〝勝利〟は誰の手に   作:幻想の詩人

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これで終わりです。……気が向いたら番外編でも書くかも? 需要があるのか知らないけど。
こんな自己満足の小説を読んでくださってありがとうございました!


そして彼は地に墜ちた

「今日か……」

 

 ……今日、俺は出荷される。長いようで短い人生だった。……でも、決して悪いものじゃなかった。悪いものな訳がない。鬼どもが用意した箱庭の中でも、俺達は確かに生きていた。意思を持っていた。俺達の軌跡(じんせい)は確かにあったんだ。ただそこに当たり前の日常が存在していたんだ。それに何の不満があると言うのか。

 たとえ食べられるために生きていたとしても──俺達は人間として生きた。家族(みんな)と過ごした日々は、思い出は、決して偽りじゃない。……それに、きっとエマたちならやってくれる。

 ……でも、折れたって、逃げたっていい。挫けたって構わない。ただ生きて、生きて、生き抜いてくれ。そして、納得出来る死を迎えてくれよ。それが出来たなら──きっと誰も文句なんて言わないからさ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 いつも通り。朝食を食べ、テストをし、自由時間を迎える。何も変わらない。違うのは──

 

「…………」

 

 エマが一緒にいることくらいか。作戦会議はいいのだろうか? ……ここにいるってことは良いのかな。それにしても、どうしてこうなった?

 数分前はいつも通りだったはずなのに。……木の下で本を読んでいたらエマが近寄ってきて、隣に座った。

 それはまだ理解できる。いや、なんで近寄ってきたのかはわからないが。

 

「エマ。どうしたの? エマらしくもない」

「……今日でベルはいなくなっちゃうから」

 

 だから来たと。……本当に可愛いなぁ。

 

「うわぁ!?」

 衝動に任せてエマを抱き締めちゃった。びっくりさせてごめんね。

 

「大丈夫だよ、エマ」

「え……?」

「俺のことなんて気にしなくて大丈夫。だから笑って?」

 

 君は暗い顔をしなくていいんだ。君には家族がいる。大切な仲間がいる。信頼できる友がいる。だから大丈夫。

 

「……うん。でも〝俺のことなんて〟じゃないよ! ベルも大切な家族なの!」

 

 エマがいつもの笑顔を浮かべて言ってくる。

 死者なんてその程度の扱いでいいんだよ。それにしても……うん、やっぱり笑顔が一番だよ。……殺されるならエマに殺されるのが一番良かったな。今から伝えてみようか。〝俺を殺して〟なんて伝えたら……エマはどう反応するんだろうか。

 

「……気になるけど駄目だね」

「何が?」

 

 抱き締めたままだから聞こえちゃったか。……そりゃそうか。

 

「なんでもない」

 

 笑いながら言うと、エマが「教えてよー!」なんて言ってくる。気にしなくていいのにね。……あーあ、こんな毎日がずーっと続けてくれたら良かったのにな。

 そんなことを考えながら自由時間が終わるまで俺達は笑いあっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

「これでお別れか」

 

 ハウスを出る為の準備をする。……名残惜しいけど、仕方ない。何も持っていかなくていいだろう。俺の思い出(すべて)をここに置いていこう。

 

「ベルー! ママが呼んでる!」

「ありがとう、フィル。いま行くって伝えておいてくれるか?」

「うん! わかった!」

 

 フィルは元気に返事して行った。

 

「……それじゃあ行くか」

 

 ──ばいばい。そしてありがとう。ここで暮らせて、みんなと生きれて、俺は幸せだった。

 

 

 

 

「おめでとー!」

「ベルおめでとー!」

 

 みんなが笑顔で祝福してくれる。エマは……泣きそうだけど、笑顔を浮かべてくれていた。ノーマンは悔しそうだった。……レイは見当たらない。

 

「ありがとう、みんな。俺が里親のところに逝っても元気でね」

「そろそろ行きましょう。ベル」

「うん。……ばいばい。みんな。逝ってきます」

 

 みんなが「元気でねー!」と元気に言ってくれる。……ごめんね。さすがに元気に死ねはしないや。どうやれば元気に死ぬと言えるんだろうか。

 

 

 

 

「ねぇ、ベル」

「どうしたの? ママ」

「トランク。軽いわね」

「何も入れてないからね。入れる必要もないでしょ?」

 

