い夜を」
「良い夜を、ブルクハルト。……し、死ぬんじゃねえぞ!」
怯え混じりの男の声を背に、ブルクハルトは獣の死体を引きずりながら、広間の方へ向かう。一度そこで成果と情報を報告し、大通りや橋など、街の生命線の様子を確認するのが常の狩りだった。
特にブルクハルトは、広間に顔を出すことを強く求められた。ヤーナムの狩人は、殆どが異邦人によって担われている。ヤーナムの民はよそ者を嫌うもので、彼らはしばしば夜を駆けるのに苦労した。
かつて名誉ある職として崇められていた頃の古狩人たちは、旧市街の悲劇からすっかり身を潜め、ある者は下層へ籠り、ある者は禁域へと身を隠し……と、今や姿を見なくなって久しかった。市民たちに、古狩人たちは、獣を追って覚めない悪夢へと堕ちたなどと噂されるほどに。
民草との伝手を持っていた当時の狩人たちは、民間の工房と共に消えてしまった。そんな中、ヤーナム出身のブルクハルトは重宝されるのだ。
(……今夜は酷いな。何人が死んだ……?)
狩人の死体が転がっていることもあれば、やむにやまれぬ事情ゆえか、外へ出たのだろう市民の遺体も落ちている。狩りは常に危険と隣り合わせだったが、最近はとみに人死にが多く出る。獣になる人間の数も増えており、ブルクハルトも、流石に血酒を控えるようになった。
獣狩りはいつか血に酔い、やがて血を浴びること以外考えられなくなる。それは、ヤーナムでの常識だ。なればこそ、狩人は人としての理性を強く持つことを求められる。優れた狩人とは強靭な肉体を持つ者ではなく、何匹の獣を殺そうと、自我を持ち続けられる意志の強さを持つ者なのだ。
ノコギリ鉈の血を払い、ブルクハルトは努めて冷静に死体まみれの街を進んだ。
広場への梯子を上り、門を通るとそこには既に狩人たちが集っていた。ブルクハルトが片手を挙げると、ぽつぽつと応える者がある。
「ブルクハルト、きちんと時間通りに来い。貴公は一人で狩りをするのだから、安否が分からんのだ」
古狩人のヘンリックが早速苦言を呈すのを受け入れる。ブルクハルトは彼にはめっぽう弱かった。彼はブルクハルトの師のような存在で、今現在、自身が医療教会所属の狩人にならなくてもやっていけるのは、彼の後ろ盾のお陰だった。
「おいおい、ヘンリック。そんな言い方はないだろう。お前だって、この坊やがもう一人前だって分かっているくせに」
相棒のガスコインが宥めるが、ヘンリックは依然としてこちらを見ている。ブルクハルトは嘆息し、素直に謝罪する。
「……悪かったよ。代わりにと言っては何だか、南の方は根絶やしにしておいた。近くの奴に、前日までに罹患者が居なかったか確認したから間違いない」
「他には?」
「詳しくは分からんが、前回の夜の終わりに、橋で傷だらけの、だが生きた獣を見たとか、見なかったとか……。狩り損ねてなければ、杞憂で済む。確認のために、市民と話すこともあるだろう。俺が行こう」
ブルクハルトは嘘を吐いた。もしも橋の罹患者がまだ人間であるのなら、住民が罹患していることが異邦の狩人から教会に伝わる事態を防ぐため、彼は一人で向かうつもりだったのだ。
獣化の病の治療の要である医療教会は、白衣と黒衣に分かれている。彼らは獣の病を治そうと嘯くが、その一方で罹患者を殺戮する。まだ、獣でないのに。まだ、話せるのに。まだ、人間なのに。
罹患者にこそ、治療が施されるべきだ。異邦人の不治の病に特別な血を与えるのなら、獣になりかかった市民にこそ与えるべきだ。ブルクハルトの内心には、そんな思いが微かにあった。……だが、彼も愚かでないから気づいている。
――医療教会は、獣化を治す方法など持ち合わせていないのだと。
何故なら、獣の病を発症した、他ならぬ彼の父を殺したのは、医療教会の狩人だったのだから。
もちろん、話に聞いた罹患者が獣となっていれば殺すつもりだ。それが義務であり、狩人の存在意義だ。
しかし、僅かでも意識があるのなら、そっとしてやりたかった。
そんな思惑のため、ブルクハルトは一人で動きたかった。教会や古狩人と違い、異邦人の狩人たちは、基本的には一人で動く。ブルクハルトとてそうしても、文句はあるまい。
しかし、一つすっと上がった手があった。
「なら、あたしと一緒に行くことになる。橋の向こうで狩りをしている知り合いに、丁度用があってね」
独特の烏羽のコートを着たアイリーンがそういうと、ヘンリックは一つ頷いた。
「それならば、更に仕事を任せよう。ブルクハルトは、橋に行った後はそのまま聖堂街の面々と合流し、こちらの情報を伝えてくれ」
「……分かった」
