〝勝利〟は誰の手に 作:幻想の詩人
てか、ナイアを主人公にしたやつは最終話だけ書き終えてるけど、途中は全く書けてないのどうしよ。ショートカットしまくって最終話に到達させるかな。
さて、ハウスに戻ってきたのはいいんだけど……現状は中々絶望的だね。
「ロープ
「……下見を済ませて脱獄が大変なことになった」
まあそうなるように仕掛けたのボクだけから、どの口が言うんだって話だけど。
「一体どうすりゃいいんだよ……」
「…………」
あーあ、ギルダが黙っちゃった。……いや、さっきから黙りっぱなしだったか。
「エマなら足はソッコーで治す。ロープもまた作りゃいい。脱獄はどうにかなるし、どうにか
「……なら今はノーマン?」
「ああ」
レイの表情は鬼気迫るものがあるけど、さてノーマンはどうするかな? 受け入れるか……それとも拒絶するか。
まあボクとしてはどっちでもいいんだけども。
「でもなんで……よりによってどうしてノーマンが?」
ドンの疑問の正解はボクがそうなるようにしたから。……まあ教えないけど。
「脱獄がバレたから──とかじゃないんでしょう?」
「……ここの方針を考えたらない」
「ナイアの言う通りだよな。……スコアが高いほど美味いなら
「ああ、通常ならあり得ない」
「……通常じゃないなら特例。……それもきっと特例中の特例」
「チッ」
……ボクの言ったタイミングが悪かったのかな。レイに舌打ちされた。いや、ボクの発言にというより現状に舌打ちしたんだろうけどさ。
「ナイアの言う通り、たぶん特例中の特例だ。……シスターを排除し、俺を切り捨て、エマの足を折った……。全部このため」
「けど……信じられない……まさかシスターまで……」
「……昼前までは普通に……元気だったのに……」
「……それがいまボクたちの生きてる
ドンとギルダはゾッとしたような顔をしているね。漸く実感出来たのかな? キミたちはこの
「で、どうすんだよ……! このままじゃノーマン……」
「逃がすさ! 勿論! 何としてでも!!」
鬼気迫る表情でドンの胸ぐらを掴みながら言うけど……レイは
ノーマンに逃げる気がなければ逃がすなんて不可能。というか逃がそうとしたところで意味はない。
食糧をどうするかとか……は解決出来るか。だとしても、発信器を無効化しなければ場所がバレる。もし発信器を無効化したら無効化する手段があるとバレる。
正直、ノーマンを逃がすのはデメリットのほうが大きいと思うんだけど……言っても聞かないよね。そしてこれはノーマンも気づいている。気づけないわけがない。でもまあ、もし気づけないならボクが彼を過大評価していたというだけの話か。
さあ、どうする? 相手は格上で切れる札は奥の手のみ。それをここで使えば今後に支障を来すし、ここで使わなければノーマンは連れていかれる。そしてどちらにしても今後ボクたちは監視されるだろうから動けなくなる。
……でもここで一つ疑問に思うことがある。エマやノーマンがシスターと会話したときに行っている細工をボクに明かされてないんだけど……これもしかして何処かでしくじった? 念のため過去を確かめてみても明かされてなかった。ちょっと今までからかいすぎたかな。
「──イア? ナイア?」
「……! なに?」
おっと、危ない危ない。考え事してたら話が大分進んじゃってる。
レイもドンもギルダも怪訝そうな……というより心配そうな顔で此方を見ないでほしいな。そんな顔をされると、裏切ってみたくなる。
「ナイア、大丈夫か?」
「……ちょっと、疲れた。休む」
ここら辺で離脱しようかな。レイがちょうどよく大丈夫か訊いてくれたことだしね。最近は物思いに耽りすぎてるし、本当に休むべきかもしれない。
☆☆☆☆☆
突然だが、ナイアは他のGFにいる者たちにどう思われてるのだろうか。いつもフルスコアを取り続け──もっとも、初めてフルスコアを取ったのはノーマンより後ではあったのだが──身体能力も抜群であると言えるナイアはどう評価されているのか。
答えは不気味。その一言に尽きる。
全員がナイアにヒトではない何かがヒトの真似事をしているような、そんな恐怖を大なり小なり感じていた。
だから遠ざけた。積極的に関わろうとしなかった。ただ一人を除いて。
エマだけだ。エマだけがナイアを家族として扱い続けた。エマだけが恐怖を感じても家族として関わり続けた。
いつの間にかそんな恐怖を感じなくなったが、それでもかつて感じたそれがトラウマのようなものとなってノーマンとレイはナイアを信じきれない。