 入れる必要なんてない。ハウスにすべてを置いてきたんだから。

 

「俺は幸せだったよ。たとえママが俺達を怪物に喰わせるために育てていたとしても。あの毎日は嘘なんかじゃないもの」

「……っ!」

 

 ……? ママが驚いたような……気のせいか? ……気のせいだよね。

 そんなことを考えていると、門についた。門が開いていく。

 

「……さようなら、ママ」

 

 さようなら、みんな。……エマたちは今頃悲しんでいるのかな。泣いているのかな。……だとしたら……嬉しいな。泣いてほしくないと思ってるのに……泣いていると嬉しいなんて……矛盾してるよな。

 そう思いながら門の中に入っていく。そこにいたのは──人とは呼べない異形だった。

 

「お前が俺を殺すのかな?」

 

 問い掛けてみるが……返答はなかった。そりゃそうか。異形はゆっくりと俺を右手で掴み……左手に持ってた植物を俺に近づける。

 

「──大好きだよ、エマ」

 

 必ず逃げて、生きてね。納得出来る終わり以外で此方には来るなよ? 来たら蹴ってでも帰してやるからさ。

 そして、植物を胸に刺され、そこで俺の意識はなくなった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 彼の胸に刺された植物──ヴィダが花開く。赤い花を咲かせる。

 そんなヴィダを刺された彼──ベルは……笑顔で、満足そうな表情を浮かべて死んでいました。

 それを見た〝鬼〟は首をかしげます。〝この人間(しょうひん)はなぜ笑っているのだ?〟と。

 痛かったはずなのです。苦しかったはずなのです。ヴィダを刺されたベルは痛くて苦しくて仕方なかったはずなのです。なのにどうしてベルは笑っていたのか。安らかな表情をしているのか。〝鬼〟には理解できませんでした。ですが、〝鬼〟はそこで思考を切り上げると、容器を取り出し、ベルの服を脱がせて、取り出した容器に入れました。その瞬間です。

 

儀程(グプナ)は終わったか」

 

 別の〝鬼〟が現れ、ベルを殺した〝鬼〟に問い掛けます。

 

「はい、先ほど終わりました」

 

 ベルを殺した〝鬼〟は答えます。もうベルの死に顔のことなんて頭の片隅にも残っていませんでした。

 

 

 

 

 彼はエマたちにすべてを託して、笑顔で死んでいきました。

 愛した女の子と女の子の大切な家族なら、必ず生きてくれると確信していたから笑顔でいられたのです。──いえ、彼は愛した女の子だけでもいいから生きて欲しかったのです。もし死ぬとしても、納得の出来る結末を迎えてからにしてほしかったのです。そのためなら──彼は自分が死んでも構わなかったのですから。

 彼にとって家族とは──エマとエマの大切な人たちのことでした。自分を家族の括りに入れてなかったのは、自分がエマにとって(・・・・・・・・・)大切な人だとは思ってなかった(・・・・・・・・・・・・・・)から。自分のようなものが、エマにとって大切であるはずがないと思っていたのです。

 ですが、それはエマによって否定されました。……皮肉にも、それがベルの覚悟を決める切っ掛けになってしまいましたが、それでもベルは嬉しかったのです。大好きなエマに大切な人の一人だと思われていたことが、何よりも嬉しかったのです。

 

 これをもって彼の物語はおしまい。もし──もし転生というものがあるのなら、彼はまたエマたちに──大切な家族たちに会えるかもしれません。ですが、それは彼らは知る由もないこと。

 

 

「ベ……ル……?」

「……? どうして貴女たちは……泣いてるの……? そしてどうして僕の名前を知ってるの?」

 

 エマたちがハウスを脱獄して一年以上過ぎた頃、エマたちがとある場所で、とてもベルに似た少年に出会う。そんなお話もあるかもしれませんね。

 もしそんなことがあるのなら──神や悪魔などと呼ばれる存在が何かしたのかもしれませんね。

 




うん、意外と愉しい物語になったんじゃないだろうか。……あれ? もしかして僕に気づいちゃってる? あちゃー、ヘマしちゃったか。……うん? 僕が誰かって? 僕は……彼等の物語を見ていたしがない貌のない誰か(傍観者)だよ。
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