飛んで!!
殴れ!!
痛みが無いわけではない
汚点が無いとも言えない
しかしそれは偉大な道であったのだ
僕が召喚したサーヴァントは、己を
具体的にはグーパンチで。
その呼ばれ方が嫌だったようだ。
だから爺さんと呼ぶことにした。
「…非暴力、非服従では無かったかしら」
彼を見て、
彼と同じ時代を生きていたらしい婦長がそう述べた。
『非暴力・非服従』
その言葉を聞いて日本人であれば、一人のインド人を思い出す。
インドの偉大なる父、マハトマガンジー。
マジか…。
「殴るのも非暴力の内じゃ」
いや、その理論はおかしい。
しかしこの元気な爺さんは、ナチュラルにパワハラをしたりセクハラをする。
若い女と見るや、己の物にしようとする。
当時のインドが男尊女卑だとしても、流石に性欲が過ぎる。
婦長に同衾を要求して殴られた。無論グーで。
しかし、この爺さんめげるどころか、女に殴られたことに対してキレだした。
偉大なる業を成し遂げて時代を変えるに至った者の全てが、聖人とは限らない。
偉人の条件は成し遂げたことであって、善人であった必要は無い。
偉大なる宗教家、ってのはヤバ気な教祖の側面を兼ね備えている。
わかりやすく言えばカルトだ。
そして大体カルトの教祖は女を侍らせるのが好きだ。(偏見)
爺さん自身が語ることによると、非暴力非服従は大事であり、禁欲は尊いが、若い女を裸で抱きつかせるのも、息子を殴るのもガンジーならセーフであるらしい。
マジか…、しかし残念ながら大マジらしい。
ダビデと話が弾んでいるところが実にアレな感じのする爺さんだった。
しかし、そんなスケベ爺さんにも情け深いところがあった。
イギリスに対抗する為に、塩の行進や様々なことを同じインド人に命じて、犠牲にした。
時代を変える為には必要であったが、それを周囲に求めた為に周囲が時代変革の為の犠牲になった。
それが彼の後悔になっている。
しかし、間違っているとは今も思っていないとのことだ。
やり直せる機会があったとしても、やり直さない。
その言葉に、アーサー王は下を向いていた。
その直後に爺さんに尻を触られて、蹴り飛ばしてはいたが。
インドでは女が男を蹴り飛ばすなんて事は無い。
夫が死んだら自害する妻もいるというのに、イギリスはどういった教育をしているんだ。
ガンジーはそうキレていたが、流石にインドの英雄や神々に諫められては止まった。
ガンジーが人種や男女に対して差別的なのは、ヒンドゥー教にあるカースト制度に対して極めて服従している為である。
それは時代が進むにつれてカースト上位側に対して有意になり続けていった最盛期の近代のカースト制度であった。
故に、原始的な本来のカースト制度よりは、差別する側の都合が大いに入っているが、それでもガンジーはカースト制度の元になる神話に心酔していた。
故に、その大本となる英雄や神に対して逆らうことは無い。
…女神が相手であれば多少のセクハラはあったかも知れないが。
男尊女卑で、頑固でスケベな爺さんであったが、その拳の威力は凄まじかった。
我流の聖人向け格闘術を修め、助走を付けて殴る。
それだけで、相手が魔神であろうがなんであろうが打ち倒した。
男を
ガンジーが走れば、ガンジーが殴る、よってガンジーが倒す。
最早何を言っているのかわからないが、ガンジーが走り始めた時点で相手に拳が当たり吹き飛ばすことが確定する。
それまでの間、相手は一切の反撃をすることが出来ない。
これが、ガンジーの力。
『非暴力・非服従』
勿論その言葉の前に、儂以外という枕詞が付く。
性欲の塊で、非常に頑固。
しかし、何かを成し遂げる運命の下に生まれてきた彼は、行動を始めたと同時に、その一歩を始めたと同時に、物事を成し遂げる事を確約されていた。
「非暴力・非服従パンチじゃ」
その拳を避けられる者は居らず、その拳を受け止められる者もいない。
故に無敵。故に正義。
正義であるならば、それは最早暴力でも無い。
これは革命である。
革命は正義であり暴力では無い。
非暴力は時に暴力よりも恐ろしい。
政治家であり、宗教家であり、煽動者であり、革命家でもあるガンジーの生き様が昇華した宝具『非暴力・非服従』。
非暴力の信念の為に、暴力へと晒されて死ね。
それを民衆に押し付けた。
そしてその結果、時代を変えた。
自身の信念は、多数の死よりも尊いものだと信じている。
同じようにやれなかったものを蔑んでいるくらいだ。
インド人はイギリスに対して出来たのに、何故ユダヤ人にはナチスに対してそれが出来なかったのかを、彼は理解する必要さえも認めていない。
では、彼は何故聖人と呼ばれるか。
性人ではなく、聖人と呼ばれるか?
それは、ひとえに成し遂げた人だからである。
その為に全てを犠牲に出来る人であるからである。
時代の停止者に対する最強の抑止存在。
そのままであることを許さない、停滞の破壊者。
その力を、『非暴力・非服従』の為に尽くしたからである。
どんな汚点があったとしても、その一点のみで彼は聖者の横列に並ぶ。
彼の信念に尽くした人々はその後ろを行進出来る。
特異点を超えて、異聞帯へと挑んだ僕たちであったが、爺さんはこの戦いこそ悲劇だと感じたようだ。
「お互いに滅び合えば良かったのに」
その言葉は今も耳に残っている。
唖然とした僕に、爺さんは言ったのだ。
「お前は、流れを作りし者だ。
過去の儂以上のな。
お前は他者に死を強要して、信念を貫く者だ。
儂がそうであった。お前は更にそうあるであろう。
最も新しき聖者よ」
僕は、誰かに犠牲を敷くつもりなんて無かった。
共に戦って、共に傷つき、共に進む気持ちであった。
「それがヴァルナだ。
進むが良い、何が犠牲になったとしても進め。
それが『非暴力・非服従』だ。
暴力と服従よりも血を招く道だ。
力に依らず従える者こそ最大の加害者となる者だ。
だからこそ―――――――進め」
これまで彼にぶつけられたどんな拳や言葉よりも、暴力的では無い穏やかな口調で告げられた言葉は――――――――勢いのままに僕を強く殴りつけた。