それにナイアが〝鬼〟や農園などを知っていたこと。それが決定的な亀裂を生んだ。
初めからノーマンやレイにとってナイアは無条件に信じられる存在ではなかった。
基本は無表情で無口。しかし、よく観察すればいつも冷笑しているのがわかるのだ。しかもナイアにそれを隠す気なんて欠片もない。というよりも隠すという考えがそもそもにない。だってナイアからしたらそれが当たり前だから。
自分たちを冷笑して、嘲笑して、見下ろし続けている存在を心から信頼するか? そんなことは有り得ない。
すべてを明かす気なんて初めからノーマンやレイにはなかった。内通者ではないとナイアは言ったが、それが本当か嘘かは関係ない。
ナイアは敵なのか味方なのか。それをノーマンもレイも判断に困っていた。味方と言うには怪しすぎ、敵と言うにはノーマンたちの方針に従いすぎている。制御しようとせず、流されるまま流されている。イザベラ側にしてはあまりにも不可解だ。
ならば〝鬼〟に直接従ってるのか、と考えてもやはり不可解だ。それならエマたちは出荷されているだろうから。
つまり誰もが扱いに困る第三者。それこそがナイアだった。
そんなナイアはハウスに戻って何をしているのかというと……
「さて、どう離脱しよう……か……? いや、今さらだけどボクを出荷させたら苦労しなかったよね……」
わざわざノーマンを出荷させる意味はあまりなかったよね? と首をかしげていた。
趣味に走った結果がこれなのだから完全にナイアの自業自得だった。
「しょうがない……ボクのことも出荷するように細工するかぁ……」
どのタイミングが良いだろうかと考える。
レイの誕生日より前にするのは確定だ。そこまで考えてナイアは 忘れていたことを思い出した。
「そういえば、この身体は今11歳か」
そう、今ナイアは11歳である。そして、誕生日もさほど遠くない。つまりなにかするまでもなく出荷されるのは確定なのだ。
「……細工内容を考えてた意味。というか何ならノーマンの細工もボクが手出しするまでもなかったみたいだし……」
費やした労力が完全に無駄になってると気づいて肩を落とす。それでもまあ良いやと気持ちを切り換えて、本に視線を落とした。
イザベラ以外はナイアの誕生日を知らない。ナイアが祝われることを酷く嫌がり、他のみんなに教えないでほしいと言ったから、イザベラもそれを尊重している。
だから誰も知らない。より正確には、嫌だという意思表示をする前に祝ったときの日付を覚えていない限り誰も知らない。
もっとも、それを覚えてるとしたらレイくらいのものだろうとナイアは思っていた。
そのレイも今は無気力を装って動けない以上、誰も知らないと同義だろう。
「よし、このプランで行こう」
出荷で離脱して、〝約束〟をどうこうする段階で姿を見せる。
かなり大雑把な方針を決めたナイアはそのまま読書を楽しむことにした。だが、普段ならば大雑把な方針を決めただけで終わらせるなど有り得ない。あまり細かく決めることはなくても、何パターンか想定して備えるはずなのだ。暗躍と策謀に秀でた暗黒神にとって、それは当然の行動なのだから。
しかし、その当然の行動をしていない。しかもナイアは自分がそんな有り得ない行動を取っていることに気づいていなかった。
それはナイアが嘲笑っていた行動。積み重なれば敗北する行動に他ならないということに気づいていたのであれば、未来はまた違ったものになっていたのかもしれない。
いいや、そもそもナイアは自分の行動の迂闊さを理解していれば、このようなことにはなっていなかった。それがわかるのは遠いようで近い未来の話。
☆☆☆☆☆
11月3日 13:08。
「…………」
ナイアはボーッとして空を見上げていた。
今頃ノーマンが下見をしてる頃だろうかと考えながら、どうしたら面白くなるかを考えていた。
ノーマンが逃げようが逃げまいがナイアにとってはどうでもいい。というよりも、興味がなくなったというべきか。
ノーマンは十中八九逃げない。それがナイアの出した結論。
ノーマンが逃げれば下見の報告など不可能に等しくなるのは目に見えているからだ。
イザベラの監視から逃れてノーマンと接触が出来るか? ほぼ不可能だろう。
それにノーマンの発信器を無効にしたところでエマたちの発信器は残っている。そんな状態で潜伏しているノーマンと接触などリスクが高すぎる。