ブルクハルトは自身の仕事が、明け方までかかることを察した。聖堂街はヤーナム市街よりも広い上に、住宅街や娼婦たちの住む下水に近い辺りは、暗がりを好む獣が多く集まるのだ。
過保護なのかそうでないのか、はっきりしないヘンリックに、釈然としない思いを抱えつつも、持っている情報をすべて吐き出す。ポツポツと他の者とも情報を交換し、現状を知る。
それが終わるころには、狩人たちはそれぞれ散開しており、広場の人間はすっかり疎らになっていた。
ブルクハルトも大橋へと向かう。アイリーンも同じ方向へ足を向け、ヘンリックたちは市街の方へと戻っていく。
去り際、ヘンリックが老体に似合わぬ快活な仕草で、手をひらりと振った。
「明日は前に話した例の酒場へ行くぞ。珍しく普通の酒がある店だ。こいつも連れて行くから、服は狩装束の方がいいだろうな」
「誰が獣だ、くそ爺ッ! 俺は仮にも聖職者だぞ、酒で外れるような安い理性なんか持ち合わせてねえ! ……ただ少し、開放的な気分になるだけだ!」
ガスコインが鼻を鳴らすと、普通の狩人よりも大きな斧を持ち、速足で進みだす。ヘンリックは肩を竦めて、それを追うように建物の影へ消えていった。
「ヘンリックは相変わらず、あんたに構うのが好きでたまらないらしいねえ」
「ああ。……あの人は、よく俺に父親面をする」
なんとも言えない面映ゆさに、暗い茶髪をかき回す。墓までもっていくつもりの秘密だが、ブルクハルトは幼少のみぎり、ヘンリックに髪を切ってもらったことさえあった。……。
ブルクハルトに、父との思い出は少ない。それは、父が物心つく前に死んだこともあるが、父が有力な古狩人だったことも理由の一つだった。
医療教会は狩人をどん欲に欲する。工房なき今、医療教会は狩人を支援する唯一の機構だ。そして支援の見返りに、狩人の力を求めるのだ。彼ら自身が狩りの技術を忘れ――医療と、それに付随する何かに熱狂しているから。
ブルクハルトの父もそうだった。優秀な古狩人であった父は、医療教会からの熱心な勧誘を受け、どこぞの地の探索と、その護衛に付いたのだ。
――そして帰ってきた父は、病に罹患していた。
日に日に弱り、血走った瞳の瞳孔は蕩けて行き、彼は獣へと近づいて行った。ある日、ブルクハルトが家に帰ると、遂には彼は、母を泣きながら喰らい、笑っているところだった。
幼いブルクハルトは走って逃げ出した。ぼろぼろと泣きながら、転がるように広場へ出た。そこへ丁度、大橋を渡って帰る途中の、医療教会の狩人が居たのだ。
「たすけて! パパが!!」
そう言ったブルクハルトを見て、狩人は無感動にノコギリ槍を構えた。少年を追ってきたかつての父は、血に飢えているのか、涎をしとどに垂らしながら、「ちがうんだ、ちがうんだよ。なあ、にげないでくれ、パパだよ」と拙く話していた。
彼はまだ人だった。彼はまだ。彼は、ブルクハルトの父だった。
――狩人は槍を握ると、躊躇いなく父を殺した。
「ありがとう、坊やのお陰で獣が見つかったよ」
にこりと満足げに笑った狩人からは、濃厚な血の臭いがした。
――当然のことながら、ブルクハルトは医療教会に対する信頼を失った。
探索中の父の日誌には、人とも思えぬ化け物が番人をしている、星の使者が光を連れている、など、常人では想像も出来ない狂気が綴られていた。
それこそを医療教会が求めていたのだ、とも。
人を攫っている、子供を集めている、重篤な病だと連れていかれた者は必ず戻らない。
ヤーナム民の間で囁かれる醜聞的な噂すらも、すべて本物だと、彼は知っていた。それを教えてくれた狩人が、数日後何者かに殺されていたからだ。
旧市街にて、医療教会が獣化を止められなかったことから、今やみな獣の病を恐れている。彼らは、獣の病のための研究などしていないのだと、敏いものはみな知っていた。獣の病から逃れる方法は、今のところ存在しないのだと。
――だが、誰もこの街からは出られない。
橋に繋がる二階建ての家屋をノックする。ごほごほ、という咳が聞こえる。
ブルクハルトは彼女を知っていた。確か都の死病に罹り、ここで血の医療を受けたのだ。それによって延命は叶ったが、彼女の体質か、病の性質か、完治には至らなかった。気の毒な話だ。血によって、獣へ変貌する可能性を身に抱えたにもかかわらず、病魔に蝕まれたままだとは。
確か、診療所への道の途中、ギルバートという異邦人も、同じ病だった気がする。……。
「ゴホッ、狩人の方……? ここの家主は今、眠っています。私が代わりに、お聞きしましょう」
「ブルクハルトだ。ここらで、獣を見たことはあるか?」
