〝勝利〟は誰の手に 作:幻想の詩人
いつも通りの朝がきた。……いや、いつも通りでもないか。エマたちの様子がおかしいし。いや、ノーマンは普段通りではあるけど、エマは何かに怯えるような反応をしていた。それに顔色もあんまり良くなさそうだった。原因は昨日の夜に〝何か〟を見たからだろう。それにしても──
「──何を見たんだろ」
おそらく余程ショックなものを見たんだろう。エマやノーマンがショックを受ける出来事……コニーが死んでいる姿とかか? さすがにない……とは言えないか。リトルバーニーを持っていないにも関わらず、ノーマンは険しい表情で〝間に合わなかった〟と口にした。渡すのが間に合わなかっただけなら、リトルバーニーを置いてくる理由はないし、あんな険しい表情をすることもない。
「相談してくれよ、って言ったんだけどなぁ……」
ツラい出来事じゃなかった訳じゃないだろう。なら、俺が信用されてないか、気軽に相談出来ない内容ってことだ。……もしかして信用されてない?
「……だとしたらショックだな」
「──何がショックなの?」
「っ⁉」
びっくりした。いつの間にか後ろにエマがいた。……誤魔化す理由もないし、素直に言うか。
「いや、俺って信用されてないのかな? って思ったらさ」
「なんでそう思ったの?」
エマが不思議そうな表情をするが、そりゃそう思いもするよ。
「エマたちに、気軽に相談してくれよ。って言ったのにちっとも相談してくれねぇから……」
ちょっと不貞腐れたように言う。いや、実際はあまり気にしてないよ? 大切な家族に信用されてないなんて思ってないよ? てか、思いたくない。きっと気軽に相談出来ない内容なんだろう。……でも、
そんなことを思っていると、エマが慌てたように弁解してきた。
「別に信用してない訳じゃないよ⁉ ただ──」
「ただ?」
「相談するほどのことじゃないから!」
エマは普段通りの笑顔を浮かべて言う。
「そっか。なら良いんだけどさ」
でも、何かあったら言ってほしい。君が──家族が笑顔でいること。それこそ俺の願い。だから笑っていてほしい。君が悲しい表情をすると俺も悲しくなってしまうから。
☆☆☆☆☆☆
自由時間だけど、特に何かする予定がない。
「どうしようかな」
本を読んだり、遊んだりしても良いんだけど、正直そんな気分でもない。
「……ん?」
エマとノーマンが一緒にいる。それは不思議じゃないけど……森の方に行っちゃった。まあいいや。
「そんなことより良い場所探しだ」
いい天気だし、良い場所見つけたら寝よ。
「ん……うーん、よく寝た……!」
鐘の音で目が覚めた。タイミングばっちりだな。ママたちの所に行こう。……何かエマとノーマンが急いで来たみたいに見えるけど、気のせいかな。
そんな意味もないことを考えていたときだった。
「ママ──ッ」
「マルク! 何かあったの?」
「どうしよう! 森でナイラとはぐれちゃった‼ いっぱい探したけど見つからないんだ!」
マルクが走ってきて、ママに泣きついた。
「……大丈夫よ。みんなここから動かないで。いいわね?」
それを聞いたママが動かないようにいったけど……なんで時計を開いた? 時計を見てもナイラの場所がわかる訳じゃないはずなのに。……もしかして時計じゃないのか? …………あ、ママが帰って来た。
「ママ!」
「ナイラ!」
みんなが駆け寄る。……いや、みんなでもないか。ノーマンやエマは駆け寄ってないし。
「疲れて眠っちゃったのね。ほらケガ一つないわ」
ママに抱えられているナイラは寝ていた。……いや、いくら何でも見つけるのが早すぎる。ナイラに発信器か何かを埋められていて、ママはそれを確認したと言われても信じられるくらいには早い。……いや、もし発信器が埋められてるとしたらナイラだけじゃなく、俺たち全員かな。だとしたら、
ここが孤児院でも、そうじゃなくても、俺はエマが──
☆☆☆☆☆☆
「……エマたちといられるのもあと少しか」
部屋でボーッとしながら呟く。夕飯前にママに呼ばれたのでママの部屋に行くと、〝おめでとう。貴方の里親が決まったわ〟と言われた。
正直予想はしていた。今月の18日は俺の誕生日。その日を迎えれば俺は12歳になるんだし、違う用件だったら驚いてた自信がある。
それにしても──
「気になるのはエマたちの反応だな」
夜ご飯の時間、俺の里親が決まったことをママが言った。そのとき明らかにエマやノーマン、それにレイの表情が変わった。それが喜んでるといったものなら気にもしないけど、そんな雰囲気でもなかった。むしろ悲しんでるような、悔しがってるような、そんな感じに見えた。……里親が決まったというのは嘘なんだろうか。本当に里親が決まったのなら、他は知らないけど、エマは喜びそうなものだし。……コニーはやっぱり死んだと思うべきなのだろうか。それとも、生きているとは言えない状態にされてると思うべきなんだろうか。
「……わからねぇや」
そう。わからない。コニーが死んでいると考えた場合、どうして殺したのかという疑問が残る。生きているとは言えない状態にされたのならば、実験動物とでも考えるのが妥当だけど、それならもっと適当に……それこそ名前すらいらない気がする。誰かを判別するだけなら数字で充分だし。どうしても、どっちも疑問が残ってしまう。……前提が違うのかな。もしくはどちらでもないのか。何か予想する材料は……あ、そういえば──
「──格子窓が内側からは届かない位置に固定されてる上、ネジ穴が潰されてたっけ」
なら、ここは檻とでも言うべきかな。……そう考えたとき気になるのは、
そういや、夕飯前にママとエマが変なやり取りしてたな。ママのほうはエマの反応を確かめるように見えたけど……。まあ、そんなことはどうでもいいか。俺の気のせいかもしれないし。……さあ、もう寝よう。朝を楽しみにしながら寝るのは悪い気分にならないだろうし。
「…………どうか、エマたちの未来に光がありますように」
エマたちが幸せに生きてほしい。それが叶うのなら──俺の命くらい惜しくない。
「私たちのことより、自分のことを優先してよ……。自分のことを蔑ろにしないで……‼」
──ごめんエマ。きっとそれは出来ないと思う……。と言うか、聞こえてたんだね……。俺は小声で言ったつもりだったんだけど、思ってたより声が大きかったみたい……。