それに気づけないノーマンではない。そう考える程度にはノーマンを評価していた。
だから、
「あれ?」
「どした?」
「いない……」
「ノーマンがいない」
子供たちがざわめき始めたとき、ナイアはそろそろかと空から森のほうに目を向ける。
「あっ」
「あー」
ナイアの予想通りノーマンが歩いて来ていた。
「ノーマン!!」
子供たちが嬉しそうにノーマンに近寄るところを尻目に、ナイアはハウスに戻っていく。しかし、
「なんで…………?」
エマのそんな声が聞こえて、少しだけ足を止めた。振り返るとエマが驚愕していて……
「嘘……」
「なんで……」
ギルダとドンの反応もエマと同じ。違うのは頭を抱えているレイだけ。
そんなエマたちを尻目にナイアは一足先にハウスに戻っていった。
見送りの時間。ナイアはベッドの上でボーッとしていた。
ナイアにノーマンを見送る気などない。そもそもノーマンがこれから送られる場所を知っている以上、再会の可能性がないとも思っていない。
「……でも実際どうなんだろう?」
これからノーマンが送られる場所──Λでは投薬実験を行う。
それに耐えて生きていられるかはナイアもわからない。未来を視ていない以上、知る方法がない。
「……まあいいか」
少なくとも即死するような類の薬品は投与されないだろう。ノーマンの価値を考えれば、他で実験を行われたものを投与される可能性のほうが高い。
ならノーマンがΛを脱出することが出来れば、再会することも出来るだろう。
「そこは賭け……か」
ナイアにはリスクもリターンもない賭け。
無駄なことばっかりやってるな、と苦笑しながら考える。
「……でもなんでノーマンは逃げなかったんだろう?」
死の恐怖に立ち向かえる人間がいないとは言わない。
死を恐れない人間がいないとも言わない。
だが、ノーマンは死を恐れていた。
ナイアにはノーマンが死の恐怖に立ち向かえているようにも見えなかった。
正しいことだけを選べるほど人間は強くないことをナイアは知っている。なのにノーマンはそれを行った。
死を恐れていて、死にたくないと思っていたのに。
「死にたくないなら逃げれば良いじゃないか。他人なんて──」
──どうでも良いと投げ出してしまえば良いだろう?
ナイアはそう呟いて、目を閉じた。
きっとエマもノーマンもそんなことはしないのだろうなと考えて、少しだけ楽しそうにナイアは笑った。
☆☆☆☆☆
「みんな聞いて。ナイアの里親が見つかったの。明後日の夜に出立よ」
11月29日。朝食のタイミングでそれは告げられた。
「え……?」
一瞬、ハウスの真実を知る子供たちの動きが止まる。
「おめでとう!」
「おめでとー!」
何も知らない子供たちは祝福する。ナイアを不気味に感じていても、里親が見つかったことは良いことだからと精一杯祝福する。
「…………」
そんな健気な子供たちにナイアはほんの少しだけ口角を上げた。
エマたちはナイアに接触できない。何故なら今はイザベラを騙すために無気力を演じているから。
だからナイアは面倒事を回避できると考え……しかしそれが甘い考えだったということをすぐに理解させられた。
11月29日 13:00。
木陰でナイアは空を見上げている。反対側にはエマやアンナ、トーマにラニオンがいた。
「ねぇ、どういうこと?」
「演じるのは良いの? エマ」
エマから疑問をぶつけられる。
ナイアはそうするとしたらドンとギルダであると考えていたが、予想を外した。その事実にナイアはほんの少しだけショックを受けたが、すぐに気持ちを切り替える。
エマの返答を待たずにナイアは自分が出荷される理由を口にした。
「……満期出荷」
「満期出荷……?」
エマとは木を挟んで反対側にいる。そのためナイアからは顔が見えないが、どんな顔をしているか予想は出来た。
「そう、満期出荷。明後日がボクの誕生日」
「……なんで」
「隠していたのか? 祝われるなんて嫌だから。……そんなことより」
クスクスと悪戯に成功した子供のように笑いながら、ナイアは次の言葉を紡いだ。
「
「……うん」
エマは少しだけバツが悪そうにしていた。
「黙っていたことはどうでもいい。興味もない」
イザベラが少し離れた場所から見ている。だからエマはあまり反応出来ない。そもそもこうして近くにいるのですら危険な行為だ。無気力を装うなら接触すべきではない。
そろそろ切り上げておくべきだろうとナイアは判断する。そもそも長々と話をしようとは思っていないのだから、早々に切り上げる理由があるのは有り難かった。