ブルクハルトは、罹患者を見たか、とは聞かなかった。それだけで、彼女は察してくれたようだった。
「いいえ、いいえ。獣狩りの夜は、薬を飲んで寝ることにしているの……。ゴホッ、ゴホッ」
「そうか。わかった。……お大事に。どうか、良い夜を」
「……? こんな夜に?」
困惑した異邦人の女性とは異なり、家の奥から、か細い声が返ってくる。
「良い……夜を……」
アイリーンはやり取りを壁に背を預け、聞き流している様子だった。ブルクハルトは、罹患者がまだ獣になっていないことにほっとしながら、大橋へと身を向ける。
アイリーンがふと、口を開く。
「あんたもヤーナムの人間なんだと、こういう時にふっと気づかされるね……。他よりもずっと、異邦人に寛容で、医療教会を過度に信仰もしていやしない。その上、他の奴らみたいに、罹患者を汚らわしいと厭わないところも、ここらしくない」
「……そうは言っても、俺はここから出たことは一度もない。分かるだろう? 一度でも輸血をされた者は、もう二度とこの街からは出られない」
輸血液は、人間の生命力を高める作用がある。不治の病をやわらげ、健常者を強靭にする。だが、血を断てば、たちまちのうちに病は再度起こり、体は元に戻ってしまう。
「ここで生まれ、輸血を受けた者にとって、血の恩恵を失うことは、筋肉をそぎ落とされ、重石を背負わされるようなものだ。ある者は、四肢を失うようなものだ、とまで言った」
そこで――にわかに、ブルクハルトはノコギリ鉈を構え、辺りを見渡す。直観的に、何かの息遣いを感じた。アイリーンもそれに続く。
やがて、
アイリーンは身を退かせたが、少し遅かったようだ。肩口に、切れ味の悪い爪が肉を引っ掛け、ブチブチと筋肉をちぎった裂傷を負ってしまう。
ブルクハルトはカッと頭に血を上らせ、そのままの勢いで、獣へと切りかかる。自身も傷を負ったが、獣の血を浴びるごとに、体がそれを塞いでいくのを感じる。じくじくとした痛みと同時に熱を持った傷が、通常の怪我とは異なる感覚を齎した。
アイリーンが背後から肉薄してくるのを感じる。彼女は輸血液を使ったようだが、傷はまだ治りきっていない。片腕は上がりそうもなく、無茶だ、とブルクハルトが告げるより早く、彼の背中に、針が景気よくぶっ刺さる痛みが広がった。
「おい、ッ痛いぞ!!」
「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ、しっかり前を見な! そいつにやられた傷の方がでかいだろうに!」
どうやら、アイリーンが輸血液を分けてくれたらしい。彼女は置き土産とばかりに、無事な方の腕で刃を振るい、獣の眼球を潰し、バックステップで素早く下がっていった。
ブルクハルトは位置を入れ替えるように、獣の腕の中へともぐりこむ。傷を恐れず、再び獣へ鉈を振るった。ぶちぶちと皮を裂き、油と血に滑りそうになりながら、硬い筋肉を裂く。獣が沈黙する頃には、必死の抵抗を受けたブルクハルトは、また大きな爪痕を体に負っていた。
はあ、はあと肩で息をしながら、輸血液を二本刺す。ブルクハルトのものはこれで、もう使い切ってしまった。なるべく避けたかったが、
「アイリーン、あんたももう一本打った方が良い。傷がまだ治っていない」
「んなこたぁ分かってるさ。ただ、もう無いってだけさね」
「……まさか、俺に打った分で最後だったのか!?」
愕然として、まじまじと彼女の姿を見る。血の色の分かりにくい外套は、彼女の体をすっぽりと隠し、傷の詳細を窺わせない。ただ、血の流れる量と位置から、経験上、ブルクハルトは彼女の腕がまともに動かないだろうことを察する。
「あんた、何を考えているんだ! まだ黄昏時だぞ、朝まで何時間あると思ってるんだ!」
「クククッ、あんたは知らないかもしれないけどね、あたしの武器は手より足腰の方がよっぽど大事なのさ。……それに、あんたを死なせると、ヘンリックにあたしが殺されちまう。いいから、ババアの心配なんてしないで、とっとと行くよ」
“また”これだ!! とブルクハルトは頭を掻きむしりたくなる。狩人に若者は少ない。未熟者は庇護者なしではすぐに死ぬからだ。それゆえか、時折ブルクハルトは、二十をとうに過ぎているというのに、こうして年齢を理由にやり込められることがあった。
医療教会により、獣狩りの夜に配布される輸血パックは3つだ。異邦人たちはその貴重な3つでやりくりするしかない。購入することも出来るが、(特に異邦人には)莫大な金額が要求される。それをこんな、馬鹿な理由で!