「……せいぜい足掻きなよ?」
それだけ告げてナイアは立ち上がると、そのままハウスに戻っていった。
「ねぇ、エマ……良いの?」
ナイアが去ったあと、アンナがエマに声をかける。
エマはうつむいて無気力を装いながら答えた。
「良くない」
何が良くないのか。そんなことはその場にいた全員がわかっている。
つまり、ナイアの出荷を何をせず見ているのかということ。勿論エマはそんなことしたくない。
しかし、だ。
「でもナイアにその気がない」
「そんな……」
結局のところ、ナイアに脱獄しようという気がないなら意味はない。
エマの言葉に複雑そうな表情を浮かべるアンナたち。
不気味だったし、少し怖かった。それでも家族だから見捨てたくない。そう思える善良な人間がエマたちだ。
そもそもエマに関しては足が折れているし、そうじゃなくてもエマとレイは無気力を装って脱獄の計画を進行中なのだ。ナイアをどうにかする手段はない。だが、もしそうじゃなかったならナイアを引き摺ってでも連れていったのだろう。
『……いいかぞくにあえたね。ナイアルラトホテプ……いいや、ナイ ア』
そんなエマたちを昼と夜の世界から、■■■が見ていた。
同時刻、ハウスの中。
「……はあ? 良い家族? 狂人どもの間違いでしょ」
──少なくとも、エマはとことん狂ってるよ。
ナイアは苦虫を噛み潰したような表情でそう呟いた。
☆☆☆☆☆
12月1日。ナイアが出荷される日。
ナイアは部屋で支度をしていた。
持っていく荷物などないに等しいが、形だけでも準備をしていた。
ナイアが準備に飽きてイザベラになんか悪戯出来ないかな、などと思い始めていた。そんなときにエマが入ってきた。
エマが来たことにナイアは首を傾げる……が、エマの性格を考えれば来ない方が不自然かと考え直す。
たとえ脱獄を諦めたとしても、無気力であったとしても、エマは家族が出荷されることに我慢できるような性格をしていない。
「……何の用?」
「ねぇ、逃げるつもりは──」
「ない。そもそもボクが逃げて不都合があるのはエマたちだ」
エマの問いかけに即答する。
当然だ。ナイアからしたら計画通りでしかないのに、どうして逃げる必要があるというのか。
複雑そうな表情を浮かべるエマ。逃げて欲しいし、生きて欲しい。そう思っているのがよくわかる。
ナイアはそんなエマを数秒ほど見つめると、
「〝七つの壁〟を探すといい。そこに
本当ならば言うつもりがなかったことを言っていた。
「〝七つの壁〟……?」
なにを言っているのかわからない。そんな顔でエマがナイアを見る。
だがナイアは知ったことではないと言わんばかりに扉に向かう。
「ああ、そうだ。これも言っておこうか」
ナイアはその言葉と共に振り返り、まるで取るに足らないものを見るような目でエマを見た。
「ボクは
そう言い放ってナイアは出ていった。
だからナイアは気づかなかった。エマが悔しそうに涙を堪えて歯を喰い縛っていたことに。エマが本気でナイアも含めた全員で脱出しようと考えていたということを知ることはなかったのだ。
たとえナイアに家族だと思われていなかったとしても、エマには関係がなかった。綺麗な理想を口にして、それを本気で実現しようとして足掻くのがエマなのだ。
そこからエマと会話することなく、ナイアは出荷されていった。
「家族だと思ったことはない……。それならどうしてボクは……」
──あんなにもエマたちに肩入れするような真似をしたんだろう?
自分に関わる記録や記憶を農園から抹消し──とは言っても、イザベラや第3プラントの食用児たちの記憶からは自分のことを抹消してないが──GFの外に出たナイアは自分の行動に疑問を抱いた。
ナイアの行動は全てエマの理想を叶えることが出来る可能性を残したものになっている。
ナイアは希望が絶望に変わる瞬間を特に好む。それを考えれば、エマの理想が叶うように見える過程を用意し、しかしそれを行えば理想は叶わないようにするはずだ。
少なくとも何処か諦めなければ破綻するようにするし、断じて〝七つの壁〟を探せ、などと言うことはない。しかも〝邪血〟の存在を知っているのに放置している。
これではまるでエマが抱くであろう理想を叶えろと言ってるようなものではないか。
そんな自分の行動を不思議に思う。しかし、考えるだけ無駄だと頭を振って森の中に姿を消した。
しかし考えるだけ無駄だと思考を放棄するのも、やはり本来なら有り得ない行動だった。