ブルクハルトはしばらく思考したが、ふと一つの妙案が浮かんだ。血の施し、あれは調整された血の聖女が行う、質の良い血液の供給だ。
ブルクハルトは調整などされていないが、ここに転がる病原体の血液よりは断然健康的だろう。彼は刃物を探し、内ポケットからスローイングナイフを取り出す。
「……気持ちはありがたいが、あんたには、こんな理由で死んで欲しくないんだ」
腕の動脈を探って刺すと、血が勢いよく噴き出す。生きる活力が失われ、意志が薄れるのを感じた。思わずウッと呻いてしまうが、それでも刃を勢いよく抜き取る。
アイリーンは動揺に声を揺らしたが、ブルクハルトが空の輸血パックにそれを注ぎだすと同時に憤慨する。
「あんたは馬鹿なのかい! それじゃあたしの輸血液の意味がないじゃないか、そんなに血を抜いたら、今度はあんたが使い物にならなくなっちまうだろう!」
「いいから、さあ。飲むでも刺すでもいい。血を与える狩人なんて、聞いたこともないからな、効くかも分からないが……。とにかく、受け取ってくれ」
ブルクハルトが強固な姿勢を示すと、アイリーンは憮然とした表情でそれを受け取る。彼女は、目の前の若く精悍な青年の生き血を体内へ入れることに、人としての後ろめたさを覚えたが、やがて潔く肩口へと刺した。
傷はすぐさま塞がり、幸運なことに、ブルクハルトの血はそれなりに効果が高かったようだ。
「それで、あんたはどうするつもりだい」
腕を組み、アイリーンは怒りをポーズで示した。その実、内心ではブルクハルトの身を案じていた。彼はまだ若く、そして腕の良い狩人だ。ここに長く住みながらも意識をしっかりと保ち、また、血に溺れる様子も見られない。
気の良いこの若者は、狩りの際市民の協力を得ることに向いている。それなり以上に長い付き合いの彼を死なせる訳には行かず、この段階でアイリーンは、聖堂街で待つであろう“知り合い”との約束をすっぽかし、ブルクハルトを連れてヘンリックへと預けるところまで、思考を進めていた。
一方、ブルクハルトは、失血によろめきながら、大型の獣の遺骸を蹴り転がし、あお向けにする。無論、八つ当たりではない。
輸血液は医療教会の生成した“安全な”血液だ。だが、先ほどブルクハルトの血がアイリーンに回復効果をもたらした様に、血液は必ずしも精製されている必要はない。
ブルクハルトは、獣の内臓に手を差し入れ、引き抜く。高々と掲げた死体の内臓を――ぐっと握り潰し、勢いよくその死血を浴びた。
汚らわしい獣の血が、彼の全身を濡らす。大きく開いた口は、病に侵された血をごくりと飲み干した。
一晩遡れば人間だった獣。病に侵され人が変質した、病魔の塊。その血を大量に浴び、殺したばかりか――彼は死体から臓腑を抜き取り、喰らったのだ。
「グッ……アァ! ……ううっ……」
血を飲んですぐ、彼はふらりと身を揺らし、頭を抱え、俯いた。それからじっと黙り込んでしまう。
悍ましい沈黙の後、やがて彼は何事もなかったかのように、体の緊張を解き、頭を振って姿勢を正した。
アイリーンは思わず息を呑み、ブルクハルトの、血の滴る髪をじっと目を逸らさずに見ていた。まるで獣が目の前に現れた時のように、全身に力を込めて。
ブルクハルトはそれにすら気づかず、軽い動作で振り返り、アイリーンを安心させるためか、そっと微笑みかけた。
「……フウ、これで大丈夫だ。さあ行こう」
誰がどう見ても異様なほどに、血に塗れるブルクハルトに、もはや傷は一つも見当たらなかった。
アイリーンは自身の怯みを押し殺し、彼に血を払うように告げると、足早に歩き始める。
彼女は悟った。
――彼もやはり、血の中毒者……ヤーナムの人間なのだ。
リゲインで回復って、つまり生の血液を取り込んでるってことだし…感染症 とは。
アイリーンはラストイベで輸血打ってても主人公と違って即回復しなかったから、なんか適合者とかあるのかもね(ゲームの仕様とか言っちゃいけない)